【国際人権先例・CERD】2006/No.36 デンマーク

P.S.N.  v.  Denmark

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

10/02/2006

08/08/2007

08/08/2007

No.36/2006

全文

http://daccessdds.un.org/doc/UNDOC/DER/G07/435/21/PDF/G0743521.pdf?OpenElement

手続上の論点 

国内的な救済措置を尽くしたか(14条7項(a)) 申立の受理・検討(144項)

実体上の論点

締約国の差別撤廃義務(21(d))、人種差別と扇動の禁止(4条)、人種差別に対する救済(6条)

 デンマーク人民党所属の国会議員であるFrevert氏は選挙に向けたウェブサイトならびに著作、その後のインタビューにおいて、移民ならびにイスラム教徒を攻撃する以下のような発言を続けた。

 彼らは「デンマークの少女をレイプする権利があると信じている」、「(強制退去させても)再び戻ってきた時にはデンマーク人を殺すだろう」、「我々の文化と政治システムが聖職者の規則に負けてしまった」、「コーランは、男性は女性に対して思うがままに振舞えると述べている」等。

 通報者はデンマーク国籍を有するパキスタン生まれのイスラム教徒であるが、これらの発言に対して人種差別記録助言センター(以下DACoRD)が通報者を代理し、デンマーク刑法266条(人種差別の禁止)違反を申し立てた。しかしコペンハーゲン警察は違法な行為を裏付ける合理的証拠がないことを理由にこの訴えを退け、地方検察官も訴追しないことを決定した(この決定は上告できない)。著作に関連した訴えも、本は政治的議論を目的に出版されており、刑法に抵触するような違法行為を裏付ける合理的証拠はないとして警察長官により却下された(上訴なされず)。インタビューに関しては、地方検察によりイスラム教徒や移民たちを侮辱しおとしめたとまでは言えないと判断され訴追されなかった(終局的であり上訴不可)。

 申立事実について捜査を開始しないとした警察の決定は、条約21(d)4条、6条に違反する。また申立を却下するとした決定は、当局が資料を詳しく検討せず主張を考慮しなかったとして条約6条に違反する。また民事責任についても、99年の高裁判例により人種差別事件それ自体では責任(人の名誉・名声の侵害)を問えないとされており、国内ではこれ以上の救済は得られない。

当事国の主張

) 許容性について

     通報者の主張は条約の範囲に当たらず、またprima facie case(一応の証明がある事件)を示していない。

     発言は特定の宗教への認識に関するものであり、条約第1条の趣意である「人種、皮膚の意図、世系又は民族的若しくは種族的出身」に関するものでない。

     特に著作での発言に関して、通報者はすべての利用可能な国内的救済を尽くしていない。

) 本案について

     申立事実に対する当局の対応は、条約および司法運営法が要求するところを十分に満たす。

     人種差別の行為に関する申立がなされた際には、当局には相当の注意と迅速さを持って調査を開始する義務があるが、警察は各発言に関して入念な調査を行っている。

     著作につきDACoRDは、どの発言が問題となるかを、通報の中で明らかにしていない。

     検察は問題の発言を、そのなされた文脈、表現の自由、宗教の自由、人種差別に対する保護などの観点から判断しており、条約21(d)6条が求める基準を十分に満たしている。

委員会の見解

条約第141項の下、事項的管轄権がなく、本案は非許容(不受理)とする。

     問題の発言は特定の「人種、皮膚の色、世系又は民族的若しくは種族的出身」の人々でなく、特定の宗教もしくは宗教集団に向けられており、したがって通報は条約の射程外である。

     発言が特にコーランやイスラム教徒に言及していることを認めるが、締約国内に居住するイスラム教徒であっても実際は異なる民族・種族の出身であり、よって特定の民族的・種族的集団それ自体が標的にされたわけではない。

     委員会は、宗教ならびに民族的・種族的など条約第1条に規定された事由に基づく「二重の」差別を考慮する権限を持つが、条約はその射程に宗教のみに基づく差別を入れていない。起草過程からも条約は、もっぱら人種差別のみを扱うことを意図している。

     外国人に対して一般的に言及することは、人の集団を選び出しているとはいえない(先例同旨)。同様に、イスラム教徒に対する一般的言及もそれにより特定の集団を選び出すことにはならない。

     非許容により通報の内容を審議する権限はないが、以下の指摘をおこなっておく。

(1)   2001911日以降、アラブ系・イスラム教徒への嫌がらせに関する通報が急増していること

(2)   人種に動機付けられた犯罪数の増加

(3)   政治家によるものを含めて、ヘイトスピーチへの申立数の増加

  締約国はフォローアップの中で、上記懸念についての関連情報を提供することが奨励される。