【国際人権先例・CAT】2006/No.288 ノルウェー

H.S.T.v Norway

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

9/01/2006

16/11/2006

01/12/2006

No.288/2006

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/846789a16234875ec125725f0054b118?Opendocument

手続上の論点 

一応の証明(22条2項) 

実体上の論点

通報者の主張

 通報者はモーリタニア出身。モーリタニアの人権侵害について国際機関や海外のメディアに告発する活動を行っている、非合法組織「Force de Liberation des Africains de Mauritanie(FLAM)」のメンバーとして活動していた。 通報者は、1995年の学生デモの後逮捕され、3日間勾留された。更に1996年には、農地改革に反対していた父親の関係で逮捕され14日間勾留された。その後1996年から通報者はヨルダンに留学したが、2001年にモーリタニアに帰国するとすぐに逮捕され、FLAMにおける役割や、FLAMでの活動を理由にスウェーデンで一時保護を得た兄のこと等について拷問を受けた。通報者は2日後に釈放されたが、警察から逮捕状が出ていることが分かったため、2001年12月にモーリタニアを出国し、翌年2月ノルウェーに到着した。通報者は一時保護を申請したが却下され、異議申し立ても却下された後、退去命令を受けた。 そこで通報者は、裁判所に退去命令の差し止めを求めたが、第1審、第2審共に差し止めは認められなかった。なお通報者は、本案に関して司法手続きを採る余裕はないとして、本案に関する提訴はしていない。 

当事国の主張

 ノルウェーでは、一時保護申請に対してまず行政機関が2段階で審査するが、全ての申請者には国家の費用で代理人が付けられる。さらに、行政機関の判断に不服がある者は司法の判断を求めることができる。なおノルウェーの法律では、差し止め請求は、a)本案について提訴した場合、裁判所が行政機関の判断を覆す可能性が高いこと、b) 司法判断を経ることなく命令が実行されれば深刻な損害が発生するため差し止めの必要性が高いこと、以上の2つの要件を満たす場合に認められる。 本件については、ノルウェーの行政機関は、通報者に対する事情聴取や、通報者が提出した全ての書類を審査したが、通報者の主張は、FLAMとの関わりやモーリタニア政府当局との関係について曖昧かつ不正確であり、例えば逮捕状が出ているという点についても具体的な証拠は示してない。またそもそも、FLAMの本部はセネガルにあり、モーリタニア国内ではそれ程の活動をしておらず、メンバーが訴追されたとの報告もない。 また通報者は強制退去命令の差し止め請求はしているが、本案については提訴していない。差し止め請求については、第一審裁判所は、通報者本人はもちろん通報者の兄を含む5名の証人を取り調べ、さらにモーリタニア情勢に詳しい専門家や行政機関の担当者からも事情を聴取した上で請求を却下し、控訴審でもこの結論が維持された。なお、通報者は全ての過程で代理人が付いていたが、控訴審の結論に対して上告しなかった。 従って、通報者の主張が根拠を欠いていることは明らかであり、許容性を有しない。

委員会の決定

 通報者の代理人による2006年7月6日付報告によると、通報者は現在ノルウェーを出国し、フランスに滞在している可能性が高いとのことである。この点、規約第3条は、締結国に拷問等を受ける可能性のある国への送還を禁止しているが、通報者が当事国の管轄下にいない以上、当事国は通報者をモーリタニアに送還することはできず、従って本事案において第3条は当事国に適用されない。 従って、通報者の主張が明らかに根拠を欠いているか否かの判断をするまでもなく、本通報は非許容とする。