【国際人権先例・CEDAW】2005/No10 英国

Ms. N.S.F. v. The United Kingdom of Great Britain and N. Ireland

通報    

21/09/2005

非許容決定日

30/05/2007

通報番

No.10/2005

見解全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views/htm

手続上の論点 

国内的救済措置が尽くされているかどうか(OP41項)、他の国際的調査に基づいて審議された事案(OP4条第2項(a))、明白に根拠を欠いているかまたは十分に立証されていない通報(OP4条第2項(c

実体上の論点

ドメスティック・バイオレンスの被害にあう危険性のある女性を本国に送還することによる女性の権利の侵害(特定の条文は示されていない)

通報者の主張

 通報者は、イギリスによる難民資格の認定を希望しているパキスタン人女性。通報者は、20031月、元夫(1996年に結婚、2002年離婚)からの暴力と殺害の危険から逃れるために息子2人とともにパキスタンからイギリスに入国。入国時に難民資格認定を申請したが却下された。

 これに対し通報者は、送還されればパキスタン人女性という社会的身分により迫害を受ける可能性があること、パキスタン政府は十分な保護を提供してこなかったこと、国内では元夫の暴力から逃れる合理的な方法がないことから、通報者の送還は、難民条約および人権と基本的自由に関する欧州条約に違反するとして、内務省に対し仮滞在不許可に対する不服申立てを提出したが、20044月に却下された。その後、通報者が提出した控訴許可申請(出入国控訴裁判所)、高等裁判所に対する見直し請求もともに退けられた。20051月には、内務省に対し、人道的見地から滞在を許可する裁量的許可(discretionary leave)または一時的保護を求めたが、同年2月、出入国・国籍委員会(Immigration and Nationality Directorate)から、通報者にこれ以上の申立てをする権利はなく、直ちに出国の準備をすることという書面を受取った。

同年9月、通報者は、欧州人権裁判所に対し、イギリスによる欧州条約第3条(拷問の禁止)、第8条(プライバシーおよび家族生活を尊重される権利)違反について提訴したが、違反に相当する事実は認められないとして不受理となった。20065月、イギリス内務省は、人道的見地による裁量許可の申請を却下し、直ちに出国の準備をすること、従わない場合にはパキスタンに送還する旨を通知した。

通報者は、パキスタンに送還された場合、元夫により自分自身の生命と2人の息子の将来及び教育が危険にさらされると訴え、イギリスに居住することを望んでいる。また、通報者が送還される際には、子どもをイギリスに残す意思であると表明している。女性差別委員会は、通報者の申出に基づき、200638日、イギリス政府に対し、暫定的な保護措置として本事案検討中は通報者と子どもを送還しないよう求めた。

当事国の主張

1) 通報者は、20065月の内務省による決定に対して、高等裁判所による司法審査(judicial review)を要求する許可を求めることができる。これまで、国内機関及び裁判所は、今回の決定が性に基づく差別に当たるという趣旨での申立てを受けておらず、このような趣旨に基づいて、内務省に対する司法審査の許可を要請すべきである。また、通報者は、女性差別撤廃委員会に申立てを提出するに当たっては、本条約のどの権利が侵害されているのかを明記すべきである。

2) 本事案は、ヨーロッパ人権裁判所ですでに審査された事案と同一の事案である。

3) 通報者は、当該締約国による条約違反について、法的根拠を示していない。通報者の本国における権利の侵害と当該締約国の関係や、イギリスおよび欧州人権裁判所の判断を覆すための新たな事実も提示していない。通報は十分に立証されておらず、明白に根拠を欠いている。

以上により、本事案は不受理とすべきである。

委員会の決定

1)      通報者による通報は、ドメスティック・バイオレンスの恐怖のために本国を脱出した女性がしばしば置かれる状況を示している。また、当委員会の一般的勧告No.19は、性に基づく、女性に対する暴力は条約第1条の差別に当たると述べている。

2)      当該締約国が主張するように、通報者は、高等裁判所による司法的見直しを求める許可申請という可能性を追求していない。また、通報者は、国内手続において本事案が性差別であるという主張をしておらず、当該締約国は、そのような主張が提出されればこれを検討する必要があると考えていることから、委員会としては、通報者は、この救済措置を追及するべきであると考える。

よって、本事案については、選択議定書第4条第1項により不受理とする。