イベントアーカイブ 2022/1/11ビジネスと人権ダイアローグ「企業が取り組むべき人権問題としての気候変動」

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ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は1月1日(火) 17時より、ビジネスと人権ダイアローグ第4弾「企業が取り組むべき人権問題としての気候変動」を開催いたしました。

当イベントでは、FoE Japan気候変動・エネルギー担当スタッフの深草 亜悠美氏、第一生命ホールディングス経営企画ユニットフェロー兼第一生命保険運用企画部フェローの銭谷美幸氏、青年環境NGO Climate Youth Japan副代表の黒瀬陽氏をゲストスピーカーとしてお迎えし、ビジネスと人権の観点から、企業が取り組むべき人権問題としての気候変動についてお話しいただきました。

 

開会の挨拶/ビジネスと人権についての動画  

開会の挨拶に引き続き、ビジネスと人権に関する解説動画を流しました。
ぜひご覧ください。


www.youtube.com

 

 

深草亜悠美氏 「気候変動と人権」

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続いて、ゲストスピーカーの深草亜悠美氏に「気候変動と人権」というテーマでお話いただきました。

気候危機は人道の危機 -歴史的責任(Historical Responsibility)と公平性(Equity)-

気候危機に関しては国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)で議論されました。また、IPCCレポート(国連気候変動に関する政府間パネル)の第1作業部会が昨年発表され、近年日本でも気候変動に関する議論が多くなってきたとのことです。

国連環境レポート「排出ギャップレポート (21年英語版)」によると、産業革命時より2度近く平均気温が上昇しており、この数値はパリ協定の定めている1.5度を上回っています。また、現状の削減対策では2.7度の温度上昇の予測になっているので、より包括的で協力的な取り組みが必要とのことです。温室効果ガスの排出に関しては、富裕層(世界人口の約10%)が全体の50%を排出しており、格差問題は気候問題の中でも顕著に見られるとのことでした。

「共通だが差異ある責任原則」にもあるように、資源開発や発展により気候変動を引き起こしてきた一部の先進国や大企業には歴史的責任がある一方、被害は気候変動にもっとも責任のない排出の少ないいわゆる途上国の貧困層や将来世代が受けているため気候正義の視点も重要だと述べました。

化石燃料開発と人権侵害

約8割の二酸化炭素排出が化石燃料を使用することに起因していることから、化石燃料の使用を抑えることが気候変動の対策において重要となってくるとのことです。

ネットゼロ宣言(「温室効果ガスの大気への人為的排出量が、指定された期間の人為的除去量とバランスとれている状態」(IPCC) )が相次いでいますが、化石燃料の生産を縮小させていく具体的な計画がまだ伴っていないのが現状と述べました (Production Gap Report)。

日本政府も2050年ネットゼロ宣言を行っています。化石燃料依存型社会からの転換のための道筋づくりと、転換を支えるための施策をおこなう必要があるとのことです。

また、「対策」への人権・環境配慮を促進していかなければならないというメッセージを最後にいただきました。

例えば、北米で行われた先住民族の抗議活動が挙げられます。ブリティッシュコロンビア州(カナダ)のガス事業に日本の企業や銀行が関与していますが、先住民族の土地を通っており、反対運動が起こっているのが現状です。人権侵害又は弾圧に関係している可能性があるので、開発事業(インフラ等)に関しては人権保護の観点から守られているのか特に確認する必要があるとのことでした。

 

 

銭谷美幸氏 「機関投資家が期待する企業への気候変動対応」

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続いて、ゲストスピーカーの銭谷美幸氏に「機関家が期待する企業への気候変動対応」というテーマでお話いただきました。

 

企業が気候変動対応を加速しなければならない理由

ダボス会議等の議題を見ても世界の経営者が認識しているリスクとして気候変動に関する事例が多くなってきているとのことです。そのような流れも考慮して、機関投資家は生物の多様性を含める地球温暖化に関わる包括的な気候変動の問題に関して取り組む必要があると述べました。

ESG投融資に関する日本国内の動き

日本では、2014年スチュワードシップコード(SSC)、2015年コーポレートガバナンスコード(CGC)が制定され、それぞれ3年毎に改訂されることになっています。昨今ではサステイナブルファイナンスが主流になってきており、融資・事業性評価においてもESG視点を取り入れた評価が普通になってきているとのことでした。

第一生命は機関投資家としてどんなことをしているのか

世界中の幅広い資産を保有する「ユニバーサル・オーナー」として、多様なステークホルダーを意識した資産運用を推進しているとのことでした。生命保険会社としての投資原則として、「収益性・安全性・流動性・公共性」を重視し、責任投資を推進することで、中長期的な投資リターンの獲得と社会課題の解決の両立を目指しているそうです。

気候危機対応として投資家が観ているもの

下記が銭谷様より共有いただいた投資家が注目している問題や取り組みです。

  • TCFDの開示
  • 気候関連開示プロトタイプ(Value Reporting Foundation
  • 気候危機対応と関連する生物の多様性の重要性(TNFD)
  • 海洋プラスチック問題
  • COP26
  • 気候変動と訴訟

より詳しい内容はこちらからも確認できます

https://blog.digitalgrid.com/ 

 

 

黒瀬陽氏 「COP26とライフスタイル変革」

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続いて、ゲストスピーカーの黒瀬陽氏に「COP26とライフスタイル変革」というテーマでユース団体としての活動に関してお話いただきました。

 

COP26と国際社会・日本の状況

日本を含む100カ国以上の国が2030年までに森林破壊を終了させる共同声明を出したこと、また、グラスゴー気候協定内で1.5度目標の明記したことに関して注目をしているとのことでした。

但し、主要会議「ブルーゾーン」の議題に「食」に関する項目があったなかで日本の立場が曖昧だったことを懸念していると述べました。

温室効果ガス排出に占めるフードシステム由来の割合は26%に上り、畜産など動物性食はそのうち58%(全体の約15%)になっているそうです。日本では環境省が「COOL CHOICE」プロジェクトの一環として消費者のアクションとして「旬の食材、地元の食材でつくった菜食を取り入れた健康な食生活」を推奨しています。

プラントベースプロジェクト

次に消費者やサプライヤー(ベジタリアンショップ、企業など)へのインタビューを通じて、現在、植物性食生活(プラントベース)の実践を妨げている要因を調査した結果を共有していただきました。

個人的な要因としては、周囲の理解の欠如、アレルギー、又は心理的なハードルを挙げました。経済的な要因としては、消費者と供給側の双方が納得いく価格帯や販売経路の確保が難しいとのことでした。社会的、文化的な要因としてはベジタリアンの考え方が普及しておらず偏見もまだあると述べました。

「意識」を変えることに加え、消費者を取りまく情報環境、経済状況、人間関係など「社会的な基盤」を整えてゆくことが必要で、これらは消費者、企業、又は政府が共に取り組む課題になっていると考えているそうです。

パネルディスカッション・Q&A

イベントの後半には深草氏、銭谷氏、黒瀬氏とHRNビジネスと人権プロジェクトスタッフの小園でパネルディスカッション・Q&Aを行いました。参加者からも興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変盛り上がりました。

 

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閉会の挨拶

閉会の挨拶で深草氏は気候変動の問題は人権問題と多方面かつ密接に関わってきていることを再度確認できるウェビナーだったと述べました。また、佐藤暁子事務局次長は気候変動の問題は国際機関、政府、企業、又は市民団体が共に包括的な取り組みを行っていくべきだと締め括りました。

おわりに

このイベントはビジネスと人権ダイアローグの第4弾となりました。ご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続きビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。