【国際人権先例・CAT】2006/No.300 フランス

Adel Tebourski v France

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

23/07/2006

01/05/2007

11/05/2007

No.300/2006

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/eda5156239ad80afc125730500488602?Opendocument

手続上の論点 

 

実体上の論点

拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条)、審理中の通報者の送還を禁止した規則108の法的拘束力

通報者の主張

 通報者はチュニジア国籍。1985年、勉学のためベルギーへ渡航。その後1995年にフランス人と結婚し、2000年にフランス国籍を取得した。200111月、アフガニスタンの北部同盟リーダーAhmed Shah Massoud暗殺事件に関与した疑いで逮捕され、パリ刑事裁判所で懲役6年の実刑判決を受けると共に、市民権を5年間剥奪された。

 服役中の2006719日、通報者はフランス国籍を剥奪され、同時に国外退去を命じられた。そして同月22日、通報者は釈放と同時に収容施設へ送られた。通報者は直ちに保護を申請し、緊急手続きによって審査されたが、申請は却下された。通報者は直ちに控訴したものの、控訴に執行停止の効力はなかった。通報者はパリ行政裁判所にも送還の執行停止や、チュニジアを送還先とする決定の無効確認を求めたが、いずれも却下され、200687日、チュニジアへの送還が実行された。

 通報者は上記手続きと平行して委員会に本件を通報し、委員会は726日と28日の2回に亘り、通報者を送還しないようフランス政府に要請していたが、これらの委員会の要請は無視された。

 通報者は、1)フランスで刑を終えた事件について再度有罪判決を受けるおそれがあり、チュニジアの刑務所環境は極めて劣悪であること、2)チュニジア政府はテロ関係の犯罪に特に厳しく望み、実際に第三国から送還された直後に酷い拷問を受けたケースがあることから、チュニジアへの送還は第3条に違反することを主張している。

 なお、送還以降、通報者は常に当局の監視下にあり、チュニジア国民としての身分証明書もまだ発行されていない。確かにまだ逮捕はされていないが、警察に勤める知人によれば、本件にメディアの関心がある間は通報者を逮捕しない方針を採っているとのことであり、これだけ注目を集めた事件をチュニジア政府が放置しておくはずはなく、通報者がいずれ逮捕される危険性は極めて高い。

当事国の主張

1) 許容性について

 通報者は、中間裁判への控訴をしていないし、またパリ行政裁判所の判断に対する控訴審は未だ継続中である。従って、国内的救済措置を尽くしていない。

2) 本案について

・ 通報者は、チュニジアにおける拷問等の危険について何ら具体的証拠を示していない。

・ フランスで有罪となった事実について再度チュニジアで手続きが取られること自体は、死刑判決を受ける危険がない以上、非人道的又は品位を傷つける行為には当たらない。

・ 通報者は国家転覆活動に従事した危険人物であり、国家安全保障の観点から、このような人物を直ちにフランス国内から追放する必要がある。この点、規則108に法的拘束力はないが、フランス政府として、審議中の送還を禁止する委員会の要求を尊重する意思はある。しかしながら、申立が明らかに不当で、通報者が本国で不適当な扱いを受ける恐れのない本件については、国家の安全保障とのバランス上、国家には自国の安全と秩序を脅かす外国人を取り除く責任がある。なお、フランス政府は現在、外交ルートを通じてチュニジア政府と接触し、帰国後の通報者の状況に関する情報収集を行っており、その結果は委員会にも報告する予定である。

委員会の見解

1) 許容性について

 確かに通報者はパリ行政裁判所の判断に控訴できたが、しかしながら、本国送還後に、仮に裁判官が通報者の申立てを認めて決定を覆したとしても、既に回復できない被害が発生している以上、委員会としては、そのような救済措置は意味をなさないと考える。どんなに有効な手続きであっても、執行の最終決定がなされる前に、通報者にそれらの手段を尽くす合理的な時間が与えられなければ意味がない。本件では、通報者は執行の決定後僅か3週間で送還されてしまった。従って、通報者は既に国内的救済措置を尽くしている。

2)本案について

・ フランス政府の行為が3条に違反するか否かを判断するに当たり、委員会は、当該判断は、あくまで、当事国政府が強制送還の際に有していた情報、及び、有しているべきだった情報に照らして決定しなければならないことを強調する。その後の出来事は、それらの情報を評価する際の参考となるに過ぎない。

・ フランス政府が委員会の要請に反して通報者を送還した点については、1)通報者が国内の公共の秩序にとって危険であること、2)チュニジアに戻った場合に拷問を受ける危険がないこと、3)通報者が他のホスト国を指定しなかったこと、4)規則108に法的拘束力がないこと、以上の4点を検討しなければならない。

  この点、第3条の趣旨は、送還等によって当該個人が拷問の危険にさらされないようにすることであり、その際、その個人の特性、特に社会にとって危険な人物であるか否かを問うべきではない。換言すれば、第3条は22条の受諾を宣言した国家の領土内にいる人物に「絶対的保護」を与えるものであり、一旦当該人物が第3条に規定されている条件下で拷問等を受ける危険にさらされている以上、当事国が、国内の懸念を持ち出して第3条に違反することは許されない。

・ 第22条の受諾は、上記危険が深刻であるか否かを判断する権限を委員会に託すものであり、当事国の事実や証拠に関する評価は考慮されるとしても、拷問の危険の有無の最終的な決定は委員会が行う。

・ 通報者の意思に反してチュニジアを送還先にした点についても、フランス政府は既に国際的に運用されているルールを無視している。即ち、フランス政府はUNHCRや受け入れを希望する第三国と協働して他の解決手段を検討すべきであった。

・ 18条によって委員会は独自のルールを作成する権限を与えられているところ、規則108は、第3条や第22条の趣旨を実効化するために特別に設けられたものであり、それがなければ、通報者たちの保護は弱められてしまう。

 以上により、通報者をチュニジアへ送還したことは3条及び22条に違反する。