【世界の人権・フィリピン】2007/2/22 裁判なしの殺害(超法規的殺害)を食い止めるために、なされるべき莫大な作業が残っている、と国連専門家

(ニューヨーク、2007年2月22日) 国連の独立人権専門家が本日警告するところによると、フィリピンにおいて、確かに軍隊が行っていると認められる多数の裁判なしの殺害(超法規的殺害)、実質的な不処罰の文化、そして証言者が弱い立場にあるという問題がはびこっており、フィリピン政府は説明責任(アカウンタビリティ)を回復するという「継続的で大きな課題」に直面している。 http://www.unog.ch/80256EDD006B9C2E/(httpNewsByYear_en)/CDD628AE9A86E2C0C125728A003E9F31?OpenDocument

 超法規的、即決、あるいは恣意的な処刑に関する国連特別報告者フィリップ・アルストンは、「多くの課題が山積みになっている。」と10日間のフィリピン訪問を終える日の声明で述べた。滞在中、彼は、フィリピン政府から「無条件の協力」を受けていると述べていた。

 彼はまた、グロリア・マカパガル・アロヨ大統領を含む実質的にすべての関係政府高官に面会したと述べた。そして、「政府が私を招聘したこと自体、問題の深刻さが明らかに認識されていること、第三者の厳密な調査を望んでいること」、超法規的殺害の問題に「取り組む用意があることを表している。」とつけ加えた。

 アルストン氏は、市民社会グループ、被害者や殺害の証言者とも会った。一方、何人が殺されたかという国内で高まっている議論には消極的であった。「数のゲームは極めて非生産的だ。ただ、数字が非常に大きいことは確かで、痛ましい。」と述べた。

 さらに「より重要なことは、数字そのものでなく、それが少ないものだとしても、今回申し立てられているタイプの殺害は、さまざまな点で腐食的な影響をもつということだ。(つまり)市民社会で役割を果たす多くの人々を脅かし、(政府と)密接に結びついた人を除くすべての人が無力であるとメッセージを伝えることになり、この国が瀕している問題を解決するための核心である政治的対話を、著しく損なう。」と述べた。

 アルストン氏は、近年殺害が増えているのは反乱コミュニストの内部粛清のためであるという軍の主張を、「極めて説得力に欠ける」として却下し、軍は、軍関係者が非合法の殺人に関わっているという申し立てに対して「実効的で信頼性のある回答を出す必要があるのに、それをほとんど完全に拒否している状態にある。」とも述べた。

 アルストン氏は「事実を認め捜査への真っ当な順を踏んでいくことは、軍の名声や有効性を相当に高めこそすれ、損なうことはないと、大統領から軍隊を説得する必要がある。私は、戦闘の前線において反乱鎮圧の作戦を実行するという課題をいかなる意味でも過小評価するものではない。」と加えた。

 同氏は、殺害調査のために大統領が設立した独立委員会は、「実質的な不処罰」が広く存在し証人たちが危険に直面しているなど司法制度が歪められている中、報告の公表を拒んだために「政治的資本(政治的影響力)」を失いつつあることを強調した。

 「今の状態では、もし長生きしたければ、殺害に関する刑事裁判で証人にならないことだ。証人になれば組織的に脅迫され嫌がらせを受ける。」と彼は述べた。そして『証人保護プログラム』があるが、文面上内容はよくても、実際には重大な欠陥があることをつけ加えた。

 より大きな政治的文脈では、左派グループとの和解戦略が放棄され、近年、超法規的処刑が増加していることは、少なくともある程度、反乱鎮圧戦略の変化に起因すると、アルストン氏は述べた。そして、左派寄りの諸団体を中傷しそのリーダーたちを脅迫しようという試みが、いくつかのケースでは超法規的処刑にエスカレートしてきたと指摘した。

 同氏は、フィリピンでテレビ生放送された発言の中で、「フィリピンは(1986年の)人民革命によって平和的に戒厳令を終わらせ、人権尊重を保障する力強い表明を反映した憲法を採択したことにおいて、依然として、私たちすべての手本であり続けている。」と最後に述べた。彼は、独立委員会の報告に応えて大統領が発令したさまざまな対策は、「重要な最初のステップを成したが、いまだ莫大な作業が残っている。」と明言している。

 アルストン氏は、(国連特別報告者という)無償かつ独立の地位を務める。2007年3月27日にジュネーブで開かれる国連人権理事会で短い予備報告をすることになっている。
http://www.ohchr.org/english/bodies/hrcouncil
詳細な報告と具体的勧告はその後数ヶ月内に公表される。

(出典)  
“Philippines: Huge amount needs to be done to curb extrajudicial killings ? UN expert”
http://www.un.org/apps/news/story.asp?NewsID=21643&Cr=philippines&Cr1=