【国際人権先例・CERD】2004/No.34 デンマーク

Mohammed Hassan Gelle  v Denmark

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

17/05/2004

06/03/2006

15/03/2006

No. 34/2004

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/6715d3bdbeff3c0dc125714d004f62e0?Opendocument

手続上の論点 

一応の証明(142 )、国内的救済措置を尽くしていないこと(142)

実体上の論点

締結国の差別撤廃義務(2条1項(d) )、人種的優越性基づく思想の流布、人種差別の扇動等の禁止(4)、人種差別に対する救済の確保(6)

通報者の主張

 通報者は、デンマーク人民党党首が新聞紙上に発表した司法大臣を批判する声明文中に、ソマリア出身者を幼児愛嗜好者やレイプ犯とみなす引用があるとして、人種差別に関係する協会に訴えた。2003年1月、同協会は、請願者に替わってコペンハーゲン警察に対し刑法266(b)違反を申し立てたが、コペンハーゲン警察は、「同党首の言論の目的は、司法大臣に対する批判を目的としているから、訴追が必要な犯罪とは言えない」として捜査不開始の決定を通知した。そこで同協会はコペンハーゲン警察の決定を地方検察官に訴えたが、地方検察官はコペンハーゲン警察の見解を支持した。以上の経過を経て、通報者は国内的救済措置を尽くされたとして委員会に通報した。通報者の主張は以下のとおり。

       地方検察官の議会のメンバーは政治的論争において広範な表現の自由を享受しているとの議論があるが、状況を悪化させる扇動的な攻撃に対しては、1995年の刑法典266条(b)第2項の修正によって、検察官は権限を行使できる。

       デンマーク政府は委員会に対し、体系的で広範な声明の発表に対しては、266条(b)

(2)の適用を受けることを認めている。

       同党首は他にも差別発言をしている。

       事件を十分調査することと、条約第2条第1項(d)、同第4条そして同第6条の侵害に対する救済としての補償を要求する。

       同党首に対する訴訟は、刑事告訴が拒否されている点や、デンマーク東部高等裁判所の判決の観点からすると実効的ではないから、国内的救済措置は尽くされている。

 ⑥ 同党首の主張はデンマークに居住するソマリア出身者を攻撃する人種差別的なものであることは疎明できている。

当事国の主張

1) 受理可能性について

 ① 問題となっている声明は人種差別的なものではない(疎明に関する主張)。

      デンマーク憲法第63条に基づいて、通報者は、行政機関の決定を、裁判所において争うことができたし、また通報者が、上記発言によって直接攻撃されたと思っているのであれば、刑法267条第1項(7)に基づき刑事手続を行うこともできた。従って、本件通報者は国内的救済を尽くしていない。

2) 本案について

① 上記声明は人種差別的な要素を含んでいないから、議会のメンバーがより広い言論の自由を享受しているか否かは問題とはならない。

② 刑法266bは人種差別を犯罪化するという条約の要求を満たしているし、デンマークの法律は人種差別行為に対する十分な救済措置を与えている。

委員会の見解

1) 受理可能性について

 問題となった声明は条約第21(d)4条、6条に関係すると言えるから、通報者は受理可能性に関する疎明をしている。国内的救済が尽くされていないとの点に関しては、地方検察官の決定は最終的なもので検察長官や司法省に対し訴えることができないと告げている点、控訴時効の観点からしてデンマーク憲法に基づく手続は実効的救済を与えない点、通報者の目的からしてTorts Act法第26条による救済が尽くされていることは必要ではない点からして問題ない。

 従って、本件は受理可能である。

2) 本案について

 この事件に関し、警察や地方検察官が刑法266条の適用を最初から排除したが、政治的論争の中での声明であるとの事実は、その発言が人種差別的であるか否かに関する調査を行う国家の義務を免除しない。国家が、人種差別の有無に関する十分な調査を怠ったという点からして、第2条第1項(d)と第4条の侵害が認められる。また、刑法266(b)に基づき通報者の告訴を十分に調査しなかった点は、第6条に基づく通報者の権利を侵害する。

 デンマークは、通報者に対し、条約の侵害によって生じた精神的苦痛に対する十分な措置を認めるべきことを勧告する。国家は、6 ヶ月以内に委員会の意見を実効的なものとするために採択した手段につき報告を望む。