【国際人権先例・CEDAW】2005/No5 オーストリア

The Vienna Intervention Centre against Domestic Violence and the Association for Women’s Access to Justice on behalf of Hakan Goekce, Handan Goekce, and Guelue Goekce v. Austria

通報日

21/7/2004

決定日

6/8/2007

通報番号

No.5/2005

見解全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm

手続上の論点 

国内的救済措置が尽くされているかどうか(OP41項)、

実体上の論点

女性の生命及び身体的・精神的安全の権利:差別の定義(第1条)および女性に対する暴力(一般的勧告No.19)との関係における、締約国の差別撤廃義務(第2(a), (c)(f))、女性の完全な発展・向上の確保(第3条)

通報者の主張

 本通報は、夫により殺害された女性(Sahide Goekce、トルコ出身、オーストリア国籍)に代わって、女性が利用していたドメスティック・バイオレンス(DV)被害者保護・支援団体(2団体)により、女性の子ども(未成年3人)の後見人の承諾を得て提出された。

 通報者によれば、女性は、199912月、夫から首を絞められ殺すと脅された。女性は警察に通報し、警察は退去及び帰宅禁止命令を出したが、脅迫罪で夫を訴追することは女性が了承せず、傷害罪には被害程度が不十分として夫は釈放された。この後も数回にわたり暴力の通報があり、200210月には警察が3回目の退去及び帰宅禁止命令(10日間)を出し、女性も傷害と脅迫について夫を告発した。警察は、検察官に夫の逮捕を要請したが却下された。200210月、ウィーン地裁Hernals支部は、夫に3ヶ月間自宅アパートとその周辺および女性と子どもたちへの接近を禁止する暫定命令を出したが、11月、夫が自宅にいたため青少年福祉事務所が警察に通報。女性の父親や夫自身の兄(弟)からも、夫による女性殺害の脅迫について警察に通報されていたが、報告書は作成されていなかった。また、夫は武器所持禁止命令を受けていたにもかかわらず、警察は、夫が銃を所持しているかどうかを調べていなかった。同年125日、ウィーン検察官事務所は、夫に対する訴追を理由不十分として中止。同月7日、2人の子どもの前で、女性は夫により銃殺。夫は2時間半後に逮捕され、精神に問題のある加害者のための施設で無期懲役の刑に服役中である。

通報者は、当該締約国は、女性の安全と生命の権利を保護するために必要なすべての適当な措置を積極的にとらなかったことにより、条約第13条、第5条、一般的勧告No.121921、その他の国際文書、オーストリア憲法の一部に違反していると述べている。また、委員会に対して、被害者の人権および条約上の権利の侵害及び夫を逮捕しなかったことへの締約国の責任を検討し、暴力の被害者である女性(特に移民女性)を保護するため効果的な処置を取ること、女性DV被害者の安全を保護し、加害者及び一般にDVは非難すべき犯罪であると周知するために積極的逮捕および訴追政策をとること、女性に対する暴力被害者の保護・支援団体と協力すること、犯罪司法関係者へのDVに関する研修を義務化することを勧告するよう望んでいる。

通報者は、女性の保護と殺害防止に関して利用可能な国内救済措置はなく、また、国家賠償責任訴訟は残された者に対する救済であって女性本人の救済ではないため、議定書第4条の救済には当たらず、本事案は受理可能であると主張している。

当事国の主張

1) 女性は、夫の訴追の承認や証言を拒み、裁判でも「夫を罰しないでくれ」などと述べ、傷は自らの癲癇の発作等によるもので夫の暴力によるものであることを否定したこともあったため、警察は夫による殺害の脅迫が深刻なものとは認識していなかった。

2) 女性は、判決執行法382bを利用して夫に対する暫定命令を要請したことは一度もなく、本人の協力なしで当局がとれる対応には限りがあった。

3) 検察官が知ることのできた事実から、夫が殺人を犯すとは予想できなかった。

4) 女性は、検察の決定(夫の逮捕状を出さない)に対する控訴を認めないという規定について、憲法第1401項にもとづき憲法裁判所で司法審査を求めることができた。また、子どもたちがこの手続をとることも可能である。

5) 締約国は、DVに関する法律を整備しており、裁判官や警察に対してDVに関する研修を恒常的に行っている。

委員会の決定

1)      締約国が主張する憲法第1401項の手続は、殺害の脅迫を受けている女性あるいや子どもたちにとって有効な救済とはみなされず、本通報は受理可能である。

2)      本事案の受理決定後に出された当該締約国からの見直し請求について:①憲法裁判所の利用については前回と同様、有効な救済とはみなされない。②締約国により新たに提案された私人訴追(associated prosecution)は、女性が置かれていた状況(DV被害、ドイツ語が母語ではない等)からみて、実質的に可能な救済ではない。③検察官法第37条による不服申立は、検察による公的な対応の適法性を判断するためのものであり、女性の状況において有効な救済とは考えられない。

3)      委員会の一般的勧告No.19は、非国家主体による女性に対する暴力についても、締約国は防止、捜査、処罰の義務を負うものとしている。

4)      多くの通報の記録から、警察は女性が深刻な危険に瀕していることを認識していたと考えられる、女性が殺害の数時間前にかけた緊急電話に警察が迅速に対応しなかったことは、相当の注意義務を実行しなかったものとみなされる。

5)      締約国が主張するとおり、加害者の拘束は慎重に検討すべき問題であるが、加害者の権利が被害者の女性の生命及び身体及び精神的安全の権利に優先することがあってはならない。

6)      締約国は、女性の生命への権利及び身体的・精神的安全への権利について、条約第1条と一般的勧告No.19との関連において条約第2(a), (c)(f)、第3条に違反しており、以下のとおり勧告する。

(a)       DV防止連邦法と関連の刑法の実施および監視を強化すること。

(b)       DV加害者を注意深くかつ迅速に訴追し、加害者の権利が女性の生命及び安全の権利に優先することのないよう相当の注意義務を果たすこと。

(c)        法執行関係者、司法関係者、関係NGO等の間の連携を強化すること。

(d)       法曹及び法執行関係者らに対するDVについての研修・教育を強化すること。

当該締約国は、6ヶ月以内に、本勧告に関して取られた対応を含む見解を委員会に提出すること。また、本見解及び勧告をドイツ語に訳し、広く国内で周知すること。