【イベント報告】12/14 世界人権デーイベント「今、香港で起きていることを語ろう。」

ヒューマンライツ・ナウでは12月14日(土)に、「世界人権デー」(12月10日)を記念して、東京大学阿古智子研究室との共催イベント「今、香港で起きていることを語ろう。」を開催いたしました。

逃亡犯条例反対を契機にはじまった若者を中心とする香港のデモですが、暴力的鎮圧によって多くの若者が拘束され、死傷者も出る事態になっています。この事態について取り扱った今回のイベントは、申込が殺到し当日は立ち見が出るほどの超満員となりました。

イベントの前半は堀潤さん(ジャーナリスト)とキセキミチコさん(写真家)による講演が行われ、後半では、ジャーナリストや日香の若者によるリレートークがなされました。会場内には現場の写真の展示もされており、今香港で起こっていることを目と耳を使って知るイベントとなりました。

堀潤さんとキセキミチコさん
堀潤さんとキセキミチコさん

 

前半の講演でお話しいただいた堀さんとキセキさんは、現地取材をし、写真展や映画製作という形で香港の出来事を伝えておられます。日本の大手メディアは、香港の危険な最前線への取材は行っておらず、こうした個人取材の役割は重要です。

キセキさんは、幼い頃住んでいた香港を撮影するため渡航したところ、デモに直面しました。7月31日、ある男の子が警察に捕まる瞬間に出くわし、腕を掴まれました。おそらく彼は「助けて欲しい」と言ったそうです。その場にいた多くの若者が警棒で殴られ警察車両に連行されました。その時から、撮り続け伝えなければと思ったそうです。

堀さんは世界中で起きている思想、民族、宗教、イデオロギー等の「分断」を取り扱ったドキュメンタリー映画「わたしは分断を許さない」を製作されました。当初、香港は取り扱う予定ではありませんでしたが、逮捕者が続出する事態に「分断」が起きていると感じ、急ぎ現地取材をされたそうです。現場の動きは、「free water(水のように)」と称される通り動きがかなり早く、若者たちとSNSで連絡を取りながら追いかけていくことが精一杯で、現場には取り残され次の場所がわからないメディアも多くいたとのことです。会場ではこの映画の映像についても一部公開され、それを交えて現地の様子が解説されました。

 

「真実を見極めるためには主語を小さくする必要がある」と堀さんは言います。

「誰が分断させたのか」と考えるとき、誰が悪いというのは簡単ですが、実情は何かを倒せば変わるというものではありません。「中国は」「香港は」という大きな主語では何も見えず、「―くんは」「―さんは」と小さな主語で、一期一会で出会い取材を行う重要性を語りました。

日本のメディアでの香港に関する報道では「若者たちが暴徒化している」という大前提で始まることが多いのですが、実際の現場では彼らが催涙弾などの被害に遭い、暴力化した警察から化学物質を含む水を放水車でかけられています。軍が市民を制圧すると、国際世論はそれを非難します。そのため軍の代わりに警察を使い鎮圧をする「警察の軍事化」が世界中で起こっています。香港取材時、警察は市民集会のときにはヤクザ、マフィアの方を警備していました。一体警察とはどういった存在で誰を守り、誰を癒着しているのでしょうか。市民は圧倒的な力の差がある警察に対抗できません。彼らはアメリカや日本の国旗を持ち自由と民主のある国へSOSを出しています。

香港で撮影した写真をSNS上で「#まずは知るだけでいい展」というハッシュタグをつけて発信されているキセキさんは「現場で見たことは、受け入れられないことが多かった。それを、日本のメディアに言っても響かず、知ることもしてくれない現実に対して、とりあえず知ってもらいたいと思った」と語りました。

 

現在香港では、メディアは逮捕された方の名前とIDを聞く慣習があります。これは、逮捕者が行方不明になる事案が多いため、逮捕後に保釈されたかどうかを確かめるためです。死者の数も実際には自殺か他殺か分からず、逮捕時の暴行の有無が隠される状況下で、メディアが記録し証拠とします。現場では「メディアの黄色いベストがあると安心する」と言われます。現在、逮捕者は今年の初めで6000人を越えています。

不当な逮捕を例に挙げると、普段デモに参加している若者が、仕事帰りに道を歩いている際に催涙弾を避けるためにマスクをしていたため、「マスク法」によって逮捕されました。彼は、目にペッパースプレーをかけられ警察車両に入れられ、警官に殴られました。リュックの底にあった小さなカッターナイフを「武器」とみなされ逮捕された若者もいました。洋服に青い水がついていることでデモ参加者とみなされ逮捕された事案もあります。青い水は、放水車から放出される猛毒入りの水で、これをかけられると一晩中皮膚が痛みます。デモ隊に扮した警察が火炎瓶を投げて「暴徒」を自作自演し、何もしていないデモ隊が逮捕されることもあります。権力側の横暴に市民が対抗している現状があるのです。

 

しかしながら市民らの成果が実り、区議会議員選挙では民主派が勝利し、一気にマジョリティとなりました。これは香港の若者たちが身を挺して戦った成果です。そのような中で警官隊たちは、今、政府は警察を守るという体制であってもいつかは警察もきり捨てられるのだ、とデモ隊に言われています。

 

香港で日本は好かれています。日本人も好きで、日本語が話せる人も多く、キセキさん自身も現地で香港の方々に助けられ、かつ「来てくれてありがとう」と伝えられてきたとのことです。

香港で起こっていることは非人道的な人権弾圧であり、これに対して国際社会は声を上げていくべきです。国際社会で、日本だからこそ出来ることがあるのではないでしょうか。

 

講演の最後の方では、犠牲になった若者にむけて、父親が書いた手紙が紹介されました。

雨傘運動の際には、一部の若者による金融街を占拠し経済を停滞させる邪魔な行為という空気が流れていました。そこから5年が経過し、経済安定を重要視する価値観が蔓延していきました。そして、今、このような悲しい出来事が起こっています。堀さんは、これと類似のことは日本でも起こりえるからこそ、香港の実情を知って欲しい、と訴えかけました。

 

質疑応答の中では、

「無関心を嘆く前に何ができると思うか」といった質問が投げかけられました。

堀さんは「ジャーナリストが囲いこむのは良くない。報道マンではなく、普段アーティストなどを撮っている写真家のキセキさんがこうして香港を撮ることはとても訴えるものがある。」と答えました。

キセキさんは「私も香港に行くまで無関心な人だった。わかってほしいとは思わないが、まずは香港で起こっていることを知ってほしい。知った後どうするのかはその人に任せる、それでいいのではないか」と回答しました。

後半に行われたリレートークでは、日本人大学生、ジャーナリスト、日本在住の香港の方など、香港のために活動しておられる10名の方々にお話を伺いました。

健康や環境の見地から催涙弾の危険性について訴える方、日本人として香港の問題に共感し行動する方、ジャーナリストとして日本で行われる香港民主化デモを追っている方など、さまざまな方が登壇されました。

留学や就職で日本に住む香港の方々は口々に「今、香港では沢山の人々が戦っているのに、日本にいることは本当に胸が苦しくなる思いだ」と語りました。

また別の香港の方は、トークの冒頭にて犠牲者の名前と死亡日の一覧を読み上げました。会場はしんと静まり返り、その犠牲の多さ、犠牲者ひとりひとりに人生があったことを思い、改めて今回の人民への弾圧は重大な人権侵害であることを思い知らされました。

雨傘運動の失敗を機に「香港から逃げよう」と思い日本へ来たという方は、「以前の香港は人生の全てを過ごす場所ではなく、お金を稼ぐための場所で人生の乗り換え地点でしかなかったが、今の若者たちにとってはそうではなくなっている。自分も香港を本当の自分のふるさとだと思い、学校が終了したら帰ろうと思う。」と述べ、「自分のふるさとが危機にあるというとき、戦わなくてはいけないというアイデンティティがある。それは、私たちは日本のアニメを見て育ったから。日本のアニメの中にある友情、情熱、希望というものが私たちの心の中に定着しているのだ。」と語っていました。

 

日本人として、同じアジアで起こっているこの人権弾圧と、それに戦う人々のために、私たちは何ができるのでしょうか。まずは知ることを続けていきたい、そう考えさせられたイベントでした。

<イベントの様子はYouTubeからご覧いただけます>

【世界人権デーイベント】今、香港で起きていることを語ろう。
<前編> https://youtu.be/rckxw3oC72M  →堀潤さん、キセキミチコさんのお話
<後編> https://youtu.be/wXqbFEb9T44   →学生やジャーナリストによるリレートーク