ヒューマンライツ・ナウは、2018年3月9日の衆議院内閣委員会において、自由民主党の杉田水脈衆議院議員が質疑に立ち、当団体の活動について触れたことを、以下「衆議院インターネット審議中継」にて確認しました。当団体としては、杉田議員の質問・指摘には看過できない重大な問題が含まれており、ここに抗議し、また、こうしたことが繰り返されないよう、衆議院内閣委員会および自由民主党において調査のうえ適切な対処を求める要請書を提出しましたので、ここに紹介します。
【抗議および要請書】衆議院内閣委員会宛【PDF】
【抗議および要請書】自民党宛【PDF】
衆議院 内閣委員会
委員長 山際大志郎 殿
2018年3月27日
抗議および要請書
2018年3月9日の衆議院内閣委員会において、杉田水脈衆議院議員が質疑(以下、本件質疑と言います)に立ち、当団体の活動について触れたことを、以下、「衆議院インターネット審議中継」にて確認いたしました。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=47874&media_type=fp
当団体としては、杉田議員の質問・指摘には下記のとおり重大な問題が含まれており、看過できないと考えますので、ここに抗議し、こうしたことが繰り返されないよう、貴委員会において調査のうえ、議事録確認・削除を含め、適切に対処いただきたく、申し入れます。
1.当団体らに対する事実と異なる言及について
(1)杉田衆議院議員は、本件質疑で当団体に関して、「日本軍が慰安婦というのが性奴隷であったとかといったことを国連などを通じて世界に捏造をばらまくということをすごく熱心にやっている団体がこのヒューマンライツ・ナウなんですね。」と発言しています。
「捏造」とは実際になかったことを故意に事実のように仕立て上げることですが、当団体は「捏造」に該当する行動を行ったことはありません。
当団体はいわゆる「従軍慰安婦問題」に関して見解の表明を行っていることは事実ですが、その前提となっている事実関係は、河野談話、日本の政府関与のもと設立されたアジア女性基金が残した「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」に記載された事実[1]、国連人権機関からの各種勧告、レポートです。
当団体は2006年に設立された国際人権NGOであり、設立時には既に上記談話、アジア助成基金等の研究結果、国連人権機関からの勧告、レポートの多くは公表されていました。
当団体は、国際人権NGOとして、これら、日本政府や関係機関が調査した事実に依拠し、国際法に基づいた解決を求める各種提言を行ってきたものです。
当団体独自に新たな事実を公表したり、まして仕立て上げたことはありません。
杉田議員が当団体について国会の審議にあたり、「捏造」という言葉で誹謗中傷したことは極めて遺憾と言わざるを得ません。
(2)また杉田議員は、AV強要をされたと嘘をついた女性が「相談に行ったのがヒューマンラ
イツ・ナウだった。こういうことがすごくたくさんある」と本件質疑で発言していますが、当団体は相談支援事業を行っておらず、事実に反する発言と言わざるを得ません。
(3)以上のような当団体に対する事実と異なる言及は、当団体に対する名誉失墜・業務妨害
につながるものです。
事実、杉田議員の質問を聞いたとして、当団体に対し、「天罰が下ります」等と予告する脅迫的メールが届いており、被害は甚大です。こうした誤った記述については確認のうえ、議事録から削除をいただくよう要請します。
2 当団体ないし支援団体に対する事実に反する不当なレッテル貼りについて
杉田衆議院議員は、「JKビジネスとかAVの出演強要とかはあってはならない」としつつ、「先ほども言ったように、日本をおとしめるプロパガンダに使おうとする人たちが明らかにいて、その人たちの言うことを聞いてこれは書いてますよね」と述べており、その前に団体名が指摘されているのが当団体であることから見れば、杉田議員は当団体を「日本をおとしめるプロパガンダに使おうとする人たち」と指摘したものと受け取れます。
さらに、杉田議員は、「AV女優の強要とかJKビジネスとかはこんなに日本で問題になっているから、だから防止月間をやらなければならないということが、これが海外には、だから、昔日本は慰安婦という性奴隷を持っていたんだと言われてもおかしくないです。まさしく、その意図を持ってこの団体はこういうふうなことをやっている」と指摘しており、これはその前に団体名が指摘されている当団体ないし「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS)を指摘したものと受け取れます。さらに「反日のプロパガンダに対して、どのような手立てをとっていただけるのか」とも指摘しています。
しかし、当団体が「日本をおとしれるプロパガンダ」「反日のプロパガンダ」をしているというのは明らかに事実に反する言いがかりであり、何らの根拠もないものであって強く抗議します。
国会という場において、何の証拠にも基づかず、民間団体を名指しして、レッテル貼りをして攻撃することが果たして許されるでしょうか。
若年女性に日々発生している出演強要被害を救済するために日々奔走し、被害救済のために尽力している当団体や支援団体の活動を何らの根拠もなく愚弄するこのような発言は到底許されません。
そもそも、国会議員が民間団体に対し、「反日」などとレッテルを張って攻撃すること自体が異常であり、現に慎むべきことです。
3 AV出演強要被害と従軍慰安婦問題に関する言及について
杉田議員は、当団体の調査報告書に基づいて政府がAV出演被害に対する対策を行うのは問題である、日本を貶めるプロパガンダ活動のためにAV出演強要問題を利用している、等と主張していますが、明らかに誤解があります。
AV出演強要被害は現在、日本の若年女性の間で被害が広がっている、深刻な人権侵害であり、女性に対する暴力であり、当団体および民間の支援団体は、被害者の声と深刻な被害の実相を真摯に受け止め、政府に対し対応を求めてまいりました。
こうした被害の根絶を求める民間団体の活動は、従軍慰安婦問題とは何らの関係もなく、日本を貶めるプロパガンダでもないことは明らかです。
AV出演強要被害については、国会の場でも審議がされ、2016年6月には内閣府が調査を閣議決定、2017年3月に政府の緊急対策策定、2017年5月に政府方針の決定がなされています。
現在、日本政府は被害防止のために強力な取り組みを推進されており、私たちはこうした政府の動きを歓迎し、被害根絶への一層の取り組みを求め、政府各機関と協力する姿勢で取り組んでいます。こうしたなかにあって、被害根絶に関する民間の取り組みについて、これを貶めようとする杉田議員の発言は極めて遺憾です。
4 被害者に対するセカンドレイプにつながりかねない言及について
杉田議員は前述のとおり、AV強要をされたと嘘をついた女性が「相談に行ったのがヒューマンライツ・ナウだった。こういうことがすごくたくさんある」と発言し、あたかも当団体が把握した被害の実態が信用できないかのような印象を与える結果となっています。
しかし、議員発言の根拠となる産経新聞ウェブ版の杉田水脈氏のコラムによれば、その女性が「嘘をついた」とするのは、一人の関係者からの一方的な情報に過ぎないことが認められます。[2] 当該記事では、「男性の話がすべて事実なのかどうかは分かりません。女性の方は「だまされてAV撮影を強要された」などと全く違う説明をしています。」と記載していたにも関わらず国会質問では「嘘をついた」と断定しています。かつ、当該記事では一人の関係者との会話とされていることが、国会質問では「こういうことがすごくたくさんある」と断定されています。
AV出演強要問題を巡っては、勇気を出して声をあげた女性に対するセカンドレイプ的な誹謗中傷や、被害がなかったかのような非難が巻き起こり、そのことが被害者である若年女性らが被害を申告しにくく、被害が闇に葬られがちな現状を生んでいます。
およそ国会質問において、明確な根拠もない一方的な会話に基づき、AV出演強要被害が被害者のでっちあげにより作出されたものであるかのように、「こういうことがすごくたくさんある」と言及することは、深刻な人権侵害である出演強要被害を過小評価する結果につながりかねず、極めて不見識と言わざるを得ません。
5 NGOの国連に対する活動への報復や抑制について
杉田議員が民間人権団体の名前を名指しして攻撃したことは、民間団体が慰安婦問題をはじめとする国内の人権課題について国連等国際社会に訴える活動自体への攻撃というべきものです。政権与党に属する国会議員が正式な内閣委員会の質疑でこのような発言をしたことは重大です。
まず、杉田議員は、複数の団体やイベント名を具体的に指摘して、慰安婦問題に関する取り組みについてすべてがあたかも「捏造」「反日」であると決めつけるような質問を行っています。しかし、従軍慰安婦問題が歴史的事実として存在したことは否定できない歴史の事実であり、河野談話でも確認され、その基本的立場は歴代内閣においても承継されています。慰安婦制度そのものが「捏造」でないことは明確です。
にも関わらず、女性の権利に関心を寄せる民間団体が、慰安婦問題についてイベントを開催したり、イベントに参加すること自体を敵視し、慰安婦問題に関する民間の諸活動そのものを「捏造」「プロパガンダ」「反日」であるかのように指摘・攻撃する杉田議員の質問は、重大な誤解を与え、国民の正当な言論活動を委縮・沈黙させる危険性をはらむものであり、今後繰り返されてはならないと考えます。
加えて、民間団体がNGOとして国連の人権機関に対して情報提供を行うことは広く推奨される活動であり、そのことを理由に民間の団体・個人が報復を受けることは国連でReprisalとして問題視され、許されないこととされています。
国連人権理事会24会期の決議24(A/HRC/RES/24/24) [3]は、人権分野で国連に協力した団体・個人に対するいかなる報復措置(Reprisal)や脅迫(intimidation)を許さないとして、国連加盟国に対し、こうした事態の発生を防止する適切な措置を講ずるよう求めています。
同決議は日本政府を含む賛成多数により国連人権理事会で可決されており、この決議の趣旨に反する国会での言動を放置すべきではありません。
また、杉田議員の「NGOの国際的な表現活動を抑え込む必要があるのではないか」との質問も表現の自 由に対する重大な脅威というべきものです。
政府側答弁者は、表現の自由として保障されるとの適切な答弁をされたものの、こうした院内の発言を放置することは、民間団体・NGOの活動の自由への萎縮効果をもたらし、エスカレートする危険性をはらむものであり、繰り返されてはならないと考えます。
貴委員会において、適切に対処をされるよう申し入れます。
6 AV出演強要被害についての正しい理解を
杉田議員はAV出演強要被害に関する相談件数が少ないことを繰り返し指摘し、AV出演強要防止月間を「絶対にやめるべきだ」「デメリットがあまりにも大きい」「デメリットのほうが絶対に大きくないですか」と質問しています。
さらに、「この職業につきたいという女性はすごく多いんですよ、引く手あまたで。すごく狭き門なんだそうです。」「わざわざ嫌がる女の子を無理やり出して、そんなことをすると、必ずその業者は潰れるわけで」「やっているようなところはすごく少さいので、それよりは、というようなところの事例のほうがすごくたくさんあるんですね」「だから、必ずしも相談件数が、全部が全部本当にだまされて、それに出さされて、すごいひどい被害にあった子たちばかりではない」等と指摘しています。
しかしながら、AV出演強要の被害の標的となるのは、抵抗力の弱い、若年女性たちです。性被害のなかでもとりわけ深刻なAV出演強要被害において、被害にあった女性たちは自らを責め、PTSDに苦しみ、なかなか声をあげることが困難な状況にあります。
杉田議員の発言は、こうした被害者が声をあげたり相談に臨むことが容易ではないことへの理解に著しく欠けるものであり、また、公的機関による相談対応が始まったばかりであり、かつ若年女性が公的機関に訪れるのはハードルが高いことへの理解にも欠けています。
他方、支援団体には近年、多数の相談が被害者から寄せられ、相談件数は数百件に及んでいます。また、多くの若年女性が意に反する性的撮影の被害にあっていることは、内閣府男女共同参画局が実施した調査からも明らかです。
杉田議員の質問に対し野田聖子大臣が的確に答弁されたとおり、政府はAV出演強要被害に対し、深刻な女性に対する暴力と位置付け、政府一丸となった対応をとられています。
こうしたなか、国会内において、このような被害者、被害実態への理解に欠ける心無い質問が出ることは極めて遺憾です。
是非、貴委員会においては、特に抵抗力の弱い若年女性・少女たちの声をあげられない実情を理解・考慮いただき、一層の取り組み、審議を期待するとともに、こうした心無い発言が繰り返されないようにしていただくよう申し入れます。
以 上
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/asia_jk_genjyo.html
[2] 杉田水脈のなでしこレポート(10)「あの慰安婦追及NGOがAV出演強要問題に触手…「AV女優=現代の性奴隷」と国連で非難される日が来るかも」
http://www.sankei.com/premium/news/160725/prm1607250013-n1.html
[3] https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/G13/180/27/PDF/G1318027.pdf?OpenElement
自由民主党 御中
2018年3月27日
抗議および要請書
2018年3月9日の衆議院内閣委員会において、御党の杉田水脈衆議院議員が質疑に立ち(以下、本件質疑といいます)、当団体の活動について触れたことを、以下、「衆議院インターネット審議中継」にて確認いたしました。
http://www.shugiintv.go.jp/jp/index.php?ex=VL&deli_id=47874&media_type=fp
当団体としては、杉田議員の質問・指摘には下記のとおり重大な問題が含まれており、看過できないと考えますので、ここに抗議し、こうしたことが繰り返されないよう、御党において調査のうえ、適切に対処いただきたく、申し入れます。
1.当団体らに対する事実と異なる言及について
(1)杉田衆議院議員は本件質疑で、当団体について「日本軍が慰安婦というのが性奴隷であったとかといったことを国連などを通じて世界に捏造をばらまくということをすごく熱心にやっている団体がこのヒューマンライツ・ナウなんですね。」と発言しています。
「捏造」とは実際になかったことを故意に事実のように仕立て上げることですが、当団体は「捏造」に該当する行動を行ったことはありません。
当団体はいわゆる「従軍慰安婦問題」に関し、見解の表明を行っていることは事実ですが、その前提となっている事実関係は、河野談話、日本の政府関与のもと設立されたアジア女性基金が残した「デジタル記念館 慰安婦問題とアジア女性基金」に記載された事実[1]、国連人権機関からの各種勧告、レポートです。
当団体は2006年に設立された国際人権NGOであり、設立時には既に上記談話、アジア女性基金等の研究結果、国連人権機関からの勧告、レポートの多くは公表されていました。当団体は、国際人権NGOとして、これら、日本政府や関係機関が調査した事実に依拠して国際法に基づく解決を求めた各種提言を行ってきたものです。
当団体独自に新たな事実を公表したり、まして仕立て上げたことはありません。
御党の杉田議員が当団体について国会の審議にあたり、「捏造」という言葉で誹謗中傷したことは極めて遺憾と言わざるを得ません。
(2)また杉田議員は、A本件質疑のなかで、AV強要をされたと嘘をついた女性が「相談に行ったのがヒューマンライツ・ナウだった。こういうことがすごくたくさんある」と発言していますが、当団体は相談支援事業を行っておらず、事実に反する発言と言わざるを得ません。
(3)以上のような当団体に対する事実と異なる言及は、当団体に対する名誉失墜・業務妨害につながるものです。
事実、杉田議員の質問を聞いたとして、当団体に対し、「天罰が下ります」等と予告する脅迫的メールが届いており、当団体は厳重に抗議するものです。
2.当団体ないし支援団体に対する事実に反する不当なレッテル貼りについて
杉田衆議院議員は、「JKビジネスとかAVの出演強要とかはあってはならない」としつつ、「先ほども言ったように、日本をおとしめるプロパガンダに使おうとする人たちが明らかにいて、その人たちの言うことを聞いてこれは書いてますよね」と述べており、この言及に先立ち当団体について指摘されていることから見れば、杉田議員は当団体を「日本をおとしめるプロパガンダに使おうとする人たち」と指摘したものと受け取れます。
また、杉田議員は、「AV女優の強要とかJKビジネスとかはこんなに日本で問題になっているから、だから防止月間をやらなければならないということが、これが海外には、だから、昔日本は慰安婦という性奴隷を持っていたんだと言われてもおかしくないです。まさしく、その意図を持ってこの団体はこういうふうなことをやっている」と指摘しています。これはこの言及に先立ち団体名を指摘された、当団体ないし「ポルノ被害と性暴力を考える会」(PAPS)を指摘したものと受け取れます。
さらに杉田議員は「反日のプロパガンダに対して、どのような手立てをとっていただけるのか」とも指摘しています。
しかし、当団体ないしPAPSが「日本をおとしれるプロパガンダ」「反日のプロパガンダ」をしているというのは明らかに事実に反する言いがかりであり、何らの根拠もないものであって強く抗議します。
そして、当団体やPAPS、人身取引被害者サポートセンターライトハウスがAV出演強要被害問題について取り組んでいるのは、この問題が女性に対する極めて深刻な被害をもたらす人権侵害であり、若年女性を被害から防止・救済することが急務だからにほかならず、「反日のプロパガンダ」に利用する「意図を持ってこの団体はこういうふうなことをやっている」等というのは明らかに事実に反するものです。
国会という場において、何の証拠にも基づかず、民間団体を名指しして、レッテル貼りをして攻撃することが果たして許されるでしょうか。
若年女性に日々発生し、深刻な相談が相次いでいる出演強要被害を救済するために日々奔走し、尽力している当団体や支援団体の活動を何らの根拠もなく愚弄するこのような発言は到底許されません。
そもそも、国会議員が民間団体に対し、「反日」などとレッテルを張って攻撃すること自体が異常であり、現に慎むべきことです。
3.AV出演強要被害と従軍慰安婦問題に関する言及について
杉田議員は、当団体の調査報告書に基づいて政府がAV出演被害に対する対策を行うのは問題である、日本を貶めるプロパガンダ活動のためにAV出演強要問題を利用している、等と主張していますが、明らかに誤解があります。
AV出演強要被害は現在、日本の若年女性の間で被害が広がっている、深刻な女性に対する暴力であり、当団体および民間の支援団体は、被害者の声と深刻な被害の実相を真摯に受け止め、政府に対し対応を求めてまいりました。
こうした被害の根絶を求める民間団体の活動は、従軍慰安婦問題とは何らの関係もなく、日本を貶めるプロパガンダでもないことは明らかです。
AV出演強要被害については、国会の場でも審議がされ、2016年6月には内閣府が調査を閣議決定、2017年3月に政府の緊急対策策定、2017年5月に政府方針の決定がなされています。
当団体は2017年3月にニューヨークにおいて、AV出演強要被害問題に関して、国連女性の地位委員会パラレルイベントを開催いたしましたが、日本政府ニューヨーク国連代表部大使(当時)をパネリストとしてお呼びし、被害根絶について有意義な討議が行われています。
現在、日本政府は被害防止のために強力な取り組みを推進されており、私たちはこうした政府の動きを歓迎し、被害根絶への一層の取り組みを求め、政府各機関と協力する姿勢で取り組んでいます。
こうしたなかにあって、被害根絶に関する民間の取り組みを貶めようとする杉田議員の発言は極めて遺憾です。
4.被害者に対するセカンドレイプにつながりかねない言及について
杉田議員は前述のとおり、AV強要をされたと嘘をついた女性が「相談に行ったのがヒューマンライツ・ナウだった。こういうことがすごくたくさんある」と発言し、あたかも当団体が把握した被害の実態が信用できないかのような印象を与える結果となっています。
しかし、議員発言の根拠となる産経新聞ウェブ版の杉田水脈氏のコラムによれば、その女性が「嘘をついた」とするのは、一人の関係者からの一方的な情報に過ぎないことが認められます。[2]
当該記事では、「男性の話がすべて事実なのかどうかは分かりません。女性の方は「だまされてAV撮影を強要された」などと全く違う説明をしています。」と記載していたにも関わらず国会質問では「嘘をついた」と断定しています。かつ、当該記事では一人の関係者との会話とされていることが、国会質問では「こういうことがすごくたくさんある」と断定されています。
AV出演強要問題を巡っては、勇気を出して声をあげた女性に対するセカンドレイプ的な誹謗中傷や、被害がなかったかのような非難が巻き起こり、そのことが被害者である若年女性らが被害を申告しにくく、被害が闇に葬られがちな現状を生んでいます。
およそ国会質問において、明確な根拠もない一方的な会話に基づき、AV出演強要被害が被害者のでっちあげにより作出されたものであるかのように、「こういうことがすごくたくさんある」と言及することは、深刻な人権侵害である出演強要被害を過小評価する結果につながりかねず、極めて不見識と言わざるを得ません。
5 . AV出演強要被害を過小評価ないし疑問視する一連の発言について
杉田議員はAV出演強要被害に関する相談件数が少ないことを繰り返し指摘し、AV出演強要防止月間を「絶対にやめるべきだ」「デメリットがあまりにも大きい」「デメリットのほうが絶対に大きくないですか」と質問しています。
さらに、「この職業につきたいという女性はすごく多いんですよ、引く手あまたで。すごく狭き門なんだそうです。」「わざわざ嫌がる女の子を無理やり出して、そんなことをすると、必ずその業者は潰れるわけで」「やっているようなところはすごく少さいので、それよりは、というようなところの事例のほうがすごくたくさんあるんですね」「だから、必ずしも相談件数が、全部が全部本当にだまされて、それに出さされて、すごいひどい被害にあった子たちばかりではない」等と指摘しており、あたかも支援団体へ相談件数の多くが、実際には出演強要の被害ではないかのような指摘を繰り返しされています。
しかしながら、AV出演強要の被害の標的となるのは、抵抗力の弱い、若年女性たちです。性被害のなかでもとりわけ深刻なAV出演強要被害において、被害にあった女性たちは自らを責め、PTSDに苦しみ、なかなか声をあげることが困難な状況にあり、その状況は社会問題化した今日も続いています。
杉田議員の発言は、こうした被害者が声をあげたり相談に臨むことが容易ではないことへの理解に著しく欠けています。さらに、公的機関による相談対応が始まったばかりであり、かつ若年女性が公的機関に訪れるのはハードルが高いことへの理解にも欠けています。
こうした一方で、支援団体には近年、多数の相談が被害者から寄せられ、相談件数は数百件に及んでいます。また、多くの若年女性が意に反する性的撮影の被害にあっていることは、内閣府男女共同参画局が実施した調査からも明らかです。
杉田議員の質問に対し野田聖子大臣が的確に答弁されたとおり、政府はAV出演強要被害に対し、深刻な女性に対する暴力と位置付け、政府一丸となった対応をとられています。
こうしたなか、政権与党の議員からこのような被害者、被害実態への理解に欠ける心無い質問が出ることは極めて遺憾です。
是非、特に抵抗力の弱い若年女性・少女たちの声をあげられない実情を理解・考慮されてこの問題に取り組み、党全体としての理解を深め、こうした心無い発言が繰り返されないようにしていただくよう申し入れます。
6 . NGOの国連に対する活動への報復や抑制について
杉田議員が民間人権団体の名前を名指しして攻撃したことは、民間団体が慰安婦問題をはじめとする国内の人権課題について国連等国際社会に訴える活動自体への攻撃というべきものです。政権与党の一員である国会議員が正式な内閣委員会の質疑でこのような発言をしたことは重大です。
まず、杉田議員は、複数の団体やイベント名を具体的に指摘して、慰安婦問題に関する取り組みについてすべてがあたかも「捏造」「反日」であると決めつけるような質問を行っています。しかし、従軍慰安婦問題が歴史的事実として存在したことは否定できない歴史の事実であり、河野談話でも確認され、その基本的立場は歴代内閣においても承継されています。慰安婦制度そのものが「捏造」でないことは明確です。
にも関わらず、女性の権利に関心を寄せる民間団体が、慰安婦問題についてイベントを開催したり、イベントに参加すること自体を敵視し、慰安婦問題に関する民間の諸活動そのものを「捏造」「プロパガンダ」「反日」であるかのように指摘・攻撃する杉田議員の質問は、重大な誤解を与え、国民の正当な言論活動を委縮・沈黙させる危険性をはらむものであり、今後繰り返されてはならないと考えます。
加えて、民間団体がNGOとして国連の人権機関に対して情報提供を行うことは広く推奨される活動であり、そのことを理由に民間の団体・個人が不利益を受けることは国連で報復(Reprisal)として問題視され、許されないこととされています。
国連人権理事会24会期の決議24(A/HRC/RES/24/24) [3]は、人権分野で国連に協力した団体・個人に対するいかなる報復措置(Reprisal)や脅迫(intimidation)を許さないとして、国連加盟国に対し、こうした事態の発生を防止する適切な措置を講ずるよう求めています。
同決議は日本政府を含む賛成多数により国連人権理事会で可決されており、政権与党として、この決議の趣旨に反する国会での言動を放置すべきではありません。
また、杉田議員の「NGOの国際的な表現活動を抑え込む必要があるのではないか」との質問も表現の自 由に対する重大な脅威というべきものです。この点について政府側答弁者は、表現の自由として保障されるとの適切な答弁をされましたが、与党席からこれに抗議するヤジがあったとも報告されており、こうした事態は深刻といわざるを得ません。
こうした院内の発言を放置することは、民間団体・NGOの活動の自由への萎縮効果をもたらし、エスカレートする危険性をはらむものであり、政権与党として速やかに対処をされるよう申し入れます。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/asia_jk_genjyo.html
[2] 杉田水脈のなでしこレポート(10)「あの慰安婦追及NGOがAV出演強要問題に触手…「AV女優=現代の性奴隷」と国連で非難される日が来るかも」
http://www.sankei.com/premium/news/160725/prm1607250013-n1.html
[3] https://documents-dds-ny.un.org/doc/UNDOC/GEN/G13/180/27/PDF/G1318027.pdf?OpenElement