日本NGO共同声明
2015年6月25日
カンボジア「結社及びNGOに関する法案」の抜本的修正を求める声明
現在、カンボジアでは「結社およびNGOに関する法案」(以下、同法案)が国民議会で審議されており、早ければ6月中には同法案が承認される可能性がある。同法案が通過した場合、義務的登録制度により、カンボジアで活動するすべての国内・海外市民団体、NGOの登録が義務付けられ、未登録の団体による活動はすべて違法となり、過料の対象となる。国内団体の義務的登録制度の権限は内務省に属し、内務省が政治的な理由に基づいて登録を却下することも可能であり、海外市民団体の登録も外務・国際協力省のもとに厳格に規制される。
このような制度は草の根の市民団体の結社の自由に著しく影響を与えることが懸念される。
私たちは、同法案が、カンボジア憲法、及びカンボジアが締約国となっている「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下、自由権規約)に基づく結社、表現、集会の自由の保障などの義務に反するものであることに懸念を有し、カンボジア政府に対し、同法案について、国際社会・市民団体と十分なダイアローグを持ち、同法案を国際人権基準に沿って修正することを要請する。
私たちが6月半ばに入手した同法案に基づき、私たちが懸念するのは以下の点である。
1)過度な制裁
未登録の国内結社及びNGOのカンボジアでの一切の活動を禁止する第9条は、自由権規約第22条で定められる結社の自由を制限する。また、結社およびNGOを定義する第4条は、その定義が非常に広義で包括的であり、集会、草の根活動レベルの団体や市民団体も登録を義務付けられる可能性を含む。さらに、同法案は未登録団体の活動に対し過度な制裁を課しており、結社・NGOの活動の妨げとなる可能性がある。具体的には、第32条は、未登録の国内結社・NGOが活動した場合に、最大1000万リエルの過料の対象となるとする。さらに第33条は、財務報告義務(第17条、第25条パラグラフ3)、政治的中立性(第24条)に反する海外結社・NGOのMOU停止,第34条は、未登録またはMOU停止された海外NGO・結社に対する、緊急活動停止措置、また、そのような団体で活動する個人(外国人)の国外退去、刑事制裁などの制裁を含む。
2)政府に過度な監督権限、結社・NGO活動制限に関する自由裁量権を与える
また、第8条は、内務省に登録判断の権限を与え、内務省は、結社またはNGOが「平和・安定・公の秩序を脅かし、または国家の安全・統一・文化・伝統・習慣を損なう」場合に、その結社・団体の登録を拒否することができると規定するが、その内容は明確でなく、主観的な判断の余地を与え恣意的な登録拒否が行われる危険性がある。さらに、第24条は、国内・海外NGO及び、海外結社に対し、「政治的中立性」の義務を課すが、「政治的中立性」の定義は不明確であり、政府は政治的中立性を理由に、政府に不利な報告や批判をした団体の登録を取り消すことによって団体による活動を停止させることが可能である。同様に、第30条は国内NGOが政治的中立性及び財務報告義務を違反した場合、及び、「平和・安定・公の秩序を脅かし、または国家の安全・統一・文化・伝統・習慣を損なう」活動をしている場合に、内務省が国内NGO及び結社の登録を削除できるとする。
さらに、第5条は、登録を取り消しされた結社・団体の主導的な役割を務めたことがある者が新しい結社・団体を設立することを禁止しているが、この”主導的な役割”との表現は不明確であり、政府がこの条項に基づいて、政府に批判的な個人の活動を制限する危険性がある。さらに、同法案は新しい活動及び財務状況に関する厳しい報告義務、財務、支援者に関する情報、口座情報提供など、結社・NGOに対し必要以上に厳しい報告義務を課している。
これらの条項は、カンボジア政府に、国内・海外NGO、結社、市民団体の活動に対する過度な裁量を与えるとともに、明確な定義がないことから、恣意的・政治的な理由で政府が活動を停止させる危険性をはらんでおり、自由権規約第22条に基づく結社、表現、集会の自由を損なうものである。
3) カンボジア憲法・民法との矛盾
同法案は、カンボジア国内法と矛盾する。日本がODAで支援して成立したカンボジア民法には非営利法人の規定があるが、法案はこれと矛盾するものと思われるところ、民法が企図した自由で民主的な市民社会の発展が阻害される可能性がある。何より、同法案によるNGO規制は、結社の自由を保障するカンボジア憲法42条に対する過度な制約に該当する。
よって、私たちは以下のことを求める。
1)カンボジア政府に対し、
・同法案の正式な条文をすべて、一般に公開すること
・現行法案をいったん取り下げ、自由権規約22条などの国際人権基準に基づいて同法案を抜本
的に修正すること
・法案については、影響を受けるカンボジア国内の市民社会および広く国際社会との間で、十分かつ適切なダイアローグを行うこと
・カンボジア国民議会での審議にあたっては、公聴会を開催するなど市民社会・団体の声を取り入れること
2)日本政府及び国際社会に対し、
カンボジアにおける国内・海外の結社、NGO、市民団体の活動の自由を著しく侵害する危険のある同法案につき、国際人権基準にそって必要な修正を行い、法案について国際社会・市民社会との協議をするよう、カンボジア政府に働きかけること
<賛同団体>
認定NPO法人 ヒューマンライツ・ナウ
カンボジア市民フォーラム
特定非営利活動法人 国際子ども権利センター
動く→動かす (GCAP Japan)
以上