【NY事務所】ニュースレター2019年10月号

 

ヒューマンライツ・ナウ ニューヨーク事務所からの2019年10月号ニュースレターを掲載します。

Monthly E-Newsletter
October, 2019

 

9月17日の国連総会のオープニング

気候変動のデモを皮切りに国連本部で開催された「気候アクション・サミット」。そして9月17日から始まった「第74回国連総会」。世界中から首相や大統領が集まる総会一週目は、毎年恒例のバリケードによる交通規制とともに慌ただしく過ぎ去りました。そしていよいよ、総会の各委員会でトピック別の一般討論が始まりました。

総会中には、国連人権理事会の選挙も予定されており、日本も含めた国々が理事に立候補しています。ヒューマンライツ・ナウも声明を提出したり口頭発言をするジュネーブの人権理事会。そのメンバー構成がどんな影響を与えるか、などもまとめてみました。

そして、今年で創立30周年を迎える「子どもの権利条約」。これを機に発せられた「子どもの権利委員会」からのメッセージ、オンライン上の子どもの安全に関するニュースもお届けします。

 


第3委員会

始めに、今年の第3委員会のブリーフィングです。社会開発、人権、人道などの問題を扱う第3委員会の今年のトピックは以下です。

●社会開発
●情報とテクノロジーおよび麻薬
●女性の地位向上
●子どもの権利
●先住民の権利
●人権の促進と保護
●人種差別と民族自決権
●国連難民高等弁務官 (UNHCR)
●人権理事会 (HRC)の報告

この中で特に多くの時間が割かれるのが「人権の促進と保護」です。各トピックの初日には特別報告者と呼ばれるエキスパートなどが、最新レポートの報告など発表します。以下は、NY事務所が傍聴したセッションのハイライトです。


〜子どもの権利〜
10月8日の「子どもの権利」一般討論の午後のセッションでは、「子どもの権利委員会」(Commitee on the Rights of the Child)代表のルイス・エルネスト・ペデルネラ・レイナ氏 (写真) が始めに登壇しました。今年で30周年を迎えた「子どもの権利条約」は、現在までに196カ国に批准されています。けれど今日も、貧困、差別、紛争、暴力などで大勢の子どもたちが苦しめられています。
レイナ氏によると、今年3月に委員会から条約批准している国々に対して、「改めて条約へのコミットメントを示してほしい」と呼びかけがありました。今後の具体的な誓約を提出するよう呼びかけましたが、まだ32カ国しか提出していません。「もっともっと多くの国からの提出を待っています」とレイナ氏は言いました。

また、「気候変動アクティビストのグレタ・テュンベリーさんが言うように、子どもたちは我々大人たちのやることを見ています。デモなどで声を上げる若者たちの訴えに耳を傾けることは、全ての大人たちの義務です」と言いました。これは、「子どもの権利条約」12条に明記されている重要ポイントです。その他に、「子どもの権利条約」は人権条約の中でも最も批准率の高いもので、初の「全世界に批准されるユニバーサルな条約」にするためにも、国連加盟国の中で唯一まだ批准していないアメリカ合衆国の参加を待っている、と呼びかけました。加えて、条約の3つの「選択議定書」(条約の追加文書。任意で批准する)も、もっと多くの国に批准してほしい、と呼びかけました。その3つとは、「子どもの売春、売春及び児童ポルノ」、「武力紛争への子どもの関与」、「通報手続き」に関するものです。そして、2020年の「子どもの権利条約」レヴュー会議に向けて、各国に真剣に取り組んでほしいと言いました。

最後にレイナ氏から、フランコ独裁政権下での画家ピカソと情報将校のエピソードが共有されました。多くの市民が爆撃によって殺された悲劇の図を描いた作品「ゲルニカ」の完成に取りかかっていたピカソの元に、将校がやって来ました。そして、凍りつくピカソに向かって「これは君がやった(描いた)のかね?」と尋ねると、「いいえ。あなたたちがやった(爆撃した)のです。」とピカソは答えました。「この話が本当かどうかは知りませんが、子どもたちと大人たちの会話がこのようにならないことを願います。」とレイナ氏は言いました。レイナ氏のセンスあるメッセージ、心に留めておきたいものです。

〜人権の促進と保護〜

「子どもの権利」に続いて、「人権の促進と保護」に関する一般討論が10月14日から始まりました。写真は、数あるサイドイベントのうちの1つで、「国会の人権とのエンゲージメントを高める」(原題: Increasing Parliaments’ Engagement with Human Rights) と題されたイベントの様子。人権高等弁務官事務所 (OHCHR)、オックスフォード大学、ユニバーサル・ライツ・グループ (Universal Rights Group) 、ならびに8カ国の国連代表部による共催です。

法律の制定、予算決定、条約の批准など、大きな役割を担う国会。その国会が人権の促進・保護において果たせる役割は大きく、人権を「正当化」「民主的正当化」するには、国会や議員らの存在が重要であることが強調されました。

例えば、普遍的・定期的レヴュー (UPR) など国連の人権メカニズムに対して国会が積極的に向き合い、UPRからの勧告を受け入れ、国内の政策や法律という形で実行に移すこと、国会が設置した人権委員会(まだ設置してない国は)をリードすること、市民団体や国内の人権機関と協力して連帯責任を共有すること、などが期待されています。その他に、国会議員が人権状況を知らないこともあるため、国会向けの人権問題の意識向上や普及啓発などにも取り組んでほしい、という要請がありました。

「国会による人権委員会」については、OHCHR がそれに関して実施した調査アンケートの結果と、「国会と人権に関する原則」(原題: Principles on Parliaments and Human Rights) というタイトルの草稿をまとめてリリースしてます。ボタンクリックで草稿がご覧になれます。

「読む」ボタン

テクノロジーでオンライン上の性的搾取・虐待から子どもたちを救おう
〜End Violence Against Childrenからのお知らせ〜

End Violence Against Children (子どもに対する暴力の撲滅) は、国連機関、政府、市民団体、若者たち、アクティビストなどを含めた公共⇄民間コラボのユニークなグローバル・パートナーシップです。ヒューマンライツ・ナウも2017年から加盟しています。

児童ポルノの流通を始め、オンラインでの性的搾取や虐待は深刻なものです。オンラインという誰でもアクセス可能であり、保護者の管理は行き届かない空間で、子どもたちを守るにはどうしたら良いのでしょう?

人口知能 (AI) 、機械の学習能力、データ科学、ブロック・チェイン、バーチャル・リアリティなどの革新的なテクノロジーをもって、子どもたちへの危害の発見と対処を高め、増加傾向のある脅威を止めようではないか、という主旨を持つEnd Violence基金。およそ1300万ドル (13 million US dollars) の基金で、応募数と内容によって受け取る額が決まるそうです。現在、関心のある団体からの表明を受付中です。応募条件などの詳細はこちらから。


国連人権理事会の選挙とは?

来たる10月17日に国連総会で、人権理事会の選挙が予定されています。ヒューマンライツ・ナウも声明を提出したり口頭発言をするジュネーブの人権理事会。世界中の人権侵害の防止と監視を担う理事会の理事を務めるということ、それがもたらす影響、選挙プロセスはどういったものなのでしょうか?人権理事会の選挙や理事国のモニタリングを長年してきたISHR (International Service for Human Rights) が、アムネスティ・インターナショナルとヒューマンライツ・ウォッチと共同で今年7月にリリースした冊子 “Opportunities for strengthening and leveraging membership of the UN Human Rights Council” (直訳: 国連人権理事会メンバーシップの強化と影響力行使のための機会) を、この度入手しました。

冊子には、今年2月にジュネーブで開かれた人権活動家や市民団体や外交官など参加のダイアログの内容がまとめられています。人権理事会の強化にあたって、問題点や改善策も盛り混んであります。その中には市民団体ができることもあり、もっと一般的に知られる必要性も強調されていました。そこで今回は、選挙前のタイミングに合わせて、その内容を簡単にまとめてみました。

人権理事会の構成
●理事会は47の理事国で構成
●1回の任期は3年。2期(6年)続けた後すぐ立候補できず、一旦退かなければならない
●世界の地域ごとに占める席数が決まっている
●過去一度も理事を務めたことのない国は79カ国。もっと多くの国は立候補するよう、地域ごとのコンタクト・グループ結成の話も出ている

理事国の条件 & 候補国の誓約ポイント
●国連加盟国すべてにドアは開かれている
●候補国の人権促進・保護への貢献度が最大ポイント
●国内・国外で人権侵害に加担してないかも厳しく問われるべきポイント
●理事会が任命した特別報告者などに協力的か(調査目的の訪問を受け入れる、勧告を受け止めるなど)
●人権活動家への嫌がらせ・脅しはしてないか
●選挙に向けた候補国の自発的誓約も考慮に入れられる
候補国がどれくらい条件を満たしてるかなどを表にしたスコアカードをISHRが出している
https://ishr.ch/news/hrc-elections-how-do-candidates-2019-rate
●今回の選挙に向けて、9月にジュネーブとNYで候補国の誓約発表&質疑応答の公開イベントが開かれた。10月に再度NYで、新しく候補に加わったコスタリカとスーダンを招いた同類のイベントがあった(写真)

選挙前の改善策は?
●各候補国は選挙前に、国内で誓約を公表するべきという声は上がっている
●国連の人権担当事務次長補は選挙前に、候補国における人権活動家に対する脅し・嫌がらせの通報などをまとめ、報告書としてリリースするべきだという意見もある
●自分の国の立候補について、「国内の人権に携わってる人たちでさえ知らなかった」や「立候補のプロセスが透明さに欠ける」という意見が多い(例えば、今回2期目に立候補している日本の誓約は、ネット検索しても英文が見つかるのみ。https://ishr.ch/sites/default/files/documents/japan.pdf

選挙
●国連総会で多数票を獲得した国が当選する
●どの国がどの候補国に投票したかは公表されない
●各国の投票内容を公表することで、モニタリングに繋がるのでは、という意見も出ている

理事国に選ばれた後は?
●選ばれた後も理事国の審査は続く。普遍的・定期的レヴュー(国連加盟国を対象に行われる人権記録の審査) が任期中に一度は入る
理事国になっても国際社会からのバッシングを免れることはないという意見もある。例えば、ベネズエラが理事を務めてる最中の2018年9月でも、ベネズエラの人権状況に関する決議が採択されている。第36回期と39回期の人権理事会では、イエメンに関する決議採択を、当時理事だったサウジアラビアは阻止することはできなかった
大規模でシステム化された人権侵害の疑いが浮上した理事国に対しては、国連総会で2/3以上の票数で可決されれば、資格を一時停止することができる。すぐに停止せず、改善に努めるよう一定の猶予期間を与える場合もある
●選挙が終わると、国内向けの誓約は忘れられてしまいがち。選挙後のフォローアップ・プロセスがない
●国内向けの誓約を成功させるには
⑴誓約は外務省による選挙のための「外務ポリシー」という見方では不充分。誓約の実施に向けて明確な行動計画を政府は用意し、実施に関わる分野に大臣や省が初期段階から携わることが必要
⑵市民社会、国会議員、国内の人権機関と最初から連携することで、実施のフォローアップになるだけでなく、実施の「監視役」としての責任感や関心やエンパワメントの向上に繋げることができ

今回の選挙
アフリカグループ
●4席の選出
●候補は4カ国(ベニン、リビア、モウリタニア、スーダン)
●4カ国が自動的に当選

アジア太平洋グループ
●4席の選出
●候補は5カ国(インドネシア、イラク、日本、マーシャル諸島、韓国)
●落選は1カ国のみ

東ヨーロッパグループ
●2席の選出
●候補は3カ国(アルメニア、モルドバ、ポーランド)
●落選は1カ国のみ

ラテンアメリカとカリブ諸島
●2席の選出
●候補は3カ国(ブラジル、コスタリカ、ベネズエラ)
●落選は1カ国のみ

西ヨーロッパその他のグループ
●2席の選出
●候補は2カ国(ドイツ、オランダ)
●両方とも自動的に当選

将来への可能性
人権記録の良くない国が理事になるのは、投票で何としてもブロックしたいところです。同時に、理事国を務めることで、その国が人権に対する姿勢を変えるかもしれない、というポジティブな見方もあります。国際社会のスポットライトを浴びることで、それまで取り合わなかった国内も人権問題とも向き合うようになる可能性もあり、実際にそのような例も存在するそうです。

今回参照した冊子のオンライン版(英語)は、ボタンクリックでご覧になれます。


世界人権宣言

~第11条~1. 犯罪の訴追を受けた者は、すべて、自己の弁護に必要なすべての保障を与えられた公開の裁判において、法律に従って有罪の立証があるまでは、無罪と推定される権利を有する。


今月もご拝読ありがとうございました。
これからもヒューマンライツ・ナウNYをよろしくお願いします。
hrnnyinfo@gmail.com