【国際人権先例・CAT】2005/No.280 スイス

Gamal El Rgeig v. Switerland

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

15/09/2005

15/11/2006

22/01/2007

No.280/2005

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/52f22eb45e81fe30c125725f00538a23?Opendocument

手続上の論点 

実体上の論点

拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条)

通報者の主張

・ 通報者は1969年生まれのリビア人である。1989年に「政治活動」を理由に逮捕され、起訴も公判もないまま6年間勾留された後、1995年に釈放された。通報者は勾留中、度々不当な扱いを受けたり拷問されたりした。通報者は、釈放後も治安部隊から嫌がらせを受け、頻繁に治安部隊の事務所に呼び出されては脅されたり拷問を受けたりした。2000年には家宅捜索を受けパソコンを押収された。通報者はその後何回も逮捕されたが、2002年に最後に逮捕された際には、それまでになく酷い拷問を受けた。
・ 2003年5月、通報者と同時期に勾留されていた友人が再逮捕されたことから、国外へ脱出することを決意しエジプトへ逃れた。そこで通報者は、知人を通じてイタリアのビザを取得し、イタリアを経由してスイスに入国して、一時保護を申請した。
・ 通報者は、スイス入国後も政治活動を継続しており、リビア当局はこのような活動を監視している。申請後受け取った家族からの手紙によれば、治安部隊は通報者を探しており、家族は脅したりした結果、家族は引越しを余儀なくされたとのことであった。
・ しかしながらスイス当局は、通報者が未決のまま6年間勾留されていた事実を認めながら、一時保護の申請を却下し、国外退去を命じた。そこで通報者は異議を申立てたが、主張が首尾一貫せず信用できないとして棄却された。
・ なお通報者は最初のインタビューで、リビアで仕事がなかったから国を出たとの発言をしているが、当時通報者は具合が悪く考えを明確に述べることができなかった。また、何が行われているのか、どのように答えるべきかについても適切に理解していなかった。
・ 通報者は6年間の勾留で精神的に相当なダメージを受けており、拷問による後遺症の権威である精神科医が、通報者には拷問による身体的・精神的後遺症が見られると診断している。
・ 最近、様々な国際団体等がリビア国内での勾留や拷問の実態を告発しているが、スイス当局はこれらを全く調べていない。
・ 以上の理由により、仮に通報者がリビアに送還されれば、拷問をされると信じるに足る実質的理由があり、従って、通報者の送還は規約3条に違反している。

当事国の主張

1. 許容性について
 本件の許容性については争わない。
2. 本案について
・ 拷問の危険があると言うためには、単にその国に「重大かつ大規模な人権侵害」があるというだけでは不十分であり、その人物が個人的に被害に遭う危険を負っているという「付加要素」が必要である。そしてその程度は、単に「疑わしい」というレベルを越え、「予測可能で、現実的、かつ個人的」な危険でなければならない。
・ 通報者の2003年の国外脱出は、1995年までの勾留と時間的関連性がない。そもそも通報者は当初のインタビューにおいて、「釈放後何ら問題なく生活しており、リビアを出たのは仕事がなかったから」と話していた。
・ 現在のリビアにおける反体制派の状況は、一般的に「拷問を受ける危険がある」と判断すべき状況にない。
・ 通報者は、釈放から8年間リビア国内の留まっていたのみならず、1998年8月には何の困難もなくパスポートを取得し、本来は禁止されていたにも関らず2001年にエジプトに旅行して何の問題もなく国内に戻っている。
 従って通報者の主張は根拠がない。

委員会の見解

1. 許容性について
 本件は他の機関に係属しておらず、また当事国が許容性について争っていないことから、受理可能である。
2. 本案について
・ 委員会は決定に当たり、当該国における人権侵害の状況等あらゆる要素を考慮しなければならないが、その目的は、通報者が送還された場合拷問を受ける個人的な危険があるか否かを決定するためである。そして、通報者が送還された場合に拷問等を受ける危険があると言うためには、単に当該国内で「重大かつ大規模な人権侵害」が行われているだけでは不十分で、当該人物が個人的に危険に直面しているという付加要素が必要であるが、換言すれば、「重大かつ大規模な人権侵害」が当該国内で行われていないとしても、個々人の状況によっては、拷問等を受ける危険があると判断することも可能である。
・ 委員会が第3条に関する一般的見解で示しているとおり、その危険は、「highly probable」とまではいえなくても、単なる「theory or suspicion」を越えていることが必要であり、またその危険は「個人的」でかつ「現在」のものでなくてはならない。
・ 通報者は、彼がヨーロッパ内のリビア難民団体を支援していたことの証明書を提出しており、また、リビアを発つ前の政治活動や、国内で禁止されている宗教活動に関与していた証拠も提出している。また通報者が提出した診断書によれば、同人には拷問によるPTSDの症状が認められ、仮に送還が強行されれば、通報者の健康状態に甚大な影響を与えることは必至である。
・ このように、通報者に深刻な後遺症があること、出国後も政治活動に関っており、そのような行為については、送還されれば国内で罰せられるとの報告があること等の事実に照らせば、当事国は、通報者を送還した場合に拷問等を受ける危険が「完全にない」ことを十分に立証したとは言えず、従って、通報者の送還は規約3条に違反する。