Cristina Munos-Vargas y Sainz de Vicuna v. Spain |
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通報日 |
30/07/2004 |
決定日 |
09/08/2007 |
通報番号 |
No.7/2005 |
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見解全文 |
http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm |
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手続上の論点 |
同一の事案が他の国際的調査で審議されたかどうか(OP第4条2項(a))、通報対象事実が当該締約国について議定書が発効する前に生じたかどうか(同項(e)) |
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実体上の論点 |
女性差別の定義(第1条)、締約国の差別撤廃義務(第2条(c)、(f)) |
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通報者の主張 |
本通報は”ブルネス伯爵(Count of Bulnes)”の称号を有する男性の第1子であるスペイン国籍の女性により、2人の弁護士を代理人として提出されたものである。 貴族的称号の継承に関する法(Decree/Law)(1948年6月4日、以下称号継承法)第5条は、第一子が称号を継承するが、第一子が女子の場合、弟がいない時のみ女子が継承すると定めている。通報者の父は1978年5月に亡くなり、同月、通報者の弟が称号を継承、1980年10月3日には弟の継承を認める国王指令(royal decree)が発行された。これに対し、1988年12月、通報者は、継承権は第一子にあること、称号継承法第5条は、両性の平等と性による差別禁止を定めたスペイン憲法(1978年12月29日発効)第14条に基づいて解釈されるべきであることなどから、弟に対して”ブルネス(女)伯爵”の称号を求めて提訴した。 第一審(1991年12月)では、歴史的な称号継承における男子優先は憲法第14条に反しないこと、弟による継承は憲法発効以前の事実であることを理由に棄却。第二審(1993年9月)も同じ理由で棄却。最高裁判所(recurso de casacion)は、通報者からの審問日程変更の申請が応じないまま、1997年12月、貴族的称号の継承における男子優先は違憲であるとの判断を覆した同年7月の126/1997号判決に基づき、通報者の訴えを退けた。 通報者は、称号は憲法発効後の指令により弟が継承したもので、憲法第14条が適用されるべきであるとして、憲法裁判所(recurso de amparo)に控訴し、最高裁判所の判断は、欧州人権条約第6条1項、第14条、同(第一)議定書第1条、女性差別撤廃条約1、2、15条違反であると申立てた。憲法裁判所は、2002年5月、抗弁についての基本的権利が認められていなかったとして、最高裁判所の決定を破棄し、本事案を最高裁判所に差し戻した。2002年9月、最高裁判所は、貴族的称号継承は民法に規定されており、父が1978年憲法発効以前に死亡していること(1978年5月23日)と、称号の名誉的、歴史的性格から1948年および1820年の称号継承法による男子優先は憲法第14条違反ではないとした1997年7月の憲法裁判所判決により、通報者の訴えを退ける新たな判決を出した。2002年10月、通報者は憲法裁判所に対して、最高裁判所の判決は、憲法第14条ならびに女性差別撤廃条約第1条、2条、15条違反であると提訴したが、2003年3月、憲法裁判所は、憲法との関連が薄いとしてこれを退けた。 通報者は、スペイン政府に対し、条約違反を認め、通報者への効果的な救済と差別的な法律の見直しを求めている。また、通報者はすべての国内救済措置を尽くしており、1997年7月の憲法裁判所判決の存在により、違憲審査による救済は期待できないとしている。 自由権規約委員会において同様の事案が審議されたというスペイン政府の主張に関しては、自由権規約第26条の定める平等の権利よりも、あらゆる分野における差別の撤廃を目指す女性差別撤廃条約は、特に第1条および2条(f)において、女性に対する差別を広く捉えており、同一の申立とは考えられない。また、2006年11月20日に発効する称号継承における男女平等についての新法の過渡的措置(2005年7月27日現在未決の事案への適用)は、通報者(憲法裁判所で2003年3月棄却)には適用されない。しかし、スペインに対する選択議定書発効時(2001年)に通報者の裁判が審理中であったことから、差別の影響は継続していたと考えられる。 |
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当事国の主張 |
1) 同様の事案がすでに自由権規約委員会において審査されており、選択議定書第4条2項(a)不受理とすべき。また、貴族的称号は法的効果を伴うものではなく、自由権規約委員会および欧州人権裁判所においても、同様の事案は人権及び基本的自由に関る問題ではないと判断されている。 2) 通報者による申立に関する事実は、スペインへの選択議定書(2001年10月)及び条約発効(1984年2月)以前に発生しており、議定書第4条2項(e)により不受理とすべき。 |
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委員会の決定 |
本通報に関する事実は、スペインに対して選択議定書が発効する以前に発生しており、議定書第4条2項(e)により不受理と宣言する。通報者の父の称号の継承については、1980年の王国指令により完結しており、継続的な性質のものとは認められない。
* ドミンゲス、フリンターマン、パッテン、ピメンテル、斎賀、シムズ、タン、ゾウ委員による個人意見(同意意見) 本通報を不受理とした委員会決定には同意するが、不受理の根拠は時間的理由ではなく、事項的理由であるべきである。なぜなら、本事案で問題とされている貴族的称号は純粋に象徴的で名誉的なものであり、何ら法的あるいは現実的効果をもたらさないことから、女性を差別から保護することを目的にした本条約の趣旨とは合致しないためである。
* ダイリアム委員による個人意見 貴族的称号に対する権利は人権ではないが、締約国の法や実行は、男性の女性に対する優越を認めるような取扱いを容認するものであってはならず、歴史的な男子優先原則は、平等の原則と相容れない。男女平等原則へのこうした例外を認めることは、女性の劣等性を認める思想や規範を維持することになり、より本質的で実際的な権利の否定に繋がる可能性がある。また、女性差別撤廃委員会は条約の趣旨により、他の条約機関よりも広く女性の平等への権利の侵害を解釈し、認める任務を負っていると考えられ、本通報は条約の趣旨に照らして受理可能であると考えられる。さらに、本事案に関するスペインの裁判所の決定は、スペインが議定書の締約国になった後にも出されているおり、締約国による侵害が継続的な性格を有していたと考えることができる(自由権規約委員会で同様の判断あり)。よって、本通報は、事項的理由および時間的理由により受理可能である。ただし、通報者が求める救済については、すでに締約国は称号継承法を改正しており、通報者の父の称号継承時のスペイン法に差別があったことは認めるが、ここに至って国王指令を覆すことを正当化するものではない。 |
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