【要請】スリランカ紛争―国内避難民を保護するための政策への転換を(NGO共同書簡 2009/05/25)

スリランカ紛争に関する中曽根外務大臣あての共同書簡

 

国内避難民を保護するための政策への転換を

2009年5月25日

外務大臣 中曽根弘文 殿

 

 以下に署名した我々NGOは、中曽根外務大臣に対し、スリランカ紛争による国内避難民を保護するための政策への転換を求め、本共同書簡を送付させていただきます。

 

スリランカ人道危機の現状

 

 スリランカ政府とタミル・イーラム解放のトラ(LTTE)の武力紛争は終わりを迎えましたが、戦闘地域には、未だに多くの負傷した民間人が残されたままでいるとの報道もあります。国連によると、2009年1月後半以降の戦闘の結果、7000人以上の民間人が死亡し、1万3千人以上が負傷しました。近時の最終攻撃により、より多くの人びとが死傷したと考えられます。国連はこれまでの状況を「bloodbath (大量殺りく) 」であるとし、赤十字国際委員会も、「まさに大惨事となっている」としています。また、5月8日、略式処刑、健康への権利、食糧への権利、水及び衛生への権利に関する国連人権理事会の各専門家4名は、共同声明で、「国際的な事実調査団を設置し、過去数ヶ月間の事態を調査して文書化するとともに今後の事態を監視する緊急の必要性がある」と指摘しました。

 近時の戦闘の中で、LTTEもスリランカ政府軍も、重大な戦争法(戦時国際法)違反を繰り返してきました。LTTEは、民間人を人間の盾とし、民間人を戦闘地域に閉じこめ避難を力で阻止しました。一方、スリランカ政府も、病院など一般市民の密集する地域に対し、度重なる無差別攻撃を加えてきました。

 

日本政府の国連における際だった消極姿勢

 しかし、これまで、国際社会(とくに、危機に際して民間人保護のために真っ先に行動をとるべき国連安保理や国連人権理事会)は、度重なる市民社会からの要求にも拘わらず、行動をとらない残念な状況が続いてきました。その中で、日本政府は、国連が行動をとることに消極的な態度をとり続ける国であるという、残念な評価を受けつつあります。

 私たちは、日本政府による明石康政府代表のスリランカ派遣や、また、国内避難民の支援のための緊急無償資金協力や物資協力の表明を歓迎しています。しかし、その一方で、日本政府は、国連安保理や国連人権理事会が、正式にスリランカ問題を取り上げ、人道危機の下で犠牲になっている民間人を保護するための行動をとることに対して消極的な態度を続けてきていることには、遺憾の念を禁じ得ません。

 日本を含む数カ国の反対の結果、安保理は、スリランカの状況について非公式にしか議論をしておらず、民間人保護のための具体的行動をとっておりません。また、国連人権理事会では、17カ国の呼びかけにより2009年5月26日にスリランカの状況を議論するための特別会期が開催されることが決定されましたが、諸外国政府や市民社会からの度重なる要請にも拘わらず、日本政府は、この特別会期の開催の呼びかけに加わらないという極めて残念な決定を行ないました。

 国連安保理は、5月13日になってはじめて、報道声明の形式で、初めてその見解を発表し、近時の人道危機について「重大な懸念」を表明するとともに、スリランカ政府及びLTTEに対し、「国際人道法に定められた義務を尊重するよう」求めました。これは前向きな進展です。しかし、同報道声明には、一刻も早く実現しなくてはならなかった人道的停戦を要求する文言が含められず、紛争両当事者に対して、戦争犯罪の責任(アカウンタビリティー)を問う文言もありませんでした。また、報道声明では、安保理が何らかの具体的な行動を取る契機になりません。

 日本政府は、この報道声明草案の検討に際して、むしろ内容を後退させる交渉の先頭に立ってしまいました。こうした国連の民間人保護にむけた行動に対する日本の消極姿勢は、国連がスリランカの人道危機下の民間人を保護するための行動を取ることの足かせとなっています。国連安保理や国連人権理事会が、国際調査団の派遣を含む民間人保護のための具体的な行動をとれずにいる間に、毎日、子どもや女性を含む多くの民間人が犠牲になり続けていました。

 

日本政府は今こそ外交政策の転換を

 国連安保理は、1994年のルワンダ大虐殺に対し行動を取らず、後に大きな批判を受けました。こうした歴史的な失敗を経て、国連安保理は、民間人保護の重要性を何度も決議で強調してきました。安保理決議1674は、ジェノサイド、戦争犯罪及び人道に対する罪から人々を保護する責任(2005年世界サミットで採択)を再確認しています。紛争両当事者による残虐な戦争犯罪が繰り返されてきたスリランカの人道危機について、今すぐ、国連安保理はスリランカを公式に取り上げ、行動を起こさなくてはなりません。

 日本外交が、人間の安全保障を標榜し、憲法前文で「国際社会で名誉ある地位を占めたい」と過去の反省にたって誓ったことを踏まえれば、スリランカでの残虐な民間人の「bloodbath (大量殺りく) 」が進行するなかで戦争犯罪を犯した人びとの責任を法の下に追及し、そして、スリランカの民間人の「bloodbath (大量殺りく) 」という悲劇が止められなかった責任の一端が日本に荷担していたと評価されるという汚点を再び歴史に刻まぬために、日本政府は、ただちに、事実調査団派遣を含むスリランカの人道危機に対する国連の行動を強く求めるべきです。

 私たちNGOは、日本政府に対し、スリランカの人道危機に関する国連安保理及び国連人権理事会の具体的行動を支持するよう、強く求めます。

敬具

アクティブ・ミュージアム「女たちの戦争と平和資料館」(wam)
特定非営利活動法人 アジア太平洋資料センター(PARC)
社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
特定非営利活動法人 日本国際ボランティアセンター(JVC)
特定非営利活動法人パルシック
反差別国際運動(IMADR)
ヒューマン・ライツ・ウォッチ
特定非営利活動法人ヒューマンライツ・ナウ