【イベント報告】差別と偏見の現場を取材して〜ヘイトスピーチを許さないために

昨今、在日外国人に対する差別や排外主義的な言動が広がっています。特に、埼玉県川口市や蕨市を中心に暮らす在日クルド人に対するヘイトスピーチやヘイトクライムは深刻な状況にあります。街頭でクルド人排斥を訴えるデモや、インターネット上での誹謗中傷のほか、脅迫電話、盗撮、落書きなどの被害も生じています。

ヒューマンライツ・ナウ(HRN)では、外国人差別問題を長年にわたって取材してきたジャーナリストの安田浩一さんを招き、2026年8月24日ウェビナーを開催しました。国内における被害の実態やその背景、いま求められる社会の対応などについてお話しいただきました。

(1)ヘイトスピーチは何を壊すのか?
ヘイトスピーチは単なる暴言にとどまらず、外国籍住民に恐怖を与えるとともに、日本人住民に対して「外国人は怖い」という意識や根拠のない偏見を植え付け、地域社会に深い亀裂と不信感をもたらします。
安田氏は、差別や偏見の行き着く先は人命を奪う危険性(歴史的連続性)を伴うと指摘します。約100年前の関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺や、熊本地震の際に見られたデマ流出、京都・ウトロ地区での放火事件などの歴史的背景に触れ、「差別や偏見の行き着く先は人を殺すことにつながる」「蕨駅前でヘイトスピーチを行う者と、過去に殺害に及んだ者たちに何の違いがあるのか」と強く警鐘を鳴らしました。
また、ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)の成立から10年が経過した現在、同法2条に基づく判決によって賠償命令が出されるなどの成果がある一方、同法が罰則を設けない「理念法」にとどまる点について限界が指摘されています。表現の自由との兼ね合いから規制効果を疑問視する声も多く、さらなる法整備を求める声が高まっています。
さらに、差別の矛先はかつてからの在日コリアンへの差別に加え、ムスリムやクルド人などへも拡大・多様化しています。「表現の自由」を楯に差別を放置・隠蔽することは「差別の自由」を認めることと同義であり、両者は明確に分けられるべきであると主張されました。

(2)クルド人ヘイトの激化
埼玉県南部の川口市や蕨市などには、約2,000人のクルド人が居住しており、多くは解体業などに従事しています。彼らの多くはトルコ政府による弾圧から逃れてきた人々であり、帰国すれば逮捕の危険があるものの、日本国内で十分な保護(難民認定)を受けられない現状があります。
現在、クルド人であることのみを理由に暴力や暴言の対象となっており、子どもまでもが被害を受けています。現地取材では「法律がなければ殺している」といった過激な言葉すら発せられるなど、排斥の空気が著しく強まっています。また、選挙においてヘイトスピーチを支持基盤として活用し、公約に掲げて当選を果たす人物が登場するなど、政治面への影響も顕在化しています。
背景には、刺激的な情報ほど優先的に可視化・拡散されるSNSなどのアルゴリズムの特性があります。この仕組みによってデマや差別的な「物語」が生成・増幅され、人々が一度受け入れた情報に合致するものばかりを集めて確証バイアスを強め、矛盾する事実を受け入れなくなる「フィルター」として機能してしまっている実態が浮き彫りとなりました。
現場では、多文化共生を目指して互いの理解を深めようと奮闘する地域住民も少なくありません。しかし、そうした前向きな動きをぶち壊すように、一部の地元議員らによるヘイト扇動が繰り返されています。政治や選挙においてヘイトが力を持ち、排斥を公約として掲げて当選を果たす人物が登場するなど、政治面での加害性・悪質性も著しく顕在化しています。優しさだけでは越えることのできない差別問題。法整備が求められます。

質疑応答
講演後の質疑応答では、参加者から寄せられた質問に対して安田氏より以下のような見解が示されました。

Q. デモに対する住民の反応はどのようなものですか?
取材を通じて一貫してみられるのは「無関心」や「行き過ぎである」という反応です。デモ隊の行動を「迷惑だ」と感じつつも、インターネットを通じて集めた情報を一次情報とし、背景事情を知らないまま「そうした人々が押し寄せる状況を作っている外国籍の側にも問題があるのではないか」と受け止めてしまう傾向が見られます。

Q. 地域の中で差別意識を持たないマジョリティ(多数派)の人々が、デモに感化されているのでしょうか?
社会全体が寛容であるとは言えず、ヘイトデモに反対する「カウンター」の人々が存在する一方で、多くの人々は傍観者であり無関心です。自らを「差別者」と認識しておらず、差別そのものに関心を持っていません。しかし、「無意識のうちに差別に加担し、自らの手で社会を生きにくくしていないか」という視点を持つことが重要です。

Q. なぜ日本政府は人種差別撤廃条約の留保を撤回せず、差別禁止法を作らないのでしょうか?
留保の維持は単に「表現の自由を守るため」ではなく、日本の外国人政策のあり方に起因しています。国際社会で差別に対する包括的禁止の議論が進むなかでも、日本政府は「禁止」という明確な文言を入れた制度の策定を避ける傾向があります。日本の施策において外国籍住民は「管理・監督し、日本社会を補う存在」として捉えられがちであり、十分な人権保護の観点が持ち合わされていないことが、明確な差別禁止法の制定を阻む背景にあります。

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報告の概要は以上です。