ヒューマンライツ・ナウでは、2014年2月から、ミャンマーにおいて、人権教育活動を開始しました。3000人以上の弁護士が加盟する「ヤンゴン弁護士会」と提携し、ミャンマーの弁護士や人々に「世界人権宣言」など国際的に確立された人権保障について教える新しい事業です。
「人権」について教えられなかった世代にむけて
民主化が進み、「人権」という言葉がストリートでも聞かれるようになったミャンマーですが、実は多くの人は「人権」とは何か知らず、今も人権状況は深刻です。
ミャンマー(ビルマ)では、25年にわたる軍事独裁政権の下、人権に関して語ることは逮捕・処罰の危険性があり、人権に関する教育も、言論自体も抑圧されてきました。多くの若い世代は人権とは何かも知らずに育ち、人権侵害を解決する方法も知りません。
こうしたなか、ヒューマンライツ・ナウは2009年から2013年まで、タイ・ミャンマー国境のタイ側に、ミャンマーの未来の法律家・コミュニティ・リーダーを育成する法律学校「ピースローアカデミー」を運営、日本から弁護士・国連職員等の講師を派遣して国際人権法をはじめとする人権・法の支配などについて教育を行ってきました。ピースローアカデミーは既に70人以上の卒業生を輩出、卒業生の多くが昨今の民主化の流れを受けて、ミャンマーに帰国して民主化を担う役割を果たしています。
(過去のプロジェクト・ピースローアカデミーに関してはこちら→http://hrn.or.jp/activity/1725/)
そして、近年の民主化の進展を受けて、ヒューマンライツ・ナウでは2014年ミャンマー国内での人権教育活動を開始することになりました。
ヤンゴン弁護士会でのセミナー
ヒューマンライツ・ナウの現地でのパートナーのひとつは、ヤンゴン弁護士会です。
ミャンマーには国の弁護士会のようなものはなく、軍政の許可のない団体は非合法とされていたため、多くの地域の弁護士の集まりも非合法という状態に置かれてきました。
しかし、ヤンゴンには「弁護士会」という組織があり、ヤンゴンを超えて全国3000人程の弁護士が加入しています。民主化の進展を受け、今後は旺盛に活動を進めていく予定だそうです。ヒューマンライツ・ナウはこうした状況を受け、現地で人権擁護活動を担っていくことになる弁護士の活躍に貢献できるよう、研修を開始することになりました。
2014年2月、ヤンゴン弁護士会の若手女性弁護士のイニシアティブで研修がスタート。ヒューマンライツ・ナウから伊藤事務局長がヤンゴン弁護士会で世界人権宣言に関する4日間の連続セミナーを実施、100人もの弁護士が参加、弁護士会として初めて「世界人権宣言」を学ぶ機会となりました。
25年にわたる軍事独裁政権の下、そもそも人権について語ること自体許されず、人権に関するセミナーを開催すれば逮捕・処罰される危険があったことを考えると大変感慨深い、歴史的なことでした。
4日間のセミナーでは、
「国際的にはどのような人権が保障されているのか」
「それぞれの権利はどのような内容なのか」
「政府はどんな責任を負うのか」
「人権制約はどこまで可能か、どういう場合に許されないのか」
などの基本的なことを講義し、ディスカッションしました。
多くの弁護士たちは、こうした事柄を、正確に理解できないまま、それでも日常的に続く深刻な人権侵害に立ち向かってきたのです。
各地で起きている不当な人権侵害について、手をあげて訴えられ、「これは世界人権宣言などで保障される人権を侵害しているのか」と真剣に、義憤に駆られながら、聞いてくる弁護士たちに向けて、セミナーでは、一つ一つの事件や問題が、どの条文に違反し、なぜ人権侵害と言えるのか等を丁寧に説明していきました。
今後も活動を継続します
ミャンマーでは憲法に人権保障が十分に規定されていません。だからこそ、国際的に確立された人権保障について正確な知識を得て、有効に活用して、人権保障を前進させてほしいと私たちは考えています。
ヒューマンライツ・ナウでは、2014年5月にも再びヤンゴンで弁護士会主催の、弁護士・市民を対象とするセミナーを開催し、「世界人権宣言」「自由権規約」などを学ぶ機会を提供しました。
また、女性団体主催の「リーダーシップ・セミナー」で、市民や政党関係者を対象に、「世界人権宣言」「女性差別撤廃条約」などに関するセミナーを開催し、こちらも大変大変盛況でした。「リーダーシップ・セミナー」には、主要政党の法律担当や政策担当がほぼ顔をそろえ、今後の政策形成や立法提案のなかで、国際的に確立された人権保障をきちんと実現してほしい、と訴えました。
ヒューマンライツ・ナウでは、今後も継続して、人権を担う弁護士に対する人権教育のトレーニング・セミナーを実施していく予定です。今後は、ヤンゴンだけでなく、地方都市での実施も進め、弁護士に限らず、女性団体や若者、少数民族に対する人権教育活動のニーズにもこたえていく予定です。今後ともご支援をよろしくお願いします。