ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2022年4月9日(土)にウェビナー「〜これでいいのか法制審〜刑法性犯罪規定改正の現状を問う 第1回目:刑法177条と178条」を開催いたしました。
本イベントでは、HRN女性の権利プロジェクトチームの中山純子弁護士が、性犯罪刑事法検討会で被害の実態に即した刑法改正がなされるかについて、緊急に問題提起をしました。
PART I 中山純子 「刑法性犯罪規定改正の現状を問う①」
まず、法制審議会の概要が紹介されました。詳しくは、3/9のイベントブログと法務省のHPをご覧ください。法制審議会では、諮問第117号について議論がなされています。
第1〜5回の会議で全10個の論点について1巡目の議論が終わり、3月29日の第6回会議でこれからの議論のたたき台が示されました。
本イベントでは、今回の法制審議会で検討された論点のうち、以下の二つの論点の条文案について解説しました。
論点1:刑法177条暴行・脅迫要件、178条心身喪失・抗拒不能要件の改正
論点3:地位関係性利用等罪の新設
論点1について
条文案
刑法177条暴行・脅迫要件、178条心身喪失・抗拒不能要件の改正の条文案としてA-1案、A-2案、B案がたたき台として示されています。ここではA-1案、A-2案について説明しました。
表1
A-1案 | A-2案 | |
個別事由 | 次の事由により | 次の事由その他の事由により |
包括要件 | その他意思に反して、性交等をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処するものとする。 | 拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じて、
性交等をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処するものとする。 |
個別事由=包括要件 | 個別事由≧包括要件 |
個別事由として挙げられた例は以下の通りです。
① 暴行・脅迫
② 心身の障害
③ 睡眠、アルコール・薬物の影響
④ 不意打ち
⑤ 継続的な虐待
⑥ 恐怖・驚愕・困惑
⑦ 重大な不利益の憂慮
⑧ 偽計・欺罔による誤信
A-1案とA-2案の違いは、A-1案は個別事由と包括要件が並列である(個別事由=包括要件)一方、A-2案は個別自由に該当したとしても包括要件に当てはまらない限り性交等罪にならない(個別事由≧包括要件)という構造になっていることです。つまり、A-2案では、包括要件で個別要件に縛りをかけているように見えると中山はいいます。
- 現行の刑法との比較
刑法177条前段
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処する
暴行の程度について条文に明記されてはいませんが、最高裁昭和24年5月10日判決により、「相手方の抗拒を著しく困難ならしめる程度のもの」であるとされています。
これは、以下のように4段階に暴行の種類が分けられているなかで、一番狭義のものが強制性交等罪に相当するとされています。
表2
広 | 人又は物に対する不法な有形力の行使 |
人の身体に対する直接的又は間接的な不法な有形力の行使 | |
人の身体に対する直接的な不法な有形力の行使 | |
狭 | 人の身体に対し、かつ、その反抗を抑圧するに足りる程度の不法な有形力の行使 |
以上のことから、刑法改正によって現在の刑法の概念からどれほど変わるのだろうかということに、中山は疑問を呈しました。
事例説明
現在の刑法で無罪になった事例について、刑法改正後はどのような扱いになるのかについて中山は解説しました。
(※具体的な事例の描写を含むのでご注意ください。)
事例1 広島高判 昭和53年11月20日(無罪)
A:180cm男性 V:152cm女性(38歳)
関係性:知人
時間:夜間
場所:人気のない場所の車内
概要:
- AがVを車内で口説く Vは帰りたいと表明
- AがVの肩に手をかけて引き寄せ、運転席台に倒して覆い被さり、乳房を吸う
- Vは、泣き出し「やめてくれ」
- Aは、Vのスラックス、下着を下ろして①性交
判断
- 不同意は認められた。
- Vは抵抗しようとはしなかったものの、困惑しながらある程度拒みがたい状況下においてなされたということが認められたため。
- しかし、抵抗が著しく困難な暴行とはいえないため無罪
- 有形力の行使は、合意性交でも伴う。AはVが苦しいと言うと少し休憩を取り、ドアに頭がつかえて痛いと言うと体をずらしてやり、平穏に性交しようとしているかの発言もあったため。
事例2 大阪地判 平成20年6月27日(無罪)
A:男性(24歳) V:女性(14歳)
関係性:前日初対面
時間:夜9時ころ
場所:神社横路上の車内
概要:
- 午後8時ころに待ち合わせをしてドライブし付き合うことに承諾。車内でキスをした。これは被害者もいやではなかったといっている
- Aが胸をもむと、Vは「今日はやめとかへん」「早過ぎひん。」と言いAの肩を押した
- Aは「いいんじゃない」等言ってやめず
- A、Vの足を開いて下着に手を入れ陰部を触る
- V「今日はやめとかへん」
- A「入れるまではせえへん」などと言い、続ける
- V、Aの肩・腕・手を抑えたり、足を閉じたりした
- A、Vが足を閉じているにもかかわらず、Vのズボンとパンツを脱がせ、再び足を開かせ覆い被さって性交
判断
- 不同意は認められた
- Vがやめておこうという趣旨の発言をしているため
- 足を開かせる行為・覆い被さる行為は反抗を著しく困難にする暴行ではない
- Aに故意はなかったとした
- Vは、拒否の態度を示しつつも、最終的には大きな抵抗もないことから、AはVが消極的ながら性交を受け入れていたと誤信した疑いもあるから
事例3 東京高判 平成26年9月19日(破棄無罪)
A:男性(25歳) V:女性(15歳)
関係性:初対面 事件前AはVに酒を飲ませていた
時間:夜8時30分ころ
場所:小学校の校庭
概要:
- Aは、Vをコンクリートブロックに押し付けて胸を直接触
- 背中を押して上半身を少し曲げる体勢にし、ズボンとパンツを足首辺りまで下ろし背後から性交
- Vは「やめて」と言い、自分のズボンを押さえ、Aの手をつかんだりしていた
判断
- Vは、任意に性交に応じたのではない(なされるがままに性交に至った)ことは認められた
- AがVに行なったことは、時間、場所、年齢、体格、飲酒の影響等を考慮しても、抵抗を著しく困難にする程度ではないとした
- 肩を押してブロックに押し付けた以外は、通常の性交に伴うような行為にとどまり、抵抗を排除するような暴行脅迫はなく、体勢からするとVが足をばたつかせるなどしさえすれば、性交を容易に防ぐことができただろうから
- Aには故意がなかったとした
- 性交の際、Aが強い暴行脅迫を加えていないのに、強い抵抗を示していないのだから、その対応ぶりから、合意したと考えて行為に及んだ可能性も否定できないから
中山は、検討会でも法制審議会でも繰り返し確認されている以下の2点を共有しました。
①性犯罪の処罰規定の本質は被害者が同意していないにもかかわらず性的行為を行うことにある
②包括要件は被害者に抵抗を要求するのは明らかに不適切であるので、そのような文言にならないようにしなければならない
続いて、「性的同意とは何か」について解説しました。
性的同意の成立には以下の4つが必要だと確認されているといいます。
①強制力がないこと
②能力や年齢差などによる非対等な関係性がないこと
③意識不明や混乱によって判断能力が弱まっている、あるいは、失われている状態ではないこと
④一つの行為への同意は、他の行為への同意を意味しない
そして、性暴力は決してセックスの延長線上にあるものではないことを理解する必要があると中山氏は強調しました。
性暴力とセックスを分けるものは同意の有無であり、二つは決して交わらない平行線上にあるということを理解しなければならないと主張しました。
以上の前提を認識しつつ、現状のたたき台を見ると、A-2案では「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて」を暴行のプラスアルファの要件に加えることになっているが、それは被害者が同意していないにもかかわらず行われる性的行為を処罰することができる構成要件になっていないのではないかと強く懸念を示しました。
論点3について
地位関係性利用等罪(親族、後見人、教師、指導者、雇用者、上司、施設職員
等、被害者に対する権力関係にある者がその地位を利用して性暴力を行う事案)((HRN「私たちが求める刑法性犯罪規定改正案(改訂)」、HRNホームページより))のたたき台としては、以下の2点が想定されているといいます。
1. 一定の年齢未満のものや障害を有するものが被害者の場合
2. 1以外の場合が被害者の場合
一定の年齢未満のものや障害を有するものが被害者の場合の条文案
まず、一定の年齢未満のものや障害を有するものが被害者の場合の条文案3つ( A-1案、A-2案、B案)について説明しました。
表3
A-1案 | A-2案 | B案 | |
一定の年齢未満のものに対して | 18歳未満の者に対し、一定の地位・関係性を有する者
〔例えば教師、ス ポーツの指導者、祖父母、おじ・おば、兄弟姉妹等〕であることによる影響力があることに乗じて、 性交等をした者は、5年以上の有期懲役に処するも のとする。 |
18歳未満の者に対し、一定の地位・関係性を有する者が、これを利用して重大な不利益の憂慮をさせることにより、
拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて、 性交等をしたときは、5年以上の有期懲役に処するものとする。 |
一定の地位・関係性を有する者〔例えば学校の教師、スポーツの指導者、障害者施設の職員等〕が、
教育・保護等をしている者に対し、地位・関係性を利用して性交等をしたときは、●●●に処するものとする。 |
障害を有するものに対して | 心身の障害を有する者に対し、一定の地位・関係性を有する者〔例えば障害者施設職員等〕であることによる影響力があることに乗じて、
性交等をした者は、5年以上の有期懲役に処するものとする。 |
心身の障害を有する者に対し、一定の地位・関係性を有する者が、障害により拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて、
性交等をしたときは、5年以上の有期懲役に処するものとする。 |
- 現行の刑法との比較
刑法第179条第2項 監護者性交等罪
18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第177条の例による
中山は、まず一定年齢未満のものに関して、A-1案は現在の監護者性交等罪と同じ構成になっており、現行法の要件の拡張であるとしました。教師、スポーツの指導者、祖父母、おじ・おば、兄弟姉妹など、被害者に対する権力をもつ者(地位関係性にあるもの)が性交等をしたら、同意は関係なく処罰するということです。
一方、A-2案は、A-1案とは全く違う構成になっていると主張します。A-2案では地位関係性にあるだけでなく、加えて“これを利用して重大な不利益の憂慮をさせ”て性交等をする場合のみ処罰するということです。
同じく、障害を有するものに対しても、A-1案とA-2案では構成が違います。A-1案は現在の監護者性交等罪と同じ構成になっており、現行法の要件の拡張であるとしました。障害者施設職員など被害者に対して権力を持つもの(地位関係性にあるもの)が性交等をした場合、同意は関係なく処罰するということです。
一方、A-2案では、地位関係性にあるだけでなく、加えて”拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じ”て性交等をした場合のみ処罰するということです。
障害を有するものに対する性交等について、議論の中で考慮されているのが、障害を持つ方々の性的な行為をする自由や決定権です。たとえばA-2案であれば、”一定の地位関係性を有するもの”とするときの”地位”を限定する必要があるという意見があります。また、A-2案であれば、”障害により拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて”という包括要件があるので、”一定の地位・関係性を有する者”というときの”地位”の限定は緩やかになるだろうと中山は言及しました。
さらに、177条・178条のA-2案と地位関係性利用等罪のA-2案とを比較する(下の表)と、異なる点は、地位関係性利用等罪には”18才未満の者に対して”と年齢の条件があるという点です。中山は、177条・178条A-2案に地位関係性利用等罪のA-2案が内包されてしまうので、後者が必要でないと結論付けられることに対して懸念を示しました。
表4
177・178条のA-2案 | 次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが 困難であることに乗じて性交等をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処するものとする。
【例示列挙の例:重大な不利益の憂慮】 |
地位関係性利用等罪のA-2案 | 18歳未満の者に対し、一定の地位・関係性を有する者が、これを利用して重大な不利益の憂慮をさせることにより、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて性交等をしたときは、5年以上の有期懲役に処するものとする |
- B案
一定の地位・関係性を有する者〔例えば学校の教師、スポーツの指導者、障害者施設の職員等〕が、教育・保護等をしている者に対し、地位・関係性を利用して性交等をしたときは、●●●に処するものとする。
そのほかに、B案として、A案とは全く異なる案が出されています。この案では、職権濫用して性交等をした=地位の濫用と捉えて、被害者が同意していても、教師など(一定の地位関係性があるもの)が、生徒など(保護しているもの)に対して性的行為等を行なった場合は処罰されます。”●●●に処するものとする。”として法定刑が示されていないため、法定刑をA案にあるような5年以上の有期懲役という刑罰から下げる議論が予想できるといいます。
1(一定の年齢未満のものや障害を有するもの)以外のものが被害者の場合の条文案
”一定の年齢未満のものや障害を有するもの”以外のものが被害者である場合についても1の条文案と同じ構造で、A案とB案が出されています。条文案は以下の通りです。この場合も1(一定の年齢未満のものや障害を有するもの)と同じように(1の場合は表4を参照)、A案は177条・178条A-2案に含まれてしまうため、地位関係性利用等罪の新設が必要ないという議論につながるのではないかと中山は懸念を示しました。
表5
A案 | B案 |
一定の地位・関係性を有する者が、
これを利用して重大な不利益の憂慮をさせることにより、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて、 性交等をしたときは、5年以上の有期懲役に処するものとする。 |
一定の地位・関係性を有する者〔例えば職場の上司等〕が、特定の相手方〔例えば部下等〕に対し、
地位・関係性を利用して性交等をしたときは、 ●●●に 処するものとする |
事例説明
続いて、現在の刑法で無罪になった事例について中山は解説しました。
(※具体的な事例の描写を含むのでご注意ください。)
事例 福岡高宮崎支判 平成26年12月11日 無罪 (最決平成28年1月14日上告棄却)
A:少年ゴルフ教室主催の指導者(56歳) V:生徒(18歳)
関係性:Vが中学3年生の時から、生徒と指導者
時間:午後2時30分ころ
場所:ラブホテルの部屋内
概要:
- 高校生の頃からはほぼ毎日指導を受ける Vはプロゴルファーが目標
- A、Vに「こういうところに来たことあるか」「こういう所で性行為の体験をしたことはないんじゃないか」「お前はメンタルが弱いから」「俺とエッチをしたらお前のゴルフは変わる」
- V、身体を後ろに引くようにして「いやあ」「いやいや」という
- A、Vをベッドに連れていき、押し倒して寝かせ、その上に乗る
- Aがキスしようとしたら、Vは顔を横に向け口をつぐんで拒絶
- A、Vの顔を両手で挟んで強引に元に戻し、キスをして舌を入れた
- A、Vの胸を触り、着衣を脱がせ、性器を触り、横に寝て自らの性器を触らせ、再びVの上に乗って性交
判断
- 不承不承(ふしょうぶしょう)であれ性交に応じてもよいという心情にあったことをうかがわせる事情はないので不同意であることを裁判所は認定した
- 抵抗したりすることが著しく困難であったことは明らかであるので抗拒不能状態であったことを認められたが、故意の否定により、判決は無罪であった
- あくまでの被害者の(少なくとも消極的な)同意を取り付けつつ、性交に持ち込もうとしていた可能性が否定できないから
- 被告人は心理学上の専門的知見は何ら有しておらず、かえって女性の心理や性犯罪被害者を含むいわゆる弱者の心情を理解する能力や共感性に乏しく、むしろ無神経の部類に入ると認定された
- Vから具体的な拒絶の意思表明がなく異常な挙動もない状況で、抵抗できない状態になっているため抵抗することができない事態に陥っていると認識していたと認めるには合理的疑いが残るとして、Aの故意が否定された
このような事例に対して中山は一体消極的な同意とは何なのか、そして、非対等な地位にかこつける者や、性的同意に無関心・無理解な者を罪に問えていない現状を強く非難しました。
PART II 質疑応答
イベントの後半には、中山氏と司会の後藤弘子氏による質疑応答が行われました。参加者の方々から興味深いご質問をお寄せいただき、議論も大変意義のあるものとなりました。
はじめに現在の法制審議会のなかで作成された「たたき台」が被害者の実態に沿っていないのではということへの問題提起として今回のウェビナーを開催したと後藤はいいました。
Q.
A-2案は拒絶困難な程度に達しない場合が不安なのだろうか?
A.
現行法とは違うということを示そうとしているはずだが、どうしてこの文言が使われるかわからないです。
Q.
なぜ被害者がいやだというだけで犯罪成立に持っていけないのか。捜査段階で2人の関係、物証、日時を確認すればいいのではないか?
A.
後藤:私たちも被害者の訴えがあれば罰されるべきであると思います。それを前提として、日時の確定は実務では大変困難です。
中山:そもそも日時を確定しなければならないということが被害者の実態に即していないと考えます。被害は繰り返し行われるものでもあり、人の記憶で最も曖昧なものは日時であるということもあります。ましてや性的行為などトラウマティックなものは忘れていこうとするという記憶の構造やトラウマの理解が適切になされていないと思います。
Q.
被害に遭うときは呆然として体が固まってしまうのになぜ抵抗が必要とされるのでしょうか?その被害の実情をわかっていただけないのでしょうか?
A.
中山:法制審議会のなかにもメンバーとして精神科医の方や当事者の支援グループのかたが参加していて、被害に遭うときは呆然として体が固まってしまうということは議論の中で徐々に理解はされています。(3/9のイベントブログを参照)しかし、条文にそれが落とし込まれて一般に周知されないと意味がないです。
後藤:今回の改正については構成要件を明確にし、
- 加害者へのメッセージになる
- 裁判官の判断がブレないようにする
という二つを目的にHRNも声を挙げていますが、この質問のようなことが残る可能性はあるとおもいます。
Q.
地位関係性について、A-2案にすれば漏れはないのでしょうか?
A.
中山:監護者性交等罪は監護者と被監護者の間に同意は到底認められないという趣旨であるので、監護者性交等罪を拡張するA-2案では、性交等に同意があるか否かは問題になっていかないはずです。
後藤:一定の地位関係性を有しないと判断されると漏れる可能性はあると考えます。しかし、少なくとも大人であれば権力関係があり、そこに教師などの権力があれば地位関係性を有しないとはならないと思います。むしろ、たとえば担任である教師とそうでない教師で影響力に差があるというようにみなされるなど、”地位関係性に乗じた影響力がある”とみなされない場合を懸念しています。
中山:法制審では関係性に濃淡があるので、「地位関係性があれば有罪」とするのは問題だと議論されています。そこでA-2で構成要件を厳しくした案が示されていると思われます。
後藤:私は関係性に濃淡があっても、一定のポジションについていれば薄い関係性であっても圧倒的な力関係であると理解したほうがいいのではないと考えます。量刑で関係性の濃淡について考慮すればいいのではないでしょうか。現在の法制審議会での議論のように、構成要件で濃淡に言及する意味はあるのでしょうか?
中山:障害を持っている方が積極的に働きかけて性的関係に至る場合でも施設職員が罰されるので、障害を有する方の意思を国家が制限することがあってはならないという発想だと思われます。
後藤:なるほど。障害のある方々に関してはそうですが、18歳未満に関しては、教員による児童生徒性暴力防止法((文部科学省HPより
教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律の公布について(通知):文部科学省
))が4月から施行されました。濃淡にかかわらず教師の生徒に対する性暴力は懲戒事由になることが他の法律で明確に決められてるのだから、そちらと一貫性を持たせる必要があるのではないかと考えます。
Q.
セクハラ罪について説明がなかったが、法制審議会ではどのようなことを考えているのか?類型的脆弱性があるという理解がされていないと思われます。また、利益に誘導するのと不利益の憂慮は表裏一体なのだから、このA案の条文は実態から外れているとも言えると思います。
A
後藤:B案であれば関係性自体を利用しているとして広い処罰の策定になるように思えます。
中山:B案は画期的だと思います。法定刑を下げるのは疑問があるが、それでも画期的です。類型的脆弱性がないということがいわれているのでBが最後まで残るのか気になる。
後藤:類型的脆弱性が理解されないのはなぜか理解に苦しみます。権力、パワーとコントロールを持っているひとたちがどれだけ影響力と力を持っているかということを2014年から議論しているのにあまり理解されていない思います。
後藤:私たちが今回のイベントを開催したのは、私たちが求めていた法改正がなされないのではないかという強い懸念からです。
AV出演強要問題やウクライナ問題によって注目度が薄れているのではと感じます。報道等を通じて皆さまに状況を知っていただきたいです。
中山:被害の実態に沿った法改正をするために、性的同意とは何なのかということに真摯に向き合って欲しいです。
終わりに
本イベントにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。
法制審議会における刑法改正の議論については第2回目のイベントも4/16(土)に開催し、論点の一つである性交同意年齢について解説しました。そちらのブログも近々公開いたしますので、ぜひご一読ください。
HRNはこれからも被害の実態に即した刑法改正を目指して活動をしてまいります。ご支援の程、どうぞ宜しくお願いいたします。
(文:髙理柰)