M. R. A. v Sweden |
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通報日 |
見解採択日 |
文書発行日 |
通報番号 |
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No. 286/2006 |
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全文 |
http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/a0d606c4028b87dbc125723600500ed7?Opendocument |
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手続上の論点 |
一応の証明(22条2項) |
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実体上の論点 |
拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条) |
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通報者の主張 |
通報者はシーア派のイラク人であるが、家族が政治活動をしていたことを理由に1995年にイラクを出国してレバノンに入国した。レバノンではUNHCRによって難民と認定されたが、難民としての生活が困難だったことから、1997年に他のイラク人と共にボートで出国したところ、イスラエル政府に捕らえられ、イスラエルで一時避難(asylum)を申請した。その後、スウェーデンに入国して滞在していたところ、麻薬取引で逮捕され、国外退去を命じられた。通報者は、決定の撤回を求めて関係機関に訴えたが却下された。そこで、通報者は国内的救済措置を尽くしたとして委員会に通報した。通報者の主張は以下のとおり。 1) 通報者がイスラエルで一時避難を申請したことについて、通報者の前妻等がメディアに話した結果、噂がイラク中に広まり、通報者は、ユダヤ教への改宗を理由に告訴された。イスラムの法的決定(fatwa)では、ユダヤ人に協力した者や、イスラム教を棄教した者は誰でも殺して良いとされていることから、通報者が帰国すれば、その命は極めて危険な状況に置かれる。 2) イラク国内は引き続き混乱しており、当局からの保護を受けることは不可能である。 3) 以上の状況に鑑みると、通報者をイラクへの送還することは、その生命を危険にさらし、拷問その他の非人道的扱いを被る恐れが強く、第3条に違反する。 |
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当事国の主張 |
1) 許容性について イラクへ送還された場合第3条違反に当る扱いを受けるとの主張について、通報者は「一応の証明」をしていない。 2)本案について ① 拷問を受ける危険があると言うためには、単にその国に「重大かつ大規模な人権侵害」があるというだけでは不十分であり、その人物が個人的に被害に遭う危険を負っているという「付加要素」が必要である(E.J.V.M v Sweden)。 ② イラクは依然として政情不安定で、宗派間の対立が激化している地域もあるが、北部地域は比較的安定し、特に選挙実施後は、いくつかの国際人権条約も批准する等、その政治状況には改善が見られる。従って、人道的理由から滞在許可を与えるほど深刻な状況にはない。 ② 個人的リスクについては、委員会の判例によれば、当該国内で拷問を受けるという、「予測可能で、現実的、かつ個人的」なリスクを越え、更に、通報者の側で、そのリスクが「疑わしい」というレベルを超えていることを示さなければならないが、イスラエルにおける10年以上前の出来事が、通報者にそのようなリスクを引き起こすとは到底考えられない。 ③ 委員会の見解どおり、供述が一貫性を欠いていることを以ってその信用性を否定してはならないとしても、通報者の主張は多くの点で相互に矛盾し、情報が不足しているばかりか、1997年の出来事や、彼がイラクで広く知られており、fatwaが彼に対して発せられたという点について、具体的証拠を示していない。 ④ 通報者は、逮捕まで9ヶ月しかスウェーデンに滞在しておらず、スウェーデン社会との繋がりが弱いばかりか、母親との通話記録によれば、スウェーデンには、「ビジネスのため」に滞在しているにすぎないと発言している。 |
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委員会の見解 |
1) 許容性について 通報者の主張は十分に具体性を有しており、本通報は許容される。 2) 本案について 「イラクに戻った場合拷問を受ける危険がある。」との通報者の主張を信じるに足るだけの実質的理由があるかという点については、単に当該国内で「重大かつ大規模な人権侵害」が行われているだけでは不十分で、それに加えて、当該人物が個人的に危険に直面している状況が必要である。更に、委員会が第3条に関する一般的見解で示しているとおり、「危険は、highly probableとまではいえなくても、単なるtheory or suspicionを越えて立証されなければならない」。この基準に照らすとき、通報者は、1997年の出来事や、彼がイラクの一般市民や宗教者の間で広く知られた人物であるという点に関して何ら具体的証拠を示していない。更に、通報者は実際には改宗していないし、また、誰が彼を改宗の罪で告訴したのかを含め、彼がイラクで告訴されたと信じる根拠も示していない。 以上により、通報者は、拷問等を受ける現実的、具体的かつ個人的なリスクについて、実質的根拠を示したとは言えず、通報者の送還は、規約第3条違反には当たらない。 |
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