タイ声明和訳.pdf [PDF]
1. 東京を本拠とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、5月のクーデター以降のタイにおける人権状況を強く懸念している。2014年5月22日に軍事クーデターにより政権を掌握したのち、プラユット・チャンオチャ将軍は自身が直接任命した立法府により選出されるというかたちでその権力を強化した。
7月後半に採択された暫定憲法は、国家平和秩序協議会(NCPO)に国の統制に関して広範かつ抑制のない権力を与えている。特に、新憲法の44条は軍事政権に、タイの人々の人権、特に表現の自由を抑圧できる過度の権力を与えている。また暫定憲法は、過去3年以内に政治的活動歴のある者に対し、国家立法議会をはじめ重要な機関の一員となるための適格性を制限している。11月4日時点で、36名からなる委員会が新しい恒久憲法の起草のために選出された。その恒久憲法は、これまでに追放された政治家、すなわち失脚したシナワトラ首相とその支持者たちを将来の選挙に一切出馬できないようにするものと見込まれている。プラユット・チャンオチャ将軍は、憲法の起草に関して国民の参加を望むと発言していたが、草案が完成した段階で一度も国民投票の可能性について言及したことはない。
さらに、将軍からは人々の自由を脅かすような声明が度々発表されてきた。例えば、公示29/2557は当局による広範な恣意的拘束を可能にするものであり、8月の第1週の時点で、570人もの召喚、少なくとも235人の逮捕に繋がっている。また、公示14/2557(紛争の扇動と国家平和治安維持委員会(NPOMC)の機能への反対の禁止)や、公示18/2557(公共への情報とニュースの流布)、公示49/2557(政治的集会への支持することに関する罪)などの抑圧的な指令は、活動家や人権擁護者の活動やキャンペーンを一貫して妨げるものである。
2. 以上に述べたような指令の結果、人権活動家に対する嫌がらせの報告が増加した。懸念をもたらした最近の事案では、2014年8月24日に2名の代表的な人権活動家、ポルンペン・コンカチョンキエット氏とソムチャイ・ホムラオ氏(両氏はそれぞれクロスカルチュラル・ファウンデーション(CrCF)の理事と委員長である)が、5月に書いた公開書簡に関して捜査令状を受け取った。書簡で両氏は、4月に軍人によって逮捕された男性に対する拷問の疑惑について指摘していた。その後、両氏とCrCFは書簡が軍の第41タスクフォースの評判を損なうことを目的として書かれたとして責任を問われた。CrCFは、正義を求める拷問の被害者の代弁をはじめ、タイにおける人権の保護と促進の活動で知られている。このケースはそのような正当な行動を鎮圧しようとするもの以外のなにものでもなく、他の人権活動家が同様の行動をとることを抑制するものである。さらに、2014年9月17日には、講義をした学者4名と学生団体を設立した学生3名が当局に逮捕され、嫌がらせを受けた。
3. もう一つの懸念は、大逆罪関係のケースの増加である。これは王族への不敬の罪で、刑法に処罰が規定されており、控訴の機会が与えられることなく軍事裁判にかけられる。11月14日時点で、政治的事案で起訴された人の数はクーデター後83名にものぼっている。政治的逮捕に関する他のケースに関しては、告訴なしの拘留が大きな問題になっている。現行法では、当局者は容疑者を12日間、最大7回まで、合計で84日間拘留できる。ほぼ全てのケースで当局者は、「捜査がまだ終わっていない」や「追加で証人の尋問をしなければならない」などの理由で、84日間の拘留を求めた。さらに戒厳令の下で、令状なしに秘密の場所で7日間の行政拘禁が可能であり、弁護士をつける権利と家族訪問の権利はこれを両方認めない。当局によるこのような恣意的行為と著しく厳しい刑罰は、タイにおける表現の自由への深刻な脅威となっている。最近では、6名の学生を含む人々が、タイの軍事支配反対の非公式なシンボルである三本指の敬礼を行ったとして拘禁された。これは国連人権理事会東南アジア支部の現地代表から「人権侵害の憂慮すべきパターンの最新の実例であり、批判的、独立的な声を抑圧する影響がある」と非難された。
4. 上記の状況に対し、拷問禁止委員会は、2014年6月にタイ国首相に対して「(a)人権保護活動家、ジャーナリスト、地域社会の指導者に対する攻撃や妨害を即座に止める」ように勧告した。近年、上記のようなタイ国における大逆罪に対する起訴及び厳しい判決に対して国連人権高等弁務官も強い懸念を表明している。タイ国政府は、市民的および政治的権利に関する国際規約(ICCPR)の締結国として第19条によって保護されている表現の自由に関する権利を確保する法的責任がある。タイの軍が指揮している動きは、人権活動家に関する国連宣言の第1条を含む国際的に認めれた規範によって保護されている人権及び自由を確保する義務に明らかに違反している。
5. よって、HRNは軍に下記のことを要求する。
-表現の自由が確保されるべき活動家たちへの嫌がらせのための権力の乱用を中止すること
– コンカチョンキエット氏とホムラオ氏に対する法的措置を即座に取り下げること
— 政治犯に対する適正手続を確保し、容疑なく拘留しないこと
— 総理大臣選挙について合法的な一般選挙及び新憲法に対する国民投票制度を確保し、民主的ルールが継続できるようにすること
— 違法な殺人行為を行った者を特定し起訴すること
— すべての人の人権を尊重し、上記の国際人権法に基づく義務を遵守すること