【声明】CIAによる拷問手法を米上院が公表   オバマ政権は、重大な人権侵害行為に加担したすべての 元政府高官を捜査し、訴追すべき

CIAによる拷問手法を米上院が公表
  オバマ政権は、重大な人権侵害行為に加担したすべての政府高官を捜査し、訴追すべき
1    2014年12月、米上院情報特別委員会が、米中央情報局(CIA)の「拘束・尋問プログラム」に関して、報告書サマリーを公開し、CIAによる9.11テロ事件以後の残虐で国際法に明らかに違反する拷問の数々が明らかにされた。CIAによる秘密拘禁と尋問は、これまでにも報道等で指摘されたが、米上院の報告の一端が公表されたのは初めてである。
東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、重大な人権侵害に関わったCIAを始め、ブッシュ政権下の政府高官の刑事訴追により、アカウンタビリティを確保し、再発防止の対策を講じるよう、オバマ政権に求める。
2    報告書によれば、少なくともCIAは119名の者を秘密収容所に拘束して尋問を行ったが、このうち少なくとも26人はテロと何らの関係がなかったことが判明したという。そして、119名のうち少なくとも39名が「CIAの高度な尋問テクニック」の対象となったとされる。 
 報告書が「高度な尋問テクニック」と名づける2001~2007年の拘束と尋問プログラムは、睡眠剥奪、水責め、顔の殴打、ストレス・ポジションの強要、虫の使用、小さなコンテナへの独居拘禁などの尋問手法であり、これらの方法は様々な組み合わせで繰り返し行われ、特に拘留者が睡眠の欠如状態であったり、裸であったり、餓えた状態の時に行われたという。これらは米国法および米国が批准した拷問禁止条約、ジュネーブ条約に違反する拷問に該当することは明らかである。
 上院は、たとえば拘束者は手を頭の上または体の後ろで縛られた状態で最高180時間起立を強要されて睡眠を奪われたと報告、少なくとも5人の拘束者は医療上の必要なく直腸から栄養挿入され、氷水の浴槽に入ることを強要された者もいるという。拘束は、完全に暗い部屋に手錠で常時繋がれたまま、著しく低温で意図的な騒音に晒しながら長期独居拘禁される状況であり、その結果少なくとも一人が低体温症で死亡したという。死ぬまでここから出ることはできない、親族を殺す・レイプする等の脅迫を数人の収容者が受けていたという。 
3    上院が公表した報告書サマリーには、119名のうちごく一部の者に対する拘束・尋問・拷問が説明されている。
初めて「CIAの高度なテクニック」が適用されたAbu Zubaydah氏は、47日間独居拘禁された後に17日間連続で様々なタイプの拷問を組み合わされ、一日に2~4回水責めの手法を用いられた。 水責めは同氏を苦しめ、反応がなくなったこともあった。意識不明に陥る等したこともあったという。 
さらに、266時間連続で、棺桶サイズの監禁箱に閉じ込められた挙句、29時間小さい監禁箱に閉じ込められ、「ここから出る時は、棺桶サイズの箱に入って出るのだ」と脅迫された。 
Gul Rahman は、着衣をはく奪されて手錠をかけられたまま放置され、低体温症で死亡したとされる。 
Al Najjarに対してはCIAから連続した騒音、睡眠剥奪、食事の劣化などの手法が指示され、手足を束縛し、帽子で頭部・顔を覆い、室温を低下させ完全に光がないまま24時間独居拘禁し、拘束中トイレに行くことを許さずおむつを着用させられていたという。 
Al=Nashiriに対しては、目隠ししてピストルとドリルを近づけ、処刑の真似事をするという全く承認されていない手法が使われた。 
拘束されていたうちの一人Abu Hudhaifa氏は氷水にさらされたり、66時間立ったまま起きた状態にさせられた後に、CIAが容疑をかけていた人物とは違うことが確認され釈放された。 
いずれも極めて残虐で非人道的なものであり、国際法に照らして重大な違法があることは明白である。
上院は6700頁におよぶ報告書本文を公表していないが、いかなる違反行為・人権侵害行為がそれぞれの被害者に対して行われたか、明確にされなければならない。
4    本報告書が公表され、重大な人権侵害行為が行われたことが明らかになった以上、オバマ政権・とりわけ司法省は、責任者を特定し、刑事訴追することにより、正義とアカウンタビリティを果たすべきである。
  当然、当時のCIAの責任ある者は刑事訴追の対象となるが、司法省やホワイトハウスの要人も盗聴を容認する決定と無縁ではない。
  報告書によれば、2002年の7月13日、司法省法律顧問のジョン・ユー(当時)はCIAが提示した12の拷問的手法について「合法」との法的見解を示した。 2002年7月24日、アシュクラフト司法長官(当時)は、顔の殴打、壁に叩きつける、ストレス・ポジション、睡眠剥奪、おむつの利用、虫の利用などの手法を承認し、26日には水責めも承認したという。 ライス大統領首席補佐官(当時)は、2002年7月31日、司法長官が合法と判断するならばこれに反対しないとの見解を示す一方、大統領に水責めを含む拷問手法についての報告をしなかったとされる。 
 報告書は、水責めを含む尋問テクニックに関する説明が、ラムズフェルド国防長官(当時)、パウェル国務長官(当時)には直ちになされず、ブッシュ大統領(当時)への説明は2006年4月8日まで実施されなかったと指摘する。 
しかし、9.11以後、国防総省内でも「許される尋問テクニック」の検討が進み、「ストレスのかかる姿勢を4 時間連続してとらせる/犬への恐怖などの嫌悪感を利用する/衣服を脱がせる/30 日間隔離/20時間連続取調べ/照明の排除/ 環境調整(温度調整・悪臭の導入)/ 睡眠時間調整」は「許される」と判断された。 ラムズフェルド国防長官(当時)は、この尋問テクニックを承認する際、「OK、でも私は1日8-10 時間立っている。なぜ彼らは4 時間でいいのか?」というコメントを付記している。 CIAの尋問テクニックのほうがより残虐とはいえ、国防総省とCIAの尋問テクニックの拷問の手法には酷似しているものが多い。
 また、チェイニー元副大統領は、報告書サマリーが公表された後のTVインタビューに応えてCIAの尋問を擁護、水責めや直腸からの栄養挿入に何ら問題がないとの見解を示したうえ、ブッシュ大統領がCIAの尋問手法について知らないはずはないと述べた。 
  このような姿勢に鑑みるならば、ブッシュ政権トップが、CIAの尋問について知りつつ容認していた可能性は高い。
仮に、ブッシュ大統領が2006年4月8日に初めて拷問の実態を知ったとしても、その時点でも拘禁・拷問が続いていたにもかかわらず、何ら調査・訴追の責任を果たさなかった点でブッシュ大統領の責任は重大である。そもそもブッシュ大統領は、2002年2月7日、アルカイダ・タリバンの戦闘員に対して、捕虜に対する人道的取扱いに関連するジュネーブ条約の適用はないとするメモランダムに署名しており、この見解こそが9.11以後の歯止めなき拷問の出発点に他ならない。
5    米国は、拷問禁止条約の締約国として、拷問の加害者を訴追する国際法上の義務を負っている。これほど深刻かつ残虐な拷問による被害が明らかになったにも関わらず、責任者が何ら処罰されないならば、同種の事態は再び繰り返されることであろう。
とりわけ、元副大統領が公然とCIAの拷問を擁護しているような状況にあって、政権の枠組みや米国を取り巻く情勢が変われば、同種の人権は再び繰り返される重大な危険がある。 これほどの重大な人権侵害を不処罰のまま終わらせるようなことがあるならば、世界が米国に信頼を取り戻すことは不可能である。
 ヒューマンライツ・ナウは、オバマ政権および司法省に対し、上院の報告書サマリーの公表を受けて、拷問に責任を負うすべての者を特定し、刑事訴追をすることを強く求める。
 そして、すべての被害者に対し適切な補償措置が講じられなければならない。
勧告
ヒューマンライツ・ナウは、上院の報告書サマリーの公開を受け、以下の勧告をする。
– 上院は、中央情報局(CIA)による拘留と尋問方法の詳細が記された6700ページの報告書全貌を公開すること
– 米国政府、司法省は、拷問という犯罪行為に組織的に関与、主導、助長したすべての前政権当時の政府高官を特定し、その個人の刑事責任を捜査し、刑事訴追すること
–  米国政府は、被害者に対して、被害の重大性に見合った補償措置を講ずること
–  CIAの拘留と尋問方法に共謀しているヨーロッパその他関係各国は知り得たすべての情報を公開し、説明責任を果たすこと
- 米国司法省は刑事訴追の主要な責任を負うが、訴追の対象となるべき個人が他国に渡航・滞在した際には、その受け入れ国においても普遍的管轄権により、捜査・刑事訴追を行うこと
- ICC検察官は、事態の重大性に鑑み、ICC締約国において行われた拷問について捜査を開始し、訴追を行うこと。
                                        以上