ヒューマンライツ・ナウは2017年5月22日(月)、専修大学にて非戦ネット関連イベント「イラク緊急報告と対談!高遠菜穂子×雨宮処凛 私たちは今どこに立っているのか」を開催しました。当日は60名以上の参加者が集まり、国会議員の姿もありました。
イベントでは、高遠さんにイラクの現状をお話しいただいた後、雨宮さんにも登壇いただき、お二人の対談で、共謀罪や安保法制、貧困問題について語っていただきました。
1.高遠さん報告
高遠さんは、5月1日までイラクに滞在し、IS支配からの解放地域(以下、解放地域)において緊急支援を実施されてきました。日本では報道の外におかれているイラクの現状―破壊を受けた民家や施設、民間人負傷者、難民キャンプの様子、地元ボランティア・医師らの活動など―を、データと実体験により報告いただきました。
イラクのIS支配下地域(以下、支配下地域)では住宅地がその戦闘拠点となっており、住民は、物資やライフライン、情報の遮断を受け、残虐な処刑・殺害という死の恐怖に怯え続ける過酷な状況におかれているとのことです。また、解放地域においても、負傷や栄養失調等で衰弱した避難民が日々運ばれて来ますが、病院が破壊されているため必要な治療が施せず、亡くなる人が後を絶たない状況であることも報告されました。
そのような中、先に解放された地域の有志たちは配給や救護活動に尽力しており、避難民の支えとなっているとのことでした。また、物流が復旧し商店街が再開した一部の解放地域の映像も紹介されました。
しかしながら、解放地域においてもIS戦闘員潜伏の危険が残されており、避難民の救命医療設備については間に合っていないのが現状との報告でした。
依然として、支配下地域・解放地域のどちらにおいても人権の脅かされる状況は続いています。高遠さんは、今後もモスル緊急支援は続くだろうと述べ、報告を終えられました。
2.高遠さん×雨宮さん対談
続いて、高遠さんと以前より交流のある雨宮さんにも登壇いただき、人権をとりまく今と、人権を守るために必要なことについて、お二人の対談をいただきました。
対談では、まず「戦争により脅かされる人権」について議論が交わされました。お二人は、戦争の被害者を語る上で、見落とされがちな帰還兵の抱える問題にも目を向けなくてはならないと述べられました。彼らはPTSDに苛まれたり、再就職が難しかったりというケースも多く、結果として貧困に陥らざるを得ないという現状を、お二人は指摘されました。
話題は日本の貧困問題にも及びました。最低賃金が生存権を実現しない水準に設定されているという問題があがり、ヒューマンライツ・ナウの伊藤は、政治に対する若者の無関心の背景に貧困があり、悪循環に陥っているのではとの見解を示しました。
また、折しも当日は組織的犯罪処罰法改正案の衆議院本会議通過前日であり、共謀罪についての議論も活発に交わされました。雨宮さんは、人々が監視や嫌疑をかけられることに恐れるようになり、社会が萎縮するだろうと、ご自身の経験をふまえて警鐘を鳴らされました。高遠さんは、政府にとって不都合な人物が監視対象になり、行動を制限されるようなことがあるのではないかとの懸念を示されました。これに関して伊藤は、活動の拡大解釈によって十分ありえることだと、米国におけるテロリストグループ指定の例を挙げ、法案は政府による恣意的な運用を許してしまうものであると述べました。
視点を広げて安保法制の話になると、高遠さんは、国外において日本の「平和国家」ブランドはすでに崩壊していることを指摘したうえで、日本を「人道支援先進国」にしていきたいと述べ、心で平和を願うだけでなく、顔を見せる活動の必要性を語られました。これを受け、伊藤は、日本では国際協力が政府の外交に一任されていると指摘したうえで、市民社会によるオルタナティブな平和構築という概念を育てることが重要であると述べました。また、雨宮さんは、今の日本社会は社会問題に物申す人を嘲笑、攻撃する文化になっているといい、その背景に”努力しても一定数は報われない”社会に対する人々の不信がある、非常に根深い問題だとの意見を述べられました。
3.会場からの声
短い時間の中ではありましたが、会場からも複数のコメントをいただきました。
最初のコメントは山本太郎参議院議員からいただき、議員は、避けられないであろう組織的犯罪処罰法改正案の成立に我々がどう立ち向かえるかについての考えを示されました。
ほかの方々からは、日本社会の中東への関心の低さや、声をあげる人々をバッシングする社会に対する憂慮の声がきかれました。それに対し、登壇者から、よりよい社会を作っていくためには、人々がもっと国際社会や国内の社会問題に対する関心を持つこと、関心のある人々が萎縮せずに活動していくことが肝要だとのコメントが返されました。
ヒューマンライツ・ナウは今後も、戦争による人権侵害をなくすことをビジョンに掲げ、活動を続けてまいります。共感いただける皆様に、お力添えをお願いいたします。
(ボランティアスタッフ 芦田 萌)