【国際人権先例・CERD】2003/No.29 セルビア・モンテネグロ

Dragon Durmic  v.  Serbia and Montenegro

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

02/04/2003

06/03?2006

08/03/2006

No.29/2003

全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/MasterFrameView/768c701774901852c125714d00435610?Opendocument

 

手続上の論点 

国内的な救済措置を尽くしたか(142項) 申立の受理・検討(144項)

実体上の論点

締約国の差別撤廃義務(21(d))、人種隔離の禁止(3)、人種的優越主義に基づく差別と扇動の禁止(4©)、法の前の平等(5())、人種差別に対する救済(6条)

 請願者はセルビアモンテネグロ(当時)国籍のロマ人である。ロマ団体等と共に公共の場所へのアクセスに対する差別があるかを確定させるテストを行なっていた。2000年ベオグラードのディスコに入店しようとしたところ、飲酒等の問題がなかったにもかかわらず、ロマ人のみが貸切営業を理由として入店を拒否された。このため検察に申立を行ったが、7箇月経っても回答がなく再び調査を求めたところ、警察の捜査が進展してないとして新たな回答はなかった。2年後通報者らは連邦憲法裁判所に訴えでたが、15箇月経ても訴追も回答もなく何ら救済を得ていない。

     刑事上の国内的救済措置を尽くした。憲法上の救済手段については個々の差別被害者が救済を得られた例はなく、刑事的な措置のみが効果的な救済となりえる。

     事件は締約国国内における体系的なロマ差別を背景としたものであり、適当な救済手段もない。よって、人種により「一般公衆の使用と目的とする場所又はサービス」にアクセスできなかったことと、併せて締約国が差別的慣行を行なったディスコのオーナーを訴追しなかったこと、ならびにこのような差別が再発しないよう確保しなかったことで条約第5(f)、第21(d)の違反がある。

     人種を理由に入店を拒否されたことは人種隔離にあたるが、締約国は第3条の義務を果たさなかった。またディスコのオーナーを訴追せず、被害者への救済も与えないことは人種差別の助長であり、第4©違反となる。

     締約国が、差別行為への救済を提供せず、加害者を罰することもせず、再発防止を確保しなかったことは第6条違反にあたる。

当事国の主張

     当局による捜査を行なったが、事件当夜の店の警備員が特定できず検察は立件できなかった。

     事件当時有効であったユーゴスラビア連邦共和国憲法によれば、憲法裁判所は他の法的救済が得られないときのみに利用できた。その後、国の司法システムが根本的に変遷したため、訴訟への対応が遅れたという事情もある。

     請願者は委員会の手続規則1の期限内に通報を行なっていない。

     請願者は申立の内容を公にしており、第144項に違反する。

委員会の見解

1) 許容性について

     刑事的な調査を行い求められる目的は、民事または行政的救済をもってしては達し得ないので、民事訴訟を提起しておらずとも、国内的救済を尽くしていないことにならない。

     締約国の裁判所はいまだ審理をおこなっていないので、委員会手続規則1における6ヶ月ルールは効力が発生していない。

     個人の申立を公にしないという義務は、委員会による審査の前の国連事務総長にのみ適用され、締約国や請願者に向けられたものではない。

     時間的管轄について、締約国の義務の観点から検討されるべきは、権限ある当局が捜査を行なっていないこと、および締約国が条約第6条に従って被害者に効果的救済を行おうとしているかである。締約国が何らの措置もとっていない以上、申し立てられた侵害は進行中であり、事件当日以降も第14条の宣言後も侵害は継続中となる。よって時間的管轄に問題はなく受理可能である。

2) 本案について

     調査遅延の責めは締約国に帰せられるので、国内の出訴期限規則に触れるとの抗弁には賛同できない。国内裁判所はこの問題を審議していない。第5(f)違反となる公共の場へのアクセスが拒まれたかに関して、警察・検察・裁判所は何もしておらず、請願者は条約上の権利が侵害されたか否かを確認する機会さえ得られていない。

     条約違反となる人種差別行為が明らかになっていない段階でも、条約の下で議論する余地のある主張がなされた場合、締約国は被害者に保護を提供しなければならない。

     5()違反となる行為の主張を迅速、綿密、実効的に検証することを怠ったことで、第6条の違反がある。

     締約国は、請願者が被った道義的な損害に応じた相応で十分な補償を支払うことを勧告する。

     締約国は、警察・検察・国内裁判所が告発を適正に調査するよう確保するための手段を講じるよう勧告する。

     6ヶ月以内に委員会の意見に従って取られた方策について締約国からの情報を受け取ることを希望する。締約国は意見を広く公表することが求められる。