【イベント報告】2019年3月7日 Women Speak Up!

 

WOMEN SPEAK UP!2019.3.7

ヒューマンライツ・ナウでは、3月8日の国際女性デー(International Women’s Day)記念して、3月7日(木)にフランス大使館とアンスティチュ・フランセ日本との共催で“WOMEN SPEAK UP!”というイベントを開催しました。

日本では、女子大学生を性的にランキングした記事が公開されたり、女子学生を不当に減点した医学部受験の問題があったりと、いまだにジェンダーの視点を著しく欠いた問題が頻発しています。しかし、そんな中で声をあげ始めた女性たちもいます。
この日は、駐日フランス大使であるローラン・ピックさん、先述した女子大生に関する記事について雑誌SPA!に抗議した女子大生の辻岡亮さんと高橋亜咲さん、「#私は黙らない0428 」主催者でありライター/アクティビストとして活動している福田和香子さん、医学部入試における女性差別対策弁護団で活動する打越さく良さんをゲストに迎え、それぞれの経験や想いについてお話しいただきました。

ローラン・ピック氏「何よりも大切なのは市民社会での動き」

イベントの冒頭では、駐日フランス大使であるローラン・ピック氏による開会挨拶がありました。
ピック氏は、3月8日の国際女性デーでにちなんで今回のイベントが開催されたことには非常に意義があると述べた上で、同時に男女平等のあり方は3月8日に限って考えられるものではなく、ピック氏自身はもちろん、フランスのマクロン大統領もこれを最重要課題の一つとして捉えていることを強調しました。

そして、政府がどう動くかが重要であるのはもちろんのこと、社会を変える上で何よりも大切なのは市民社会での動きであると述べ、このように女性が立ち上がって男女平等について考えるのはとても意義があると話しました。

言葉にすることで解放される部分もある

ピック氏は、今年はとりわけハラスメントについて考えたいといいます。

 

世界中で#Metooのムーブメントが起こり、日本でも注目を集めています。

ピック氏は、「時としてこういった問題は“恥ずべきことであり、あまり公にできない”という風潮が強いのですが、ここ数年の大きな前進として、話すことによって解放され、何らかの解決が見出せるということが明らかになってきています。言葉を開放し自由に話すということは、被害者の方々にとっても孤立することなく話ができるということを可能にし、連帯感を生むのです。」と話し、声を上げる女性の背中を押しました。

具体的な法整備も必要

また、ピック氏は、具体的にどのように前進していくかということも考えなければならないといいます。

「時として、枠組みを作っていく、つまり、法律を作っていくということも必要になります。フランスではそのような考え方から法整備が行なわれました。そして、法によって女性が守られるようになり、必要な場合には司法の場に出てそれらを訴えるということも可能になったの

です。このように環境を整備することの重要性も私たちは考えています。」

今年は日本がG20の、そしてフランスがG7の議長国を務めることになっており、ピック氏はその中でも日本とフランスは連携していけ

るのではないかと述べたうえで、いずれも社会の中における男女の平等性ということについてきちんと考えていく一年にしたいとしています。

また、フランスはG7の議長国を務める中で、国際的な法の整備を考えたいとしており、欧州評議会が中心となって締結した女性に対する暴力及びDV防止のための“イスタンブール条約”を国際的なものにしていきたいと意欲を示しました。

ゲストスピーカーによるトーク①:Voice Up Japan副代表 辻岡涼さん・高橋亜咲さん

ゲストスピーカーによるトークの1組目は、Voice Up Japanの副代表を務める、高橋亜咲さんと辻岡涼さん(いずれも国際基督教大学学生)にお話しいただきました。

Voice Up Japanは、誰もが声を出しやすい安全な環境を作ることを目的とし、日本社会に届けたいストーリーがある人をNGOやメディアに繋げるなど、声を上げたい人のサポートをすることをミッションとして活動している団体で、具体的な価値観とミッションを下記のように掲げています。

・ 私たちは全員の男女平等(Gender Equality))と、平等なリスペクトを心がけています。
・ 個人団体のため、宗教や政治団体などとの共同活動はしていません。
・ 人種・ジェンダー・セクシュアリティ・社会階級・宗教などの差別は一切しません。
・ 私たちは全員が平等であり、見下すことはしません。

Voice Up Japanのコアメンバーは6人で、そのほかにVoice Up Japan CommunityというグループがFacebookにあり、そこには100人以上のメンバーがいるといいます。

始めたきっかけは週刊誌に書かれたとあるランキング

彼女たちがVoice Up Japanを始めたきっかけは、昨年12月25日に扶桑社の週刊SPA!が『ヤレる女子大学生』というランキングを、ある特集記事と一緒に出版したことだったといいます。

なお、週刊SPA!がこのようなランキングを公開するのは初めてではなく、他にも『ヤリマンランキング』や『就活ビッチが多い大学ランキング』などといった記事を過去にも出していました。高橋さんと辻岡さんはこれをおかしいと思い、この記事の謝罪と取り下げの署名活動を始めました。


「署名活動を始めた数日後、週刊SPA!の編集者から謝罪の文が発表されました。
『より親密になれる』『親密になりやすい』と表記すべき点を、読者に訴求したいがために扇情的な表現を行なってしまった”ということでした。
しかし、この謝罪は言い方や表現の問題ではなく、女性を“ヤレるモノ”として扱っていて、根本的な問題を理解していないと私たちは思いました。
ランキングを作成した方は“『お持ち帰りができる・できやすい大学ランキング』 というイメージだった”と言っていますが、『お持ち帰り』という言葉は食べ物などにも使われていて、この表現も女性をモノとして見ています。」

と高橋さんはいいます。

Voice Up Japanはこの件について、お互いを理解し合うための機会を設けてほしいという返答を扶桑社と編集者にしました。

「週刊SPA!と対話して、解っていただきたかった点はまず、
・ メディアが持つ社会への影響力
・ 女性をモノとして扱うことがどのような悪影響を及ぼすのか
・ 性的同意について
です。日本のメディアがこの問題をどう扱うべきなのか、どうしたら表現の自由を乱用しないようにしていけるか、最低限のモラルを守っていけるのかを共に考えていけたら幸いだという願いを持って対話しました。」と高橋さんは続けます。

メディアが持つ社会への影響力

では、このような記事が世の中に出ることで、社会にどのような影響を及ぼすのでしょうか。高橋さんは言います。

「多くの方々が女性を『ヤレるもの』だと表現している記事を読むことによって、無意識に“女性蔑視をしてもいい”という考え方が生まれます。
メディアにいる方々には、発信するひとつひとつの言葉の影響力を理解するのはもちろんのこと、今回のような無意識のうちに与えてしまっている影響に関しても理解しようと努めることが大切なのだと私たちは思います。」

女性をモノとして扱うことがどのような悪影響を及ぼすのか

また、高橋さんは、この記事の問題は女性蔑視であり、女性をモノのように扱っているというところにあるとしたうえで、日本には『女性蔑視』の意味や、女性を性的なもののように扱う(英語ではSexual Objectification)という概念自体が浸透していないことも指摘しました。それによって、今回のような記事を深刻な問題と捉えていないように感じたといいます。
「女性をモノとして扱うことは、女性に対しての暴力の正当化に繋がります。
女性はモノでもなければ、男性のために存在しているわけでもないということを、この署名活動を通して日本社会全体に理解して頂きたかったのです。」
Voice Up Japanのメンバーはこれらの点について週刊SPA!と対話した結果、互いに理解し合うことができ、週刊SPA!は近々、性的同意についての記事も出版する予定となっているそうです。

性的同意について

高橋さんは、ここ最近繰り返されている大学の生徒や教授による性暴力が不起訴となった事件を例に挙げ、このような事例は週刊SPA!のような女性蔑視の記事やメディアが多々出版されることによっても助長されていると話します。また、このような事件によって、本来学ぶ場であるはずの大学が安全に通えない場所となってしまい、一人ひとりから教育の機会を奪うことにもつながるといいます。

「痴漢は犯罪です」が常識ではない日本

また、高橋さんは、性犯罪防止のためのポスターそのものの文言についても違和感を覚えたといいます。
「『痴漢は犯罪です』というポスターを見たことがありますか。日本独特だと私たちは思いました。

『殺人は犯罪です』とは言わなくても、犯罪だと常識的に理解されています。
今の日本にこのポスターは必要だとは思いますが、『痴漢は犯罪です』というポスターを必要としていること自体、日本は性暴力を重く感じていない、ということがわかります。」

「壁ドン」など「強引=カッコイイ」という風潮も問題

近年、テレビや雑誌などで、男性が女性にして喜ばれるしぐさとして『壁ドン』という行為が取り上げられ、2014年には流行語大賞にも選ばれました。『壁ドン』は、男性が女性を壁に追いやり、逃げられないよう壁に手をついて向かい合うといった体勢のことを指します。

高橋さんは、壁ドンのように『女性を乱暴・強引に扱う言動』を『カッコイイ』として報道している日本のメディアにも問題があるといいます。

こうしたメディアの報道により、『性的同意をとる』ということの重要さが忘れられてしまうだけでなく、『私たちはこのような扱いを相手に求めているんだ』といった考えや価値観が生まれ、性暴力が促進されていると訴えました。

「伝統的」ではなく「ステレオタイプ」と呼ぶべき空気感

続けて、辻岡さんは、現在日本がグローバルジェンダーギャップにおいて149位中110位であることを指摘し、その原因や問題点について話しました。

149位中110位というのは、先進国の中では順位として非常に低い位置にあるといえます。
「日本は伝統文化を大切にしている国であるものの、『女性が子供の世話をし、男性が家族を養う』といったステレオタイプな考え方まで『伝統』と捉えて守ろうとするのは、かえって人々を苦しめていると思います」辻岡さんは訴えます。

また、辻岡さんは、日本は男女平等が進んでいる国と同等の育児休暇があるにも関わらず、このようなジェンダーをめぐる固定概念(Gender Stereotyping)のせいで父親が育児休暇を取りにくい社会となっていることを指摘し、それはグローバルジェンダーギャップの項目にある『日本の経済参加と機会(Economic particiption and opportunity)』や『政治的への関与(Political Empowerment)』においても現れていると話しました。

和を重んじ、個を大切にしない日本

辻岡さんは、日本は第二次世界大戦以降、平和を強調してきた一方で『平和を保つために自分の意見を言うことさえ慎む』空気ができ、声を上げにくい環境となっていると述べ、他者と違う発言によって平和を崩すのを恐れて意見を持つことさえできにくくなってしまっていることを指摘しました。

「考えを持たない」ことを学校教育が助長している

また、日本の教育方法もこの考え方を助長しているといいます。

「現在の日本の教育方法は、先生が台の上で生徒の前に立ち、教え、生徒が先生の言っていることを書き写す、というのが主流です。生徒たちはディスカッションなどせず、自分の意見を言う機会をあまり与えられていないことが多いのです。このような教育を小学校から高校まで続けていたら、ポリティカルシンキングや、自分の意見を言うという概念さえなくなってしまいます。」


Voice Up Japanを立ち上げるきっかけとなった先述の週刊SPA!の一件においても、扶桑社では自分の意見を言いにくい空気があったために“もし誰かが『女性蔑視の記事を作るのは問題だ』と思っていても言えなかった”と編集者たちが言っていたことを明らかにしました。

意見を言うことを恐れない社会にしていきたい

「“セックス”も、日本ではタブーなトピックです。これが理由で、私たちは署名活動を始めた時に叩かれると思っていました。しかし多くの人たちにサポートして頂いたり、個別にメッセージを頂いたり、コメントでも個人の経験や意見を言って頂きました。

個人だけの変化ではなく、

会社や社会の中でも環境の変化を心がけ、もっと個人の意見を聞くことが大切だということを理解して欲しいです。この変化は、ここにいるみなさん、性別関係なくみなさんのサポートがないと起こりません。」

辻岡さんと高橋さんはこの経験から、Voice Up Japanを通してこの現状を変えていかないといけないと思い、声を上げることの大切さを強調していこうという思いを語りました。

 

ゲストスピーカーによるトーク②:ライター/アクティビスト 福田和香子さん

ゲストスピーカーによるトーク2組目には、ライター/アクティビストであり、『#私は黙らない0428』の主催者である福田和香子さんにお話しいただきました。

福田さんは自己紹介の時に、「私はライターでありアクティビストであり、そして性暴力の被害者でもあります。」と語りました。

昨年、#Metooや『Time’s up』など、フェミニズムの運動が世界中に広がる中で、福田さんは自身の経験や日本社会で起こるセクハラ問題に対して声を上げようと、信頼できる数人の仲間と共に『I am』というグループを立ち上げ、新宿にて『#私は黙らない』というタイトルの街宣を行ったといいます。

自身に起きた性被害を初めて公の場で告白した

この街宣はもともと、福田元事務次官の女性記者に対するセクハラ問題に対して声を上げるという目的で行われましたが、その一件に限らず、今もノンストップでニュースとして流れてくる性差別による様々な問題、またそういったものを許容する社会そのものに対して怒りと意思をしっかり示すためでもあったと福田さんはいいます。

「そこでは本当に色んな方にお話し頂いたりメッセージを代読させて頂いたりして、大学生や、ゲイの方、主婦の方、セックスワーカーの方、シス男性、高校生、それからラッパーやジャーナリストからのメッセージも含めて色んな方の様々な立場から言葉を繋いで頂きました。で、そこで私も最後にスピーチをしたんです。そこで初めて、公の場で自分に起こった性被害–レイプについてですね–の話をしました。」

性被害を告白して見えた、押し殺されてきた苦しみと共感の声

福田さんはこの街宣を行う前から数年間アクティビストとして活動をしていたため、彼女にとって聴衆の前に立ちスピーチをするというのは特に新しいことではありませんでした。しかし、この街宣で福田さんが語ったのは『自身にとって一番思い出したくない、話す前から袋叩きに遭うことが分かっているようなトピック』でした。そしてそれは、楽しくもなければ簡単なことでもなかったといいます。

しかし街宣のあと、福田さんの元には毎日のように、年齢も職業もバラバラな人たちから“立ち上がってくれてありがとう”“勇気をもらいました”といったポジティブなメッセージや、その人自身が、自分が外に向かって話すことの出来なかった性被害の体験について綴られたメールが何百件というレベルで届いたといいます。

「もちろん、これだけの人数の人があのたった一回の街宣から、これだけ勇気をもらったって言ってくれる、そのことは確かに嬉しいし、もし私が社会のポジティブな変化の一部になれるなら、それは私がやろうとしていることでとても嬉しいんですけど、同時に、裏を返せばそれだけの人が苦しんでいて、葛藤を抱えていて、話すところがなくてっていう、時に絶望を抱えながらこの社会で生きているなあということが、それによって可視化されました。  」福田さんは寄せられた多くの反応に対する喜びとともに、複雑な思いもあったといいます。


予想通り、「物言う女」に向けられた誹謗中傷の数々も

「反応は嬉しいと言ったものの、それと同時に、予想していたことではあるんですけど、毎日呆れるくらいの誹謗中傷が飛んでくるわけです。」

福田さんは、街宣のあとに実際に送られてきた誹謗中傷の数々をスクリーンに映して話します。

「見えるかな、こういった色んなものが飛んできたんですけど、ここに載っているのは本当に氷山の一角です。
女として声を上げるとどういうことを言われるか、どういう誹謗中傷が飛んでくるかっていうのをちょっと見ていただきたいなあと思って。もちろん予想はしているし、まあ、今日はクローズドな場だけど、人の前に立つ時とか、変化を求めて行動していくって、メディアとかで取り上げてもらうときはすごく良い事として、ポジティブなこととして受け取ってもらえるんですけど、やっぱりこういう得体の知れない悪意というか、敵意ですよね。受け入れてもらうためにやっているわけじゃないけど、『物を言う女』っていうのはある程度理解されなくて、それこそ家父長制の中で心地良く生きている人たちにとっては都合が悪いわけで。」

福田さんは時折声を詰まらせながら続けました。


社会が求める理想の女性像、そこに「物言う女」は含まれない

「社会が常に提示してくる理想の女性像ってあるわけじゃないですか。そこに『声を上げる女』っていうのはもちろん入っていないんですよね。『三歩下がって歩きなさい』って言われるところに先陣を切って突っ込んでいくような人たちだから、それはもちろん嫌なんですよね。理解はしてます。」

明るいワードの表面だけをすくって広めるのではなく、醜い現実にも向き合った上で問いかけたい

「なんでこんなものをわざわざ見せて話をしているのかというと、これは私にとってのリアリティで。で、楽しい話じゃないじゃないですか。なんでこんな物見せるんだと思うでしょう。だけど、こういったものも同時に周知されるべき現実だと思っているんですよね。別に『可哀想ね、大変だったね』って言われたいということではなくて、実際に立ち上がってみるとどんなものが飛んでくるのか。これが何百件と毎日毎日来るわけですよね。それって自分自身がやってみるまで体感・体験できない−しないに越したことはないんですけど–できないことであって。

いま特にフェミニズムがブームになっているから色んなところで色んな人がそれをトピックにしていて、企業とかもよく取り上げたりして、それ自体は全く悪い事じゃないけど、やっぱりフェミニズムとか、社会に対して変化を求める時に、インスタグラム上での自己表現も大事だし『エンパワーメント』っていう明るいワード表面をすくってそれを広めて行くのも大事だけれど、やっぱり現実…醜い現実と、厳しい辛い状況とかっていうものにきっちり向き合って理解して、色んなことを見た上で『さああなたはどうするの?』っていうのを私は投げかけたいと思っていて。」

「たかがネット上のこと」では片付けられない、生身とは別の場所で起きている女性差別

福田さんは、自身が受けた誹謗中傷に関して『たかがインターネット上のこと』として軽く扱うことには疑問を持っているといいます。

「なんか『たかがインターネット上だからね』ってよく言われてきたんですけど、インターネット上に起こることだから現実に起こっていないかといったらもちろんそんなことはなくて。社会運動に限らず、日常生活にインターネットって欠かせないじゃないですか。

これからますます情報源の中心としてシフトしていくインターネットの世界で起こる女性差別、生身のものとはちょっと違った女性差別に対してどう行動していくのかっていうのは、私たちも含めてこれからの世代にとっても大きな課題だと思っています。」

もともとは変化を求めて行動するタイプなんかじゃなかった。

「散々『変化』だとか『アクティビズム』だとかって言ってますけど、私別にずっとこういうタイプだったかというとそういうこともなくて、履きたくない日に足をヒールにねじ込んでいたし、周りの男の子が私の女友達の体型をからかっていても、チクっとはするんだけど怒れなかったんですよね。

『え、そんなこと言っちゃだめだよー』って言って、何か言っているようで何にも言ってない、ずーっとそういうタイプの女の子をやってきて。」

自分が何を知らなくて、何を学ぶべきなのか。自分をどう定義するのか。社会に定義させるんじゃなくて。


「完璧なフェミニストっていうのもいないし、完璧な人っていうのもいないし、いま特にこうやってフェミニズムがブームになっているからこそ『何を言っていいかわからない』っていう男性もすごく多いし、女の人でも『これ言ったら差別になるのかな』『これ言ったら攻撃されるのかな』って、私のところにもすごいそれを聞きに来る人がたくさんいるんです。

でも、間違いを犯すことは悪いことだと思ってなくて。ただ自分が何を知らなくて、何を学んでいかなきゃいけなくて、社会にどういう変化を求めているのか、自分にとって生きやすい社会とは何なのか。自分の存在って一体何なのか。自分をどう定義するのか。社会に定義させるんじゃなくて。

…そういうことを常に考えていくことは、華やかでもないし楽しくもないし、そりゃやっぱりスマホの画面を見て「いいね」の数を数えていた方が楽なんですよ。そっちの方が楽しいし、パンケーキの列に並ぶのも悪いことじゃないんだけど、やっぱり実際にどうしても避けて通れない差別の現状と構造というのは存在していて。」

社会はいつも女性に対して変化を強いるけれど、必要な時にきちんと批判できる自分でありたい

「フェミニズムが話題に上がるたびに“女性に対して求められること”がものすごく多いなあと。『声を上げましょう』とかもそうですね。『もっとこうした方がいいよ』とか『そういう格好はしない方が良いんじゃない?』とかっていうのはよく聞くなあと思うんですけど。

なんで抑圧する側を真っ向から批判せずに、それをする前に、抑圧されている側に行動を求めるのか。やっぱり常に、必要な時は批判できるフェミニスト…というか人間でありたいし、そういう一市民であることで、長期的な、そして本質的な変化を社会に起こせるんじゃないかと思っています。」

大きな行動をしなくてもいい。楽しくもなく、華やかでもなくても、覚悟を持って種をまき続けること

「別に、フェミニストであること、もしくは全ての人が生きやすい社会を求めて行動していくっていうのは、なにも街宣をやったり署名を集めたりするだけのことじゃないんですよね。

まず第一に自分の行動を見直すこと、そして周りを必ずチェックすること。で、それはすごく体力を消耗する、あまり楽しくはない、ちっとも華やかではない行動だと思うんですけど、歴史に名を残すことなく社会を変えていった人たちは今までもたくさんいて、じゃあその見えないところに名を連ねる覚悟はありますかっていうことを私は問いたいなと思っています。
とんでもなく素晴らしいこととか信じられないほど大きな変化って、1年や2年じゃ起こらないですよね。一晩でも起こらないし。そうやって根気よく『もしかしたら芽が咲くかも』と思って地味に植えた種がもしかしたら100年後にものすごく綺麗な花を咲かせるかも知れなくて、もしくは大きい木が生えてくるかも知れなくて、分からないけど。その未来の可能性、見えもしない未来の可能性に賭けをするということが、社会の中で成熟した大人であるということの証拠になるんじゃないかなと思っています。」

「私たち」でも「女性たち」でもない。主語はいつでも「私」であること

「街宣のタイトル『#私は黙らない』。それは『私たちは黙らない』でも、『女性たちは黙らない』でもなく、『私は黙らない』なんです。あくまで主語はいつも『私』で、『私』という存在が社会の中で一人で立っていること、これは同時に、『私は黙らないけど、あなたはどうする?』『彼はどうする?』『彼女はどうする?』という問いかけであって、『私は黙らないから、あなたも黙ってちゃだめよ、ねえみんなで声を上げましょう!』っていう啓蒙活動では全くないんですよね。

私はこれについて黙ってらんないから声を上げることにしたわ。あなたはそれを尊重するのね。でもあなたが『そういうのはちょっと勘弁して…FacebookでVoice Up Japanにいいねするくらいが限界かな』って思ったとする。だったらそれでいいじゃないですかという話であって。主語はいつでも『私』で、自分のことは自分で代表しようよ、他人任せにしないようにしようよ、自分のことは自分で定義しようよっていうようなことをずっと問いかけていきたいなと思っていて、それはもちろん街宣が終わった今でも変わらずスタンスとしてあります。」

 

ゲストスピーカーによるトーク③:医学部入試における女性差別対策弁護団 打越さく良さん

ゲストスピーカーによるトーク3組目には、医学部入試における女性差別対策弁護士団の打越さく良さんにお話しいただきました。

打越さんは昨年8月2日に、東京医科大学で女性合格者の割合を3割以下に抑えるために女性を一律に減点していたということが報じられた際に受けた衝撃とともに、『医学部入試における女性差別対策弁護士団』立ち上げから現在に至るまでの動きや、自身の学生時代に直面した女性差別について語ってくださいました。

「私も弁護士としてこの社会にまだまだ女性差別があるということはよく分かっているつもりだったのですが、でも大学入試みたいな場では流石に、機械的に点数で合否が判断されているであろうと思っていたので、それが思い込みだったというのを知るというのはとても辛いことでした。」

あからさまな女性差別が、「差別」として理解されない戸惑い

東京医科大学の受験において女性が一律減点されていたことが発覚して以降様々な動きを経て、12月に文科省が最終まとめをしました。

文科省の最終的間によると、女性受験者の点数操作が行なわれていたのは東京医科大学だけではなく、順天堂大学、北里大学、聖マリアンナ医科大学でも性別による不利益な扱いをした、あるいはその疑いがあるということが報告されました。

打越さんはこの事実に驚愕すると共に、これらを容認する声も少なくないことを知り、ショックを受けたといいます。

「こんなあからさまな差別があるとは、と本当に愕然とし、そして誰もがそういうふうに思うのだろうと思っていたら、ネット上では“別に私立なんだから自由なんじゃないの”などといったことが色々書かれていました。だけど、そんなわけがないでしょう。たしかに私立学校の自主性というのは教育基本法などからも尊重されるべきであるし、大学の自治というのは尊重されなければいけないというのは当然ですが、それはあくまで学問の自由を保障するために認められているものであって、このやり方ではかえって女性の学問の自由を狭める上、著しく違法であり、そういった自由までは許されていないと言えると思います。こんなあからさまな差別、これを女性差別と言わない人はいないんじゃないかと思っていましたが、それでも“なんで女性差別にあたるのか教えろ”とか、そういったリプライをツイッターでもらうこともあり、目が点になる思いでした。『これ以上噛み砕けません』というような、そんな感じで。笑」

このような性別による不利益な扱いは、憲法14条1項で禁止されている『性別のみによる不合理な差別』とも言えるほか、教育基本法4条1項の『性別によって教育上差別されない』と書かれている部分、さらには日本も批准している女性差別撤廃条約など、挙げたらキリがないほど色々なものに抵触している、と打越さんは説明しました。

「そしてあろうことか“そうは言っても必要悪でしょ”というようなことも堂々と言う方々がいまして。女性の医師ばかりだと医療の現場が回らないじゃないかと。医師の労働環境は過酷なもので、それに耐えられるのは男性でしょ、という意見が散見されたわけですが、では男性なら過労死寸前まで働いても良いんですか?という話です。」

強制捜査がなければ明るみになっていなかったかもしれない


打越さんは、そもそもこの事件が文科省の汚職事件を巡る強制捜査の過程で偶然発覚したことを挙げた上で、そのような契機がなければこのことは明るみに出なかったということを指摘しました。

「つまり、こうして女性を不利益に扱う現場に何人も関わっていたのに、声を上げる=内部告発をする人はいなかったのだという、そのこと自体も本当に悲しいことだと思います。」

「愕然とばかりしていられない」。ムーブメントを起こし続けていく

「しかし、愕然としてばかりいられないということで、私たちは8月21日に弁護団を結成し、私は共同代表となり、様々な動きに呼応して意見をしたり記者会見をしたり、私たちなりに駆け抜けてきました。
しかし世の中の関心はあっという間に薄らいでいくという気もしていて、そんなことはあってはならないということで、今後このようなことが二度とないようにムーブメントを起こし続けていこうと思っています。そして、近日中に訴訟を提起するつもりです。
私たち弁護団は、東京医大だけでなく順天堂大の入試や差別に関する被害の相談なども受けているのですが、第三者委員会を設置して不正を認めたところしか手がかりがないというのももどかしいため、しっかりと調査して欲しいと思っています。そして、文科省に対しても2月26日に今年度の入試についてもきちんと調査・公表するようにと申し出をしました。」

当事者たちの声

「私たち弁護団はホットラインを実施したり、ネットから当事者の相談を受け付けたりしてきたわけですが、その生の声を知って頂きたいと思ったため、一部ご紹介します。」

“女性差別があるとわかっていたら受験しなかった。貴重な時間やお金を無駄にしたことが許せない”

“何年も受験して不合格だったので医者になるのを諦めた。自分の能力が足りなかったと思っていたが、このような得点操作によるものだったかもしれないとわかり本当に悔しい”

“幼い頃から医者になりたいという夢を持っていたが不合格だった。もし合格していたら私の人生は大きく変わっていたと思う”


リスクを恐れて声を挙げられない人も多い

この事件に対して強い怒りを抱きながらも、損害賠償請求に加わるのを躊躇する人も少なくないのだと打越さんはいいます。

「例えば浪人生でこれから医学部を受験するという人にとっては、そういうことで大学に入った場合、結局何か不利益なことをされるんじゃないかということを心配されている方もいました。それから、やっぱり他の大学の医学部に入って医者になろうという方でも、医師というのは狭い社会だから、何かSpeak upすることによって不利益があるんじゃないかということを懸念する人たちもいます。つまり、やっぱりSpeak upというのをすごく大変なことだというふうに思っているんですね。それでも訴訟に加わってくださるという方々を、本当にリスペクトしたいと思っています。」

自身が修習生時代に体験した女性差別。それでも実感したSpeak upの重要性

また、打越さんは、自身が修習生時代に受けた女性差別についても語りました。

「話は変わるのですが、度々思い出すことがあります。

今、検察というのは積極的に女性を雇用しているんですね。しかし、私が修習生だった頃、99年〜00年の時には、『司法研修所のクラスごとに検察官になれる女性は1人だよ』ということが公然と言われていたわけです。そして、一人決まってしまったら『残念だったね』というようなことを言われていたので、『それはおかしいんじゃないですか、どうして女性の枠が決まっているんですか』ということを言ったんです。すると、『女性だと机をバンバン叩いて取り調べができないでしょ』なんてことを、本当に言われていた時代だったんです。
今では検察は裁判官や弁護士よりも女性の割合が増えています。それは本当に、『こんなことを言ったら点数を下げられるんじゃないか』と怯えながらも、不平等に対して物を言う弁護士になる上で怯えていちゃいけない、と自分を奮い立たせながらSpeak upしてきた人たちがいたからではないかと思っています。ですから本当に、Speak upするというのは大変なことだなあというのは実感としてあります。」

ファンドレイジングを始めて見えた、たくさんの人の共感とエール

「私たちの訴訟は手弁当でやっていて、調査費用や実費が色々かかるのですが、若い女性の受験生たちに負担させるのはとても大変だし、この訴訟は社会的にとても意義があることなので、クラウドファンディングに適していると判断し、昨年10月24日に始めたんです。
私たちは当初、“勇気を持って250万くらいに設定しておこう!”と言っていたのですが、一晩明けて朝恐る恐る見たら、250万を超えていたんです。色んな人から“頑張れ”“応援したかった”という声がいっぱいあって、弁護団としても嬉しいし、やってよかったなと思えました。そこから金額を500万に設定し直して再度募ってみたら、その額も超えて740万まで行き、本当に感動しました。
弁護団の弁護士たちも日々日常業務に追われていて、歯を食いしばりながらやっている感じだったのですが、そういった様々な応援の声がエネルギーとなって頑張ることができています。これからも応援よろしくお願いいたします。」

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グローバルジェンダーギャップ指数にも表れているように、日本はまだまだジェンダーにおける格差に大きな開きがあるといえます。

普通に生きているだけで、一方的に性や消費の対象として見られたり、性暴力や、『女性である』という理由だけで能力を発揮する機会が奪われる事例も後を絶ちません。

今回のトークゲストの方々と同じように声を上げ、アクションを起こすことは誰もが簡単にできることではないかもしれません。難しいことは続かないし、誰かのために無理する必要もありません。

同じ局面に立った時、『あなた』はどう感じ、どうすることを選びますか?

ほかの誰でもない『あなた』へ。

文責:橋本紅子

HRN事務局より

雨が降る中たくさんの方にご参加頂きました。「私たちは声をあげる」という言葉には「私たちは黙らない」という意味が含まれています。声をあげるということは簡単なことではありませんが、多くの方が勇気をもって声をあげ始めています。No means No。たとえ声をあげられなくても、沈黙の中にも「声」があり、その声に耳を傾けることが大切だと思います。「女性に生まれて不利」と感じる女性がいなくなる時まで、私たちは声をあげ続けなくてはいけません。また、社会的に作られた性的役割に違和感を感じているのは女性だけではありません。「男らしさ」を求められる社会で生きにくさを感じている男性も巻き込んでこのムーブメントを前進していかなければならないとこのイベントを通してあたらめて感じました。