「パキスタンにおける人権の守り手たちの即時解放と法の支配の回復を求める」
ヒューマンライツ・ナウ声明
2007年12月6日
11月3日、パキスタンのムシャラフ大統領は、陸軍参謀長名で、パキスタン全土に非常事態宣言を発して憲法の効力停止を命じ、臨時憲法令を公布した。 憲法の停止は、生命に対する権利・身体の自由・集会結社の自由・言論の自由・弁護人選任権その他の逮捕・勾留に伴う法的権利などの停止を含んでいる。ま た、裁判所は大統領、首相、大統領の指名した当局に反する判決命令等を行うことができないとされた。
それ以降、500名を超える法律家や人権の守り手たちが逮捕され、拘束されている。チョードリー最高裁長官を含む14名の最高裁判事が解任され、そ のうちの多くが自宅軟禁とされているほか、国連の信仰・信条の自由に関する特別報告者、最高裁弁護士会会長、人権委員会の委員、パキスタン弁護士会の前 副会長を含む多数の法律家たちが拘束されている。拘束された者たちは、恣意的逮捕・拘禁に加えて、デュープロセスの否定、弁護人・医療関係者をふくむ面 会の否定などの基本的人権が侵害された状態にあり、拷問や非人道的取扱いの危険にさらされている。 ムシャラフ大統領は、11月28日に、陸軍参謀長を離任、29日には今後5年間にむけた大統領としての就任宣誓を行い、総選挙実施を表明したが、チョー ドリー長官を含む判事たちは以前軟禁状態にあり、多くの法律家は拘束されたままである。
非常事態宣言はパキスタン憲法そのものに違反する疑いが強い。また、パキスタン憲法の現在の効力の有無にかかわらず、パキスタン政府の上記基本的 人権の侵害行為は、パキスタンが国際法上負う義務に抵触するものである。 拷問や恣意的拘禁をしてはならないと定める世界人権宣言は国際慣習法であり、パキスタン政府がこれに違反することは許されない。
国連「司法の独立に関する基本原則」( 国連総会決議40/32, 40/146 1985年)は、すべての政府機関は、司法の独立を尊重する義務を負 う、とする。行政府の意に沿わない最高裁長官を解任し、軟禁状態に置き、実力によって行政府の判断に反する司法判断を阻止する行為は、司法の独立を踏み にじるものであり、法の支配を否定するもので許されない。
また、国連「国連法律家の役割に関する基本原則」(第8回国連犯罪防止会議で採択 1990年)は、法律家は、表現の自由・集会結社の自由を保障され、 とりわけ法律や司法の運営、基本的人権保護・促進に関する公的な議論に参加する権利を保障されなければならない、としている。さらに、同原則は、法律家 が専門職としての役割を脅迫や妨害を受けずに行いうるよう政府が保障しなければならない、と定める。 第53回国連総会で採択されたいわゆる「人権擁護者宣言」は、人権を保護・促進するために、平和的に集会をし、非政府組織に参加し、人権と基本的自由に 関する情報を得て議論することを保障しており、人権擁護のための諸活動についていかなる暴力や脅迫等を受けないことを政府が保障すべきことを定めてい る。
パキスタン政府はこれらの確立された国際人権基準を尊重しなければならず、司法の独立を回復し、法律家の恣意的拘禁、拷問・非人道的取扱いをただちにや めなければならない。
よって、ヒューマンライツ・ナウはパキスタン政府に対して以下のように要望する。
1 直ちに非常事態宣言を撤回し、パキスタン憲法の施行を回復すること
2 非常事態宣言下で拘束されたすべての法律家、野党政治家、報道関係者を釈放すること 拘禁者について、弁護人・医療関係者等への面会を認め、直ちに裁判所に拘禁の適否を判断するため引致するほか、拷問やその他非人道的取扱いがおこらない ようにすること 4 被拘禁者について、適切な補償がなされるべきこと
3 すべての国連特別報告者のパキスタンにおける活動を保障し、とりわけ、人権擁護者に関する特別報告者に対する逮捕状を撤回すること
ヒューマンライツ・ナウは、日本政府が、パキスタン政府に対する主要援助国であることに鑑み、人権と法の支配の回復に積極的役割を果たすべきである と考え、日本政府に対し以下のように要望する。
1 パキスタンにおける法の支配の否定について、強い懸念を表明すること
2 非常事態宣言を直ちに解除し、パキスタン憲法の施行を回復するようにパキスタン政府に要望すること
3 非常事態宣言が解除され、非常事態宣言下で拘束された法律家、野党政治家、報道関係者が釈放され、報道統制が解除されるまで、新規円借款、緊急・人 道的性格の援助を除く無償支援を停止し、国際金融機関による対パキスタン融資に対して慎重に対応すること
4 人権理事会理事国として、次期人権理事会において、人権と法の支配の回復を求める問題提起を公に行うとともに、国連特別報告者のパキスタンにおける 自由な活動を保障するようパキスタン政府に強く求めること。
(*声明英語版は、追ってアップします)