【国連イベント報告】「仕事の未来」 第73会期国連総会ハイレベル・イベント~国際労働機関ILOの創立100周年記念式典~

2019年4月10日にNY国連本部にて、 “The Future of Work” (仕事の未来)と題されたILO (国際労働機関)創立100周年記念のハイレベル・イベントが国連総会によって開催されました。テクノロジーの発展や環境問題などで急激な変貌を遂げつつある今日の世界で、労働の需要なども大きく変わりつつあります。現実問題への理解を深めて、人間としての尊厳が守られる公正で道義的な仕事(decent work)が約束される未来のために、どんなポリシーが効果的かなどを話し合う目的で開かれました。

初日の開会式と2つのテーマ別の討論会を通して繰り返し強調されたポイントには、以下が含まれます。

  • 労働は商品ではない(”Labour is not a commodity”)
  • 人としての幸せや労働者の尊厳を中心に考えなければならない
  • 世界中の非公式労働者と失業者の多くは次世代を担う若者である
  • 児童労働、人身売買、強制労働など現代の奴隷制の被害は深刻化している
  • グローバル化、デジタル化、広がる貧富の差で取り残された大勢の人々を忘れてはならない
  • 環境問題や経済格差の中で起こっている人権問題などに対応できる新しいビジネス・経済モデルが必要とされている
  • 労働者、雇用主、政府の三者間(Tripartite)の連携なしには明るい未来は築けない
  • SDG8その他の持続可能な開発目標(SDG)の実現に向けた行動が求められている
  • 地球の環境問題に対応しないと、仕事の未来だけでなく人類の未来もない

今日私たちは、格安な衣類から輸入食品まで何でも簡単に手に入れることができます。しかし、一見豊かで便利な世の中でも、その下には労働者を搾取し弱い立場の人々の人権を踏みにじる、歪んだ不正義の世界が幾層も潜在しています。同じ地球に暮らす仲間の人間が空腹や疲労や屈辱にじっと耐えている現実をよそに、金銭的利益だけを追求する経済・ビジネスモデル、そしてそれに執着する企業や政府。そんなグローバル規模の現状を変えるには、私たち一人一人が意志を持って立ち上がるしかありません。大勢の人の意思が団結すれば、地域社会に変化が訪れ、それが国中に広がり、やがて国際レベルの動きと繋がるでしょう。そして、大勢の人々を貧困や労働搾取から救えることができるはずです。

今回のイベントで数々のスピーカーによって繰り返された言葉に、「人としての尊厳」があります。ヒューマンライツ・ナウが懸命に守ろうとしている「人権」と「人としての尊厳」は切っても切り離せないものです。尊厳が守られる社会とは、人権が守られる社会です。弱い立場の人々が人権侵害をされても、なかなか被害が明るみに出ることはありません。そんな不正義の世界に光を当て、苦しむ人々の声を代弁し、問題解決のために国際社会へ発信し続ける必要があるのです。

私たちの暮らしの糧である仕事。その仕事の未来を明るいものにするには、一体どうすれば良いのでしょう?今回のイベント報告を通して、私たちの未来の在り方を想像する機会にしてみてください。

 

開会式

国連総会議長マリア・フェルナンダ・エスピノサ・ガルセス氏

始めのガルセス氏の挨拶では、今回のイベントが国連総会決議73/282(2019年1月15日)アジェンダ項目14に基づいて開かれたこと、そしてILO創立の背景や今日の存在意義などが触れられました。ILOは政府、雇用主、労働者すべてを社会的正義に関する話し合いに呼びかける国連特別機関であると共に、平和と社会の繁栄への労働者の貢献を認め、それに見合った意思決定権や報酬が労働者自身に与えられる必要性を初めて明確にした機関でもあります。そのため、国連組織の中の代表的な機関である国連総会が、社会や日常生活の形成に与えるILOの影響を祝うことは重要だと氏は述べました。

1919年、多くの死者を出した第一次世界大戦後の混乱期の中で、平和のために国際的な労働機関の必要性を感じたリーダーたちによりILOは設立されました。貧困、差別、労働者の権利の侵害や欠如、工場などでの児童労働や事故が日常的だった時代です。現在、ジェンダー平等から強制労働まで全ての分野にわたるILO条約が180以上存在しますが、残念なことに現実でも不正義はなくなっていない、と氏は指摘しました。「炭鉱で窒息しそうになった。一日中食べずに働いた。いい仕事につけると言われたら売春だった。これらは児童労働、強制労働、人身売買の被害者の声です。今日、4000万以上の人々が現代の奴隷制の被害者とされています。人類史上で最も暗い歴史のひとつである大西洋奴隷売買でアフリカから連れてこられた奴隷の数の2倍以上にあたります。また、世界中の1臆9千人の失業者の3分の1が若者であり、3億人の貧困労働者の半分が若者です。そして、20億人の人が社会保障のない非公式労働に携わっていると推定されています。これらの現実問題が、持続可能な開発目標のゴール8(SDG8)にある背景なのです。」と氏は述べました。

国連事務総長アントニオ・グテーレス氏

グテーレス氏のスピーチは、ILOなどの国際機関や政府のリーダーシップを呼びかけるものでした。以下はスピーチの要約です。

1世紀前にベルサイユで結ばれた条約の原則は、今日まで生き続けています。ILO条約の冒頭には、「普遍的で持続的な平和は、社会的正義に基づいてこそのみ築かれる」という言葉が記されています。8時間労働、充分な賃金、集会・結社の自由、人間としての尊厳の保証を求める労働者の希望を実現するために、政府の協力が不可欠であることを当時のリーダーたちは知っていました。そしてILOが誕生しました。

政府代表者らだけでなく問題の当事者ある労働者を交えて話し合いの場を設けるILOのコンセプトは、国連創立よりずっと以前の1930年代すでにフランクリン・D・ルーズベルト元米大統領なども注目していました。紛争、平和、民主主義、非植民地化などを通して、ILOは社会発展において重要な役割を果たしてきました。ILOが近年取り組んできた「公正なグローバル化」や「社会平等」などは、持続可能な開発目標2030アジェンダのコンセプトにもなっているほか、若者や女性たちの将来への可能性を広げ、社会の隅々にまで社会的正義を浸透させるために声を上げてきました。

テクノロジーの発達とデジタル化した今日の世界で、新種の仕事が作り出されると同時に、多くの仕事の需要が消えつつあります。そんな時代の流れの中で、マイナス影響を被っている人々へのサポートと社会保障ポリシーが必要とされています。これまで以上に、政府や役人の支援を動員することが求められています。デジタル経済の世界は国境を越えて動いていますが、我々の求める将来の仕事の在り方も、国際機関こそが中心になって追求していかなければなりません。

ILO事務局長ガイ・ライダー氏

100年前、普遍的な平和は社会的正義を通してのみこそ築かれるという信念で、パリ平和会議にて国際労働委員会(The Commission on the International Labour Legislation)は労働条件の改善のためにILOの創立を提案しました。ILOは、ベルサイユ条約によって生まれた最もポジティブかつ永続的な賜物です。これによってILOは、労働者・雇用主・政府と連携して世界中の労働に関するルールの交渉と監視をする権限を与えられました。これは前例のない画期的なことでした。その4分の1世紀後にフランクリン・D・ルーズベルト元大統領は、ILOの功績を 「ワイルド・ドリーム」と呼び、労働法の基準となり「労働は商品ではない」という憲法の原則に貢献したこと、労働ポリシーの第一目標は人間の物質・精神面を充実させるためでなければならないという点を広く世に認識させたことへの貢献を讃えました。

ILOが歩んできた道のりは、決して平坦なものではありませんでした。それぞれの時代の経済・歴史・社会的現実の乱れに、その都度試されてきました。最初の25年の最も偉大な業績は、まず機関自体が生き延びたことです。世界大恐慌、権威主義、国際連盟の崩壊などに直面しては乗り越えてきました。1944年5月、世界のリーダーたちが国連の宣言を準備する中、ILOはフィラデルフィア宣言を採択しました。より良い世界をつくるための視野を掲げ、人権分野で草分け的存在とされるこの宣言の目的は、世界人権宣言を起こさせるためでもありました。

これまでILOと国連はパートナーとして寄り添ってきました。1925年のILO会議に、後の国連初期事務総長が彼の国の労働者代表として出席していたことも、さほど驚くことではないでしょう。1969年にはノーベル賞委員会が、「ILOのようにモラル的アイデアを行動に移している団体は少ない」と引用したりもしました。

ILO創立から半世紀以上経ち、大勢の人々が非植民地化により自由になると、会員数も増えていきました。そして、建国されたばかりの国々をサポートする試練が新たにILOに課せられるようになりました。創立75周年を迎えた頃には、ほぼ世界中に会員を持つようになり、グローバル化時代の敷居のような存在となりました。その頃には二つのイデオロギー・政治システムの対立が終わり、リベラル経済の勝利はILOの歴史に新しい章を加えることにもなりました。そして、市場の自由化によって動かされ、新テクノロジーによって煽られたグローバル化モデルに対して、社会的な広がりが求められるようになりました。

1998年の「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」(Declaration of Fundamental Principles and Rights of Work)と「ディーセント・ワーク・アジェンダ、仕事、社会保障、社会的ダイアログ及び権利」(Decent work agenda, jobs, social protection, social dialogue and rights)は新しい要求への対応としてのみならず、今日までILOの中心的ストラテジーであり続けるとともに、持続可能な開発目標(SDG)の柱にもなっています。急激な変化を続ける仕事の世界に不安を覚え、多国間主義や政府や政治的リーダーのキャパシティ自体にも疑問が投げかけられています。2030アジェンダはそれに対して国際社会が出した対応策です。

100年目を迎えたILOは、南アフリカ大統領とスウェーデン首相が卒いる「仕事の未来に関するILOのグローバル委員会」に焦点を当てていきます。1月に発表された委員会の報告書では、人々と人々がする仕事を中心に経済・社会ポリシーを定めるなど10の鍵となる提言・助言が含まれています。我々人間の将来は、我々の意思と共通の目的に沿って決めるのであって、テクノロジーの発展による独裁であってはなりません。過去100年で労働条件などは大きく改善されましたが、過去のような劣悪で不正な労働条件が未だに存在することも我々は知っています。ILOの創立者たちと同じように勇気と明るい未来への視野を持ち、事態の緊急性を感じとり、ILOを生み出した社会的正義への願いを胸に、皆で行動を起こそうではありませんか。我々にできることは何か、我々がしなかったことへの代償は何か、歴史はおのずと語るのです。

ECOSOC(国連経済・社会協議会)代表インガ・ロンダ・キング氏

インガ氏のスピーチは、ECOSOCにとってILOが重要な存在である点が強調されたほか、7月と9月に予定されているハイレベル政治フォーラムとサミットで2030アジェンダの実施を確実にしたい想いが語られました。以下はインガ氏のスピーチの要約文です。

ILO創立の基盤となった「普遍的で持続的な平和は、社会的正義に基づいてこそのみ築かれる」というアイデアがあります。持続可能な開発目標(SDG)2030アジェンダが目指す世界は、人権と人間としての尊厳が普遍的で尊重され、法の支配、正義、平等、差別ゼロが約束される世界です。SDG達成においても人々の尊厳を守る上でも、公正で道義的な仕事(decent work)は重要な役割を果たします。これはSDG8でも強調されています。公正で道義的な仕事は社会的正義と平和の基礎であるという認識は、仕事の世界が急激な変化を遂げつつある21世紀においても、ILOの妥当性を証明し続けています。

2019年はILOにとって重要な年です。創立100周年というだけでなく、今年7月にはECOSOC召集の「ハイレベル政治フォーラム」でSDG8の念入りなレビューがあるからです。ECOSOCは、このフォーラムでILOが中心となってレビューするように指揮を取るつもりです。その他にも、SDG4(教育)、SDG10(不平等)、SDG13(気候変動)、SDG16(平和)、SDG17(実施手段)などSDG8に関わりのある目標もレビューされます。また、50か国による任意制のレビュー(Voluntary National Review)も予定されており、国ごと、地域ごと、またグローバル・レベルでの挑戦が何かを見定める機会となります。ECOSOCにとってILOは、雇用創出や社会保障の重要さを持続可能で包括的な社会作りに位置づけるなどの上で、欠かせないパートナーです。同時に、ECOSOCと各委員会も2030アジェンダの促進に密接に関わっています。これらの委員会では労働は常に重要なアイテムとされています。今年は、社会保障が女性の地位委員会と社会開発委員会の両方でプライオリティ・テーマとして扱われました。

つい昨日も、SDG8の実施のレビューのために開かれたECOSOCユース・フォーラムで、800人以上のユース代表参加者らの2030アジェンダ実施に向けた情熱と精力的な姿勢を目の当たりにしました。また、彼らによる提言・助言やメッセージが7月のハイレベル政治フォーラムで共有されるよう図らってくれた国連総会議長に感謝します。SDGと2030アジェンダの実施を確実なものにするために、今年9月の国連総会でもハイレベル政治フォーラムのサミットを予定しています。よって、今回のイベントはとてもタイムリーと言えます。本イベントの成果は、7月と9月のハイレベル政治フォーラムにとって重要な貢献となるでしょう。ECOSOCは今後も尊厳のある道義的な仕事と現実を全ての人のために与え、誰も取り残されない社会を目指して、2030アジェンダの実現への活動を続けていきます。

国際労働組合総連合(International Trade Union Confederation, ITUC)書記長シャラン・バロウ氏

今日我々が直面するチャレンジは、残念ながら1919年と同じくらい深刻なものです。歴史的なレベルの不平等、グローバル化の失敗モデル、増加する紛争と軍事費、気候危機、テクノロジーによる大混乱、過去に類のないレベルの避難民の数。100年前のILO憲法で唱えられた社会正義や権利の実現は、今日でも可能なのでしょうか?

1990年代以来我々は、社会契約の浸食を見てきました。結果、世界は20年前の3倍も豊かになっているのに、不平等は世界規模で広がるばかりです。人々、中小企業、そして持続可能な経済の未来の上に立ちはだかる巨大企業が、富の偏りに拍車をかけています。グローバル・サプライ・チェーンの94%にも上る労働者は、彼らの労働が富を築いているにもかかわらず、低賃金で不安定で危険な仕事に携わっています。それが正規な雇用でも現代版の奴隷制であっても、現実に世界貿易の利益を支えているのは、そのような労働者たちです。

現在の最低賃金は、集会の自由や団体交渉の拒否の増加により、ILO憲法やフィラデルフィア宣言 の約束からはかけ離れて低いものです。世界の労働人口の60%が非公式労働に携わっており、大勢の労働者が制度や法令、政府機関、グローバル化、そして民主主義に対してさえ不信感を抱くようになっています。こうした不信感や深まる世界経済の溝は、平等な発展をも拒否しています。結果的には、このようなグローバル化モデルの下での社会契約の失敗は、人々も世界経済も多国間主義も全て危険に晒していることになります。気候とテクノロジーの転機に見合った転換方法が保証されない限り、社会的結合をさらなる危険に晒し、社会分裂は世界に広まる一方です。

今必要とされているのは、新しい社会契約です。SDG8などの実施です。ILOの権限、そしてILO憲法やフィラデルフィア宣言の再認識など、根本的な点で同意することです。政府、ビジネス、労働者のための新しい社会契約は、公式・非公式にかかわらず全ての労働者の保護を確実にするものでなければなりません。権利が尊重され、生活に充分な最低賃金や団体交渉が約束され、労働者による労働時間のコントロールが許され、社会保障が普遍的であり、デュー・ディリジェンスとアカウンタビリティがビジネス経営の中心となり、女性が同等に扱われ、気候変動やテクノロジーや避難民問題など全ての点で公正な転換方法が話し合いにより確保されることです。ILO憲法の前文でも触れているように、人としての尊厳に満ちた公正で道義的な仕事は、我々の共通の目標です。労働者の権利が市場に拒まれることがあってはなりません。新しい社会契約を皆で支持することで、創立100周年を迎えたILOの新しいスタート・ラインを印そうではありませんか。

国際経営者団体連盟(International Organization of Employers, IOE)会長エロル・キレセピ氏

IOEは、世界147ヶ国の独立・代表メンバー団体を通して5000万以上の経営会社を代表しています。これらの会社は、持続可能な開発目標(SDG)達成のためのポリシーや規制を定める上でのリーダーであり貢献者であります。IOEは、社会的価値の促進を100年近く主張してきた初めての国際ビジネス運動であることを誇りに思っています。2020年には、我々の創立100周年を祝うことになります。

ILOの創立100周年は、人間の尊厳の重要性とそれを讃える上での里程標です。ILOの100年の功績は三者間統治(tripartite governance)によるところが大きいとILO事務局長は述べましたが、社会的パートナーを機関の統治組織に入れたのは、ILOの最も大きな財産と言えます。社会的パートナーは当事者の真の声をテーブルに運んでくれ、ポリシーやプログラムの実施に確固たる貢献をし、国連・民間団体や企業、政府、そして労働者の間の架け橋になってくれます。変革をもたらすのには不可欠な存在です。

ではなぜILOがIOEにとって、特に経営者にとって重要なのでしょうか?経営者はビジネス界のフェア・プレイを信じています。そしてILOと同じく、「労働は商品ではない」という信念ならびに、安定性と平和の保証に関する社会的ダイアログの促進の責任感も共有しています。

ビジネス界や政界の意思決定者らは、これまでにないほど移り変わる人口、テクノロジー的発明、気候変動などに影響されています。それに加えて、この強制的な産業革命で必要とされるスキルは、現在も未来も人手不足となるでしょう。未来への挑戦に応えることへの疑問は、人々や会社や政府や社会に不安を与えています。大規模な変化の裏に、本質的な疑問が浮かび上がります。それは、「仕事の未来は、人間のための人間によるものだろうか?」ということです。民間部門の会社などは「はい」と答えています。IOEでは、仕事の未来を人間のためにするには、ビジネスにとって繁栄的な未来の確保が必要だと信じています。

安全で明るい未来を築くのは、我々すべての手にかかっています。 雇用主、ビジネス経営者、政府、労働者、全ての人の責任で解決していかなければなりません。そのためには、雇用主や労働者の団体がさらに連携して、国連などで耳を傾けられる機会が必要です。国連で下される決定と職場への影響の関連性が、より良く理解され強化されなければなりません。IOEは、これからの100年間もILOの一部であり続け、三者間パートナーシップと共に全ての人の尊厳と繁栄のために貢献していきたいと思います。

子どもと若者のための国連メジャー・グループ代表ジョリー・アマティア氏

1919年10月29日、第一回国際労働会議の開会式でアメリカのW.B.ウィルソン労働長官は、「我々の家はあなた方の家です。入口の門で、自分はよそ者でなく我々の一部であると感じてほしい。」と言いました。過去100年で私たちは素晴らしい進展を遂げたと同時に、後退も見てきました。今日、世界の多くの国々が門を閉ざされ、「よそ者」となっています。

私たちのグループは、国連総会に指定された若者対象の国連メカニズムです。1992年のアジェンダ21の成果として発足しました。私が述べている言葉は、世界170以上の国や領土で7千以上もある若者率いるグループの声です。

ILO憲法は、「普遍的で持続的な平和は、社会的正義に基づいてこそのみ築かれる」という文で始まります。それをこだまするように、「戦争は浪費である」とウィルソン労働長官は言いました。しかし今日、世界でおよそ1.7兆ドルが軍事に費やされています。なぜなら我々の経済モデルは、大量破壊兵器の生産と人が幸せになるための道具の生産の区別ができないからです。今日の経済モデルはまた、大規模な生産性の上昇とともに増える貧しい労働者の数よりも、取締役の給料の上昇の方が有益だという見方をします。その結果、大半の人類に対する人権侵害が起こり、生活環境が破壊されています。検査や確認なしの「成長」は危険です。

そんな中、若者たちが行動を起こし始めています。即急な行動を取って現状を変えないと、ILOの200周年を迎えることさえできないと知っている人々です。人類が滅亡したら、守るべき仕事もありません。今週の第8回ECOSOCユース・フォーラムで、SDG8に関するセッションでは3つの鍵となる提言・助言を出しました。一つ目は、GDPへのこだわりを超えた人や地球に優しい経済モデルの必要性です。過剰消費からの持続可能な逆成長なども含めて、別の開発手段が必要です。二つ目は、真の意味で革新を起こすには、全ての人に包括的な民主主義社会が必要であるということです。様々な年齢層の様々なバックグランドを持つ人々が参加・協力可能である環境や政府組織が求められています。これからは、個々のリーダーよりも団結した行動が重要なのです。三つ目に、若者の信頼を失ってはいけません。若者の信頼を取り戻すことが、未来へ向かうための鍵です。

1919年の国際労働会議のアジェンダ項目の中には、失業、女性の雇用、児童労働、職場での危険な化学物質の使用禁止などがありました。100年後の現在、我々はまだ同じ問題を抱えています。我々の意思決定をガイドする方針や原則の中心に、人間性を全面に出すことが必要です。皆で一緒に公正な世界を作ることは可能です。あなた方が私たちに呼びかけるよう、私たちからもあなた方に呼びかけます。どちらにせよ、未来への前進には変わりありません。

パネル・ディスカッション

1.全ての人のためのディーセント・ワーク達成に向けて残された課題

(原題:“Addressing Unfinished Commitments to Achieve Decent Work for All”)

開会式の後には、テーマ別の二つのパネル・ディスカッションがありました。

1つ目のパネル・ディスカッションは、元ニューヨーク・タイムズ紙の労働・職場リポーターで本の著者でもあるスティーブン・グリーンハウス氏の司会で行われました。各パネリストの内容は以下にまとめました。

エルネスト・ムロ氏(ウルグアイ労働大臣)

ムロ氏は主に、小さな国ウルグアイがどのようにして、世界で最も成熟した民主主義を確立したかについて話しました。ウルグアイでは、団体交渉を通して世帯収入レベルを引き上げました。過去最高レベルの団体交渉の成果は、これまでで最も高い収入と生活条件という結果に出ています。その他に、職業トレーニング学校や行政の参加型システムなども、労働市場の厳しい現実の対応に繋がっています。この17年間で経済成長は順調に継続されており、社会的正義も良くなり、給与や年金も上がって安定しています。社会保障スキームは退職した人口全体の95%にも近づき、非公式労働における女性の参加は2012年以来大幅に減少しています。ウルグアイの確立されたポリシーの例としては、国民自身が医者を選べると同時に、国が提供するヘルスケア・パッケージもついてくるというものがあります。またウルグアイでは、多く稼いだ分だけ多く税金を払うシステムになっています。

リーマ・ナナヴァティ氏(インドのSelf-Employed Women’s Association代表)

貧困は人間の欲望の状態であるだけでなく、一種の暴力であるとナナヴァティ氏は言います。組織化は、「貧困」と「仕事の未来」という二重問題を扱うのに最も確実な道であり、仕事の安定、食料、収入、そして社会生活をもたらすフルタイム雇用こそが、人間の尊厳への道すじです。女性労働者たちが今ひとつとなって、労働市場の主流への参加の促進をしています。生産の分散と、上昇中でもある物資やサービスの流通のローカル化は、現在必要とされている労働者と環境に優しいアプローチの良い例です。そのようなモデルは、女性起業家の生活の改善にも繋がります。団体交渉を可能にするポリシーがもっと必要です。また、貧しい人々に長期にわたってフェアな機会を与える混合融資を基にした新型融資メカニズムなどが待ち望まれています。

児童労働や現代奴隷に関しては、女性がフルタイムの仕事に就けるかどうかが重要なポイントとなります。女性がフルタイムの仕事に就けないと、働き手を増やしてでも稼がなければなりません。その結果、子供が働くのです。教育はもとより、コミュニティ運営の職業トレーニング・センターや生涯教育プログラムがもっと必要なのです。その他に、児童ケア、医療ケア、銀行など、支払い可能なレベルで質の高いサービスへのアクセスが、児童労働やドメスティック・バイオレンスの減少に繋がるでしょう。

ムトゥンジ・ムドワバ氏(TZoro IBC代表)

ムドワバ氏は、責任ある事業活動の役割の重大さについて触れました。持続可能な開発目標8(SDG8)は民間企業の協力なしには達成できません。可能なビジネス環境とは、経済と政治の安定を確保し、公共施設を建て、投資を促進させ、規制による影響を定期的に評価・査定する環境です。人の尊厳を守る道義的で公正な仕事の保証とは、持続可能な事業のために適切な状態をつくることを意味しています。南アフリカを含む幾つかの国々では、生産が沈滞しています。国の開発プランには生産性に関する課題も備わっているべきで、中小事業を支援したり資本と繫げることが重要です。

ジェフリー・サック氏(コロンビア大学持続可能な開発センター所長)

環境保護と仕事の未来についての司会者からの質問に対し、「気候と仕事の間には、取引や契約は存在しません。」とサック氏は答えました。低炭素型の経済への動きなしには、我々には仕事の未来だけでなく未来そのものがありません。にもかかわらず、米大統領は未だに炭素や石油産業に再び仕事を呼び戻そうとしています。比べて、建物の補強・改造工事、ソーラー・パネルの設置、電気交通システムの開発など、再生可能エネルギーに関わる仕事の需要は伸び続けています。これからの数十年、特にアフリカなどでは、環境に優しい仕事の需要がなくなることはありません。人類を危険な方向へ戻そうとするポリシーには、全ての国が反対するよう呼びかけます。

経済成長と教育の関連性については、特にアフリカでは教育システムの改善が求められています。低いスキルや教育でもできる仕事は、もうじきなくなるでしょう。農業に自動操作やより良いシステムが導入されれば、大半の仕事にもっと高いレベルの教育が求められるようになります。これは時間との競争です。全ての人にとって普遍的なクオリティ高い教育をSDG4も呼びかけています。開発支援がもっと教育に向けられるべきですが、多くの発展国、特にアメリカは、その責任を果たしていません。

 

2.仕事の未来を形づくる~(原題:Shaping the Future of Work

2つ目のパネル・ディスカッションは、CNNインターナショナルのゼイン・アシャー氏の司会で行われました。各パネリストの話した内容は以下に要約しました。

アニケン・ホウグリー氏(ノルウェー労働大臣)

ノルウェー国内の労働力部門の協力は、民間の健全な環境に基づいています。挑戦が多い中で、「社会的ダイアログ」と「信用」の重要さを認識することは欠かせません。これら二つの要素が民間部門と公共部門それぞれにおいて、或いは民間・公共部門の間で保たれ、更新されなければなりません。ノルウェイは、人口知能(AI)が労働力にどのように影響するかについて研究しています。全ての人が尊厳のある道義的で公正な仕事へのアクセスがなければなりません。人々と政府の間の社会契約において、職場への包括は重要な部分です。

アンヘル・グリア氏(経済協力開発機構OECD事務総長)

現在ある仕事の14%が、近いうちに自動操作に取って代わられ、失われるリスクに晒されています。その他の32%の職場が、デジタル革新によって崩壊あるいは混乱する恐れがあります。女性や少女たちが科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学の部門で占める割合はまだまだ少なく、それは革新によって取り残されやすいことを意味しています。中流階級の労働者の6人に1人が、自動操作によるリスクの上に置かれています。現存する仕事を守るためには、どのように団体交渉をしたら良いのかも問われています。デジタル革新による職場の崩壊・混乱を未然に防ぐためには、防止策や早期介入などの対策が必要です。EU加盟国28ヶ国のうち6つの国では、自営業者はその他の就業者と同じ保証が受けられます。

ロブ・エカー氏(Salesforce.org最高経営責任者)

全ての人は、必要なスキルを身につけて成長する能力を持つべきです。職場は変化してきています。我が社の従業員は、ボランティアをするために1年で7日有給で休むことができます。現在の子供たちが将来就く仕事の65%は、今日まだ存在さえしていません。目的を即急に定めなおし、多分野にわたるパートナーシップを築くことが必要です。特に、スキルの溝を埋める上での教育機関の役割は重要です。トレーニングやスキルアップは常に欠かせないものとなり、全ての人が良質な教育へのアクセスを持つべきです。科学、テクノロジー、エンジニアリング、数学などの部門は重要ですが、それらが全てではありません。根本的に教育は、仲間の人間と生産的に働くスキルを人に身につけさせるものでなくてはなりません。

ウィニー・ビヤニマ氏(Oxfam最高経営責任者)

ビヤニマ氏は、世界中の労働者の無数の苦労を代弁しました。アメリカの精肉工場で、トイレ休憩が許されない女性労働者らがオムツを着ける例も挙げられました。「これらの女性を“取り残されている”と言うだけでは、言葉が足りなすぎます。」とビヤニマ氏は言います。上層のほんの一握りの人々の富のために、底辺で大勢の人々が酷い搾取と苦しみの犠牲となっている現実。この経済モデルは失敗です。市場の代わりに各国政府が運転席を占めて、世の中を平等化する主要力にならなければいけません。

我々はまだ、極度の資本主義への疑問に挑戦するまでに至っていません。2018年、全米最大の会社は日に30億ドルを株主に払いました。これは例えば、4万ドルのボーナスを2800万人の従業員に払うこともできる額です。

ローラ・リパニ氏(米州開発銀行IDB労働市場部プリンシパル・スペシャリスト)

現在小学生の子どもたちが将来就く仕事がまだ存在しないのなら、未来の労働力はどのような構成で形成されるのか考えることは重要です。楽天的かもしれませんが、人の才能は、歳月を超えてもテクノロジーの変化を通っても、常に妥当であり続けると思います。

デジタル経済に関ですが、オンライン・プラットフォームで働く大勢の人たちは搾取から守られていません。これらの労働者の人権と尊厳を守る新しい規制が国際レベルで求められています。また、従来の職場に長年存在したジェンダー・バイアスは、デジタル労働の世界にも存在しています。そんな反面、労働のデジタル化によって人々は9時から5時という時間帯に縛られず通勤もなくなるので、環境にとっては良い影響かもしれません。

その他

  • 今回のパネル・ディスカッションのまとめは、6月の国際労働会議と7月のハイレベル政治フォーラムに向けてリリースされる予定です。
  • 今回のイベントのコンセプト・ノートは以下からご覧になれます。https://www.un.org/pga/73/event/the-future-of-work/