ヒューマンライツ・ナウは、国旗損壊罪を創設する法案に反対する声明を発表しました。同法案は、憲法及び自由権規約が保障する表現の自由の中でも、特に保護の必要性の大きい政治的表現の自由を侵害し、国旗を用いた意見表明を萎縮させる効果をもたらす悪法案です。国会議員に対し、憲法尊重擁護義務及び条約の誠実遵守義務を全うし、本法案に反対するよう求めます。
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日本国憲法・自由権規約に違反する “国旗損壊罪”の法制化に反対する
本年6月16日、自民、日本維新の会、国民民主、参政の4党が、国旗損壊罪を創設する法案を共同提出した。
本法案は、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法により、公然と国旗を損壊し、除去し、又は汚損した者」に対し、「二年以下の拘禁刑又は二十万円以下の罰金」を科すとしている(第2条1項)。そして、右のような方法に該当するかどうかの判断は、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」ことになる(同条項)。
本法案は、日本国憲法や日本も批准している「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR、いわゆる自由権規約)が保障する思想・良心の自由(憲法第19条、自由権規約第18条)及び表現の自由(憲法第21条、自由権規約第19条)を侵害するとともに、罪刑法定主義(憲法第31条)及び、恣意的な逮捕・抑留を受けない権利(自由権規約第9条)にも反するものである。
まず、刑法は刑罰をもって国民の自由を制限するものであることから、刑法によりある行為を犯罪として規定するためには、保護法益(刑法によって保護されるべき権利、利益)が必要である。
そして、本法案の保護法益は、「国旗を大切に思う国民感情」であると説明されている。
しかし、国旗に対して日本国民としてどのような思いを抱くかは、思想・良心の自由として、憲法および自由権規約により保障されている。
したがって、「国旗を大切に思う国民感情」に対し、刑罰をもって特別の保護を与えることは、国が国民に対し、国旗を大切に思う気持ちを強制することに繋がり、思想・良心の自由を侵害する。
次に、国旗を損壊する行為には、国内外を問わず、国家権力に対する批判的意見を表明する手段として行われてきた例があることを軽視してはならない。政治的意見を表明する権利の保障は、民主主義国家の基盤であり、表現の自由の中でも特に尊重されなければならないからである。
しかし、上記の通り、本法案では、国旗の損壊等が処罰の対象になるかどうかの判断は、「行為の外形、周囲の状況その他の客観的な事情を総合的に勘案して行う」としており、外国国章損壊罪(刑法第92条)のように、「侮辱を加える目的」という限定がない。
すなわち、日本に対して「侮辱を加える目的」ではなく、日本をより良い国にする目的で、主権者として政治に対する批判的意見を表明すべく国旗を損壊した場合にも、処罰の対象となるおそれがある。
自由権規約第19条2項は、「すべての者は、表現の自由についての権利を有する。この権利には、口頭、手書き若しくは印刷、芸術の形態又は自ら選択する他の方法により、国境とのかかわりなく、あらゆる種類の情報及び考えを求め、受け及び伝える自由を含む。」と規定し、象徴的行動を伴う表現の自由を保障している。さらに、自由権規約委員会は、「旗や象徴に対する不敬…に関係する法律について懸念を表明」するとの意見を明確に述べ、「締約国は、軍政や行政など、機関に対する批判を禁止してはならない」としている(一般的意見34)。
以上の通り、本法案は、憲法及び自由権規約が保障する表現の自由の中でも、特に保護の必要性の大きい政治的表現の自由を侵害するものであり、国旗を用いた意見表明を萎縮させる効果をもたらす悪法案である。
さらに、罪刑法定主義を定める憲法31条は、国家による恣意的運用を防ぐため、刑罰法規の適用範囲が明確であることを要求している。そして、判例は、「ある刑罰法規があいまい不明確のゆえに憲法三一条に違反するものと認めるべきかどうかは、通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判断を可能ならしめるような基準が読みとれるかどうかによつてこれを決定すべきである」としている(徳島市公安条例事件・最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁)。
また、自由権規約9条1項は何人も恣意的に逮捕又は抑留されない権利を保障しているが、ここにいう恣意性は単なる「違法」と同義ではなく、不適切性、不公正、予見可能性の欠如などの要素を含むものである(一般的意見35)。
上記の通り、本法案は、「国旗を大切に思う国民感情」を保護法益とし、「人に著しく不快又は嫌悪の情を催させるような方法」による国旗の「損壊」、「除去」、「汚損」が処罰の対象となる。
しかし、国旗に対する国民の感情は人によってさまざまであり、「不快」、「嫌悪」といった主観的かつ抽象的な要件では、一般人において、国旗を用いた政治的表現行為がどこまで表現の自由の保護を受けるのかを判断することが困難であり、政治的表現行為を萎縮させてしまうことになる。例えば、上記のような規定ぶりでは、国旗を用いた風刺画を作成し、日本の政治や歴史を批判する表現をした場合に、本罪の処罰対象となるのかどうか不明確である。
また、日本国旗(日の丸)の歴史は長く、20世紀前半には、国内のみならず日本が統治ないし占領したアジア諸国においても、日本軍の権威や服従のシンボルとして使われていた過去を持つ。
国内外に多大の犠牲を強いた先の大戦において、大日本帝国のシンボルとして日章旗が用いられていた過去を無視することはできない。国旗を大切に思うことの是非と、国旗を大切に思う国民感情を保護するため、これを害した者に刑罰を科すことの是非は全く別の問題である。
以上より、ヒューマンライツ・ナウは、日本国憲法のみならず自由権規約にも違反する“国旗損壊罪”の法制化に強く反対する。国会議員は、憲法尊重擁護義務(憲法99条)及び条約の誠実遵守義務(憲法98条)を全うし、本法案に反対すべきである。



