【声明】オバマ新政権の誕生にあたり、日本の人権NGOから要望すること-米国そして世界における人権と正義の回復に期待して-(2009/1/20)

2009年1月20日、第44代アメリカ大統領として、バラック・オバマが就任する。
東京を拠点とする国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は、オバマ新政権が8年に及ぶブッシュ政権の「対テロ戦争」名下の人権侵害政策から明確に脱却し、世界において平和、基本的人権の尊重などの価値を実現する立場に立つことを期待する。
ブッシュ政権下では、対テロ戦争の名の下、重大な国際人権・人道法違反が行われ、これら人権侵害行為が処罰されないまま放置されてきた。オバマ新政権はこれらの人権侵害を免罪することなく、責任の所在を明らかにし、正義の実現を図っていくよう要請する。

1 グアンタナモ基地の速やかな閉鎖を
グアンタナモ基地収容所では、「テロリスト容疑者」に対する過酷な拷問、虐待を使用した拷問が広く行われ、無期限拘禁、裁判を受ける権利の否定など、人権侵害の温床となってきた。
HRNは、オバマ次期大統領がこのグアンタナモ基地収容所の閉鎖方針を打ち出し、政権下では拷問を行わないと表明したことを歓迎する。新政権は、この公約を守り、新政権の最初の重要課題として取り組むべきである。速やかに閉鎖のタイムスケジュールを策定し、これを公表するよう要請する。
閉鎖に際し、被収容者のうち、米国法上の犯罪の容疑が証拠上明らかな事案については、連邦裁判所に訴追し、適正手続・公正な裁判を受ける権利を保障すべきであり、それ以外の者はただちに釈放されるべきである。拷問禁止条約の締約国として、帰国後に迫害・拷問が予測される母国への送還を強制的に行うことは厳に行わないよう要請する。
2 すべての秘密収容所の閉鎖を
米国が、グアンタナモ収容所以外にも世界中に秘密収容所を置いていることはすでに明らかになっている。新政権は、全ての秘密収容所の所在と被収容者の身元、収容状況を公開すべきであり、これら施設についても、ただちに閉鎖すべきである。そして、これら施設においても、容疑の明白でない者は即刻釈放しなければならない。
3 対テロ戦争下での人権侵害のすべての責任追及を
9.11テロ事件以後、米国は国際人権・人道法に対する重大な違反行為を行ってきた。
イラク、アフガニスタンでは、多くの罪のない市民の人命が犠牲になっている。2003年のイラク侵略後、幾多の民間人、民間施設が攻撃され、劣化ウラン弾、白燐弾などの残虐兵器が使用され、そのいくつかは明らかに戦争犯罪を構成する。国際連合イラク支援ミッション(UNAMI)の2007年10月発表の報告書は「多国籍軍による不法な殺害についての信頼できる申立てをすべて、徹底的に迅速かつ公平に調査しなくてはならない。過度のあるいは無差別の武力を用いたと認められる隊員に、適切な処分を下すべきである」と明言し、多国籍軍による民間人殺害を告発しているが、何らの訴追もされていない。
グアンタナモ、アブ・グレイブ、そして世界の秘密収容所における拷問は、ジュネーブ条約に明らかに違反する戦争犯罪である。昨年12月、米上院軍事委員会が発表した報告書は、被収容者に対する拷問・虐待は、末端の兵士の服務規律違反ではなく、ラムズフェルド元国防長官ほか軍上層部によって推進されたものだと結論づけている。こうした前政権中枢の戦争犯罪行為の責任は追及されなければならない。
新政権は、対テロ戦争に関連してなされた全ての戦争犯罪について、独立した調査委員会を設置し、真相と責任の所在を明らかにし、戦争犯罪に関与した高官を訴追し、被害者に謝罪・補償すべきである。
そして、対テロ戦争のもとで人権侵害を再発させないための再発防止策を策定し、周知徹底することを提案する。HRNは、新政権下での軍事作戦の拡大が明言されているアフガニスタンにおいて、とりわけ重大な懸念を表明する。

4 国際刑事裁判所への加盟を
また、我々は、オバマ新政権が国際刑事裁判所(ICC)へ加盟することを要請する。国際刑事裁判所は、深刻な人権侵害を伴う犯罪について個人の刑事責任追及するために創設された史上初の常設の刑事裁判所であり、国際社会に正義の実現と法の支配を定着させるために必要不可欠な機関である。現在では、世界で108カ国が参加している。米国が加入することは、戦争犯罪を行わないという最大の証である。さらに進んで、国際社会で最も重大な犯罪が地域・国籍等を問わず真に公正に裁かれる現実をつくりだすことでICCの普遍的正統性を確立することに米国が貢献することを期待する。
5 安全保障理事会における対応
オバマ新政権は、重大な人権侵害、侵略行為がある場合、国際社会が平和と安定、人権の回復のために一致した行動をとるにあたって、障害とならないよう要請する。 とりわけ、イスラエルのパレスティナに対する軍事行動などへの国連安保理決議に対し、米国はしばしば拒否権を発動するなど消極的な態度を取ってきた。その結果、戦争犯罪・人権侵害が一層深刻なものとなる例も少なくない。新政権には、正義に反する拒否権の発動を差し控えるよう要請する。

最後に
この8年間、ブッシュ政権は、対テロ戦争の名の下に、世界を「善か」「悪か」に切り分け、国際社会を分断した。
特に、欧米とイスラム諸国との相互不信は深刻なものであると言わなくてはならない。HRNは、アフリカ系アメリカ人として初の大統領となるオバマ新大統領に、正義と公正の実現を求めるとともに、分断された国際社会を寛容で全ての人が差別なく尊重される世界へと再構築していく役割を果たすことを期待する。
以上