【声明】ICC関係者を標的とする米国の制裁を強く非難し、加盟国に対し、ICCを守るため実効的な措置を講じるよう求める

ヒューマンライツ・ナウは、国際刑事裁判所(ICC)関係者を標的とする米国の制裁を強く非難し、加盟国に対し、ICCを守るため実効的な措置を講じるよう求める声明を発表しました。

脚注等も含めた声明のダウンロードはこちら→英語(原文)日本語(翻訳)

ICC関係者を標的とする米国の制裁を強く非難し、
加盟国に対し、ICCを守るため実効的な措置を講じるよう求める

2026年8月18日、マルコ・ルビオ米国務長官は、国際刑事裁判所(ICC)の赤根智子所長およびICC検察局の上級法廷弁護士であるアブドゥライ・セイ氏に対し、米国が制裁を課すことを発表した 。今回の制裁は、同裁判所の独立性およびその任務を効果的に遂行する能力を破壊しようとする米国の動きが、さらにエスカレートしたことを示している。ヒューマンライツ・ナウは、米国がICC関係者に対して課した今回の制裁および過去の制裁を強く非難し、ICC加盟国に対し、例えば、国内および地域レベルのブロック法(制裁回避防止法)の採択など、ICCを保護するための効果的かつ協調的な措置を最優先の課題として講じるよう求める。

ICCを弱体化させようとする継続的なキャンペーンにおける最近の動き
赤根所長およびセイ氏に対する制裁は、2025年2月6日にドナルド・トランプ米大統領が署名した大統領令第14203号に基づき課されたものである 。この大統領令に基づき、署名と同時に最初に制裁対象として指定されたのは、カリム・カーン元主任検察官だった。カーン氏の指定に続き、2025年6月には4名の裁判官が 、2025年8月には2名の裁判官と2名の副検察官が 、2025年12月には2名の裁判官が、それぞれ追加で指定された 。今回の指定により、ICCの18人の裁判官のうち、議長を含め半数が米国の制裁対象となった。セイ氏については、2026年12月に行われる次期ICC裁判官選挙の候補者としてセネガルから正式に指名されていることを踏まえると、今回の指定はICCの司法の独立性に干渉しようとする先制的な試みとも解釈できる。

米国は、ICCが自国民に対して管轄権を行使する可能性に一貫して断固として反対してきた。しかし、以下に挙げる点などを考慮すると、現在のICCに対する米国のキャンペーンの主な動機は、パレスチナで行われた犯罪についてイスラエル人に責任を問おうとする同裁判所の取り組みを弱体化させたいという意図があることは明らかである。現時点で、制裁の対象となっているのは、アフガニスタンおよび/またはパレスチナに関する捜査に関連する業務に携わってきた裁判所職員のみである。アフガニスタン捜査は当初、米軍およびCIAの構成員による戦争犯罪もその対象範囲に含まれていたが 、この捜査の側面は、2021年9月までに当時の主任検察官によって事実上中止されていた 。これは、バルンギ・ボッサ、イバニェス・カランサ、キンバリー・プロストの各判事が、アフガニスタン捜査の承認に関与したとして2025年に制裁を受けたより数年前のことである 。大統領令14203号が署名された時点で、米国民に対する進行中の捜査は存在せず、現在もその状況は変わっていない。制裁対象に指定された裁判所職員の多くは、パレスチナに関する捜査に関連する活動を理由として標的にされている。その中にはイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相およびヨアヴ・ガラント元国防相に対する逮捕状の承認を含まれている。

イスラエルとその国民を責任追及から守ろうとする意図は、パレスチナ人の権利保護に関わる活動に従事するICC外の個人・団体に対しても、大統領令14203号が制裁の根拠として利用されているという事実からも明らかである。具体的には 1967年以来占領下にあるパレスチナ領土における人権状況に関する国連特別報告者であるフランチェスカ・アルバネーゼ氏(同氏は、ICCによるイスラエルの犯罪の捜査と起訴を積極的に提唱してきた)や 、ガザの民間人に対するイスラエルの違反行為に関する資料をICCに提供してきた3つの主要なパレスチナNGOなどが制裁対象となっている 。

制裁による深刻な影響
大統領令第14203号に基づき指定された人々は、制裁が日常生活に深刻な影響を与えていると報告している。彼らは米国への入国ビザの発給を拒否され、銀行口座や不動産など、米国内の資産が差し押さえられている。米国の金融インフラ、米ドル、米国のITおよびサービスプロバイダーが世界的に広がっているため、制裁は米国外にも深刻な影響をおよぼしている。制裁対象となった人々は、自国で銀行口座へのアクセスや開設ができなくなり、国際送金もできなくなった。クレジットカードが利用できなくなり、PayPal、Amazon、Uberなどの米国企業とのアカウントも解約された。家族も影響を受けており、米国ビザの失効や米国サービスプロバイダーとのアカウント解約などが報告されている。 制裁対象となったNGOも、資金源の喪失や銀行口座へのアクセス不能、ソーシャルメディアアカウントの停止、人権侵害の重要な証拠を含むYouTubeアカウントの削除など、深刻な影響を受けている。大統領令の域外適用による影響の一部は、「過剰順守」に起因している。これは、銀行やその他の関係者が厳しい罰則を恐れて、実際には法的義務がないにもかかわらず、大統領令に従ってしまう現象である 。

また、制裁にはより広範な「萎縮効果」もあり、「法曹関係者、市民社会の組織、専門家が責任追及に取り組む意欲に影響をおよぼし」、「国際司法制度の機能を徐々に弱体化させている」 。

国際刑事裁判所を守るための加盟国による効果的な行動の必要性
赤根所長とセイ氏に対する今回の制裁は、先月マルコ・ルビオ氏が発表した、ICCを「解体」し、「ICCの運営能力を体系的に無力化するための政府全体を挙げての対応」を実施するという、新たに強化された米国のキャンペーンの一環である 。 ICCに対する制裁の強化に加え、これにはICC加盟国に対し、ローマ規程からの脱退や、ICCへの資金提供および参加の停止を迫ることも含まれている 。

ICCが存続の危機に直面していると言っても過言ではない。そして、その将来を守り、第二次世界大戦終了以降、国際的な法の支配と国際犯罪に対する責任追及に向けて成し遂げられてきた、限定的ではあるものの意義深い進展を守るためには、強力な措置が緊急に求められている。

しかし、これまでのところ、国際社会、とりわけ加盟国による対応は不十分である。それは、米国の親密な同盟国の国民に対して捜査を行い、逮捕状を発行することで、ICCがその任務を偏ることなく遂行しようとする取り組みを支援する点においても、その後の米国による攻撃からICCを擁護する点においても同様である。

ネタニヤフ首相に対する逮捕状の発付を受けて、一部の西側加盟国は、ローマ規程に基づく不偏性を維持して逮捕状を執行するという法的義務を果たす意思がないことを明らかにした。具体的には、ネタニヤフ氏が逮捕を恐れることなく自国を訪問できると示唆したり 、あるいは同氏の自国領空通過を認めたりした 。 これは、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領を起訴しようとする同裁判所の取り組みに対して、これらの国々が示した熱烈な支持とは著しい対照をなしている。

加盟国はまた、ICCを弱体化させようとする米国の動きに対して、十分な対応をとれていない。遺憾なことに、日本はICCに対するこれまでの制裁を公に非難したり、その撤回を求めたりしなかった。また、過去1年間にわたり、赤根所長への制裁を行わないよう米国に水面下で働きかけてきたと報じられているものの 、 8月18日の同裁判官の指定に対して、日本がこれまでに示した唯一の公的な反応は、「大変残念」というものであった 。 他の国々は、2025年2月7日に共同声明を発表した79のICC加盟国 のように、ICCを擁護する声をより積極的に上げており、制裁の対象となった自国民を支援するための措置を講じている国もある が、ICCを保護し、大統領令14203号に基づき制裁を受けたすべての個人およびNGOに対して具体的かつ協調的な支援を提供するために、一致団結して協調的な行動をとるには至っていない。

行動要請
ICCの独立性と不偏性を脅かすあらゆる脅威から同裁判所を守らなければならず、とりわけICC加盟国は団結し、同裁判所を保護するための具体的かつ効果的な措置を講じなければならない。また、ICCに情報を提供し、国際司法制度全体を支える上で極めて重要な役割を果たしている市民社会の組織や国連人権専門家を保護するための措置も講じられなければならない。もし効果的な措置が講じられず、米国がICCの「解体」や機能停止に成功した場合、ジェノサイド、戦争犯罪、その他の国際犯罪に対する不処罰はさらに深刻化し、戦後、平和と安全、そして国際的な法の支配の実現に向けて成し遂げられてきたあらゆる進展が致命的に損なわれることになる。

ヒューマンライツ・ナウは、米国に対し、大統領令第14203号に基づいて課されたすべての制裁を直ちに撤回し、ICCの独立性と不偏性を妨害するあらゆる試みを中止するよう要求する。

我々は、ICC加盟国に対し、以下のことを要請する。

  • 共同声明および個別声明を通じて、ICC職員、国連人権専門家、市民社会の組織に対する米国の制裁を明確かつ公に非難し、その撤回を求めること;共同声明および個別声明を通じて、活動への資金提供継続を含むICCへの支持を再確認すること;
  • 自国の領土内にある制裁対象者および市民社会の組織を、米国制裁の域外適用から保護するための国内および地域レベルのブロック法を採択すること;
  • 銀行やその他のサービス提供者と連携し、米国による制裁措置への過剰な順守を防ぐこと;および
  • 制裁の影響を緩和するため、影響を受ける個人および市民社会の組織に対し、その他必要なあらゆる支援を提供すること。