V.L. v Switerland
|
通報日
|
見解採択日
|
文書発行日
|
通報番号
|
12/01/2005
|
20/11/2006
|
22/01/2007
|
No.273/2005
|
全文
|
http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/34f09b82fdcd1410c125725e00565869?Opendocument
|
手続上の論点
|
受理要件(22条)
|
実体上の論点
|
拷問等を受ける危険のある国への送還の禁止(3条)
|
通報者の主張
|
通報者はベラルーシ出身の女性。通報者の夫は1995年と2000年に地方選挙に立候補し、大統領を批判する立場を取っていた。夫は2001年7月にベルギーへ逃れ一時保護を申請したが却下されたことから、2002年12月にスイスに移住した。一方通報者は一人でベラルーシに留まっていたが、夫の行方について何度も取り調べを受け、2002年12月に国外に脱出してスイスにいる夫に合流した。二人は政治的迫害を理由として直ちに一時保護を申し立てたが、当局は通報者らが提出した書類の真正に疑いがあり、通報者らの主張は信用できないとして申し立てを却下した。通報者らは決定に対し異議を申し立てたが、これも2004年9月に棄却された。 そこで通報者は、異議棄却の見直しを求めたが、その手続きの中で初めてベラルーシで受けた性的被害を明らかにし、夫のパートナーとしてではなく通報者自身の権利として一時保護を求めた。即ち通報者によれば、夫が国外へ脱出した後何度も警察による取り調べを受けたが、その際3人の警察官にレイプされた。その際の傷はその後の病院での診察でも確認された。またこの事件について通報者が警察に告発すると、通報者は関係者から脅迫されたり、夜間に何度も家を訪問される等の被害に遭っただけでなく、その内の一人によって再度レイプされ、その際、告発を取り下げなければ手足を切断して殺すと脅迫された。警察関係者によるこのような行為の結果、通報者は国外へ逃れることを決意した。 通報者は一連の出来事を屈辱と感じており、また夫が性的被害について話すことを禁止したことから、当初の手続きの際に事実を明らかにすることができなかった。しかし2004年10月に夫が失踪したことから、通報者は性的被害の詳細を明らかにすることを決意し、上記診断書も提出した(なお、診断書はベラルーシの自宅にあり、娘が発見してファックスしてくれたので提出が遅れてしまった)。しかしスイス当局は、通報者の主張には信用性がないとして決定の見直しを認めなかったことから、2005年11月、通報者は委員会に救済を求める手紙を送った。
|
当事国の主張
|
1)1)許容性について 通報者は委員会に助けを求める手紙を送っているが、その内容は規約22条の定める「通報」には当たらない。また、万が一適正な「通報」と評価されるとしても、規約の何に違反しているのか明らかでないし、またベラルーシへの送還が規約に違反するとの主張は十分な根拠を有していない。 2) 本案について 3条違反を主張する場合には、拷問等を受けるという”予見可能、現実的かつ個人的危険”に直面することを示すべきであるが、通報者はその危険を十分に明らかにしていない。また通報者が2005年になって提出した診断書の日付は2002年7月となっており、このような重要な証拠を当初から提出しなかったことは驚きである。この点通報者は、次のインタビューの際に提出する予定だったと主張するが、説得力のある弁明とは思われない。また、通報者が主張する政治的迫害の根拠は夫の2度の立候補と大統領批判のみであり、通報者自身はベラルーシ国内で活発な政治活動を行っていたわけではない。 通報者の主張の信用性という点についても、通報者と夫が当初の手続きで提出した書類が偽物であったことが判明しており、当事国としては2005年3月になって提出された診断書の真正にも疑問を持っている。また、通報者の主張には多くの矛盾があり、一貫性に欠けている。 従って、ベラルーシに送還されれば通報者が拷問等の被害を受ける深刻かつ個人的リスクに直面すると信じるに足る根拠はない。
|
委員会の見解
|
1)1)許容性について 通報者は委員会に助けを求める手紙を送っているが、その内容は規約22条の定める「通報」には当たらない。また、万が一適正な「通報」と評価されるとしても、規約の何に違反しているのか明らかでないし、またベラルーシへの送還が規約に違反するとの主張は十分な根拠を有していない。 2) 本案について 3条違反を主張する場合には、拷問等を受けるという”予見可能、現実的かつ個人的危険”に直面することを示すべきであるが、通報者はその危険を十分に明らかにしていない。また通報者が2005年になって提出した診断書の日付は2002年7月となっており、このような重要な証拠を当初から提出しなかったことは驚きである。この点通報者は、次のインタビューの際に提出する予定だったと主張するが、説得力のある弁明とは思われない。また、通報者が主張する政治的迫害の根拠は夫の2度の立候補と大統領批判のみであり、通報者自身はベラルーシ国内で活発な政治活動を行っていたわけではない。 通報者の主張の信用性という点についても、通報者と夫が当初の手続きで提出した書類が偽物であったことが判明しており、当事国としては2005年3月になって提出された診断書の真正にも疑問を持っている。また、通報者の主張には多くの矛盾があり、一貫性に欠けている。 従って、ベラルーシに送還されれば通報者が拷問等の被害を受ける深刻かつ個人的リスクに直面すると信じるに足る根拠はない。 1)許容性について 本件は他の国際機関等で審議されたことはなく、国内的救済手段は全て尽くされており、また、主張の内容は十分に具体的である。また、通報者に代理人が付いていないこと、主張の内容が深刻であることに照らし、委員会は本件のような事案についても、これまでと同様22条の規定する「通報」として扱うことを再確認するものである。従って、本件は受理可能である。 2)本案について ベラルーシについては、野党メンバーに対する攻撃、迅速かつ公平な捜査・司法手続きの欠如、女性に対する暴力等、数多くの人権侵害状況が報告されており、20%を超える女性が一度は性的被害に遭っているとの統計もある。 ところで当事国政府は、夫が主導して提出した書面が偽物であったことを以て、本件診断書の真正を疑う理由としているが、しかし診断書の日付や傷の状況等に関する詳細な内容は通報者の主張と一致しており、委員会は本件診断書の真正に何ら疑わしい点はないと判断する。 また当事国政府は、通報者自身は政治的に活発ではなかったと主張している。しかしながら委員会は、現在通報者が夫と別居しているからといって、通報者に対する危険が減るわけではないと考える。即ち通報者が依然夫と婚姻関係にある以上、夫と接触したり夫に対して圧力を掛けるための手段と看做される危険は十分ある。さらに、米国内務省のカントリーリポートによれば、ベラルーシではたとえ離婚後であっても、前夫の活動を理由に前妻に対して嫌がらせをすることは決して珍しくないとのことである。また、通報者の最初のレイプ被害は夫の活動を原因とするものであったが、2度目のレイプ被害は通報者自身が最初のレイプを告発したからであり、従って通報者は、夫との関係とは別に独自に拷問等の被害を受ける危険に直面していると言える。 通報者によるレイプの主張が遅れた点についても、通報者の説明は合理的である。レイプ被害を明らかにすることは通常多くの懸念を伴うものであり、特に女性についてはパートナーや家族の反応を恐れる気持ちが強い。したがって、夫が性的被害を口にすることを禁じたとの通報者の主張は十分信用できるし、また実際に通報者は、夫の影響がなくなった後ただちにレイプ被害について当局に語っている。従って、通報者の性的被害に関する主張は十分に信用できる。 次に通報者の主張内容に矛盾があるとの当事国政府の主張については、何ら具体的根拠が示されていない。 最後に、本件性的被害は警察の拘置所等の外で行われた行為ではあるが、委員会は本件行為も拷問に当たると考える。さらに、ベラルーシ当局は加害者である警察官の捜査、訴追、処罰を行っている様子がなく、通報者が帰国した場合、当局が通報者を更なる被害から保護するために適切な手段を取れるかは大いに疑問がある。 以上により、ベラルーシに送還された場合、通報者が拷問等の被害を受ける危険があると信じるに足る具体的根拠があり、当事国政府が通報者をベラルーシに帰国させることは規約3条に違反する。
|
|
|
|
|
|
|
|