【国際人権先例・CERD】2004/No.34 デンマーク

Mohammed Hassan Gelle  v.  Denmark

通報日

見解採択日

文書発行日

通報番号

17/05/2004

06/03//2006

15/03/2006

No.34/2004

全文

http://www.unhchr.ch/tbs/doc.nsf/(Symbol)/6715d3bdbeff3c0dc125714d004f62e0?Opendocument

手続上の論点 

国内的救済措置を尽くしたか(14条7項(a))   prima facie caseを示しているか

実体上の論点

締約国の差別撤廃義務(21(d))、人種差別と扇動の禁止(4条)、人種差別に対する救済(6条)

 デンマーク国民党党首である国会議員K氏は、日刊紙への投書で、同国法務大臣が女子割礼を禁止する法案についてソマリア人団体と協議したことを、小児性愛者や強姦犯への事前協議になぞらえて批判した。通報者はデンマーク国籍のソマリア系住民であるが、K議員の比喩はソマリア人と小児性愛者・強姦犯を同視するものであるとして、人種差別記録助言センターを代理人にして刑法266()違反を警察に届出た。しかし警察は声明の内容は刑法上の罪に当たらないため捜査を開始しない旨の決定を行った。センターは決定を不服として地方検察に訴えたが、地方検察官は(1)投書の意見表明は政治的論争に関連して議員によってなされたものである、(2)266()の起草過程から政治的論争の主題は広く取られるべきである、(3)同様の声明に対し公訴局長官が訴追を拒否した前例がある、(4)司法運営法によりこの決定は最終的なものとなり上訴できないとして警察の決定を支持した。

通報者の主張は以下のとおり。

     国会議員は政治的論争において「広範な言論の自由」を享受するとする議論は266条(b)の起草

過程を反映していない。行為がプロパガンダ活動の性質を帯びていればさらに状況が深刻化するとした同条2項のとおり、検察は法案の審議中に人種差別事案を訴追することを抑制すべきでない。

     約国は第13回定期報告審査で、組織的もしくはより広範な発言の流布は、266()(2)に適合

するようになされるべきであると述べている

     K議員は以前もイスラム教徒を貶める差別発言をおこなっている。

     締約国に事件の徹底した調査、および条約第2条1項()、第4条、第6条違反に対する救済としての補償を要求する。

     司法運営法の下で得られるすべての救済手段を尽くした。またK議員に対して直接法的手段を行うことは、刑事告発が不受理であったことおよび東部高裁の判例(人種差別的行為はそれ自体では不法行為法における個人の名誉等を侵害しない)などから無意味である。

⑥ 議員は政治的論争の文脈において広範な言論の自由に対する権利を享受するとする締約国の見解は、国内の判例で確立したものでないため委員会で是非を明確にされたい。

当事国の主張

)許容性について

     通報者はprima facie case(一応の証明がある事件)を示していない。K議員の声明は、立法過程に

おいて特定団体と協議する法相への批判が趣意であり、人種差別的でなく条約の射程外である。

     憲法第63条は、行政当局の決定は裁判所に異議を申し立てることができると規定しており、通

報者は地方検察官の決定の合法性を裁判所に問う必要がある。また刑法267条第1項(名誉毀損発言を罰する条項)に基づき私人訴追することもできた(委員会先例同旨)。従って、利用しうるすべての国内的な救済が尽くされていない。

2)本案について

       K議員の声明に対する当局の捜査は相当な注意と迅速さをもってなされ、人種差別行為の有無を決定するのに十分なものであり、条約第2条1項()、第6条の違反はない。条約はすべての事件において訴追が開始されることを求めておらず、地方検察官も十分な法的評価を行った。

       K議員の意見は人種差別的な内容を有しておらず、よって条約第4条の下で議員がより広範な言論の自由を享受するかという論点は生じない。

③ 刑法266()は人種差別を犯罪化するという条約の要求を満たしており、かつ他の国内法も人種差別の行為に対して十分な救済を提供している。

委員会の見解

1) 受理可能性について

       K議員の声明は条約第21(d)4条、6条の射程内であり、通報者は受理可能性に関する主張を十分に実証している。

       (1)地方検察官は自らの決定が最終的なもので公訴局長官・法務大臣に対し上訴することができないと述べている。(2)刑法266()の下で刑事訴訟が開始される期限は、裁判所が警察に事件を差し戻すまでとなっているため、憲法63条の異議申立制度は条約第6条の意味するところの効果的救済とはならない。(3)通報者が266()を援用できなかったあとで別の条項により私的訴追を開始することを期待するのは合理的でない。(4)不法行為法の下で民事訴訟を開始することによっては、刑法266()の下での申立を遂行するという通報者の目的は達成されず、効果的救済とは言えない。以上の各点から国内的な救済は尽くされており、したがって本通報は受理可能である。

2) 本案について

 地方検察官はK議員の投書がすべてのソマリア人を犯罪者(小児性愛者・強姦犯)に等しいとみなしているわけでないとして通報者の告訴を却下したのであるが、これらの言及が通報者の精神的苦痛を深め、かつ、女子割礼に関する見解・意見ではなく、単に民族的・種族的出身に基礎をおく人の集団全体について否定的に一般化したと理解する。警察や地方検察官は当初から刑法266条の適用を排除した。声明が政治的な論争の文脈でなされたとしても、声明が人種差別にあたるか否かについて調査すべき国家の義務は解除されない。また表現の自由に対する権利の行使は特別の義務と責任、とりわけ人種差別主義者の思考を広めない義務を伴う(一般的勧告30参照)。したがって、

① 締約国が、人種差別の行為が行われたか否かを決する実効的な調査を実施しなかったことに照らし、条約第2条第1項(d)・第4条の違反があると結論する。

② 刑法266(b)の下での通報者の告発に対し効果的な調査が欠如していたことは、第6条に基づく通報者の権利を侵害している。

③ 委員会は、条約違反によって生じた精神的損害に対する十分な補償を通報者に認めるべきであること、同様の違反が再発しないために現在の法律が効果的に適用されることを保証すべきことを締約国に勧告する。また締約国が本意見を公表し、6 ヶ月以内に委員会の意見を実効的なものとするためにとった措置について情報を提供するよう希望する。