7月3日、HRNはイベント「パレスチナ・ガザの今 ~現地からの最新報告と人権をめぐる専門解説~」を日本国際ボランティアセンター(JVC)との共催で、アーユス仏教国際協力ネットワークの協力のもと開催しました。今年の3月30日以降、ガザの市民は故郷に70年も帰れずにいる難民の帰還権を求めて、イスラエルへの抗議運動を続けています。この運動に対し、イスラエル当局は実弾発砲をも含む武力で応じ、死傷者は増えています。これまでに135人の市民が亡くなったほか、14,000人以上が負傷し、子どもやジャーナリスト、医療従事者も攻撃の対象となって命を落としています。国際法に違反しているこのイスラエルの行動は国際社会から非難を受けています。
死傷者が出ているのになぜガザの人々は抗議運動を続けるのでしょうか。
銃弾の飛び交う抗議運動の中で、私たちに何を訴えようとしているのでしょうか。
そして、国際社会や私たちは、どのように応えるべきなのでしょうか。
今回、JVCとHRNはそれらの質問に答えるべく当イベントを開催しました。現在JVCパレスチナ事業の担当でパレスチナ・イスラエル留学経験のあるの並木麻衣氏、ジャーナ
リストとしてガザの抗議運動の取材を行ってきた志葉玲氏、そしてHRN事務局長・弁護士の伊藤和子氏を招き、ガザを取り巻く状況や、ガザ地区抗議運動の現状を写真や動画での紹介、そして国際法の観点からイスラエルの対応などを解説しました。
最初に、並木麻衣氏はガザの状況を紹介しました。ガザ地区の実権を握るハマースは国際社会からテロリストとして認識されていて、ガザ地区とイスラエルを分ける境界に近づけはイスラエル軍によって撃たれてしまうという状況を説明しました。ガザはハマースが実権を握った2007年からイスラエルによって完全封鎖されており、人・物資の出入りが極度に制限されているので「世界最大の野外監獄」と呼ばれています。経済すら成り立っておらず、失業率49%、支援依存率80%、貧困率40%、電力もまともに動いておらず、水がほとんど汚染されていてほぼ飲料可能ではない現状を解説しました。
次に並木麻衣氏は、パレスチナ人が70年前に
居住していた現在の「イスラエル」の土地に帰れる「帰還権」の提起、耐えきれない「封鎖」への抗議、米国大使館のエルサレム移転への抗議の3つがこの抗議活動の背景にあると述べました。また、人権上の問題として、イスラエル軍が多用する致死力の高い武器「バタフライ弾」や、子どもや医療従事者への攻撃を取り上げました。
志葉玲氏は5月の上旬からイスラエル/パレスチナ/ガザに取材に行っており、その経験をもとにパレスチナ・ガザの現況を写真や動画を使いながら解説しました。イスラム教徒、キリスト教徒、ユダヤ教徒が集まるエルサレム市内ではイスラエル軍人が手に銃を持ちながらパトロールをしていること、イスラエル人全員がアメリカ大使館移転に賛同しているわけではなく、イスラエルのユダヤ教徒らもパレスチナ人らと協力してアメリカ大使館のエルサレム移転に対し抗議活動していることを述べました。
続けて、志葉玲氏はガザで行われているガザ・イスラエル境界近くの抗議運動の状況を紹介しました。ガザの取材は危険なので防弾チョッキを着用しなければなりません。境界での抗議運動に対して、イスラエル軍は致死力のある強力な催涙ガスやバタフライ弾を使って対応しており、それによる抗議運動での死傷者が数多くいることを述べました。また、負傷したデモ参加者たちはイスラエルによる封鎖のため治療するための器具や医療品といった物資が不足しており、ガザ地区では対応できない負傷者も境界を越えて安定した病院には簡単に搬送できず、治療すれば助かる命も落としてしまう現況を述べました。
伊藤和子氏は人権と国際法の観点からガザ・イスラエル問題を解説しました。第二次世界大戦後、世界では国際法により侵略戦争を禁じたにも拘らず、1967年の第三次中東戦争でイスラエルは侵略戦争を行いました。国際安保理決議242(1967)では、戦争による領土の獲得を認められないとし、イスラエルに撤退を求め、イスラエルの行動が国際法に反していることを明確にしました。さらに、エルサレムに大使館を移転するのは安保理決議478に違反しているとし、トランプ政権も国際法に違反していることを説明しました。
伊藤和子氏はイスラエルのパレスチナ・ガザ抗議活動に対する対応が国際法「ジュネーブ第4条約」に違反していると述べました。バタフライ弾や強力な催涙弾の使用は戦争犯罪であり、ガザを封鎖している行為もジュネーブ条約33条に反していることも指摘しました。しかし、イスラエルやアメリカなどの国々はローマ規程に賛同しておらず、国際刑事裁判所はイスラエルを罰することができない状況を説明しました。また、5月に国連人権理事会は事実調査団を派遣することを決定し、伊藤氏はイスラエルは調査団と協力し、不処罰の連鎖を断ち切っていく必要性を述べました。
最後に、並木麻衣氏はグラフを使いながら、イスラエルと比べながらパレスチナ・ガザの負傷者や死傷者の数の多さや、ガザでの医療品の不足を訴えました。
イベントの最後はQ&Aコーナーで終わり、参加者はこの深刻なガザの状況についてたくさんの質問を三名の登壇者に尋ねました。会場が満杯になるほど、たくさんの方々に参加していただきました。ガザ・イスラエル問題を写真や動画を使って解説した今回のイベントは、参加者に問題の深刻さを訴えることができました。