【国際人権先例・CEDAW】2003/No1 ドイツ

Ms. B.-J.   v.   Germany

通報日

非許容決定日

文書発行日

通報番号

20/08/2002

14/07/2004

 

No.1/2003

 全文

http://www.un.org/womenwatch/daw/cedaw/protocol/dec-views.htm

手続上の論点 

国内的救済措置を尽くしていないこと(OP41項)、選択議定書が効力を生ずる前に発生した事実に関する通報(OP4条第2項(e))

実体上の論点

女性差別の定義(1条)、締約国の義務(2(a)(f))、女性の完全な発展・向上の確保(3条)、役割分担の否定(5(a)(b))、法の前の男女平等(152)、婚姻・家族関係における差別撤廃(161(c),(d),(g),(h)

通報者の主張

 通報者は、ドイツ国籍を有する20044月当時57歳の女性。通報者は、1969年、夫と結婚する際に看護師になるための勉強を断念し、専業主婦として夫のキャリアを支えることに合意、3人の子どもを育てた。1984年に通報者は勉強を再開したいと希望したが、夫がこれに反対。1998年に通報者は再度勉強の再開を望んだが、19995月、夫から離婚が申立てられた。離婚は年金分割の決定とともに2000728日に成立したが、婚姻中に形成された財産の分与および離婚後の生活費については何ら決定されなかった。

 2000710日、通報者は連邦憲法裁判所に対し、離婚の法的結果に関する法規則は、憲法第32項および3項に定められた平等権を侵害するものであるという申出書を提出したが、却下された。20044月、州裁判所が元夫による通報者への生活費の支払いを認めたが、通報者はこれに対し控訴。また、通報者は、200017月から20032月にかけて、連邦および州政府大臣らに州裁判所における結婚と家族への配慮不足とジェンダー差別を訴える手紙を出した。なお、離婚後の生活費および財産分与についての手続は継続中である。

 通報者の主張は、以下のとおりである。

1) 離婚の法的結果(財産分与、年金分割、離婚後の生活費)に関する法規則により、通報者はジェンダーに基づく差別を受けており、その影響は今も続いている。法規則は、長期の結婚の後に離婚した、子どもを持つ高齢の女性を制度的に差別するものである。財産分与に関する法は、婚姻中に得たあるいは失われた”人的資本”を考慮しておらず、妻の無償の貢献が反映されていない。これは差別にあたる。年金分割および生活費について定めた法規則も不明確かつ差別的な規定により定められている。

2) 離婚による問題を解決するための法手続きにおけるリスクとストレスは、女性が一方的に被っており、女性は手続的な差別にさらされている。

3) 憲法裁判所が通報者の申出書の審査を却下したことにより、すべての国内救済手続は終了したと考えられる。

4) 離婚の法的結果に関する法律に、社会、家族、婚姻に係わる現実や男女による影響の違い等が反映されていないのは、立法者の怠慢によるものである。

5) 通報者は、数回にわたり、政府に国内の法手続に必要な財政的支援を求めたが拒否されたため、国内救済措置を尽くすことを阻害された。

6) 離婚手続は迅速に勧められたにもかかわらず、離婚の法的結果に関する手続は長期にわたっており、通報者は20028月以降、元夫から生活費を受け取っていない。

当事国の主張

1) 通報者の離婚命令は年金分割についてしか定めておらず、離婚後の生活費と財産分与については未決である。財産分与については、通報者から提出のあった法的扶助および弁護士選任の申請を検討中である。

2) 憲法裁判所への通報者の申立は憲法の抽象的な見直しを求めるものであったため、却下された。通報者本人の離婚手続の結果が出たあとに具体的な問題について提出されたものであれば受理されたと考えられるため、本通報者は選択議定書第2条の被害者に当たらない。また、同申立は、手続的な要件を充たしていなかったため、国内救済措置が尽くされたとは考えられない。

3) 離婚手続の結果、どのような不利益を被っているのかが十分に立証されていない状況では、条約の権利のいずれが侵害されているのかを判断することはできない。

4) 通報者は、離婚命令のうち離婚そのものについてのみ控訴しており、年金分割については対象としていないため、この点について国内救済措置が尽くされたとは言えない。

6) 本件は、ドイツが選択議定書に加入した2002415日以前、離婚命令が決定された2000728日に発生したと考えるべきである。

委員会の決定

1)      本件において問題となっているのは、離婚の結果、すなわち財産分与、年金分割、婚姻終了後の生活費である。このうち、離婚および年金分割については、ドイツに対する選択議定書の発効以前に決定されていた事項である。また、通報者は離婚については控訴したものの、年金分割については、離婚の控訴の際にも、憲法裁判所への申立においても取り上げていないため、国内救済を尽くしたとは言えない。

2)      憲法裁判所への申立は、申立の要件を充たしていないために受理されなかったものであり、これが却下されたことにより、国内救済措置を尽くしたとはいえない。

3)      財産分与および生活費についての手続は終了していない。また、通報者からは、当該手続が不当に引き延ばされていることについて説得力ある議論が提出されていない。

よって、本件については、国内救済措置が尽くされていないことと、選択議定書が当該締約国に対して発効する以前に起きた事実であることから、不受理とする。

 

     委員会決定に対する個人意見(モルバイ委員、ゼルダーニ委員)

通報者の財産分与および生活費に関する審理の焦点は、通報者の生存のための経済的・物質的資源の決定および付与であり、世界中の多くの女性がそうであるように、通報者が30年間にわたり、主婦として家族のためにアンペイドワークを担い、その結果、現在では労働市場において収入を得る方法が非常に限られてしまったことを考えると、5年もの間、通報者が経済的に非常に不安定な状況に置かれていることは恥ずべきことである。離婚についての裁判が1年で決着したのであれば、5年間もかかっている国内救済手続は、不当に引き延ばされているというべきであり、本件は、選択議定書第41項の例外に該当すると考えられる。