【NGO共同公開書簡】2018年カンボジア国政選挙支援の即時凍結を

カンボジア政府は、今年7月に予定されている国政選挙に向けて、対抗する政治勢力、独立系メディア、市民団体への弾圧を強めてきています。国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、他NGOと共同で、カンボジア国政選挙支援継続について、日本政府に支援凍結を求める共同公開書簡を発表いたしましたので、全文をご報告します。

以下、公開書簡の日本語訳を全文ご紹介します。

カンボジア国政選挙支援についてのNGO共同公開書簡(日本語版)【PDF】
カンボジア国政選挙支援についてのNGO共同公開書簡(英語版)【PDF】


2018年3月19日

外務大臣 河野太郎様

独立行政法人国際協力機構 理事長 北岡伸一様

 

【要請】2018年カンボジア国政選挙支援の即時凍結を

 

UNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)選挙から25周年のカンボジアでは今年7月、国政選挙が予定されています。フン・セン首相は、この選挙で与党・カンボジア人民党(CPP)が敗北する懸念から、対抗する政治勢力、独立系メディア、市民団体への弾圧を強めてきています。

昨年9月、野党・カンボジア救国党(CNRP)のケム・ソカ党首が国家反逆罪で逮捕され、その後11月には最高裁判所がCNRPに解散を命じています。CNRPは2013年国政選挙で約44.5%、2017年の地方選挙で43.8%の票を獲得しています。直近の地方選挙は、日本政府をはじめ各国の支援もあり、一定の信頼度を維持することができました。現在、CPP系ではない小規模な政党の候補に対しても選挙活動への妨害が顕著になっています。

主要新聞のカンボジア・デイリー紙は、政府による不可解な税の請求により廃刊に追い込まれました。独立系の地元ラジオ局、ラジオ・フリー・アジア、ボイス・オブ・アメリカのクメール語放送を再放送するFM局も閉鎖され、2名のジャーナリストが根拠のないスパイ行為で起訴されています。人権NGO(カンボジア人権開発協会=ADHOC)の事例では、通常の人権保護活動が不当に違法(証人買収)とされ、5名の職員・元職員が1年以上逮捕・拘留されました。不法な開発を指摘した環境活動家の拘束、非暴力の街頭行動を行っていた女性住民リーダーへの拘束理由とは別件の懲役刑判決など、憲法と国際法に反し、言論の自由への政府による著しい制限、市民活動に対する司法当局による法的根拠の薄い脅迫的な対応が横行しています。

欧州連合(EU)は日本と同様、カンボジアへの選挙支援を行ってきましたが、CNRPの解党を受け、昨年12月の時点で選挙への支援を凍結しています(資料1)。米国も次回選挙には正当性はなく、自由で公正なものにはなり得ないとして、同11月に選挙支援を凍結しました(資料2)。そして、現在、EU・米国双方においては、追加的な制裁が検討されています。

しかし日本政府は残念ながら、昨年、CNRP解党前後に選挙支援継続を相次いで表明したほか、今年2月には、選挙用物品の無償供与が行われることが明らかになりました。

日本はこれまで官民をあげてカンボジアの和平の成立、民主的な国家の建設に人的な被害を出しながらも協力してきました。投入された資金は3,500億円に上ります。中国の影響力が増しているとはいえ、日本はカンボジアにとって重要な援助国の一つです。日本政府の開発協力大綱は、普遍的価値の共有、平和で安全な社会の実現の項で、「我が国はそうした発展の前提となる基盤を強化する観点から、自由、民主主義、基本的人権の尊重、法の支配といった普遍的価値の共有や、平和で安定し、安全な社会の実現のための支援を行う」と謳っています。また、重点政策では「法の支配の確立、グッドガバナンスの実現、民主化の促進・定着、女性の権利を含む基本的人権の尊重等は、効果的・効率的かつ安定した経済社会活動の基礎をなし、経済社会開発を支えるものであると同時に、格差の是正を始め、公正で包摂的な社会を実現するための鍵である」としています。このまま日本政府が従来の選挙支援を続けることは、与党政権による対抗勢力への暴力的排除と非民主的な状況に、正当性を与えることとなります。政府の定めた大綱に矛盾する政策の実施は、国際的にも日本の信用を毀損しかねません。

この状況を受け、私たちは日本市民として、日本政府に対して以下の2点を強く要請します。

1) 現状では自由・公正な選挙とは言えない旨の表明をすること。

2) 2018年国政選挙支援の即時凍結。政治活動を禁止・妨害された諸政党が選挙に参加できるようになり、自由で公正な選挙の実現が確実になってから再開すること。

可及的速やかなご対応を強くお願いいたします。

 

参考資料

資料1:European Union. Press Statement (on 12 December 2017)

資料2:THE WHITE HOUSE, Office of the Press Secretary. Statement by the Press Secretary on Setbacks to Democracy in Cambodia. (on November 16, 2017)

資料3:ヒューマン・ライツ・ウォッチ2017年11月17日声明「カンボジア:最高裁、民主主義を破壊する決定を下す」(https://www.hrw.org/ja/news/2017/11/17/311545)

資料4:ヒューマンライツ・ナウ2018年1月31日声明「カンボジアの民主主義の危機:カンボジア政府による重大な人権蹂躙に抗議し、弾圧の即時停止、国際社会の強い関与を要請する」

(http://hrn.or.jp/wpHN/wp-content/uploads/2018/01/f7a41e0ced1aa2e714335f67b0c67b3a.pdf)

 

要請団体

カンボジアの自由公正な選挙を求める有志の会

認定NPO法人ヒューマンライツ・ナウ

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ

特定非営利活動法人アーユス仏教国際協力ネットワーク

他 4団体署名

 

連絡先:

国際人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチ

〒107-0052 東京都港区赤坂5-5-9 赤坂スバルビル1F Tel. 03-5575-3774