【メディア】6/10放送 NHK「視点・論点」で事務局長 伊藤和子が発言:「ガザの人道危機と国際社会の役割」

610日、ヒューマンライツ・ナウ事務局長 伊藤和子がNHK「視点・論点」に

出演して、「ガザの人道危機と国際社会の役割」について10分間発言しました。

その際の発言を掲載させていただき、ご報告に代えさせていただきます。

 


NHK20100610shiten-ronten-gaza.doc

 

==================================================
「ガザの人道危機と国際社会の役割」

 

 NPO法人ヒューマンライツ・ナウは、日本を本拠とする国際人権NGOとして、

弁護士、研究者、ジャーナリストなどを中心に、国境を越えて世界、特にアジア地域の

深刻な人権侵害の調査、人権問題解決のための国連や各国政府への働きかけ、

法的支援などの活動を展開しています。世界に目を向けるといまも深刻な人権侵害が

あり、もっとも弱い立場の人たちが犠牲にあっています。私たちがアジア諸国と並んで

注目する地域が、罪もない市民が次々と犠牲になっている紛争地での人権問題です。

 

中東パレスチナでは、長期化する中東紛争のもと、市民が犠牲となる人権侵害が

後を絶ちません。

531日早朝,イスラエル海軍が中東パレスチナ、ガザ地区に向かっていた民間の

6(せき)の船を公海上で拿捕し、攻撃する事件が発生しました。この結果、少なく

とも9人の民間人が死亡し、約30人の負傷者が出たことが明らかになっています。
この民間の船は、イスラエルが封鎖を継続しているパレスチナ・ガザ地区に人道支援

物資を届けるためにガザに向かっていたもので、外国人やパレスチナ人など、たくさん

の民間人が乗船していました。

 

 ガザ地区は、地中海に面する狭い地域に、約150万人のパレスチナ人が暮らして

おり、1967年の第三次中東戦争以降、イスラエルによる軍事占領が続いています。

この年、国連安全保障理事会決議242号は、イスラエルが占領したガザ地区、西岸

地区からの即時撤退を求めましたが、イスラエルはこれに従わないまま、占領を継続

してきました。

 

2005年には、イスラエル軍がガザ地区から一方的に撤退しましたが、国境、海、

空からのコントロールは続いています。2007年以降、イスラエルはガザ地区を経済

封鎖し、これによって、ガザの人々は、食料、医療用品、教育用品、建築資材などを

手に入れることが著しく制限されています。すでに三年以上にわたるこの封鎖政策に

よって、人々は困窮し、極度の人道危機状態に陥っています。

電気や燃料がなく暗い中で震える栄養不良の子どもたち、燃料や材料がないため、

工場が動かず、生活の道を断たれた人たち、イスラエルに破壊された工場や家を

建て直すこともできない人々、ガザの市民の9割が貧困ライン以下の生活を余儀

なくされ、彼らは未来への道を断たれています。

このような封鎖は国際人道法に反するものであり、国際社会は繰り返し封鎖の

解除をイスラエルに求めてきましたが、イスラエルはこうした声を無視して封鎖を

継続し、人々の生活を窒息させています。

 

 そうした苦境にあるガザの住民に海から人道支援物資を届けようとした市民の

支援活動が、今回イスラエル軍の攻撃にさらされ、死傷者まで生まれてしまった

のです。海からの援助の道が閉ざされれば、ガザ地区の人々の状況は益々深刻な

ものとなるでしょう。

 

今回犠牲となった人々の遺体の検視結果や証言から、イスラエル軍が船に

乗っていた民間人に大量の銃弾を浴びせる攻撃をし、殺害をしたことが明らかに

なってきました。戦闘行為に参加していない民間人に、軍が攻撃をして殺害する

ことは、国際法の重大な違反です。

イスラエルは乗船者から棍棒などでの抵抗があったとして正当防衛だと主張して

いますが、仮に抵抗があったとしても実弾を民間人に打ち込んで殺害するのは

正当防衛として過剰と言わざるを得ないと思います。

イスラエル政府は、テロリストが船に乗っていた疑いがある、という主張をして

います。しかし、単なる「疑い」を根拠として民間人を戦闘員と同様に扱い、攻撃

するやり方は、国際人道法の原則を曖昧にするものです。
また、ジュネーブ第四条約23条によれば、占領国は、被占領地の住民に対する

人道支援物資の通過を許可する義務があります。人道支援物資の搬入を妨害

した今回のイスラエルの行為はこのジュネーブ条約上の義務に違反しています。

 

 イスラエル側と被害者側の言い分が対立するなか、真相を究明しようという動き

が国際社会であがっています。

 国連では、安保理が61日、今回の事態について国際基準に基づく公平な

調査を求める議長声明を発表しました。国連の主要な人権機関である人権理事

会は62日、事態の真相解明のために、国際独立調査団を派遣することを

決議しました。

 

ところが、イスラエルは国際調査を拒否する姿勢を示し、自分たちで独自に調査を

行うと宣言し、アメリカもこれを支持しています。しかし、一方当事者であるイスラエル

が身内で調査を行っても、独立性、客観性が確保できるかは疑問です。

200812月から20091月にかけて、ガザ地区では、イスラエルの大規模

な軍事行動が行われました。1400名の人々が命を奪われ、その多くは女性や

子どもなど民間人でした。しかし、多くの人々の命を奪ったこの軍事行動についても、

責任が問われないまま今日に至っています。

この紛争については、国連が独立調査団をガザに派遣して調査をした結果、イス

ラエル、パレスチナ武装組織双方に戦争犯罪行為があった可能性が極めて高い、

として、両当事者に国際基準に基づく調査の実施を求める勧告をしました。

しかし、イスラエルはガザの現地に行って被害者の話を聞くことを一切しないまま、

戦争犯罪はまったくなかった、という報告書を提出しただけで、真相究明は遅々と

して進みません。

 

分離壁の建設、入植、そして民間人の攻撃、いずれも国際人権法・人道法に

違反する行為が占領下のパレスチナで行われ、国際法が無視され続けてきました。


どんなに人権侵害が繰り返され、人命が奪われても、その責任が問われず、不処罰

が放置される状況が続くならば、パレスチナの地において人権侵害や虐殺は再び

繰り返されることでしょう。そしていくら人を殺しても何の責任も問われない、何の

ルールもない状況で、本当の中東和平など実現することはできません。

真相を究明し、人権侵害に責任にある者には適正な処罰が科せられるべきです。

国際社会、特に安全保障理事会は、イスラエルに対して、

 

●  今回の事態に関して有しているすべての情報を公開すること
●  
独立した国際事実調査団を受け入れ、これに完全に協力し、説明責任を果すこと


 

を強く求めていくべきだと思います。
そして今回の事態の根源にある差し迫った人道危機はこれ以上放置することが

できない状況にきています。

 

●  ガザ地区に対する封鎖をただちに解除すること

 

を国際社会は一致して、イスラエルに求めていくべきです。

 

 日本政府は、61日の安保理の議論では徹底した調査を求めていたのに、

62日の人権理事会決議採択にあたっては棄権をするという一貫性のない態度
をとっています。日本政府は周辺諸国の動向に配慮をしすぎており、プリンシプルを

明確にして、この問題に対処しているとはいえないように思います。

日本は欧米とも途上国とも違う立場から、人権問題を解決するために公正な

イニシアティブを率先してとり、平和に貢献しうる立場にあります。パレスチナに
おける封鎖や人権侵害の根絶のために、日本の新政権が外交上のリーダー

シップを発揮することを期待します。



==================================================