【メディア】被災者・避難者対策に国際的人権の視点を(信濃毎日新聞5/23に掲載)

5月23日、信濃毎日新聞にHRN事務局長 伊藤和子の記事が掲載されました。

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提言直言

 

 東日本大震災から二か月余。筆者もここ三週間ほど被災県を訪ねて被災者の方々からお話をお聞きした。避難所格差が進むなか、少なくない被災者の方々が避難所で栄養価の著しく低い冷めた食事をとり、著しく狭い場所にプライバシーもなく寝起きし、疲労とストレスが深刻化している。国は、被災者の方々に、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」(憲法第二十五条)を保証する責任があり、いつまでもこれとかけ離れた状況を放置することは許されない。

 

 最も影響を受けやすい子供、女性、障がい者、外国人、高齢者などの状況も心配である。例えば140余名に及ぶといわれる親を失った子どもたちに、子どもの権利の観点から必要な支援とケアが実現しているのか全く明らかではない。避難所で生活する女性のニーズを考慮すれば、プライバシー保護のための間仕切りや、女性の更衣室・授乳場所の設置、安全なトイレ、入浴施設、選択設備等の設置が当然必要だ。内閣府もこうした設備が必要だとする通知を出しているが、いまだに間仕切りのない避難所も多く、女性たちは言いたいこともいえず沈黙させられているという。

 

 さらに、障がい者の方々からは、「周囲の冷たい視線に耐えられずに避難所を後にした」「迷惑がられるから最初から避難所にはいけない」とのお話を聞いた。福祉専門の避難所が不足し、ライフラインが復旧していない地域で、在宅の障がい者の方々がどんな困難に直面しているだろうか。災害で特に脆弱な立場に置かれるこれらの人々のニーズに配慮した対応をすることは、国際的な被災者保護のガイドラインでも明確に定められているが、現実はそうなっていない。

 

 阪神淡路大震災では、仮設住宅での高齢の被災者の孤独死等の災害関連死があとをたたない等、人権の保障は大きな課題を残した。そうしたことを二度と繰り返さないよう、救助・復旧・復興のプロセスにあらためて人権を位置づける必要がある。復興計画立案には最も被害に苦しむ人々、声を上げにくい人々の声を聴く参加のプロセスを十分に保障すべきだ。

 

伊藤和子