【国際人権先例・CERD】2003/No.31 スロバキア

L. R. et al.  v. Slovak Republic

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

05/08/2003

07/03/2005

10/03/2005

No.31/2003

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/3764f57be14718c6c1256fc400579258?Opendocument

手続上の論点 

国内的救済措置を尽くしていないこと(142項) 

実体上の論点

締約国の差別撤廃義務(2条1項(a)(c)(d))、人種的優越性に基づく差別の禁止(4(a))、住居についての権利(5(e)())、人種差別に対する救済(6条)

通報者の主張

 20023月、締約国内の自治体Dobšináの議会は、劣悪な住環境で暮らしていたロマ住民のために低価格住宅を建設する決議を採択した(決議1)。しかし建設によって周辺から大量のロマが流入するとして、Dobšiná住民の一部が決議に反対する請願を提出したところ、議会は請願に明示に言及しながら決議1を取消す決議(決議2)を採択した。そこでロマ民族たる通報者らは検察に対し、差別的請願を行った者を捜査・訴追し決議2の採択を取消すよう求めたが、検察は当該決議が行政行為に当たらず権限が及ばないとして応じなかった。

 同年9月、通報者らは憲法裁判所に提訴し①請願や決議2にはスロバキア憲法・請願権法、「国内的少数者の保護に対する枠組条約」(欧州評議会)の違反があると裁定すること、②決議2を取消すこと、③住民による請願の合法性を審査することを求めたが、いずれも認められなかった。通報者らは、上訴の道が閉ざされかつ国際的な調査裁定手続も得られないことを前提に、委員会に以下を主張する。

①議会が請願を支持して住宅建設を取りやめたことにより人種差別行為に関与したとして21(a)違反、

②検察、裁判所が差別的な請願に基づく決議2を取消す適当な方策を取らなかったことで21(c)違反、

③検察が差別的請願を行った者を調査訴追しなかったことで21(c)ならびに4(a)違反

④住居に対する権利を保護しなかったことに加え、救済策なしに決議1を取消したことで5(e)()違反、

⑤請願の立案者ならびに決議2による人種差別行為に対して効果的な救済を行わなかったことで6条違反。

当事国の主張

 以下の点で通報者らは国内での救済措置を尽くしていないため、通報の受理可能性に異議を唱える。

①訴追に関する国内法に規定される、検察決定への異議申立制度を利用していない。

②憲法等に抵触し侵害されたとする基本的な権利・自由が特定されていない。

③裁判所が申立を却下したのは通報者の手続的な誤りの結果であり、したがって新たに実体的な訴を起こす道が残されている。

④締約国において国際的な文書は直接適用が可能であり、かつその違反には救済が認められるのに、裁判の場で条約違反が主張されていない。さらに住宅建設は未だ計画準備段階で、またロマ住民が住むための物とはされておらず、決議1に対する事実誤認がある。決議1は住居に関する直接的・執行可能な権利を付与するものでない。

 

委員会の見解

決議2はロマに言及していない点で一見して人種差別とならないが、条約第1条における人種差別の定義は明白な差別にとどまらず、表面上は異なっても事実上およびその効果において差別的である間接差別をも含むとする。間接差別に当たるかは状況に応じて判断されるが、本件においては請願が民族を基礎としてなされたことは明白であり、結果として決議2は民族に基づく区別・排除・制約を作り上げたことになる。また委員会は住居に対する権利を含む多くの経済的・社会的・文化的権利の実現にとって、締約国の権限ある機関による一連の行政措置・政策策定措置が不可欠であるとする。住居に対する権利の実現に向けた重要な政策的・実際的措置である決議1が、より弱い措置である無効・取消しとなったことは、5(e)や社会権規約11条にある住居に対する権利の平等な享有・行使を害する。

本件のような法的性格を持つ決議の採択を含め自治体議会の行為は、事実上、条約の規定にいう公の機関の行為と考えられるので(Koptova v. Slovak Republic)、決議2を採択した行為は締約国に帰し、よって人種差別の行為に従事しないこと並びにすべての公の機関がこの義務に従うことを確保する義務を定める第21(a)違反と認定する。

また、住居に対する権利の享有においてすべての者が平等に扱う義務を定めた第5(e)()にも違反する。

6条に関しては、同条の義務とは、最低限、国内裁判所または本件のごとく委員会の場で人種差別行為の存在が明らかになった事案に対して救済措置を講じる法システムを設けることであるが、委員会により人種差別行為の存在が明らかになった以上、国内裁判所が効果的救済を付与しなかったことは必然的に第6条違反となる。

 締約国には、通報者らを自治体議会による決議1採択時と同じ立場に戻すことを確保するための方策をとり、また将来同様の侵害が起こらないよう確保する義務がある。