イベントアーカイブ 【アーカイブ動画あり】ビジネスと人権ダイアローグ第6弾「ビジネスと人権の視点から考える ソーシャルメディア活用」

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2022年5月19日(木) に、ビジネスと人権ダイアローグ第6弾「ビジネスと人権の視点から考える ソーシャルメディア活用」を開催いたしました。

当イベントでは、俳優・アクティビストの石川 優実氏、京都大学大学院法学研究科教授(憲法・情報法)の曽我部 真裕氏、ジャーナリスト/メディア・アクティビスト、大阪経済大学情報社会学部客員教授の津田 大介氏をゲストスピーカーとしてお迎えしました。

ビジネスと人権の視点を基に、個人や企業がソーシャルメディア等を活用する際の利点・弊害、ソーシャルメディアを使って企業活動をする立場の視点、そしてプラットフォーム側としての責任とユーザーとしての環境作りに関して、指導原則や遵守すべき国内外の基準、起こった人権侵害の例を踏まえて議論しました。

 

石川 優実氏「ビジネスと人権の視点から考える ソーシャルメディア活用」

石川氏は、SNSから始まった#KuTooという運動やSNSで活動する中で経験したオンライン・ハラスメントについて説明してくださいました。

例えばオンライン・ハラスメントは、被害者がお金や労力を使わなければ解決できないという問題点があることを指摘します。なぜなら、被害者が情報開示請求をする場合、数十万単位のお金がかかるだけでなく自身がうけた誹謗中傷を証拠として保存するために何度も目にしなければなりません。

 

そして、プラットフォームに望むこととして、加害者が誹謗中傷をしないようにプラットフォーム側が適切に対処する規律やポリシーを作り、つきまといやデマ情報の拡散をさせない工夫などが必要だと言います。

 

津田 大介氏「ビジネスと人権の視点から考える ソーシャルメディアの諸問題」

津田氏は、ソーシャルメディアの発展とその問題について話してくださいました。

 

スマートフォン契約者やSNS利用者の増加に伴う10年間の情報環境の変化は、社会運動などの力を大きくした一方で、運動を抑え込もうとするバックラッシュなどの動きも表面化させたと言います。韓国や日本の事例を交えながら、こうした問題がなくならない原因について触れました。

 

プラットフォーム規制、広告規制、実名公表、サイトブロッキング、法規制などの対策を一つひとつ積み重ねることで、対処するしかないと指摘します。

 

曽我部 真裕氏「ビジネスと人権の視点から考える ソーシャルメディア活用」法律の観点から

曽我部氏は法律の観点から、表現の自由とソーシャルメディア運用、その限界について説明してくださいました。

 

表現の自由が限界を迎えている理由は、アテンション・エコノミー※1、脊髄反射※2、フィルターバブル※3だと言います。また、ソーシャルメディアに関する法律では、一部の投稿は侮辱罪や名誉棄損罪にあたるが、多くの場合明確な権利侵害と言える投稿とは言いにくく、法律の適用にも限界があることを示唆されました。

 

最近の傾向として、個別の削除請求などのミクロ的な対応に加えて、問題投稿の総数を減らすマクロ的な対応が議論されているそうです。

 

※1 ソーシャルメディアは「注目(アテンション)」を集めることが目的の世界

※2よく考えずに「拡散」してしまう。正義感であれネガティブなものであれ、感情のままに情報を発信・拡散してしまう

※3似た意見の人とばかり交流する結果、過激化する

 

本イベントに参加したことで得られたもの

ソーシャルメディアの「光と影」

ソーシャルメディアの発展は、私たちの情報発信の幅を広げ、孤立した人々を繋げることで、これまで社会に聞かれてこなかった不正義に対する声を大きくすることを可能にしてきました。こうしたソーシャルメディアを利用した運動が数多く展開されている一方で、誹謗中傷やハラスメントなどの問題が発生しています。

 

ソーシャルメディア上で発生する問題

デマや曲解、偏見に基づく批判、侮辱、名誉毀損、つきまといなどが挙げられています。

なぜ、こうした問題がなくならないのでしょうか。

登壇者である津田氏は、義憤に燃えた人・確信犯、世論工作を請け負った業者、ビジネスとして煽るメディアなど、さまざまな要因があると言います。

 

問題を解決するためには

対策として、SNSプラットフォーム企業への提言、政策担当者への提言などがあります。しかし、被害者がお金や労力を使わなければいけないこと、言語の壁や資本理論で動くためプラットホーム規制がなかなか改善されないこと、法律でなにが差別かを判断することの難しさ、などの課題もあります。

 

登壇者の皆さまのコメント

最後に登壇者の皆さまから、本テーマに関してコメントをいただきました。

曽我部氏

現在の法律には限界がある。違法だが裁判をするにはお金がかかり、なにが差別かを理解することがとても難しい。なので、こうした問題を法律で規制するだけではなく、法律の限界を社会全体で補うことが必要。

 

石川氏

SNSがデマや誹謗中傷なしで、誰もが自由に意見を交わせるような言論空間であればと思う。また、社会で女性差別や性差別が、まだまだ認知されていないと感じる。オンライン上だけではなく、実社会でも性差別をなくすことも目指して行かなければならない。

 

津田氏

ソーシャルメディア活用の問題背景には、明らかにモラルを超えていたり、差別を先導していたり、犯罪を誘発する投稿が、かなり放置されてきたこともある。まず、第2や第3のヘイトクライムを生み出さないように、明らかに違法なものに対する法的な措置や、事業者がケアに取り組むよう促す枠組み作りが重要だと思う。

 

 

ヒューマンライツ・ナウは、今後もビジネスと人権に関するダイアローグの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。