【国際人権先例・CAT】2005/No.281 アゼルバイジャン

Mr.Elif Pelit v Azerbaijan

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

21/09/2005

01/05/2007

29/05/2007

No.281/2005

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/666c17d6bba49ea9c12572ed004be7ee?Opendocument

手続上の論点 

一応の証明(222項)

実体上の論点

個人通報制度の受け入れに伴う加盟国の義務(22条)、拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条)

通報者の主張

 通報者は、1993年から1996年まで、クルド共産党における”破壊工作とテロリズム”に関与した罪によりトルコで勾留され、その間拷問を受けた。その後証拠不十分で無罪となった通報者は、1998年、ドイツに逃れ、ドイツ政府によって難民として認定された。

  2002年、通報者はクルド人を支持する報道機関で記者として働き始め、20032月、取材のためイラクを訪問した。そこで、通報者は、クルド共産党の記者会見を取材し、その内容はアルジャジーラで放送された。2004年、Mosulにある上記報道機関の事務所が、正体不明の武装グループに襲撃され、通報者の旅行関係の書類が持ち去れた。200411月、ドイツ大使館に書類を再発行してもらうためアゼルバイジャンに入国した通報者は、不法入国の罪で逮捕された。

 2004123日、アゼルバイジャンの裁判所は、破壊工作に関与した罪で、通報者欠席のまま、懲役10年の判決を言渡した。同6日には国外退去が命じられ、200562日、トルコへの送還が決定されたが、この決定は92日には控訴審で認容され、いつでも送還が可能となった。なお、通報者は最高裁に上告したが、上告には執行停止の効力がない。

 確かにトルコの人権状況に全体としてみれば改善は見られるかもしれないが、最近になっても、通報者のようにクルド共産党に関ったとされる人物が拷問を受けたという報告がなされている。従って、通報者がトルコに送還されれば、拷問等の非人道的扱いを受けると信じるに足る十分な根拠があるから、送還は第3条に違反する。

 ※なお通報者は、弁護士に対する事前告知もないまま、通報後の20061017日にトルコに強制送還され、トルコ国内の刑務所に勾留された。

当事国の主張

1) 許容性について

・拷問等の非人道的扱いを受けるというリスクについて十分な立証をしていない。

・トルコ政府は2003年にクルド共産党に対する迫害停止を視野に入れた立法措置を講じていることから、トルコへの送還によって通報者が拷問等の被害に遭うとは想定できない。

・委員会の見解では、拷問等を受ける危険があるというためには、「予測可能で、現実的、かつ個人的」なリスクの存在を示すことが必要であり、更に、通報者の側で、そのリスクが単に「疑わしい」というレベルを超えていることを示さなければならない。しかし、本件通報者は、そのリスクについて、「very probably」だとしか示さず、また、1993年から1996年の間に受けた拷問についても、具体的な証拠を提出していない。

・ 当事国政府は、通報者がトルコに帰国しても、送還の理由となった犯罪以外の罪で通報者を訴追しないという外交的保証を得ている。

2) 本案について

・ 通報者を難民と認定したドイツの判例はアゼルバイジャンでは何ら効力を有しない。確かに、UNHCRは難民条約の加盟国に対し、他の加盟国が決定した難民としての地位は他国によっても承認されなければならないとしているが、これはあくまで「推奨」であって、拘束力を有するものではない。

 送還の原因となった犯罪は、何ら政治的な性質を有するものではない。

 国連安保理決議137328/09.2001)によれば、テロ行為への資金援助、計画、支援、遂行を行った個人に保護を与えることが禁止されている。また、UNHCRの見解(No.17)も、ハイジャック等の深刻な犯罪を国家が処罰する必要性を尊重しているが、深刻な犯罪の列挙に際して“such as “という言葉を使っていることから、当該犯罪は列挙されている犯罪に限定されない。アゼルバイジャンの裁判所は、通報者が、難民条約第1F(b)が規定する「重大な犯罪」を行ったという結論に達したのであり、従って、ノン・ルフルマンの原則は適用されない。

・ トルコの人権状況は改善されているし、当事国政府は、トルコ政府から通報者に対し拷問や他の非人道的行為をしないことについて明確な保証を得ている。

 現在、通報者はトルコの刑務所で勾留されているが、アゼルバイジャンの大使館員が定期的に面会し、適切な取扱いがなされていることを確認している。

委員会の見解

1) 許容性について

 通報者は1993年から1996年までクルド共産党との関りを理由に拷問され、今回もまた同じ理由からトルコへの送還が決定された。ドイツで難民として認定されたのも、同じ理由からである。また、通報者は、トルコの状況が全体として改善されているとしても、依然として拷問を受けている個人がいると主張している。よって、本件については、拷問を受ける危険性についての一応の証明がなされており、受理可能と判断する。

2) 本案について

まず委員会は、通報者が委員会の規則108(9)に従って勧告したにも関らず、通報者がトルコに送還されたことを指摘すると共に、当事国が今後このような行動を採らないよう勧告する。本条約に加盟し、自発的に22条に基づく委員会の審査を受け入れた加盟国は、個人通報制度の効果的な運用のために委員会に協力すべきところ、委員会の勧告にも関らず通報者を送還した当事国の対応は、22条が保証する通報権の行使を無力化し、委員会の決定を無意味なものにする行為である。従って、通報者を追放した行為は、22条に違反する。

通報者のドイツにおける難民としての地位は、通報者がトルコに送還された時点でも有効であった。この点、UNHCRが、「難民条約の加盟国が決定した難民としての地位は他国によっても承認されなければならない」という原則を示しているところ、本件通報者のケースでは、3条に関する具体的な問題が提起されているにも関らず、をなぜこの原則が適用されなかったのかという点について、当事国は説明していない。

・ 当事国は、送還後も通報者の様子をモニターしていると主張するが、委員会の独自評価の履行を確約せず、また、行っているモニタリングが、客観的かつ公平で信頼できるものかという点についても具体的に示していない。従って、特に、当事国が当初委員会の勧告に同意しながら通報者を送還した事実に鑑みると、本件通報者に対する当事国の扱いは、第3条に違反する。

以上により、通報者のトルコへの送還は第3条及び第22条に違反しており、委員会は当事国政府に対し、90日以内に、本件見解に対して当事国が取った措置を報告することを求める。