イベントアーカイブ 4月16日(土)ウェビナー「~これでいいのか法制審~刑法性犯罪規定改正の現状を問う」第2回目:性交同意年齢

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)は2022年4月16日(土)にウェビナー「〜これでいいのか法制審〜刑法性犯罪規定改正の現状を問う 第2回目:性交同意年齢」を開催いたしました。

 

 

本ウェビナーは、4月9日(土)開催の第1回目ウェビナーに続く、刑法性犯罪規定改正の現状に関するウェビナーの第2回目になります。前回に引き続き、HRN女性の権利プロジェクトチームの中山純子弁護士が、性犯罪刑事法検討会で被害の実態に即した刑法改正がなされるかについて、緊急に問題提起をしました。

 

第1回目ウェビナーの報告については、こちらご覧ください。

 

PART Ⅰ 性交同意年齢の改正案について

はじめに、法制審議会の概要について簡単に説明しました。詳しくは、3/9イベント報告法務省HPをご覧ください。

現在、法制審議会では、諮問第117号について議論がなされています。諮問第117号には主に10個の論点があり、全論点について1巡目の審議が終わっています。

 

今回は、論点の一つである「いわゆる性交同意年齢の引き上げ」について取り上げました。

 

条文案

はじめに、「いわゆる性交同意年齢の引き上げ」の改正案が紹介されました。

現在、法制審議会では以下の3つの条文案が提案されています。

 

表1

A案 B案 C案
16歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期懲役に処するものとする。 (1案)

16歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期懲役に処するものとし、13歳以上16歳未満の者に対し、性交等をした場合のうち、一定の場合については、処罰から除外する。

(2案)

16歳未満の者に対し、性交等をした者(13歳以上16歳未満に対してした者については一定の場合に限る。)は、5年以上の有期懲役に処するものとする。

14歳未満の者に対し、性交等をした者は、5年以上の有期懲役に処するものとする。

 

なお、B案における「一定の場合」の例としては、以下が提案されています。

  1. 相手方の脆弱性や行為者との対等性の有無 
  2. 相手方と行為者の年齢差
  3. 行為者の年齢

 

性交同意年齢を引き上げるにあたっての課題

主な課題

次に、法制審議会において性交同意年齢引き上げのどのような点が課題とみられているのかを説明しました。

 

法制審議会の議事録などによると、「現行法からの引き上げの実態的・論理的根拠」に関して盛んに議論がされているとのことです。

 

実際に引き上げの根拠として挙げられているのが、以下の2つです。

 

  • 判断能力の未熟な青少年の保護・青少年の健全育成
  • 13歳以上の者であっても、脆弱性・未熟性を有していて、その脆弱性・未熟性に付け込まれることからの保護

 

1つ目の「判断能力の未熟な青少年の保護・青少年の健全育成」は、青少年は性行為を行うことについて長期的な不利益に対する理解が十分でなく、同意のための十分な判断能力がないため保護が必要であることを意味します。

 

2つ目の「13歳以上の者であっても、脆弱性・未熟性を有していて、その脆弱性・未熟性に付け込まれることからの保護」は、現行法の保護が及ばない13歳以上の者であっても、判断能力が一定程度欠けることがあるため保護が必要である、という考えを意味しています。対象年齢を引き上げたうえで除外規定(B案)を設ける場合、行為者が誰であっても対象者(性交同意年齢未満の者)の未熟な判断能力、脆弱性・未熟性に保護が必要なのは変わらないため、除外規定を設けることと対象年齢を引き上げることの論理的な整合性が必要である、と考えられているようです。

 

16歳未満に引き上げる場合、除外規定が必要な理由

続いて、16歳未満に引き上げる場合の除外規定が検討されている理由について説明しました。

 

刑法により14歳以上は刑事責任能力に達した者として扱われます。この場合、刑事責任能力のある16歳未満の者同士、例えば14歳と15歳の性的接触(176条も含む、例:キス)について、犯罪にあたるとして全件家庭裁判所に送致するのか、といった疑問が生じます。

 

これに対する積極的な意見としては、

  • 中学生同士の性的接触は背後に家庭環境の問題が潜む場合がある
  • 加害的な場合は早期に介入して治療や支援につなげる必要がある

家庭裁判所が介入して手当をすべきである

が挙げられています。

 

消極的な意見としては、

  • 家庭環境のみならず、恋人関係・何らかの理由から相手を真摯に求める場合についても犯罪を構成して良いのか
  • 14,15歳の者が強制性交等をした場合の故意や責任能力に影響を与えるのでは

被害者になった場合は、年齢一律で判断能力はないが、加害者の場合は、 悪い人だから判断能力は十分です、ということになり説明不十分である

といった意見があります。これらの理由から、除外規定を設ける場合には、引き上げる根拠との整合性が必要になると考えられます。

 

引き上げに際しての整合性がとれない場合

次に、仮に性交同意年齢を引き上げるにあたって整合性がとれないとなった場合、全体でどのような方向性で進んでいくのか、について説明しました。

 

まず「判断能力の未熟な青少年の保護・青少年の健全育成」を理由に性交同意年齢を引き上げ除外規定との整合性がとれない場合については、刑法ではなく児童福祉法の領域に任せるべきという意見がありました。

 

しかし、児童福祉法では、児童に淫行させる行為のみが処罰対象であり、刑罰として10年以下の懲役・300万円以下の罰金となっています。また、青少年保護条例においても、みだらな性交又は性交類似行為に限定されており、刑罰は2年以下の懲役・100万円以下の罰金とされています。中山は、児童福祉法の領域に任せるという結論で、十分な児童の保護ができるのか疑問が残ると主張しました。

 

次に「13歳以上の者であっても、脆弱性・未熟性を有していて、その脆弱性・未熟性に付け込まれることからの保護」を根拠に性交同意年齢を引き上げる場合です。この場合、付け込まれる場合を類型化して規定しようという意見が出されており、地位関係性利用等罪の部分で足りるという意見があります。

 

しかし、前回ウェビナーでも指摘したとおり、中山は地位関係性利用等罪は177条・178条のA-2案に内包されてしまうので、必要ないと結論づけられることに対して中山は懸念を示しました。((前回のウェビナーの報告ブログは、こちらからご覧ください。))このとき、仮に性交同意年齢が現状の13歳未満を維持もしくは14歳未満までの引き上げに留まる場合、地位関係性利用等罪は177条・178条に包摂され不要と判断され得ることになります。現在、多数の方が支持している177条・178条A-2案の条文は以下のようになります。

 

「次の事由その他の事由により、拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて、性交等をした者は、強制性交等の罪とし、5年以上の有期懲役に処するものとする。」

 

中山はこのA-2案が採用された場合、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難である」という要件は、現在の暴行・脅迫という要件と大差はないのではないのか、十分な児童の保護に繋がるのか、といった疑問があると主張しました。

 

また、内閣府の平成23年の調査によると、異性から無理やり性交された被害にあった時期として、中学生から19歳の時期は全体の四分の一を占めています。加えて、法務省の令和2年3月の調査によると、平成30年4月1日から平成31年3月31日の期間に第一審で有罪判決が言い渡された172件のうち、18歳未満の児童が被害者であった事件は全体の61.6%、13歳以上18歳未満は51.1%を占めています。これらは決して少なくない割合です。

 

これらを踏まえて先ほどの条文案について考えると、C案が採用され177条・178条の改正だけに留まった場合、児童の保護は本当に十分と言えるのか、不安が残ると中山は主張しました。

 

177条暴行・脅迫要件、178条心神喪失・抗拒不能要件の改正案について

また、第一回目で説明のあった177条、178条の改正案について、再度説明しました。

 

現在、改正案として、以下の2つの案が挙げられています。

 

表2

 A-1案  A-2案
 個別事由  次の事由により、  次の事由その他の事由により、
 包括要件   その他意思に反して、             拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であることに乗じて、
 性交等をした者は、強制性交等の罪とし、

 5年以上の有期懲役に処するものとする。

 個別事由=包括要件  個別事由≧包括要件

 

A-1案は、個別事由と包括要件がイコールの関係になっており、「その他意思に反する」という要件を正面から規定するものです。一方、A-2案は、個別事由に加え、「拒絶する意思を形成・表明・実現することが困難であること」を充足してはじめて強制性交等罪になるものです。

 

個別事由の例としては、以下の8つが挙げられています。

 

 ①暴行・脅迫 ②心身の障害 ③睡眠、アルコール・薬物の影響

 ④不意打ち ⑤継続的な虐待 ⑥恐怖・驚愕・困惑 ⑦重大な不利益の憂慮

 ⑧偽計・欺瞞による誤信

 

中山は、13歳未満を対象とする現行法の維持や14歳未満への改正に留まった場合、これらの事由だけで十分に児童が保護されるかは分からないと言います。児童が徐々に被害に取り込まれていくなかで必ずしも暴行などが伴うわけではなく、また、児童が被害を自覚していないこともあり得るからです。

 

また、中山は、長期的な展望をもって児童が性的同意を行うことは実際非常に難しいと強調しました。例えば、中学生が性行為によって感染症を罹患した場合、自分自身で病院に行ってお金を払い治療を受けることは相当難しいと考えられます。性行為にはこのような長期的な影響も付随するため、「ただ性的に触れ合うことだけの同意では足りず、性交同意年齢が13歳未満や14歳未満に留まることは非常に危ういことである」と中山は主張しました。

 

PARTⅡ 検討会・法制審議会の現状について

第二部では、検討会・法制審議会の現状について、中山と女性の権利プロジェクトチームメンバー・司会の後藤弘子教授が、質疑応答と簡単なディスカッションを行いました。

 

法制審議会での子どもの捉え方

はじめに、法制審議会における子どもという存在の捉え方について話がありました。

 

中山は、法制審議会における子どもの捉え方について、子どもを大人と同じように合理的な判断ができると考えてしまっている問題があると指摘します。子どもからみた一歳差と大人からみた一歳差が大きく異なるといった事実からも、より現実に即した検討をするには自分自身が中学生だった時のことを考えるなど、より子ども自身の視点に立つことが必要であると言います。また、検討会や法制審議会では、過去の経験に関する大人へのヒアリングはあるものの、実際の子どもの声を届けられることがない現状もあります。

 

加えて、除外規定のところで説明したように、「中学生同士の自由な恋愛を処罰するのか・それらをどのように除外するのか」に論点が寄っている印象もあると示しました。中山と後藤は、「この論点についても議論が必要ですが、それだけではなくそもそもの児童の保護にもより注目する必要があるのでは」と主張します。

 

グルーミングや誘引行為について

また、グルーミング罪についてどのような位置づけで議論されているのか、後藤から質問がありました。法務省「性犯罪に関する刑事法検討会」の報告書によると、グルーミングとは、「手なずけの意味であり、具体的には、子供に接近し て信頼を得て、その罪悪感や羞恥心を利用するなどして関係性をコントロールする行為」を意味します。

 

中山によると、グルーミング罪に関するたたき台は次回の法制審議会で出るとのことですが、現状はオンラインを利用したグルーミングが主眼になっていると言います。性交同意年齢に関する議論のなかでは、「子どもの方から誘うことだってある」という意見も出ており、これに対して中山は「一見同意に見えても、行為や同意の本質がしっかりと共有されていないなら同意ではない」と指摘します。

 

また、誘うという行為の捉え方について、後藤も出会い系サイト規制法を例にあげて説明しました。20年ほど前から、出会い系サイト規制法では、児童が誘引行為をした場合も犯罪とみなされ、大人と同じ刑事処分は受けないが、家庭裁判所に送致されるという仕組みになっています。このことからも、「誘う」という行為に関して同意の非対称性があること、すなわち一見同意しているように見えても十分な同意ではない可能性があり、誘う側に非があるとは限らないということが、なかなか理解されていない現状が伺えます。中山も、自分も好きなのではないかと児童に思いこませることで、性行為の時点で暴行・脅迫がなくとも騙して性行為がされる可能性があると主張します。法制審議会においても、グルーミングの悪質さについて、またその実際のプロセスについて、まだ理解が十分でないと考えられます。

 

条文案への姿勢について

また、後藤から「条文のA案について、法制審議会ではどのような印象がもたれているのか」質問しました。中山によると、A案はおよそ除外規定がないため、やはり中学生同士の場合はどうするのかといった意見が出てきており、A案に対して肯定的であるのは少数であるようです。

 

加えて、「現状C案が採用されそうなのか」という質問が参加者からありました。

中山によると、刑事責任能力と性的同意年齢を同列にする必要はないこと、海外でもそのようにはなっていないことは法制審議会でも確認されているとのことです。しかし、C案なのか、せめてB案なのかといったところは、次の第6回の議事録を参照したいとのことです。後藤も、刑法違反で刑罰を科すか科さないかと、被害を受けた児童をどう保護するかは全く別の問題であり、同じように考えることには合理性がないと主張しました。

 

参加者からの質問

続いて、参加者からの個別の質問への応答が行われました。

 

Q.

児童福祉法の領域に任せるという意見についてどのように考えるか。

 

A.

中山:児童福祉法に任せることで、十分なのかという問題だと思います。そもそも法定刑が違い、児童福祉法で処罰される行為はかなり絞られています。それは直接・間接問わず児童に事実上の影響力を及ぼし淫行を成すことを助長・促進される行為だと定められていて、グルーミングのような場面はこれに当たらないとされ、児童福祉法で処罰できない可能性が高いです。そのため、児童福祉法に任せるだけでは十分とは言えないと考えられます。

 

後藤:処罰に加えて、実際はネグレクトのような被害がないと、児童福祉法でも介入が難しい状況にあります。被害を刑罰として考えるのか、児童福祉法に任せるのかが論点になっていると思いますが、やはり性行為を被害とせず自己決定の結果だと認識する傾向が未だ強くあり、大きな問題だと考えています。

 

Q.

B-1案とB-2案にはどのような違いがあるのか。

 

A.

中山:除外規定を本文に書くのか、かっこ書きにするのかという違いだと思うのですが、まだ議事録が出ていないため完全には分かりません。

 

後藤:ここは立法技術の問題で、条文を考える際、他の刑法の条文とのバランスをよく考えます。現状の感触としては、規定の内容というより、このような立法技術の意味合いが強いと認識しています。どちらがより分かりやすいか、バランスが良いか、という問題です。

 

中山:私も、立法技術の問題であり、実質的な内容の違いではないように認識しています。

 

Q.

 性交同意年齢を16歳に引き上げるA案の採用が現状厳しいとのことだが、海外では17歳などさらに引き上げるような流れもある。なぜ日本では、ここまで性交同意年齢引き上げへの抵抗が強いと思うか。

 

A.

中山:中学生以上の子達が自分から性的接触を求める能力があると思われていることが問題だと思います。もちろん、中学生が興味・関心を抱いていて何も強制がない中で適切に関係を築くことはありますが、大人と子どもといった圧倒的不均衡な関係性のなかでそれを純粋な恋愛と捉えるのは不適当であると考えます。

 

よく当事者の方からも恋愛の話はしていません、という声が出ますが、対等な恋愛についての話ではなく対等性がないところで性的接触を深めることの話であるということです。このような性的接触が将来の長期的な心身への影響を及ぼし将来働くことも外に出ることも難しくなることがある、ということを踏まえると、中学生の性的関心の結果だから問題ない、という結論では済みません。また、中学生がこのような長期的な不利益を理解して力関係のある人間との性行為を拒否することの難しさを、もっと理解する必要があると思います。

 

後藤:やはり、性犯罪被害者の実態が理解されていないことが原因だと思います。権力性・対等でない関係性がここでは問題だと思いますが、どうしても中学生同士のことに論点が集まってしまっている現状があります。性犯罪被害の実態を踏まえると、少なくともB案が本来あるべき流れだと思っています。

 

また、仮に中学生同士の適切な恋愛があると認めるならば、小学校から性教育をきちんと行い性的主体として子どもを育てることも同時に行わなければならないと思います。現在、命の安全教育が一部で試験的に行われていますが、全ての学校で強制的に行う必要があると思います。

 

Q.

 現在、刑法以外の部分でも子どもの保護に関する動きが色々あるが、刑法改正への影響があまりないように思われる。このことについて法制審議会の議事録などを踏まえて、どう思うか。(後藤より)

 

A.

中山:法制審議会においては、他の法改正などの動きはあまり言及されておらず、引き上げと除外規定の根拠に関する抽象的な議論が主であると感じます。もちろん法改正において論理性をもたせることは大事ですが、実態から離れて論理を立てても、実際に社会の人々のためにはなりません。したがって、現状の問題を踏まえて法的にどう対応するか、その過程でどう論理性をもたせるかが大事だと考えます。

 

後藤:そのために被害者の方なども議論に入っているのですが、やはりそこの考え方がなかなか浸透していないように思われますよね。

 

Q.

仮にA案を採用する場合、中学生同士がお互いに真摯に求める場合であっても該当してしまうという話があるが、その点についてどう考えるか。

 

A.

中山:子どもの権利委員会で実際に児童相談所で関わっている方のお話を聴いていると、性交同意年齢が13歳である現行法の下であっても、小学生同士の性的接触は既に起こっているそうです。今回の引き上げで新たに問題として生じているわけではありません。そして、実際に問題があるとして保護者が警察のところに行った際は、それぞれの話を聴いて適切な恋愛関係にあると分かったらその場で適切に指導する、ということが今でも行われています。

 

そのため、子どもの権利委員会で被害児童の側で活動されている先生からは、全ての場合で児童相談所が介入し、家庭裁判所に送るということは今も行われていないため、A案を採用した場合も、現場の運用に関しては問題ないという意見です。この話は実際に議事でも挙がっているが、やはり論理的に全部当てはめて良いのかがネックになっているようです。

 

後藤:例えば、15歳同士のケースで事件として扱われることになっても、少年事件なので家庭裁判所に送致されます。逮捕され身柄を拘束されることはないです。そうすると、一定の手続きは進むが、将来に決定的な影響があるわけではないですし、実際家庭裁判所に送致されている少年少女は皆さんが思うより多くいます。むしろ自分の行為を見直す機会であり、教育のような意味があります。これを踏まえて、やはり実態を把握し被害者をどのようにサポートしていくのかではなく、論理的な部分だけが注目されているのは悲しく思います。

 

Q.

16歳未満の者が16歳未満へグルーミングを行った場合についてどう考えるか。また、年齢が下の者から上の者へのグルーミング罪についてもどう考えるか。

 

A.

後藤:グルーミング罪は加害者が成人であることを前提として議論されています。なので、加害者が18歳未満であれば、少なくとも法制審議会で議論されているグルーミング罪には該当しないということになると思います。

 

中山:年齢が下の者から上の者へのケースについては、法制審議会では特に考えられていないと思います。

 

後藤:グルーミングとは手なずけることであり、基本的に圧倒的な権力をもつ者がそれを利用して行うことであるので、権力の弱い者がより強い者を手なずけるというのは、グルーミングの定義には当たらないと思います。例えば、女性の側から誘う場合もそうですが、誘うというのは類型的に脆弱な立場の人が行うことでもあるので、そこを問題にするのは刑法としてはあってはいけないように思います。グルーミングというのは、あくまでも成人が未成年者に対して行うこととして、法制審議会では議論されていると思います。

 

終わりに

閉会の挨拶

本ウェビナーの最後には、登壇者の中山と後藤から閉会の挨拶が述べられました。

 

中山からは、今回の刑法改正にかける思いが語られました。中山は、仮に今回の改正が14歳未満までに留まり177条の改正だけになるならば、全国でたくさんの方が被害について声をあげて頑張ってきた意味がなく、半歩程度しか進まなかったことになると話しました。また、被害の実態を適切に捉えてきちんと子どもを救っていける刑法になってほしい、そのために皆で声をあげて法制審議会にアピールしていくことが必要であると強調しました。

 

後藤からも、被害者の実態に応じた刑法改正の必要性が訴えられました。また、このように2回にわたるウェビナーを開催した理由として、刑法改正に社会の注目があまり集まっていない現状があったことを示し、ウェビナーを通して少しでも皆様に問題提起ができれば幸いだと話しました。

 

参加者からの質問を受けて、性暴力に関連した女性の権利プロジェクトチームの取り組みについても説明しました。後藤からは、デジタル性暴力に関する提言書を既に出しており、各国の現状をまとめたデジタル性暴力についての報告書も現在準備していること、AV出演強要問題についても2017年3月に報告書が出ていること、またHRN副理事長の伊藤和子を中心に現在進行形でロビイング活動を行っていることなどの説明がありました。

 

今後のイベントについては未定ですが、引き続き精力的に活動を続けていく意志表明とともにウェビナーが締めくくられました。

 

最後に

本イベントにご参加いただいた皆様、誠にありがとうございました。

私たちヒューマンライツ・ナウは、引き続き女性の権利に関するイベントの開催、調査報告や政策提言を続けてまいります。ぜひこれからもご支援、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

 

(文・大谷理化)