【国際人権先例・CEDAW】2004/No4 ハンガリー

Ms. A.S.  v.  Hungary

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

12/2/2004

14/8/2006

 

No.4/2004

 全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm

手続上の論点 

国内的救済措置を尽くしていないことにおける例外(OP41項)、選択議定書が効力を生ずる前の出来事(OP4条第2項(e))

実体上の論点

家族計画に関する情報を享受する機会(10(h))、保健における差別撤廃(12条)、子の数および出産の間隔を決定する権利(161(e)

通報者の主張

 European Roma Rights CenterおよびLegal Defense Bureau for National and Ethnic Minoritiesが、申出者(Ms. A.S.、ハンガリー在住のロマ人女性)の代理として通報を提出。

200112日、A.S.は、陣痛が始まり、羊水とともに多量の出血があったため、救急車で病院に運ばれた。A.S.を診察した医師は、胎児がすでに死亡しており、胎児を取り出すためにすぐに帝王切開の必要があることを申出者に伝えた。手術台の上で、申出者は、帝王切開への同意書に署名を求められ、同意書およびその下方に医師が手書きで書き加えた、ほとんど判読不能なメモ(「私の子宮内の胎児の死亡を知り、不妊手術(申出者の知らないラテン語で書かれていた)を要請します。二度と出産する意思はなく、妊娠も望みません。」と読める)に署名した。

病院の記録によれば、救急車到着から17分間で胎児と胎盤を取り除くための帝王切開手術と卵管結さく手術が終了。病院を出るときに、自分の健康状態と今後の妊娠の可能性について医師に尋ねた申出者は、はじめて「不妊手術」の意味を理解した。不妊手術が実施されたことは、厳格なカトリック信者であり、子どもを持つことに重きを置くロマの伝統に従い生活している申出者とそのパートナーにとって大きな衝撃であった。

20011015日、Legal Defense Bureauは、A.S.に代わって、病院に対してA.S.の市民的権利が侵害されたことに関する民事訴訟をFehergyamat町裁判所に提起し、申出者から十分かつ情報に基づいた同意を得ることなく不妊手術を行ったことについて、金銭を含む補償を求めた。200211月、同裁判所は、医師の過失は認めたが、不妊手術は医療上必要であり、申出者の同意があったとして、この訴訟を却下した。同年12月、A.S.は弁護士を通じて郡裁判所に控訴したが、翌年5月、本事案は、不妊手術の例外実施には該当せずインフォームド・コンセントは必要だが、A.S.が継続的な障害を被ったとはいえないとして、却下された。

申出者は、不妊手術の影響は永続的であり、ハンガリー政府は条約第10(h)、第12条、第161(e)に違反していると主張、委員会が締約国に正当な補償を要請することを望んでいる。

当事国の主張

1) 申出者は、判決見直し制度を用いておらず、国内救済制度が尽くされていない。

2) 不妊手術は復元可能であり、申出者が永続的な障害を被ったとはいえない。また、当該手術は、OP発効以前に実施されたものである。

3) 申出者にはすでに子どもが3人おり、妊娠出産について改めて教育を受ける必要は無かったと判断され、条約第10(h)の侵害とはいえない。

4) すべてのハンガリー女性と同様、申出者も出産前後の手当やサービスを無料で受けており、条約第12条の侵害とはいえない。また、申出者は、理解可能な方法で手術前の説明を受けていた。

5)  公衆衛生法は、特別な状況下において適当とみなされる場合には、医師が特別な手続をとらずに不妊手術を実施できる旨を定めている。本事案は、これに該当する。

委員会の見解

1)      締約国は未使用の国内手続(判決見直し制度)があるとしているが、これはきわめて例外的のもので、この制度により申出者が救済を期待できるとは考えにくい。また、不妊手術による申出者の被害はOP発効後も継続していると考えられ、本事案は、受理可能である。

2)      病院到着から手術終了までの17分間に家族計画についての適切な情報提供をするべき締約国の義務が満たされたとは考えられず、条約第10()に定める申出者の権利が侵害されたと考えられる。病院の記録では、申出者はショック状態にあったとされており、申出者の署名は、ラテン語を含む医師のメモを理解したうえでのインフォームド・コンセントの結果とは考えられず、条約第12条の侵害に当たると判断できる。

3)      本人の十分な同意を得ずに実施された不妊手術は、彼女の自然な妊娠・出産機能を永続的に奪うものであると考えられ、条約第161(e)を侵害するものと判断する。

4)      委員会は、ハンガリー政府に対し、以下のように勧告する。

Ⅰ.申出者に対し、その被害に見合う適当な補償を提供すること

Ⅱ.一般的事項

     女性のリプロダクティブ・ヘルスおよびライツに関して、一般的勧告No.192124の該当箇所について、あらゆる医療関係者に周知徹底させること

     不妊手術に関するインフォームド・コンセントに関する法律について、「人権と生物医学に関する欧州条約(Oviedo条約)」やWHOのガイドラインをもとに見直すこと。また、不妊手術についての例外条項を持つ公衆衛生法の改正を検討すること。

     不妊手術を行う公私の医療機関について、インフォームド・コンセントが実施されているかどうかを監視し、違反に対しては適切な罰則を課すこと。

5)      締約国は6ヶ月以内に、本見解と勧告に関してとられた措置について書面で委員会に報告すること。また、本見解および勧告をハンガリー語に翻訳し、関係者に広く配布すること。