【声明】リビアに関する欧米諸国等の軍事行動についての声明

1 2011年3月17日、国連安全保障理事会決議はリビアに関する決議1973を賛成10、棄権5(中国、ブラジル、ロシア、ドイツ、インド)で採択した。

  同決議は、まずリビア当局に対し、直ちに停戦し、市民への暴力行為をやめること、国際法、とりわけ国際人権・人道・難民法上の義務に従うこと、人道支援の即時且つ支障のない通過を確保するための措置をとることを求めている。

  そして、リビアにおける市民を保護するために、事務総長に告知をした国連加盟国が「すべての必要な手段」を取ることを承認し(Para4)、市民を保護するためにリビア上空に飛行禁止区域を設定(para6)するとし、飛行禁止区域の遵守を確保するために再び、国連事務総長及びアラブ連盟の事務局長に告知をした国連加盟国が「すべての必要な手段」を取ることを承認するとしている(para8)。

  リビア指導者は、安保理決議採択直後に停戦等のすべての勧告を受け入れることを表明したものの、市民に対する暴力行為を停止せず、こうした状況下で、欧米諸国等は軍事行動を開始した。一部報道によれば、多国籍軍の攻撃により民間人及び民間施設の犠牲が生じたとされる。

 

2 ヒューマンライツ・ナウは、リビア政権による重大な人権侵害を非難するとともにその即時停止を求めてきた。しかしながら、その人権侵害の停止および停戦が実現されないまま、リビア政府と反政府勢力による内戦に加えて、リビア政府側に対する多国籍軍による軍事作戦が開始される事態となった。

  ヒューマンライツ・ナウは、こうした事態の推移によって、市民に対する国際人権・人道法違反、人々の生命に対する権利の侵害、人道状況のさらなる危機がもたらされる可能性について深刻な懸念を表明する。

  国連安保理の討議において、インド、ドイツ、ブラジルは、紛争の平和的解決を強調し、軍事介入による不測の結果を警告した。また、中国、ロシアの国連代表は「紛争の平和的解決を優先すべきである」とし、提案された安保理決議では「誰がどのように決議を実施するのか、その実施にはいかなる限定が付されているのか」について疑問があるとした。

  今回の安保理決議は「すべての必要な手段」として、軍事行動も含む行為を国連加盟国からなる多国籍軍に授権するもので、平和的解決のための努力をどこまで尽くした段階で軍事行動を選択するのか、誰が軍事介入に加わりその指揮権の所在はどこにあるのかは明確でなく、作戦の時期と手段に関する限定が付されていない。ひとたび安保理決議が採択されれば、時期、手段、指揮系統、軍事作戦の選択について、広範な権限が多国籍軍に包括的に授権され、国連のコントロール権限は不明確である。事実、1973決議に賛成した国を含む国連加盟国の多くは、決議の具体的な実行過程から排除されている。国連としての監督責任・アカウンタビリティの所在は曖昧である。ヒューマンライツ・ナウは、このような安全保障理事会決議のあり方については、今後の十分な検証と再検討が必要であると考える。

 

3 ヒューマンライツ・ナウは、リビアに関するすべての紛争当事者に対し、その国際法上の義務の順守を強く求める。

  そもそも、 決議1973は、「市民を保護する」ことが「すべての必要な手段」を取る目的だとしており、この目的を逸脱して市民を攻撃することは許されない。

  決議には、多国籍軍に国際人権法・人道法・刑事法の遵守を求める文言がないものの、軍事介入に参加するいかなる国もこれらの法律を遵守する義務があるのは言うまでもなく、リビア政府、反政府勢力のみならず、多国籍軍も、国際人権法・人道法・刑事法の義務を完全に履行しなければならない。

  軍事行動の標的は軍事施設やその他の軍事目標に絞られなくてはならず、民間人を標的にする攻撃は違法である。そして、すべての紛争当事者には、民間人被害を避けるための実行可能なすべての予防措置を講じる義務がある。

  1973決議に先立つ1970号決議は「2011年2月15日以降のリビアに関する事態を国際刑事裁判所の検察官に付託する」(para4)としている一方、「国際刑事裁判所のローマ規程の当事国でないリビア以外の国からの国民・・(中略)・・は、安保理により立証されたか認められたリビアにおける活動から生じたかまたは関係した全ての申し立てられた作為または不作為に対し、当該国の排他的管轄権に従うものとすることを決定する」(para5)とされているが、決議1973に基づく軍事作戦への参加を国連事務総長に通知している12ヶ国のうち、米国、アラブ首長国連邦、カタール、ウクライナを除くすべての国がICC規程の締約国であるから当然にICCの管轄下にあり、ICC非加盟国4カ国を含めた全ての国が、戦争犯罪に関与した自国軍の兵士を訴追する国際法上の義務を負っている。

 

4 最後に、ヒューマンライツ・ナウは、紛争の平和的解決および人権尊重という、国連憲章第1条が掲げる国連本来の目的に立ち返り、国連がリビアにおける紛争と人権問題を平和的に解決するために、その役割を最大限果たすよう求め、そのための加盟国の外交努力を引き続き求める。