【世界の人権・フィリピン】2007/11/26 軍部による左派活動家の処刑が明らかに  国連独立専門家の調査 

(2007年11月26日)  フィリピン政府軍が近年、左派活動家を処刑していると、国連の独立人権専門家が本日新たな報告書の中で伝えた。この報告書は、フィリピン政府による問題解決のための対策を歓迎しながらも、(責任者に対する)起訴と処罰をもって、これまでの「不処罰」の慣行を終結させる必要があることを強調した。

 「フィリピンの左派活動家に対して、過去6年間に起きた、数百件の超法規的処刑(殺害)の多くは、共産党反乱勢力の反乱鎮圧策の一環として、政府軍が計画的に対象を定めて実行した結果である。」このように、超法規的・即決・恣意的処刑に関する国連特別報告者のフィリップ・アルストン氏は述べた。

 無報酬の個人の資格でこの任務にあたっているアルストン氏は、この東南アジアの国に今年早く実態調査に訪れ、殺害事件について深く調査した。

 96件の超法規的処刑があった57件の事件について、同氏は、犠牲者または証言者に面接調査をした。また、地方の軍司令官から大統領まで、すべてのランクの政府役人に会い、共産党反乱組織・国民民主戦線(NDF)のリーダーたちにも会った。

 声明において同氏は、政府が近年採用したさまざまな対策や、同国の官房長にニューヨークで面会したことで、「希望を得た」と述べているが、超法規的殺害を止めるためには、殺害の責任を負う者を起訴し罰さなくてはならないと強調した。「政府は様々な歓迎すべき改革に着手しているが、左派活動家の事件に関して、ひとりの兵士も有罪判決を受けていないという事実は、依然としてある。」と同氏は指摘した。

 「この国のいくつかの地方においては、左派組織のリーダーたちを系統的に粛清する周到な戦略を政府軍が実行してきた。総司令官として、大統領は、このような作戦を終わらせるために、具体的な一歩を踏み出すべきである。」とアルストン氏は加えた。

 1968年よりフィリピン共産党(CPP)は、その軍事部門として新人民軍(NPA)、文民部門としてNDFを擁し、CPPの見方によればこの国の「半封建的」社会を革命することを、目標にしてきた。

 特別報告者が面接した軍の将校たちは、このような超法規的処刑は、実際は反乱軍がしていることで、スパイを排除し、同時に政府に汚名を着せるためであるという説を、「執拗に押しつけてきた。」 そして、アルストン氏はこの考えを裏付けるものとして提供された文書すべてに目を通した。

「殺された左派活動家は、反乱軍内の『粛清』の犠牲者であるという政府軍側の主張は、驚くほど説得力がなく、責任を転嫁するひねくれた試みとしか見られない。」と同氏は述べた。

 特別報告者は反乱軍に対しても、戦闘に直接関わりのない一般市民の超法規的殺害に自ら関与したこと、政敵に対して死の脅迫を行ったことを批判した。

「『人民裁判』での死刑判決は、実際には自警主義(自力救済)もしくは殺人にすぎないものに、合法的だという装いを与えているだけだ。」と同氏は述べた。

 今回のフィリピン訪問中、アルストン氏は西ミンダナオとスル諸島へも、超法規的処刑の調査に出向いた。これらの地域は、モロ国民解放戦線、モロイスラム解放戦線、アブ・サヤフ・グループといったいくつかの反乱グループ、テロリスト集団が関わる紛争を、経験してきている。

 これらの地域の目撃者たちは大きな恐怖の中で生活しており、誰が人権侵害行為の責任を負っているのか確定するのが難しいので、一般市民を保護するために人権監視(モニタリング)に一層力をいれることが不可欠であると、アルストン氏は述べた。

 ミンダナオ島ダバオ市における、暗殺団の行動についても調査し、犠牲者、目撃者と面接調査を行い、地元警察、軍将校、市長らとも話をした。

「マスクも付けていない男たちが、目撃者がはっきり見ている前で、軽微な犯罪を理由に子どもたちを日常的に殺害することを、止めさせる手立てがない、という市長の姿勢には、信頼をおくことがまったくできない。デュテルテ市長による地元警察をコントロールする権限を失わせ、中央政府が暗殺団を解体し、メンバーを起訴する責任を負うべきである。」と同氏はレポートで述べている。

“Philippines: military executing leftist activists, UN independent expert finds”