2008年度NGO・外務省定期協議会、HRNが女性に対する暴力根絶の取り組みについて質問

 ヒューマンライツ・ナウは、アジア地域の女性に対する暴力に対する調査・政策提言をすると同時に、日本政府に対し、政府開発援助におけるジェンダー・イシューの重点的取組みを求めています。

 2008年度NGO・外務省定期協議会「第2回ODA政策協議会」(2008年12月2日)において、ODAにおける女性の権利、女性に対する暴力に関連するプロジェクト支出およびその効果について質問を行いました。詳細は以下のとおりです。

http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/oda_seikyo_08_2.html

議事録27ページ以降抜粋
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◎小田 わかりました。時間も押しておりますので、次の議題に移らせていただきます。
3番目、最後の議題ですが、「開発における女性に対する暴力根絶の取り組みについて」、ヒューマンライツ・ナウの伊藤事務局長、お願いいたします。

 

●伊藤 こんにちは、伊藤です。私のほうから議題を提案させていただきます。
本日は、資料を拝見いたしましたら、いろいろと興味深い資料なども出てきておりますので、ご回答を楽しみにして、私のほうでは簡単に議題のご説明をさせていただきたいと思います。
女性に対する暴力は、アジア・アフリカ地域に今も非常に深く蔓延しております。女性に対する暴力が、女性に対するエンパワーメントなどを全般的に阻害をしていることは明らかであります。その根絶なくして、女性の社会進出、エンパワーメントはあり得ないわけで、人口の過半に当たる女性がそういった状況に置かれているということを重視して、取り組みをすべきではないかと思います。
その点で、北京女性会議以降、日本政府のほうでもWIDイニシアティブを立ち上げられているとお聞きしておりますが、必ずしも、女性に対する暴力の根絶というものが重点にないのではないかと思われます。

かつ、この間、ジェンダー・メーンストリーミングということが言われてまいりましたが、開発のあらゆる段階においてジェンダーへの配慮をしていくということが強調された結果、逆にジェンダーに特化した戦略的な案件形成や、または重点分野としての取り組みがなされていないのではないかという懸念を強く持っております。

二国間援助などを見ますと、アジア地域の国別援助計画などにジェンダー配慮という言葉がたくさん登場してくるのですが、配慮という言葉が一番最後のほうに一言書いてあって終わり、という例が非常に多く、それで終わってしまって、何か案件形成をされているのかとか、どのように取り組まれているのかということがわからない状況にある、と私には見受けられます。

一方、洞爺湖サミットの保健分野の行動指針の中でも、改めて、女性と女児に対する暴力の削減に立ち向かうというようなことも強調されていますので、この点のMDGsの達成という観点に照らしても、女性に対する暴力の根絶の取り組みに力を入れていく必要があるのではないかと思います。
その点で、ご質問としては、二国間協力において、必ずしも女性の権利、女性に対する暴力の根絶に関する施策がなされていないと見受けられますが、外務省側の認識としてはどうでしょうかということです。そうでないということであれば、ベストプラクティスなどをお示しいただきたい。そして、今後はどう発展させていかれるおつもりかということをお聞きしたいということです。

今拝見した資料ですと、アフリカ、南アメリカなどの案件がご紹介されておりますが、アジアについてはどうなのかということで、今後、直近で国別援助計画の改定が予定されている国々、例えばパキスタン、バングラディシュ、ラオス、モンゴル、インドなどに関しては、どのような形でこれを具体化していくおつもりなのか、ジェンダー平等、女性に対する暴力根絶ということに直接インパクトを与える戦略、プログラムなどについてはどのようにお考えなのかということをお聞きしたいと思います。よろしくお願いいたします。

 

◎小田 ありがとうございました。外務省のほうからお願いします。

 

〇麻妻 多国間協力課の麻妻と申します。どうぞよろしくお願いします。
主に多国間協力と二国間協力の連携の観点から、日本のそれぞれの分野別、イニシアティブを調整する役割をしておりまして、その観点から、ジェンダーという非常に幅広い概念についてご質問がありましたので、お答えしたいと思います。
一言で申し上げますと、日本のODA案件におけるジェンダーへの配慮がなされていないということはやや誤解があるようでして、女性の権利や平等を促進する施策、女性に対する暴力とか権利という観点への配慮は保健や教育といった分野の中で行われており、いくつかのGoodPracticeがあります。

また、先ほどWID(ウーマン・イン・ディベロップメント)という話がございましたが、主に95年に発表されたWIDにおいては、開発における女性の参加とエンパワーメント、保健、経済社会活動といった三つの分野を中心に支援を行ってきたわけですが、21世紀に入りまして、女性だけに注目するというのではなくて、社会の中で女性と男性が置かれている状況を把握して、不平等を生み出す制度や仕組みをさらに変革する必要があって、それを変革し、ジェンダー、性差の不平等を解消する上で、男性の役割にも注意を払う。社会的、経済的に不利な立場に置かれている女性のエンパワーメントにも重視するという国際的潮流になってきています。

日本としましては、WIDの10年後の2005年ですけれども、GAD、ジェンダー・アンド・ディベロップメントというイニシアティブを新たに発表しております。

お手元に資料を配付しておりますが、一般的には、これは日本のODAのジェンダーに関する考え方をわかりやすくあらわしたもので、ジェンダー主流化の観点に立っては、特に地球的規模の問題への取り組みという切り口から、人権とか暴力といった観点にも取り組んでいくということをうたっております。

ジェンダーそのものの取り組み、女性の能力向上という形のプロジェクトも確かにありますが、ご関心が高い女性に対する差別、権利の問題や暴力の問題についてのプロジェクトというもの、これはかなり包括的なものだとは思いますけれども、これに関しても、かなり以前から、日本政府としてはいろいろな取り組みを行ってきているという理解でおります。

お手元にもご紹介しましたけれども、これは特に日本外交のイニシアティブの一つとして押し進めております人間の安全保障というテーマがありますが、これに関して国連に人間の安全保障基金を設立しており、まさに人間の、恐怖からの自由とか、絶望からの自由、エンパワーメントといったような分野に対して貢献をする形のプロジェクト、プログラムというものを支援をしております。例えばご紹介いたしますと、中南米の3カ国における貧困、未成年、女性支援、性的搾取からの保護と人権の推進という形で、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラスといったような国に対して、すでにジェンダー配慮、まさに女性の権利、暴力に対する取り組みを行っているところでございます。

また、ジェンダー配慮というのは、ジェンダーそのものの取り組み、女性の権利という取り組みの仕方ももちろんあるんでしょうけれども、例えば保健の分野ですと、例えば母子保健の問題もまさに一つのジェンダー配慮ですし、教育においても、MDGsにも書かれておりますとおり、ジェンダー間の教育における不平等感をなくすということが一つの大きな取り組みになってきております。特に基礎教育ですね。

ですから、ジェンダーというものは、いろいろな課題分野の中でかなり包括的に、常にジェンダーという視点を持ちながら、それぞれの分野で取り組んでいくものという考えを持っております。今後、国別にそれぞれにジェンダー配慮、もちろんされておりますけれども、実際にプロジェクトを形成していく段階、今後、援助計画を改定していく段階でも、ジェンダーという視点は常に持ち続けていきたいと思っておりますし、実際にそれもしかるべく実施してきております。

 

◎小田 ありがとうございました。今の外務省からの説明についてございますか。

 

●伊藤 ありがとうございます。資料など非常に興味深く拝見しまして、こういう案件があるんだなあと思ったのですが、一つお聞きしたかったのは、WIDの計画の中で幾つか計画が出されておりますが、WIDの基金を見ますと、案件としては五つ挙がっているのですが、女性に対する暴力に関連するプロジェクトとしては、この5件が、立ち上げ以降、今日に至るまで10年余ありましたが、この5件が行われてきたという認識でよろしいのかということです。もしそうであれば、できればもっとたくさん、暴力根絶を目指したプロジェクトをふやしていくことは必要ではないかと思うのですが、そのあたりの認識はどうかということをお聞きしたいと思います。
資料の中で、コンゴ共和国の資料などございまして、私も法律家なので、こういうプロジェクト、詳しくは評価しておりませんが、非常に前向きないいプロジェクトではないかと、一見したところ思われるわけです。こういったプロジェクトは積極的に推進していくことが必要ではないかと思いますが、いかがか、ということをお聞きしたいと思います。

二国間協力に関しては、中南米とかアフリカに関連してプロジェクトがご紹介されていると思うんですが、アジア地域に関して言いますと、特にジェンダーの平等、女性に対する暴力ということに特化した、そして、成功した事例というのは、ここには資料として挙がっていないので、それはない、ということなのでしょうか。アジア地域が入っていないのはなぜなのか、お聞きしたいと思います。
それと、資料でいただいているものは、幾つかの典型例ということで見ればいいのか、もしくは、女性に対する暴力に特化して、成功したプロジェクトはあまり多くないというご認識でいらっしゃるのかということをお聞きしたいと思います。

 

〇麻妻 どうもありがとうございました。ご質問の中にあったコンゴ(民)の問題などについてはできる限り、特に国際機関とか市民社会との連携を含めてプロジェクトの発掘なんかにも努めていきたいと思っております。

マルチの分野で基金に関してということですが、WIDに関しては、確認した後で連絡いたしますが、人間の安全保障基金に関しては別途、資料にあるとおり、女性に対する暴力やその他のプロジェクトを実際に実施しております。

詳細は、今、手元に資料がございませんけれども、いずれにせよジェンダー配慮という観点から特に女性の権利や、暴力に如何に対処するかというプロジェクトについて、国際機関における基金を通じた取り組みや二国間協力においてもそれを進めています。

一方で、アジアに関してですけれども、アジアのプロジェクトに関しては、あくまでもFactsとして申し上げれば女性への暴力に対する取り組みということについては、結論から申し上げると、残念ながら、現状では「そのものズバリ」というものはございません。

これは、日本政府がそれを軽視しているということではなくて、ジェンダーというのは幅広い概念で、別途、女性のエンパワーメントとか、女性の職業訓練とか教育というプロジェクトはもちろんありますが、その中で、「残念ながら」という言葉を使うのが適切かどうかわかりませんけれども、アジアにおいては、実績として、暴力そのものに対する対処のプロジェクトの実績というものが手元にない状況です。これについては引き続き、どういったニーズがあるのかということを、アジア諸国とも協議しつつ、当然のことながら、しかるべく対処すべきテーマがあれば、取り組んでいきたいと考えております。

 

◎小田 まだご質問ございますか。

 

●伊藤 質問というか、意見になりますが、きょう拝見しまして、例えばペルーの事案も、先ほど言いましたコンゴの事案なども、私から見ますと、細かい評価はしておりませんが、積極的な部分を含むよいプロジェクトではないか、と拝見いたしました。日本政府が、このような人権にかかわるプロジェクトを積極的に推進しているということを知り、今後引き続きこういったプロジェクトをやっていただきたいなと、率直に言って私も思いました。

女性に対する暴力で、アジアに関するものがないということですが、非常にそれは残念なことだと思います。

例えばアジア地域で言いますと、私どもも2ヶ月ほど前にインドに行って、女性に対する暴力の状況の調査をしてまいりましたけれども、年間、例えば8,000人ぐらいの女性が夫に殺されるという家庭内暴力が続いておりますし、名誉殺人とかダウリーとか、さまざまな暴力が非常にあって、大変深刻な状況だと思います。

インドは最近、テロがあったりもしましたけれども、もともと女性に対する暴力というものもありまして、それが、社会に対するひずみというような点で大きいのではないかと思っております。
隣国のパキスタン、アフガニスタンに関しましても、日常的な女性に対する暴力、例えば名誉殺人といったようなものがあるということについては非常に大きく指摘をされております。 その上で、MDGsの主張の中で、妊産婦の死亡率が高い地域がアジア地域にかなりあると思われます。例を挙げますと、東ティモールとかアフガニスタンとかネパール、インドといった地域、ラオスもそうです。それがいずれも、分析をしますと、一つの大きな要因というところで、女性に対する暴力という問題があって、非常に大きな影響力をもらたしています。こうしたなかで、女性の権利が非常に低いということとの関係で、妊産婦の死亡率が高いということも、具体的に研究をされている分野であると思います。
そういう観点で見ますと、日本政府も積極的に取り組んでいると思われますMDGs、中でも保健分野を達成していく上でも、女性に対する暴力という問題にきちんと戦略的に取り組んでいただく必要があるのではないかと私は思っております。

その中で、先ほども言いましたけれども、外務省の資料でも出ていますけれども、「国別援助計画におけるジェンダー配慮に関する記述について」ということで、11カ国に関してジェンダー配慮ということが書かれているのですが、書かれているのはいいんですけれども、これをどう具体化されているのかというのは全然わからない。配慮すると書いてあって、特に重点分野とか、案件の落とし込みの中には入っていないわけです。アジア地域は1件もないというお話でしたが、具体的に、戦略的に、女性に対する暴力をなくしていくという案件になっていないという問題があると思います。

特にアジア地域、今お話したような国々に関して、今後、国別援助計画の策定、改定が考えられております。案件をつくったり、状況分析をし、現地のNGOとネットワークをつくっていく、確かになかなか大変なことではないかと思いますが、その課程でNGOとか、ほかの国際機関などとも連携の上、日本政府がこの分野でイニシアティブを果たしていただくような方向での積極的な態度表明をしていただけるとよいと思います。そういう方向でのご検討をお願いしたいと思っております。
確かに、ジェンダーというのは、すべての分野で包括的に見ていくんだというような議論が、国際社会の中でかなり趨勢になってきたわけですが、実際上、そういうふうになってしまったためにわかりにくくなっている面もあります。開発のすべての分野でジェンダーを配慮すればいいのだということですと、一つ一つ、ジェンダーとは関係のない開発の中でジェンダーについて配慮すればいいというようなことになりがちです。しかし、特に先ほど言ったように、ジェンダー平等、女性に対する人権侵害という点で深刻な国がまだまだある中で、その問題を直接的に解決するサポートができるようなターゲッティングがされていないという問題も一方で出てきていると思います。

女性に対する暴力をターゲットにする、メイン・ストリーミングだけではなくて、ターゲッティングも同時にやっていくことを、政策の中で重点を置いていただくようご検討いただきたいと思います。

 

〇麻妻 どうもありがとうございます。ご指摘のあったとおりでして、特にわれわれが非常に重視している保健の分野では母子保健、乳児死亡率の問題とか、お母様が亡くなるようなケースも非常に多くて、そこが暴力とか人権の問題ともかかわってきているということについては、まさにそのとおりだと思っております。

たまたま、「そのものズバリ」という形での事例はないかもしれませんが、それは軽視していいということでは当然ないわけで、貧困削減のためのジェンダー格差の解消、その延長で広い視野の中では、女性に対する権利の問題、暴力の問題にもしっかり取り組んでいかなければならないと思っております。引き続き、いろいろとご指摘があれば、いろいろとご指導をいただきたいと思っております。
国別援助計画の中に、ジェンダー関連の言及がいろいろと入っているということで、それがどう反映されるかということですが、国別援助計画も一つの指針ですが、例えばわれわれとしては、それ以外に正式に辞令を出しているわけではないんですけれども、各国の大使館に、ジェンダーに配慮する、ジェンダーの視点から物事を考えるべしという「期待とディシプリン」も込めた、ジェンダー担当官の指名も行っておりまして、ジェンダーのメーンストリームのためにこれらの人達へのトレーニング、研修を通じてジェンダーのメーンストリーム化のためのODAの運用の改善といったものも引き続き行っていく予定ですし、現地での国際機関、NGOの方々との意見の交換も通じて連携を強化して、引き続き、女性の権利の問題といったものも含めて、取り組みは強化していきたいと思っております。

 

●伊藤 どうもありがとうございました。引き続き、この問題について、こちらからも問題提起などをさせていただいて、対話の機会ができればと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

 

◎小田 どうもありがとうございました。これで、本日予定しておりました報告事項、協議事項すべて終了いたしました。ご協力をいただいたおかげで、奇跡的に予定どおりの時間でおさまっております。

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この質問の結果、アフリカ等で一部に、女性に対する暴力根絶のためのODA支出のグッドプラクティスがあることが判明したものの、アジア地域ではそのようなプロジェクトがないことも同時に明らかになりました。

ヒューマンライツ・ナウ伊藤事務局長は、インドにおける事例、女性に対する暴力がMDGs達成にむけてのネガティブ・インパクトとなっている実情を紹介し、女性の権利、女性に対する暴力に焦点をあてた開発援助の重点的取組みを求めました。