ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、世界子どもの日に合わせて、11月20より2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」を開催いたしました。
当イベントの1日目では、インドと日本を中心に活動をする「ボーンフリーアートJapan」の共同代表・阪口史保氏とボーンフリーアートスクール・サポーター長谷千秋氏をゲストとしてお招きしました。そして、「考えてみよう!インドの子どもと自分の人権」というテーマで高校生含む参加者のみなさんとディスカッションを行いました。
開会の言葉、大使館からのメッセージ
まず初めに、当団体の理事長、新倉修より開会の言葉がありました。新倉理事長は、まず、すべての人が生まれながらに持つ権利を確認しました。生まれながらに持つ権利には、国籍、名前を持つ権利や未来を切り開く権利が含まれます。
このような権利を踏まえ、当団体が活動を通じて達成しなければいけないことも強調されました。それは、一人ひとりの人間の尊厳を守る社会をつくること、加えて、個人の尊厳が守られず、苦しみを生み出す仕組みが社会にあるのなら、それを取り除くことだとおっしゃられました。
最後に、2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」で取り扱うテーマの中で、1日目に議論する「インドの子どもたちの権利」に関して、新倉理事長が過去のエピソードを述べられました。
昔、世界の法律家が集う会議がインドのニューデリーで開催された際に、手足に障がいがある子どもたちが法律家に物乞いをしていたそうです。インド出身の法律家たちは、物乞いしている子どもの存在を気にかけていなかったようでした。日本国憲法には「個人の幸福を追求する権利」というものが存在する一方で、インドの憲法にはその様な権利に関する記述はなかったそうです。新倉理事長は、現在子どもたちの権利は守られているのか知りたいと述べられました。
子どもの人権
当イベントで取り上げる「子どもの権利」についての説明がありました。
子どもの権利とは子どもの権利条約に定められている項目のことを指します。
子どもの権利条約は、18歳未満を子どもと位置づけ、おとなと同じ様に子どもがひとりの人間として持っている権利を認めている世界共通の約束事です。2021年11月現在、世界の196の国と地域が締結しています。
この子どもの権利条約は、次のような2つの考え方を背景として作られています。
①:弱い立場に立たされ、差別を受けてきた子どもたちを解放しよう
②:子どもはおとなとでは必要なものが違うので、その差異に配慮をして特別な保護を与えよう
この条約が定める権利は、大きく4つに分けられます。
・生きる権利
・育つ権利
・守られる権利
・参加する権利
また、特に配慮が必要な子どもとして、難民や少数民族の子ども、障がいのある子どもを定めており、幅広く子どもの権利について規定している条約になっています。
この子どもの権利条約は1989年11月20日に国連総会で採択されました。
なので、毎年11月20日には、子どもの権利と子どもの福祉の認知向上を目的として、世界中で子どもが主体となって参加するイベントが行われています。当団体が毎年開催するスピーチコンテストや世界子どもの日イベントもその一環として開催しています。
ボーンフリーアートJapan 活動紹介
南インドのバンガロールから特定非営利活動法人ボーンフリーアートJapan
共同代表の阪口(さかぐち)さんがお話をくださいました。
ボーンフリーアートJapanとは?
南インド・バンガロールにて、働く子ども、ストリートチルドレン、債務奴隷の子どもたちをアートセラピーという方法で労働や路上から救出保護し、子どもたちの社会復帰と自立を支えてているNGOでありボーンフリーアートスクールの理念を伝える団体です。また、子どもたちの実際の児童労働の経験のシェア、また子どもたちによって作成されたアートの紹介を行っています。
ビジョン:子どもの権利が守られる公正で平和な世界を築くこと。
ミッション:世界のどこにおいても児童労働をなくし、子どもの教育の権利を守ること。
公正で平和な世界を実現するために、自らの考えを表現し、行動できる人となること。
なぜ児童労働があるのか?
児童労働がある理由を考えるために、阪口さんが実際にインドで子どもたちや家族からヒヤリングした原因を共有いただきました。
児童労働がある理由:
生活費を稼ぐために労働をしなければいけない
ちいさな兄弟、お年寄りなどの家族の世話をしなければならない
机に座って勉強をした経験がない
学校にいってもついていけない
制服や鉛筆、ノートのような学用品を買うお金がない
児童労働の子どもへの影響
上記のような理由をもって子どもは労働に従事しています。物乞い、道で物を売る行為も労働とみなされています。さらに、児童労働が子どもに与える影響についても共有いただきました。それは、将来に対する絶望感、おとなへの不信感です。
まず、労働によって、家族や他の子どもたちと楽しい時間をすごす機会が奪われてしまうことを阪口さんは挙げられました。また、児童労働の根本には貧困の問題があり、貧困に関連して、空腹をまぎらわすためにドラッグを繰り返したり、盗みをしてしまったりすることがあるとのことでした。
一方、アルコール依存症の親を持つ子どもが労働に従事している場合が多く、アルコール依存症の影響で、親による家庭内暴力や家庭内不和が多く見られるとのことです。最悪の家庭状況の場合、子どもが家族が抱える借金の返済のために、債務奴隷として働かされたり、売春をせざるをえない状況になります。このような経験をした子どもは、PTSDや鬱といった心の傷を抱えたり、自傷行為をしてしまったりすることもあります。このような状況にある子どもは、小さい頃から、将来に対する絶望感、おとなへの不信感を抱いてしまうとのことです。
ボーンフリーアート・スクールについて紹介
インドのNGO、ボーンフリーアート・スクールについて紹介いただきました。
ストリートチルドレンや路上で労働をしている子どもたちに音楽、演劇、ダンス、創作、映像などのアートを通じた教育を行い、一度、正規の教育を受ける機会を失ってしまった子どもたちに、正規の教育を受ける機会を再び提供。
2005年8月に設立し、設立当時の子どもたちは既におとなとなり、アーティストとして活動している人もいるそうです。
プロジェクトの事例
インドのボーンフリーアート・スクールとボーンフリーアートJapanが共同して行ったプロジェクトについても紹介いただきました。
東日本大震災後に、福島県に住んでいる被災者の子どもたちと、インドで児童労働に従事している子どもたちが共同で、ピカソのゲルニカよりもすこし大きなサイズの絵を制作したそうです。
アートや平和教育によるエンパワメント
アートという表現手段を身に着け、制作活動を通じて、子ども時代を取り戻すことができると阪口さんはおっしゃいました。また、制作活動を通じて、トラウマから自分を解放することができたり抑え込んだ感情を受け入れることができたり、最後には自分も大切な存在なんだという自尊心を持つことができると説明されました。
これらのエンパワメントを通じて、最終的に子どもたちが新しい夢を持つこと、自ら路上生活を抜け出して教育を受けようとすること、そして子どもたちの自立を目指しているそうです。
また、アートに加え、平和教育も活動の柱の一つだそうです。子どもたちは、活動の中で広島、長崎について学ぶ時もあります。平和教育の目的は、世界で起こっている自分以外の子どもたちの状況に目をむけることです。
活動を通じた子どもたちの心の変化
このように、アートや平和教育に加え、子どもたちに愛情を注ぐことで、子どもたちは学習意欲をもつようになり、次第に将来への希望をもつようになります。
ここで、阪口さんたちが活動をする際に、重要としている方針を共有くださいました。それは、
「世界中のすべての子どもたちが自由になって初めて、一人ひとりの子どもが自由になる」ということです。この意味は、一人の子どもが児童労働から解放されたとしても、全世界のすべての子どもたちが児童労働から解放されないと意味がないということです。この考えは、子どもの人権にも共通していると阪口さんはおっしゃられました。
Education for all childrenの活動
次に、今年の7月から始められた、Education for all children という新しい活動を紹介してくださいました。「すべての子どもの学びたいにこたえる」ためにスラムの中に学校を建て、運営する活動だそうです。この学校の名前は、ライト・ブルズ・スクールといいます。
阪口さんが活動されているスラムはバンガロールという都市にあり、田舎の州から収入を求めて移住してくる人も多い地域。
子どもたちの多くは、学校に今まで一度も行ったことがありません。そのため、ライト・ブルズ・スクールでの具体的な活動は、生活指導、集団行動といった生活の基本的なことから、他の州から引っ越しをしてきた子ども向けに、バンガロールで使用されるカンナダ語の文字の読み書きを教えます。また、英語の読み書き、算数、歌やダンス、ヨガといった活動、スポーツなども教えています。
お話の途中で、ライト・ブルズ・スクール内部の様子やそこで学んでいる子どもたちの様子を映した、約6分間の映像をシェアしてくださいました。
映像の中では、スラムの様子が映し出され、学校がどのような場所にあるか示してくださいました。また、子どもたちが歌を歌って、英語やカンナダのアルファベットを暗記する様子、九九の練習などをしている様子が映し出されました。
また生徒たちが、ライト・ブルズ・スクールに通う様になって変化したことを話してくださいました。ある生徒は、「学校に通うようになってから、物乞いは午前中にすませ、午後からは学校でいろいろなことを学ぶようになりました。算数や、曜日、月など、また他の人を敬うことを学び、自分が将来何をしたいかを考えるようになりました」と語りました。
そのほかにお祈りすることを覚え、他にも水を節約するようになり、動物や植物を大切にすることを学んだ子、地球環境をまもるようになったという子もいました。生徒たちの保護者の内、学校に行き、学びを得ることをあまり良くおもっていない人もいるそうですが、子どもたちは「教育をうけることが楽しい」と話していました。
最後に、阪口さんはインドの憲法を作ったアンベードカル博士の「教育と食べ物とは同じである」言葉を引用し、教育の大切さをお話しくださいました。教育とは、ただ読み書きの能力をつけることではなく、人生に必要なものだと坂口さんは強調されました。
ワークショップ
阪口さんからインドでの活動のお話を聞いた上で、イベントの参加者全員で、ワークショップに取り組みました。
子どもの権利を認識する
まず初めに、子どもの権利を認識する・見出すために、思いつく限りの「子どもの権利」を各自で書き出してもらい、その後全員でシェアしました。
映像や発表を聞いて自分が権利だと認識していなかったもの、日々の自分の生活の中で権利だと改めて認識したものは、下記のようにまとめられました。
子どもの権利の重要性を認識する
次に、上記の権利が保障されず、侵害された状態で子ども時代を過ごした場合、子どもにどのような悪影響があるのかを考えました。参加者は議論を通じて、子どもの権利が保護されない原因を考察し、また、守られる重要性を理解しました。
具体的には、教育を受ける権利を侵害された場合、自立ができなくなる、良い職につけずに貧困に陥る、またその貧困が次の世代に連鎖してしまうなどの意見がでました。
守られる権利が侵害された場合、心身の発達に影響がでるのではないかという意見がでました。それに紐づき、他の人と信頼関係を構築することが難しくなったり、自分がおとなになったときに、子どもを守る義務を放棄してしまい、暴力が連鎖してしまったりするのではないかという意見もありました。
自分の意見を聞いてもらえる権利、自分を表現する権利が失われた場合、自己肯定感が下がります。この影響はおとなになっても続き、犯罪や自傷行為などの形で悪影響が継続するのではないかという意見もでました。
アクションカードの作成
ディスカッションを通じて、子どもには主体的に考える権利、自分自身を表現する権利があり、それらは夢を持つ権利にもつながることも確認しました。
子どもの権利のうちの1つである「夢を持つ権利」を踏まえ、個人の夢を表現、アウトプットするために、参加者全員でアクションカードを作成しました。そして、それぞれの夢をみんなにシェアしてもらいました。
アクションカードは、ボーンフリーアートさんのインスタグラムにも投稿していただきました。
https://www.instagram.com/p/CXL6HT3P0f7/
https://www.instagram.com/p/CXJlwQmPJhh/
このアクションを通じて、参加者のメンバーはそれぞれの夢を達成しようとする気持ちになりました。また夢をシェアすることで、周りの人びとを勇気づけられたと思います。
スピーチコンテスト入賞者によるスピーチの披露
ヒューマンライツ・ナウ主催の、第7回「世界子どもの日」映像スピーチコンテスト入賞者の作品が披露されました。こちらのリンクにて、イベント1日目に披露されましたスピーチはご視聴いただけます。
小池和さん「人格で判断される世界に」
阪口くり果さん「明るい未来のために」
閉会の挨拶
最後に、当団体副理事の伊藤 和子より閉会の挨拶がありました。
まず、本日の有意義なディスカッションの元となる情報を提供してくださいましたボーンフリーアートJapanさん、また協賛してくださいました企業や大使館への謝辞を述べられました。
その後、リーダーシップを発揮する若い世代を応援したいと伊藤副理事は述べ、ジェンダーに基づいた差別、コロナ禍で悪化した格差の問題など社会全体の不正義に対し、子どもたちや若い世代が、おとなに負けじと社会を変えていって欲しいと強調しました。
最後に、当団体としても、若者が声をあげやすい社会を実現するために、スピーチコンテストをはじめとする活動を継続していきたいという決意を表明されました。
おわりに
このページでは、2日間にわたる「世界子どもの日キャンペーン」の1日目の議論の内容をまとめました。
「世界子どもの日キャンペーン」1日目にご参加いただいた皆さま、ありがとうございました。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。
(文責:羽星有紗)