【国際人権先例・CEDAW】2003/No2 ハンガリー

Ms. A. T.   v.   Hungary

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

10/10/2003

26/01/2005

 

No.2/2003

 全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm

手続上の論点

国内的救済措置を尽くしていないことにおける例外(OP41項)、選択議定書が効力を生ずる前の出来事(OP4条第2項(e))

実体上の論点

締約国の義務(2(a),(b),(e))、役割分担の否定(5(a))、婚姻・家族関係における差別撤廃(16条)

通報者の主張

 通報者は、19983月より、内縁の夫L.F.(現在は別居中)からの継続的かつ深刻なドメスティック・バイオレンスを受けている。通報者にはL.F.との間に子どもが2人あり、うちひとりは脳に重度の障がいを負っている。通報者は、心身の健康及び生命の危険にさらされているが、ハンガリーには、重度の障がいを負った子どもとともに入居できる施設がないため、シェルターには入っていない。また、20039月には、通報者がL.F.のアパートへの接近禁止を求めた裁判(ブダペスト地裁)で、L.F.の財産権を認める旨の判決が出された。通報者は、この判決を見直すよう最高裁に請願を提出したが、200412日(追加資料提出時)現在、回答は出ていない。通報者は、財産分与に関する民事訴訟(通報者がアパートのL.F.の持分を買い取ると申し出た)も起こしており、アパートの独占的使用についての裁判所命令を求めたが、2000725日に却下された。さらに、L.F.に対しては、通報者への暴力による刑事訴訟が起こされている。通報者は、地域の子ども保護担当当局に支援を求めたが、何の支援も得られなかった。

 最高裁への請願の結果により裁判所が条約を適用可能な国内法として認める可能性が低いこと、L.F.からの暴力の大半はハンガリーが選択議定書に加入した20013月以前に起きているが、その後も暴力は続き、通報者の生命が危険にさらされていることから、通報者は本件が委員会により受理されるべきであると考えている。

通報者の主張は以下のとおりである。

1) 通報者は、ハンガリー政府が条約2(a),(b),(e)及び5(a)16条の義務を果たしていないために、内縁の元夫からの効果的な保護を受けることができなかった。

2) L.F.に対する刑事訴訟は必要以上に長期に亘っていること、現在のハンガリーの法律に保護命令や接近禁止命令がないこと、また、L.F.がこの間全く拘束されていないことは、条約および一般的勧告No.19が定める通報者の権利を侵害している。

3) 条約の内容及び精神への違反により通報者と子どもたちが受けた苦痛について、補償を含む正義を要求する。

4) ハンガリーの女性たちのために、a)DV被害者の効果的かつ即時的保護を導入するための法律を作ること、b)法曹関係者らにジェンダー視点及び条約と選択議定書に関する研修を実施すること、c)ジェンダーに基づく暴力の被害者に対する無料の法律扶助を提供することについて、委員会の介入を求める。

 また、通報者は、生命の安全の確保のためにOP51項による暫定的措置を要請した。

当事国の主張

1) 民事裁判については保留中、刑事裁判については現在も進行中である。

2) しかし、締約国としては本通報の受理可能性について反対する意志はなく、また、国内救済措置が通報者を元夫の暴力から速やかに保護するものではないことを認める。

3) ハンガリー国会は、2003416日に家族内暴力の防止と効果的対応に関する国家戦略に関する決議を採択し、DVについての包括的な行動計画を作成している。

委員会の見解

1)      締約国が本通報の受理に異議を唱えていないこと、通報者による最高裁への請願が却下されたこと、民事訴訟が期限を定めずに保留されており、たとえ結果が出たとしても現在の通報者の生命への危険を回避するものではないと考えられること、刑事裁判が3年以上継続しており、OP41項にいう救済の適用が不当に引き延ばされている場合に該当すると考えられることから、本件は受理可能。また、通報者が受けている暴力も1998年から現在まで継続していると判断される。

2)      女性に対する暴力の防止と保護についても果たされるべき、第2(a)(b)(e)の締約国の義務が実施されておらず、通報者の人権及び基本的自由、特に安全への権利を侵害していた。

3)      民事及び刑事裁判においてL.F.をアパートから遠ざけることができず、接近禁止あるいは保護命令の規定が存在せず、障がいを持った子どもとともに入所できるシェルターがないにもかかわらず、締約国が対応してこなかったことは、第5(a)及び第16条に規定された通報者の権利の侵害にあたる。

4)      本通報に関し、委員会が要請した暫定措置が十分に実施されなかった。

5)      上記に基づき締約国に対して以下の勧告を行う。

通報者に関して:

(a)       通報者と子どもたちの心身の安全を確保するための効果的な措置を速やかにとること

(b)       通報者と子どもたちが安全に暮らせる住居、適当な養育手当、法的支援、これまでの権利の侵害による苦痛に対する補償を提供すること

一般的事項:

(a)       DVから自由になる権利を含む女性の人権を尊重、保護、促進、充足すること

(b)       DV被害者に対し、最大限の法的保護を保障すること

(c)        家族内暴力の防止と効果的対応に関する国家戦略を速やかに実施し、評価すること

(d)       法曹関係者らに対して、女性差別撤廃条約及び選択議定書に関する研修を行うこと

(e)        女性と少女に対する暴力に関するハンガリーの第4・5次報告書に対する委員会の最終コメントを速やかに実施すること

(f)         すべてのDV事件について速やかに真剣な捜査を行い、国際的な基準に基づいて加害者を処罰すること

(g)       DV被害者に対し、安全かつ速やかに正義を提供すること

(h)       加害者に対して更生プログラム等を提供すること