【声明】最近のカンボジアにおける表現の自由の抑圧に対する声明

ヒューマンライツ•ナウは、2009年7月2日にカンボジアにおける表現の自由の抑圧に関して以下の声明を発表しました。

 

 

 

最近のカンボジアにおける表現の自由の抑圧に対する声明.doc

 

 

Human Rights Now

ヒューマンライツ・ナウ

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             理事長    阿 部 浩 己

事務局長  伊 藤 和 子

 

最近のカンボジアにおける表現の自由の抑圧に対する声明

 

1. 今年に入り、カンボジアにおける言論・表現の自由に関し、憂慮すべき事態が進行している。

2009年6月22日、カンボジア議会は、野党サム・ランシー党(SRP)所属で、数少ない女性議員の1人であるMu Sochua議員の不逮捕特権を停止する決定をした。

4月27日、与党カンボジア人民党所属のフン・セン首相の弁護士であり、カンボジア弁護士会の前会長であるKy Tech氏は、Mu Sochua議員及び同議員の弁護士であるKong Sam On氏を、フン・セン首相に対する名誉毀損の容疑で告訴しおり、今回の決定により、Mu Sochua議員に対する名誉毀損の刑事事件の捜査が一段と踏み込んだものになる恐れがある。

さらに、Ky Tech弁護士はカンボジア弁護士会に対し、Kong Sam On弁護士が弁護士倫理規定に違反したとする申立てを行い、同弁護士会は調査を開始した。Kong Sam On弁護士は、弁護士資格を剥奪される恐れがある。

 

2. Mu Sochua議員によれば、4月4日にフン・セン首相は、Mu Sochua議員の選挙区であるKampot州で演説を行い、Kampot州選出の女性議員が「強い足」である、と表現したという。これは、現地クメール語では、女性に対する侮辱的な意図を含む言葉である。名指しこそしないものの、明らかにMu Sochua議員について言及した発言だと、同議員は主張している。

 

そこで、4月27日に、Mu Sochua議員はKong Sam On弁護士を代理人として、フン・セン首相に対し、上記演説が名誉毀損に該当するとの刑事告訴をした。これに対し、同日、Ky Tech弁護士は、Mu Sochua議員及びKong Sam On弁護士の告訴行為自体がフン・セン首相に対する名誉毀損に該当するとして名誉棄損の逆告訴を申し立てたものである。

6月10日、プノンペン地方裁判所は、Mu Sochua議員に対する名誉毀損はなかったとして同議員の告訴を却下した一方で、Ky Tech弁護士の訴えたフン・セン首相に対する名誉棄損に関しては捜査を続けている状況にある。

 

3. 近年カンボジアでは、政府関係者が、政府に批判的な政治家やジャーナリストの政治的言動をとらえて、これらの人々に対する名誉毀損の刑事訴追を行うケースが増えており、Mu Sochua議員に限らず多くの国会議員が同様の脅威にさらされている。

Mu Sochua議員の告訴以後、SRP党首Sam Rainsy氏、SRP所属のHo Vann議員やSRP系新聞のHeng Chakra記者も与党議員から告訴された。そして、2005年には、SRP所属のCheam Channy氏も議員の不逮捕特権を剥奪され、有罪判決を受けている。

こうした与党関係者による反対派に対する名誉毀損による告訴・訴追は、公的事項に関する自由な議論を弱体化させるものであり、すべての市民が享受すべき表現の自由に対する脅威であるとともに、民主主義に対する深刻な脅威にほかならない。

 

4. カンボジア政府そして政府関係者は、社会からの批判や議論に対して門戸を閉ざすべきではなく、まして批判を刑事罰をもって弾圧・委縮させるべきではない。

言論の自由、政治的言動の自由の保障は民主主義の大前提である。政府と見解を異にする議員、市民に対し、政府・与党関係者個人の名誉棄損を理由とする捜査・刑事訴追を行うことは明らかに不適切である。

 

議員の不逮捕特権は、国民の代表である議員が、懲罰を恐れることなく発言することを保障するものであり、政治的な言動を理由として個々の議員の不逮捕特権を剥奪することは、民主主義を掘り崩すものである。 恣意的な不逮捕特権のはく奪は議会の自殺行為につながる。

 

また、政治家に対する弁護活動を理由として、弁護人の弁護士資格がはく奪されることも到底許されない。弁護士自治は、人権保障の守り手たる弁護士が、いかなる権力にも屈することなく、自由独立であることを制度的に保障する砦であり、権力の圧力に屈した弁護士資格はく奪は、弁護士自治の本旨に反する。

 

国際人権団体ヒューマンライツ・ナウは、今回の一連の状況を、カンボジアにおける表現の自由に対する重大な抑圧として深い憂慮を表明するとともに、フン・セン首相に対し、名誉棄損の告発をただちに取り下げることを求める。

カンボジア弁護士会に対しては、弁護士の自由と独立を守る立場に立つことを要請する。

日本政府は最大ドナーとして、民主主義の否定と独裁につながりかねない危険な兆候を黙認すべきではない。ヒューマンライツ・ナウは、外交上のあらゆる機会を通じて、カンボジアの現下の事態の是正に努めるよう、日本政府に対して要請する。