【国際人権先例・CCPR】2004/No.1331 スリランカ

Ms.Susila Malani Dahanayake and 41 other Sri Lankan citizens (represented by the NGO ” International Public Interest Defenders” ) v Sri Lanka

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

21/11/2004

25/07/2006

14/09/2006

No.1331/2004

 全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/15662e139d9424a9c12571f00046aaca?Opendocument

手続上の論点

国内的救済手段を尽くしていないこと(OP52(a))、一応の証明(OP2条)、「被害者」の概念(OP1条)

実体上の論点

生命に対する権利(第6条)、平等原則(第26条)、情報を受け取る権利(192)

通報者の主張

 1990年代半ば、コロンボとスリランカ南部を結ぶ高速道路建計画が持ち上がり、環境影響調査を実施の上、建設ルートが承認された。当初の計画では通報者らの不動産は建設計画地をはずれていたが、その後ルートが大幅に変更された結果、通報者らの不動産も収用の対象となった。にもかかわらず、通報者らには、建設計画の変更に関する公的通知も聴聞の機会も与えられず、20028月、当局職員が武装警察官を伴って通報者らの不動産に侵入して調査を断行した。通報者らは、控訴裁判所に計画の変更決定の破棄を求めて提訴したところ、控訴審では敗訴したが、最高裁は、本件手続きが通報者らの基本的人権を侵害していることを認めた。しかし最高裁は、通報者らに対する補償を命じただけで、工事自体の差し止めは命じなかった。通報者らは、工事の差し止め以外に適切な補償はありえないとして補償金を受領しなかったが、20051月、ルート上に残っている家屋等の撤去工事が開始され、通報者らの不動産への立ち入り調査が実施された。そこで通報者らは、国内的救済措置は尽くされたとして委員会に通報した。通報者の主張は以下のとおりである。

① 通知や聴聞の機会が与えられなかったこと、最高裁が手続違反を認めながら補償しか命じなかったことは、平等原則を定める第26条に違反する。

② 第6条の「生命に対する権利」は、「健康的な環境で生きる権利」を含むより広い意味で定義されるべきところ、環境影響調査もなく、聴聞の機会も与えられなかったことは、通報者らの「健康的な環境で生きる権利」を侵害している。

③ 移住に関する通知がなく、環境影響調査も行われなかった結果、環境上の影響に関する情報が与えられなかったことは、情報を受け取る権利を規定する第19条第2項に違反する。

当事国の主張

1) 受理可能性について

 最高裁は基本的人権の侵害を認めたが、通報者らが自らこの点の主張をしなったため、政府に、この点に関する反論の機会が与えられなかった。また、通報者らは国家人権委員会にも救済を求めているが、その決定はまだ出ていない。よって、通報者らは国内的救済手段を尽くしていない。更に、本件に関して、「アジア開発銀行」の調査が行われている点は、選択的議定書第5条第2(a)に抵触する。

2) 本案について

① 南部開発計画はスリランカの発展にとって極めて重要であり、多くの住民が支持している。控訴裁判所も最高裁も、各利害関係人の主張に配慮した上で、本計画がスリランカ国民全体に多大な利益をもたらすことを認め、工事の続行を決定している。

② 計画の見直しは環境上の負荷を軽減するためのもので、従前の計画の範囲内であるから、追加の環境影響調査や聴聞の必要はない。

③ 訴訟提起の段階で工事は相当程度進行しており、ルート変更は不可能だった。

④ 最高裁は、工事の差し止めではなく、補償の提供が適切かつ公平であると判断したのであり、政府としてはこの判断を尊重しなければならない。

委員会の決定

1.受理可能性について

 スリランカの最高裁で審理された際、基本的人権の侵害に関する主張も出されていることから、国内的救済手段は尽くされている。また、アジア開発銀行への調査申立は、本規約上の権利侵害に対するものではないから、同機関における手続きは、選択的議定書第5条第2(a)が規定する手続きには当たらない。

 しかしながら、第6条違反に関する通報者らの主張は「一応の証明」がなされておらず、選択的議定書第2条の要件を満たしていない。また、通報者らが受けた扱いが平等原則に違反するとしても、通報者らは、財産の収用に対する補償に加えて、手続上の違反に対する補償も与えられているから、通報者らを、選択的議定書第1条が定める「被害者」と看做すことはできない。この点は、19条第2項違反の有無についても同様である。以上により、本通報は受理可能性を有しない。

22名の委員による個別意見

 救済措置を受けている通報者らが「被害者」とは言えないという点には賛同するが、一方で、通報者らのプライバシーや住居が恣意的かつ不法に侵害された可能性が高く、これらの事実は、(通報者らは明示的には主張していないが)第121項、第17条違反の問題を提起している。公共事業等に伴う強制移住は、第12条第3項が列挙する「正当な目的」を有し、かつ手続きが適正に行われる場合に限り可能であるが、本件は、手続やルートの選択の適正に疑問があり、委員会としては本件を受理した上で、本案においてこれらの点を審理すべきであった。