【NYからの報告】武力紛争における市民の保護に関する安保理公開討論& サイドイベント報告

公開討論

2018年5月22日にNY国連本部で、武力紛争における市民の保護をテーマにした閣僚レベルの安保理公開討論が、5月の安保理議長国であるポーランドの召集により開かれました。

[国連事務総長 アントニオ・グテーレス氏 Mr. Antonio Guttéres]

開会の挨拶でグテーレス氏は、紛争の防止・解決と平和構築は国連全体において最も重要なプライオリティであり続けることを伝えました。2017年だけでも、2万6千人以上の市民の死亡・負傷が紛争中の6か国のみ(アフガニスタン、中央アフリカ共和国、コンゴ民主共和国、イラク、ソマリア、イエメン)だけでも報告されていると氏は言いました。そして、シリアなどに見られるような市や町への爆撃・銃撃による死亡・負傷に加えて、紛争が原因で起こる飢えや性暴力などの深刻な人権侵害への強い懸念も示しました。グテーレス氏はまた、武力紛争における医療施設や医療関係者への攻撃に関する問題も取り上げ、「負傷人や病人をケアするという人間として最も基本的な行為が、医療スタッフに対する刑事訴訟につながる場合もあります。」と言いました。

世界中の至るところで国際人道法違反が行なわれているなか、グテーレス氏は紛争当事国・グループが市民の保護の尊重に対して前向きな一歩を踏み出したポジティブな実例にも触れました。アフガニスタンでは、爆撃などによる市民の死亡を防ぐための国策が採決され、アフリカの19か国では、市民を爆発兵器使用から保護する申し入れが採決されました。最後にグテーレス氏は国際社会に向けて、世界中の紛争地に閉じ込められている何億という市民のために、全力を尽くして可能なことは全てするように呼びかけました。

[国際赤十字委員会事務局長 イヴ・ダコー氏 Mr. Yves Daccord]

はじめにダコー氏は、国際赤十字委員会(ICRC)のフォーカス・ポイントはこれまでと同じく、以下の3点において最良の方法を見つけることだと言いました。それは、武力紛争による市民の深刻な苦しみへの対応、法律違反や人権侵害の再発防止、言葉と行動間のギャップを埋めることです。紛争・戦争で苦しみを減らすための最も効果的な方法は、人間愛(ヒューマニティ)の基本的原則を掲げることであり、それを達成するための最も重要なツールは国際人道法である、と氏は言います。

続いて、国際人道法に対する尊重の第一責任者は国である、という点が改めて強調されました。戦う相手がテロリストなのだから仕方ない、と主張する国々に対して、国際人道法はいかなる状況下でもなく適用される、とダコー氏は繰り返しました。また、国際人道法に対する責任逃れの傾向は不処罰を増加させ、さらなる苦しみの原因になるだけだという点が加えられました。そして、法に反する形での武器・資金・トレーニング・共同軍事行動などの援助を交戦国にしないよう訴えました。さらに、人口密集地域での過激な爆発兵器使用による市民への打撃に強い懸念を示すとともに、紛争当事国・グループに対して、人口密集地域で広範囲に影響力を持つ過激な爆発兵器の使用を避けること、都市部における戦闘での武器の選択の見直しをすることを呼びかけました。

武装紛争下での医療ケアに関する国際人道法(すでに存在するもの)の実行に向けて、安保理決議2286は重要な第一歩と見なされる反面、2016年5月の決議採択以来にICRCが記録している医療関係者への暴力や業務妨害事件は1,200件を上回ります。これらの事件には、医療スタッフに対する殺人・脅迫・誘拐の他に、医療物資の破壊や国境通過の妨害、病院の爆撃や略奪などが含まれます。

そして、言葉と行動間のギャップを埋めるためにダコー氏が各国政府に呼びかけたのは、以下5つの重点施策です。

  • 軍事作戦実行の際に医療ケア提供が確保されるように、軍隊のドクトリン・方法・計画・練習を再検討すること
  • 国の法律で、医療ケアのプロフェッショナルが国際人道法と医療エシックに沿って安全かつ公平に働けることを保証すること
  • 医療ケアのプロフェッショナルに紛争固有のトレーニングやサポートを保証し、医療ケア機関のキャパシティ・ビルディングと準備を保証すること
  • 暴力発生防止のツール発展のために良質なデータを集め、発生した場合は被害の軽減に努めること
  • 最も厳しい状況下においても医療関係者が安全に働けるように、行動変容 (behavioral changes) のイニシアチブや医療ケア関係者尊重の普及啓発などをサポートすること

 

[イラク アル・アマル協会 ハナー・エドワー氏Ms. Hanaa Edwar]

市民団体の代表として参加したエドワー氏は、30年間にもわたって虐殺・非人道的犯罪・戦争犯罪などを伴う武力紛争に保護なしで耐え忍んできたイラクの人々のために語りました。最近のモスル解放について氏は、人口密集地域での絶え間ない爆撃によりモスルの街全体が墓場と化したこと、死者の数は不明であること、モスル周辺の川から死体が出てくることなどを話しました。モスル解放直後、伝染病が広がらないように死体の収集に取りかかったり、薬を集めて負傷者に届けたりしたのは、市民社会のボランティアや若者たちでした。市内のある古い家の一室では、150もの死体が山積みになった状態で見つかりました。そして全員が頭部を撃たれて殺されていました。一時は、旧市内で3,000人の行方不明が報告されていたそうです。エドワー氏はイラク当局、国連機関、国際社会に対し、イラク現地のアクターへのサポートと協力を呼びかけるとともに、人道支援や長期援助には紛争や性別への配慮が不可欠であることを強調しました。

[国連オブザーバー国家パレスチナ代表]

パレスチナ代表者からは、現在も続くイスラエルの占領と武力行使によるパレスチナ人の苦しみが訴えられました。また、平和的なデモ行進者がガザ・イスラエル境界間でイスラエル軍により殺された最近の事件についても触れ、占領される側の人々の安全・保護・幸福を犠牲にしながら、占領側の人々の安全への権利を主張することなど国際法の下ではできない、と言いました。

夕方まで続いた討論では、80以上のスピーカーが順番にステートメントを読み上げました。各国のステートメントをまとめた記事は、下記の参考資料のリンクからご覧になれます。

サイドイベント:~人口密集地域における爆発兵器使用から市民を守る~ 2018523

本イベントは爆発兵器に関する国際ネットワーク(INEW)とNYのオーストリア、アイルランド、メキシコ、モザンビーク国連政府代表部によって召集され、オーストリア政府代表部のジャン・キッカート氏が議長を務めました。

人口密集地域における爆発兵器の使用 (Explosive Weapons in Populated Areas, EWIPA)は国際人道法で明確に禁止されているにもかかわらず、武装紛争での市民の死亡原因の90パーセントを占めています。Article36とINEWの両グループ代表として参加したアンナ・デ・クーシー・ウィーラー氏 (Ms. Anna de Courcy Wheeler) は、EWIPA使用による市民への人道的な仕打ちについて語りました。過度な人口密集地域で爆発兵器が使用されると、死亡率は非常に高くなります。データによると、およそ4万人の市民がモスルで殺されました。爆撃と砲撃による被害と苦しみは深刻です。内臓や脊髄へダメージを与えるだけでなく、愛する人々を失ったことや重度な慢性疾患からくる精神的トラウマをも引き起こします。子供たちの間では、鬱などの精神障害が一般的といわれています。

国際赤十字委員会(ICRC)代表で参加したベロニーク・クリストリー氏(Ms. Veronique Christory)は、EWIPA使用が及ぼす人道上の結果・結末に焦点を当てました。パネルの最初に、爆発兵器が市内で使われたらどうなるかをアニメーションで分かり易く説明したICRC作製のプロモーション・ビデオが紹介されました。爆発兵器による建物や公共施設の破壊はドミノ効果を引き起こし、長期にわたる人道的影響を及ぼします。「EWIPA使用による直接の影響は、間接的な部分に最もよく現われます。これからもICRCはEWIPA使用による人道上の結果・結末を記録し続けていきます。」とクリストリー氏は言いました。

紛争市民センター(Center for Civilians in Conflict, CIVIC)のサール・ムハメダリー氏(Ms. Sahr Muhammedally)からは、CIVICが実際に政府や軍関係者へ働きかけ、市民の保護に携わらせたケースが共有されました。また、弾薬(munition)の場合を例に挙げ、そのような武器は人口密集地域で使われるために設計されていないことを兵士たちに理解させるためのトレーニングや普及啓発の必要性が訴えられました。さらには、武器の使用が違法な場合は、軍勢にプレッシャーをかけると効果がある、とのアドバイスもありました。CIVICその他のグループから直接射撃武器の使用を批判されたアフリカ連合を例に取り、批判はEWIPAを止めるための駆動だと氏は言いました。そして、EWIPA問題は持続可能な発展と平和にとって大きな障害であり、国連内でもっと強調されるべきだと加えました。

質疑応答セッションでは、武器貿易条約(ATT) の実施がどのように第三者国からの武器流通を止めうるだろうか、というテーマに沿い、スピーカーや政府国連代表部などの参加者などの間で意見・アイディア交換がされました。また、公共施設の実際の位置が地図上に示されてない、といった軍の情報の欠如は、EWIPA問題において最大の課題のひとつであるという点が再認識されました。

 

サイドイベント:~データ主導の保護 : 死傷記録と市民の被害追跡がいかに市民の保護を強化できるか~ 2018524

本イベントはNYの国連オーストリア政府代表部、国連人権高等弁務官事務所 (OHCHR)、国連人道問題調整事務所 (OCHA)、国連軍縮部 (ODA)、紛争市民センター (CIVIC) によって召集され、オーストリア政府代表部のジャン・キッカート氏が議長を務めました。

何がどうやって起きたかを知ることは、事の再発防止において決定的なことです。スピーカーのオーレリアン・バフラー氏 (Ms. Aurelian Buffler)は、信頼性のあるデータは国際レベルの政策決定やアドボカシーのための傾向分析にとって重要なツールであり、紛争地で死傷を追跡することは、市民の保護を強化するためのツールのひとつである、という点を強調しました。

続いてODAのマイケル・スパイズ氏 (Mr. Michael Spies) も、死傷の記録と追跡の重要さを語りました。それらをすることが、武器輸出を最小限にしたり各国に武器貿易条約や国際人道法の下での法的責任を求める際に役立つと氏は言いました。

OHCHRの方法論・教育・トレーニング部署のチーフであるフランチェスカ・マロッタ氏 (Ms. Francesca Marotta) は、様々な状況におけるOHCHR のデータ収集・死傷記録の経験を共有しました。死傷記録は、市民の保護のためのアドボカシーで最も効果的なサポート役を果たすため、OHCHRでは事件や出来事の評価の際は、データの客観性と正確さに特別の注意を払うといいます。OHCHRのデータ収集は、現場に赴いたり、犠牲者の身体検査をしたり、市民の死傷やサービスの損失を記録することなどが含まれ、死傷者の数は低めに推定して発表することも心掛けているそうです。

CIVIC代表のサール・ムハメダリー氏 (Ms. Sahr Muhammedally) は、実際に行動を取るアクターたち(国連・政府・軍・市民団体関係者など)に情報提供する上でデータは必要不可欠であることを強調しました。すでに行われている記録などに加えて、軍や政府による追跡もされなけばならないと氏は言います。軍の指導者らは、自分たちの立てた軍事作戦が市民へどのような影響や被害を及ぼすか、などの判断を可能にするためにも、市民がどこで暮らすのか調べたり現場調査を取り入れる必要がある点も加えられました。氏は続いて、問題の根本的な原因を見極めたり、軍の戦法を変えたり、内部と外部の認識ずれを明らかにするためにも、外部の人間(非営利団体の関係者など)と内部の人間(軍関係者など)の情報交換は極めて重要で必要なプロセスであることを訴えました。例えば、アメリカがイラクとアフガニスタンで調査を始めたのも、外部からの情報がきっかけだったそうです。追跡調査は、平和維持活動 (peacekeeping missions) においても役立つ、と氏は言います。市民への被害・影響を明らかにすることで、より良いパトロール法を活動本部へ提案するなど、紛争地における市民の保護の改良・強化に繋がるからです。

団結への呼びかけ

武力紛争は人類の歴史において深刻かつ大規模な人権侵害を引き起こしてきました。アフガニスタン、イラク、パレスチナ、シリア・・・と、大国が引き起こし、大国が背景にいる武力紛争によって、多くの罪もない人々が今日も殺害されています。ヒューマンライツ・ナウ (HRN)は国際人権NGOとして、そして爆発兵器に関する国際ネットワーク(INEW)の加盟団体として、各国政府や市民社会の代表者らに上記の報告内容を考慮に入れ、世界中で起こっている深刻な人道法違反や人権侵害を終わらすために団結することを呼びかけます。また、更なる人道法違反や人権侵害を防ぐために、そのようなことが起きた場合は国際社会が警鐘を鳴らして非難をし、独立調査委員会(Independent commission of inquiry)を設置して国際刑事裁判所 (ICC) までケースを持っていくなど、正義と責任追及に向けたステップを踏み出すことをHRNは呼びかけます。

参考資料

各メンバー国によるステートメント: https://www.un.org/press/en/2018/sc13348.doc.htm

国連事務総局長によるステートメント: https://www.un.org/press/en/2018/sgsm19047.doc.htm

国際赤十字委員会ICRCによるステートメント: https://www.icrc.org/en/document/icrc-statement-un-security-council-open-debate-protection-civilians-armed-conflict

2018年5月14日リリースの国連事務総局長による武力紛争における市民の保護に関する報告書: http://www.securitycouncilreport.org/atf/cf/%7B65BFCF9B-6D27-4E9C-8CD3-CF6E4FF96FF9%7D/s_2018_462.pdf