【お知らせ】国連事務総長報告COVID-19と人権に関する報告の和訳

アントニオ・グテーレス国連事務総長は、2020年4月23日「私たちは皆同じ仲間:人権とCOVID-19の対応、そして復興」というビデオメッセージを届けるとともに、人権がCOVID-19への対応と復興をどう導くことができるのか、また導くべきなのかついて報告書を発表しました[1]

グテーレス事務総長は、人々と人権が最優先であり中心でなければならないと訴え、SDGsの理念でもある、誰一人取り残されない対応を求めています。ヒューマンライツ・ナウは、このメッセージに賛同し、国内における新型コロナウイルス感染症に対するあらゆる対策が、人権に基づき計画・実施されることを求めます。

ヒューマンライツ・ナウはこの趣旨に賛同して和訳を作成致しましたので公開致します。

なお、こちらは国連による公式訳ではなく当団体による仮訳となります

 

PDF版はこちら:国連事務総長報告COVID-19と人権に関する報告の和訳

※注釈[1]https://www.unic.or.jp/news_press/messages_speeches/sg/37324/

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COVID-19(新型コロナウイルス)と人権
わたしたちはこの危機をともにしている

2020年4月

国際連合

 

対応と復興に向けて、人権が重要である

人権は、人を中心に据え、よりよい成果を生み出す

 

人権は、公衆衛生の危機および人々の生活や生計への広範な影響という二つの観点において、パンデミックへの対応を形づくる上で重要となります。人権は、人々を表舞台に上げます。人権によって形づくられ、人権を尊重した対応は、パンデミックを撃退し、すべての人のヘルスケアを保障し、人間の尊厳を保持するためのよりよい成果を生み出します。しかし、また、人権は、最も苦しんでいるのは誰なのか、なぜなのか、それについて何ができるのかということに私たちの注意を向けます。人権は、より公正で持続可能な社会、開発、そして平和をもって、この危機から脱出するための基盤をつくるのです。

 

なぜ人権は新型コロナウイルス対応でそれほどまで重要なのか?

世界は未曽有の危機に直面しています。その中心には、この一世紀で見られなかった規模の世界的な公衆衛生の危機があり、経済、社会、政治にまで広く及ぶ影響への世界規模の対応が求められています。優先されるのは、命を守ることです。

例外的な状況であることから、生命維持のため、各国は非常措置を取る以外の選択肢はありません。ウイルスの感染を遅らせるための広範囲の都市封鎖は、やむをえず、移動の自由や、副次的に他の多くの人権を享受する自由を制限します。こうした措置は、人々の生活や安全、ヘルスケア(新型コロナウイルスにかぎらず)や食料、水、衛生、仕事、教育、また、娯楽へのアクセスに不用意に影響を与えかねません。このような意図しない結果を軽減するための措置が取られる必要があります。

国連は、国や社会全体が人を中心に据え、脅威や危機への対応に備えるための、人権の形をとった強力な一連のツールを用意しています。人権というレンズを通してこの危機や影響を見てみると、人々、特に最も脆弱な人々に実際にどのような影響を与えるのか、また、今、そして、長期的に、それについて何ができるのかということに焦点が当たります。本文書は勧告ではありますが、人権は国が守らねばならない義務であることを強調する意味で価値があります。

すべての人の人権の保障は、各国にとって異なる度合いの挑戦となります。公衆衛生の危機は、すぐに経済的、社会的危機となり、保護と人権の危機がそこに重なっていきます。進行中の危機、特に武力紛争によって、人権や国際的な法的保護が必要以上に切迫した状態になる国もあります。新型コロナウイルスによる危機は、社会で最も保護されていない人々をさらに脆弱な立場に追い込みます。根深い経済的、社会的な不平等や、公衆衛生の対応として緊急の注意を要する、不十分な保健、社会的保護のシステムを明るみにしています。とりわけ、女性や男性、子ども、若者、高齢者、難民、移民・移住者、貧困者、障害者、収容者・拘留者、マイノリティ、LGBTIの人々は、それぞれ異なる影響を受けるでしょう。私たちは、すべての人の保護を保障し、すべての人をこの危機への対応に含めなければなりません。

国家機関は、病気の蔓延と闘い、命を守るための最大の資源を配備しなければならなくなっています。決定は急速に下されており、たとえ善意であっても、不用意に負の結果を招くことがありえます。対応は、特に危機において、人々と政府の間の信頼を維持するために、パンデミックに相応のものでなければなりません。

人権は、国の権力が人々の利益のために使用され、害を及ぼさないように、権力行使の方法について、国を導きます。現在の危機では、人権は、国が対応策を再調整して、病気との闘いの効果を最大化し、悪影響を最小限に抑えるのに役立つでしょう。保護を中心におくことは、人道主義に基づく対応を支えることにもなりますが、私たちが共通の人間性と尊厳を共同で維持することを保障するのです。

人権法は、国の緊急事態においては特定の人権の行使に制限を課す必要があることを認めています。新型コロナウイルスの規模と深刻度は、公衆衛生上の理由から制限が正当化されるレベルに達しています。本文書は、パンデミックへの効果的な対応を形づくるために国家の手を縛ろうとするものではありません。むしろ、危機への対応において発生しうる落とし穴を知らせ、人権に注意を払うことでよりよい対応ができるように提案することを目的としています。

 

本文書の目的は、3つあります。まず、差し迫った世界的な健康に対する脅威への対応の有効性を高めること。次に、人々の生活に対する危機の広範な影響を軽減すること。そして、新しい問題を生み出したり、既存の問題を悪化させたりすることを回避すること。この3つの要素が、すべての人にとってよりよい再構築を可能にするでしょう。

 

一部の国における民族的ナショナリズム、ポピュリズム、権威主義や人権に対する反発の高まりを背景に、この危機がパンデミックとは関係のない目的による抑圧的措置を適用する口実となりえます。パンデミックによる不安定さと恐怖は、特定のグループに対する差別、ヘイトスピーチ、外国人嫌悪、難民・庇護申請者への攻撃と強制送還、移民・移住者の虐待、性的およびジェンダーに基づく暴力、そして、性と生殖に関する健康と権利への限定的なアクセスなど、既存の人権問題を悪化させています。

今は、人権を無視すべき時ではありません。公平な持続可能な発展の達成と平和の維持にできるだけ早く再注力できるよう、この危機のかじを取るために、今こそ、人権が必要なのです。

危機においても人権を国連の行動の中心に据えるための「人権のための行動呼びかけ(Call to Action for Human Rights)」の中で、事務総長は次のように強調しています。

「私たちが共有する人間のありようと価値観は、分断ではなく、結束の源であるべきです。私たちは人々に希望と未来がもたらすビジョンを示さなければなりません。人権システムは、人々とリーダーの関係の再構築や、私たちが依存する地球規模の安定、連帯、多元主義、包摂性の達成といった21世紀の課題、機会、ニーズを満たす手助けをします。このシステムは、希望を具体的な行動に変え、人々の生活に実際に影響を与える方法を示してくれます。人権を権力や政治の口実にしてはなりません。なぜなら、人権はそれらの上位にあるからです。」

 

文書は、この呼びかけを具体的な行動に変えて、パンデミックへの対応を支援することを目的としています。新型コロナウイルスのパンデミックへの効果的な対応の中心となる6つの重要なメッセージを提示します。

 

スポットライト:新型コロナウイルスに対する戦いの最前線における人権

現在のパンデミックの最前線には3つの権利が関わっています。

 

生命に対する権利と生命を守る義務

私たちはすべての人の命を守るために新型コロナウイルスと闘っています。生命に対する権利を行使することは、生命に直接的な脅威をもたらす社会の状況に対処することを含め、すべての国が人間の生命を保護する義務があることを思い出させてくれます。国はこれを実行するために非常に努力をしており、これを第一の焦点とし続けなければなりません。

 

健康への権利とヘルスケアへのアクセス

健康への権利は生命への権利に備わっているものです。新型コロナウイルスは、健康への権利を保護する国家の能力を限界まで試しています。すべての人間は、尊厳のある生活につながる、達成可能な最高水準の健康を享受する権利があります。社会的、経済的状況に関係なく、誰もが必要なヘルスケアにアクセスできるべきです。

医療システムへの歴史的な過小投資により、パンデミックへの対応やその他の重要な医療サービス提供の能力が弱まっています。新型コロナウイルスは、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)が責務とならねばならないことを示しています。強力で回復力のあるヘルスケアシステムがある国々は、危機に対応するための備えがより整っています。世界中でヘルスケアシステムが飽和状態になりつつあり、一部は崩壊の危機に瀕しています。UHCは、脆弱な人々に手を差しのべ、パンデミックへの備えと予防を促進することで、強力で回復力のある医療システムを発展させます。SDGs目標 3には、UHCの達成が含まれています。

普遍的で手頃な価格のヘルスケアシステムは、ウイルスの蔓延を含む基本的な対策に、差別なく、誰もがアクセスできるようにすることで、パンデミックとの闘いを支えます。これには、可能であれば、支払い能力に関係のない、検査、最も脆弱な人々への専門家によるケア、必要とする人々への集中的なケアやワクチン接種が含まれます。パンデミックへの対応として、一部の国では自国のすべての人に健康保険を拡大しています。民間医療提供者と合意し、パンデミック対応に彼らの施設を利用できるようにした国もあります。

 

移動の自由に関する中心的な課題

ウイルスを制御し、生命の権利を保護するということは、人々の移動や他者との接触を禁止することで、感染の連鎖を断ち切ることを意味します。新型コロナウイルスに対して各国がとった最も一般的な公衆衛生対策は、封鎖や在宅指示により、移動の自由を制限することでした。この対策は、ウイルスの感染を防ぎ、医療サービスの飽和を防ぎ、命を救うための実用的かつ必要な方法です。

ただし、封鎖による、仕事、生活、ヘルスケア・食料・水などへのアクセス、教育や社会サービス、自宅での安全、適切な生活水準や家族生活への影響は深刻なものとなる可能性があります。世界中で明らかになってきているように、移動の自由は他の多くの権利の享受を促進する極めて重要な権利です。

国際法は、安全保障や、健康に関わる緊急事態などの国家緊急事態を理由とするような、移動の自由に対する一定の制限を認めていますが、自由な移動に対する制限は、その目的のために必要不可欠であり、内容が相応で、差別的ではないことが求められます。効果的で汎用性のある検査と追跡、対象を絞った検疫を利用可能にすることで、過剰に広範な制限の必要性を軽減できます。

 

人権に関する6つの重要なメッセージ

 

I. 人々の生命の保護が重要であり、生活を守ることがそれを可能にする

 

公衆衛生への対応とともに、経済的および社会的影響に対処する必要がある

私たちは皆、この危機をともにしています。当然のことながら、命を救うことに焦点が当てられており、そのためには、ヘルスケアへの普遍的なアクセスが不可欠です。しかし、健康危機は経済的、社会的危機を引き起こし、個人、家族、地域社会に大きな打撃を与えています。この影響は、病気自体に起因するだけでなく、不平等や脆弱な保護システムなどの根本的な要因に対抗するための対策にも起因しています。これは、多くの場合、自分自身を保護する力が最も弱い人々に著しく及びます。仕事、生活、基本的なサービスへのアクセス、家庭生活への最悪の影響を軽減する効果的な対策が、人々の命を守り、公衆衛生対策に従わせ、これらの対策が解除された際には、回復を容易にします。

 

新型コロナウイルスは誰に、どのように、なぜ害を及ぼすのか?

危機によって最も深刻な影響を受けている人々の多くは、生き残るための日々の闘いにおいて、すでに大きな課題に直面しています。世界の22億人を超える人々にとって、水へのアクセスが不十分なため、定期的に手を洗うことを選択できません。ホームレスだったり、不十分または過密な住宅にいたりする18億人にとって、身体的な距離をとることは夢物語のようなものです。貧困自体が巨大なリスク要因なのです。

貧困層や脆弱な人々は、ウイルス自体へのリスクが高いだけでなく、ウイルスを制御するための対策の悪影響によって、最も打撃を受けています。インフォーマルセクターで雇用されている人々、多くは女性ですが、例えば、社会的保護や失業扶助をほとんど受けていません。

各国政府は、ウイルスの蔓延を抑制し、命を救うことに正しく注力しています。感染率、入院率、死亡率は衝撃的な数字です。公衆衛生の専門家の助言に基づく、人命を救うための対策が効果的であることが証明されています。同時に、そうした対策は、人々の仕事、生活、生活水準、地域社会、家族に影響を与えています。

封鎖は、食料、学校、仕事、基本的なサービスへのアクセスを制限しています。高齢者、子ども、障害者のサポートが弱体化しています。結果として生じたケアワークの負担が、女性に偏ってしまい、自身の健康に対する権利に影響を与えています。言い換えれば、制限は人々のあらゆる人権の享受に直接影響を与えているのです。

 

危機が生命と生活に及ぼす影響における新たな人権課題

この分析は、基本的となる経済的、社会的権利を保障するための対策に優先順位を付けることが重要であることを示唆しており、多くの国がそれを実行しています。しかし、これらの権利に対する危機の影響は現実に起きています。

 

> 多くの国で、かなりの短期間で、失業と食料不安が前例のないレベルに上昇した。
> 広範囲にわたる学校の閉鎖により、10億人を超える子どもたちの教育が妨げられた。
> ケア施設や保健サービスの突然の閉鎖など、子どものケアや保護のサービス削減により、暴力、搾取、虐待に対する子どもの脆弱性が高まっている。
> 新型コロナウイルスは、他者と距離をとることがほぼ不可能で、収容者・拘留者がこの病気に対してより脆弱である収容・拘留施設にも達している。
> 虐待者と一緒に自宅に閉じ込められ、危害軽減のためのサービスやシェルターにアクセスできない女性は、家庭内暴力(DV)のリスクがさらに高まり、自宅での暴力の割合が増加している。
> ウイルスを封じ込める戦略は、良質で安全な住宅を持たない人々には困難である。清潔な水や衛生設備へのアクセスの欠如が根本的に問題となるホームレスやスラムの住民にとって、物理的な距離をとること、自己隔離、手洗いは不可能である。
> 新型コロナウイルスは、人口の多い、高密度のインフォーマルな居住地に達し、難民、国内避難民(IDP)、移民のキャンプに広がっている。こうした場所は、物理的な距離をとることが困難で、保健サービスへのアクセスは制限されており、人々は病気に対して特に脆弱である。

 

世界中の何百万もの人々が、すでにその日暮らしの生活をしています。この危機以前は、不平等と生活水準の低下に対する街頭での抗議活動がよく見られました。人々はいらだち、怒りをあらわにしていました。こうした状況を背景に、パンデミックは、緩和策が取られないのであれば、緊張を高め、市民の不安を引き起こす、さらなる困難を生み出しています。これは、後で論じるように、安全保障上と言えるような対応につながるかもしれず、ここで回避しなければならないのは、パンデミック対応の有効性を損なうことです。国の人権への取り組みや、例えば、2008年の世界的な金融危機への経済対応の誤りからの教訓を土台に、新しい経済的、社会的思考に基づく「よりよい再構築」の機会があるのです。

新型コロナウイルスは、持続可能な開発目標(SDGs)の実践を加速すべきときに、持続可能な発展を阻んでしまっています。人権に支えられた2030アジェンダは、パンデミックからの持続可能な回復のための包括的な青写真を提供します。

 

スポットライト:危機への回復力の創出における経済的・社会的権利の長期的な重要性

新型コロナウイルスの危機は、緊急の危機対応の一環として、経済的、社会的権利の保護と促進が果たす重要な役割にスポットライトを当てています。経済的、社会的権利を保障することによって人々を保護する政府の責任の重要性が、これほど明確に実証されたことはかつてありませんでした。

しかし、この危機が終息したときに、学んでいるべき重要な教訓があります。経済的・社会的権利の保護に投資してきた国は、より回復が早い可能性があるということです。 UHCシステムは、公衆衛生への脅威を封じ込める国の能力を強化しますが、効率的な食料分配システム、社会保障や保護システム、ジェンダーの平等、労働者の権利・最低賃金・有給病気休暇・職場の安全衛生(この危機中の個人用防護具を含む)を通じた人々と仕事の保護、遠隔教育へのすばやい切り替えが可能な、リソース豊富な教育システム、インターネットへのアクセスも同様です。これらの権利を予防・準備戦略の不可欠な部分と見なす必要があります。

 

対応が人権に基づいているグッドプラクティス

多くの国では、利用可能な資源の範囲内で、新型コロナウイルスが人々に与える悪影響を軽減するために、財政的、金融的、経済的措置を採用しています。例えば、次のようなものです。

 

> スラム地域への緊急用給水設備の提供
> 危機中の賃料未払いを理由とする住宅立ち退きの一時停止
> 最低所得保障の提供に近いものもある、対象を絞った経済的措置や雇用主・企業への支援を通じた雇用と賃金の維持
> 有給病気休暇の労働者への提供・延長、失業給付
> ホームレスのための緊急避難所の確保
> 虐待の被害者に対する家庭内暴力への対応の拡大
> 必要不可欠なサービス従事者への保育の提供

 

しかし、すべての国がすべての人に十分な保護を提供するための資源を持っているわけではありません。

 

II. ウイルスは差別をしないが、その影響は異なる

 

誰も取り残すことのない、地球規模の脅威に対する包括的対応

私たちは皆、この危機を共にしています。対応は、包括的で、平等で、ユニバーサルである必要があります。そうでなければ、ステータスに関係なくすべての人に影響を与えるウイルスに勝てないでしょう。ウイルスが1つのコミュニティに存在する場合、ウイルスはすべてのコミュニティにとって脅威であり続けます。したがって、差別的な慣行は私たちすべてを危険に晒すことに繋がるのです。ウイルスとその影響が、特定のコミュニティに過度に影響を及ぼすという兆候が見受けられます。これは、危機の対応とその余波において対処すべき、根本的な構造的不平等と広範な差別を浮き彫りにしています。

 

新型コロナウイルスの対応において、なぜ平等と無差別が重要なのか?

コロナウイルスは、若者、老人、富める者、貧しい者、また基礎疾患のある者に感染し、死に至らしめます。そこに、人種、肌の色、性別、言語、宗教、性的指向、性自認、政治的またはその他の意見、国、民族または社会的出自、財産、障がい、出生またはその他のステータスは関係ありません。ウイルスは差別しないのです。そして、私たちがウイルスのもたらす脅威に対応するにあたって、差別があってはいけません。

差別的慣行は、国家が住民に提供しようとしている、ウイルスからの保護において、特定の人々を除外します。もし一人でも除外された場合、ウイルスは社会に定着する機会を有し、私たちの努力すべてが損なわれます。インクルージョン(包括)は私たち全員を保護する、最も良いアプローチなのです。

度合いの高い不平等がウイルスの広がりを助長し、それがさらに不平等を深めるという悪循環を新型コロナウイルスは引き起こしています。長期的な不平等や根本的な不平等の決定要因を原因として、いかに特定の個人やグループが不均衡に、人命と生計両方を失うという、ウイルスの影響を受けているかを証拠は示しています。

国は、すべての人がこのウイルスとその影響から確実に保護されるようにする責任があります。それにあたり、最も危険に晒されている、または過度に影響を受けている特定のグループに対して、特別な対策と保護が必要になる場合があります。危機への対応は、蔓延するジェンダーの不平等を含む、複合的な差別と不平等を考慮に入れる必要があります。しかし、危機が終わった際にも、これらの不平等が持続することを防ぐ必要があります。

 

不平等、差別および排除に関する新しい人権問題[1]

残念ながら、この危機に際し、差別が少しずつ現れています。すべての地域において、差別、外国人嫌悪、人種差別、およびウイルスの蔓延に際しスケープゴートにされた人々に対する攻撃が発生しています。一部の国では、リーダーが新型コロナウイルスを説明するために「外国人の病気」のようなラベルを使用しています。ウイルスに感染した人々はますます汚名を着せられています。差別とヘイトスピーチに対峙する主な責任は加盟国にありますが、ソーシャルメディアを扱う企業を含む、すべての関係者がその役割を果たす必要があります。

一部の国では、病気と闘うために最前線で命を危険に晒している保健医療従事者が排斥されたり、攻撃されたりさえしています。保健医療従事者は主に女性であり、低賃金、非常勤、また時には不安定な労働条件の下で働いており、虐待やジェンダーに基づく暴力に晒されています。保健システム内のジェンダー平等の強化は、より持続可能なケアモデルに繋がります。

女性にとって、根深い性差別、社会経済的脆弱性の高まり、ロックダウンにおける家庭内暴力の悪化、介護者や医療従事者として最前線で果たす役割はすべて、より高いウイルスへの曝露とより不安定な生活を意味しています。そして、子どもたちの場合、世界中で教育を受ける権利が途絶えている一方、親や保護者からの強制的な分離や、暴力や危機に関連したトラウマのリスクを経験しています。

危機は特に、社会の中で取り残された最も脆弱な人々に関する懸念を引き起こします。周辺化は脆弱性を生み出すのです。危機は、どのように特定のグループが不均衡な影響を受けているかを明らかにしています。たとえば、感染と死亡に関する数値を見るとその影響の違いは明らかです。封じ込め対策自体は、在宅で仕事をすることができず、自給自足の生活をすることができない最も貧しい人々に過度な影響を及ぼします。

パンデミックは、高齢者、基礎疾患のある人々、社会経済的地位の低い人々など、ほとんどの国でマイノリティである人々の生活、健康、福祉に最も破壊的な影響をもたらします。

高齢者は、より高い感染率と死亡率に加え、公の場でエイジズム、医療とトリアージの決定における年齢差別、家庭でのネグレクトや家庭内虐待、不可欠なサービスへのアクセスがない孤立、またより多大なウイルスへの曝露とケア施設での貧弱な治療に直面しています。

しばしば低い社会経済的地位にあり根深い差別に晒されている、人種的、民族的、および宗教的マイノリティは、社会経済的地位と差別が原因で感染率および死亡率が高くなっています。また、緊急時における措置という名の下、法執行機関による厳しい扱いや、適切な医療への不平等なアクセスの犠牲になっています。

特に移民・移住者、難民、国内避難民は、スティグマ(偏見)、外国人嫌悪、ヘイトスピーチ、および不寛容に対して脆弱です。国境が閉鎖しているため、世界中の移民は失業や差別に直面し、また母国に帰国することも困難です。約167か国が国境を閉鎖しています。少なくとも57の国が庇護を求める人々に対し例外を設けていません。危機が始まって以来、数千人が危険な環境に押し戻されたり、強制送還されたりしています。難民、国内避難民、移民は、衛生状態と医療へのアクセスが制限された過密状態で生活しており、感染に対して特に脆弱です。移民、無国籍者、難民、国内避難民は、新型コロナウイルスの影響に対処するための社会的保護措置から除外されている場合があります。滞在許可証を持たない移民は、拘留または強制送還されるのを恐れているため、医療を求めることができません。帰国した移民は、新型コロナウイルスのリスクに晒された者として、スティグマに直面する可能性があります。

不平等やスティグマ、差別に直面し、ヘルスケアやその他の重要なサービスへのアクセスが不足している多くの先住民族は、以前から危機的な状況にあったといえますが、パンデミックによって、状況はさらに悪化しています。この事態は、先住民への文化的脅威であり、先住民族の高齢者や自発的な隔離下にある先住民族は特に脆弱であるといえます。

障害者で、特に基礎疾患を持っていたり、施設にいる人々の状況は特に深刻です。障がいのある人にとって、自分自身を守るために慎重な措置を取ることが難しい場合があります。アウトブレイクは、自分の家で一人で住んでいるものの、外部のサポートに依存している人の自立を脅かします。彼らは食糧や薬など、基本的な必需品へのアクセスが困難な場合があります。彼らへのサポートは危機を通じて継続して保障されなければなりません。

囚人や被拘禁者、および自由を奪われた者は、年齢に関係なく、ウイルスの急速な拡大に対して非常に脆弱です。パンデミックは、過密状態にある刑務所内の緊張を悪化させており、多くの逃亡と暴動が報告されています。非拘禁的措置および選定されたカテゴリーに含まれる囚人の釈放が必要です。公判前の拘留者や軽微または政治的犯罪のための拘留者、刑期末近くの者、違法に拘留された者の減少を促進するべきです。解放されない人は適切な医療を受けなければなりません。

危機は、ヘルスケアを求める際に差別とスティグマに直面することが多く、暴力やその他の人権侵害に対してもより脆弱なLGBTIの人々の困難を増幅させています。LGBTIの個人や組織を標的とし、警察が新型コロナウイルスに関する指令を悪用したという報告もあります。

HIVと共に生きる人々は、命を救う抗レトロウイルス薬へのアクセスが減っている可能性があります。また、薬物を使用する人々は、針や注射器へのアクセスを含むハームリダクション・プログラムを利用できなくなる可能性があります。

 

スポットライト:平等、無差別そしてインクルージョンは危機の中心にある

平等と無差別は常に適用される人権の核ですが、不平等と差別的慣行がなぜ受け入れられず、結果的にすべての人を傷つけるのかを、このパンデミックは明確に示しています。私たちはパンデミックと戦うために、誰かを置き去りにするわけにはいきません。不平等は、特定の疎外されたコミュニティにおける人権の享受にすでに影響を与えています。パンデミックは、特定のグループに過度に影響を与えている根本的な構造的不平等を明らかにしています。これは、パンデミックが特定のコミュニティ、特に周辺化されたコミュニティに襲い掛かっている様子に強く表れています。

 

対応が人権に基づいているグッドプラクティスの例

資源のある多くの国が、最も脆弱な人々に対して危機が与える経済的および社会的影響を緩和するために、ターゲットを絞った対策を講じてきました。一部の国では、この通常でない状況下において、すべての移住者と庇護希望者に在留資格を一時的に付与し、アウトブレイクの拡大に伴い国の医療への完全なアクセスを提供することで、公衆衛生のリスクを低減しています。また他では、コロナウイルス治療をすべて無料にしました。

一部の国では、障害者、ホームレスの人々、また施設に住む若者などの脆弱なグループを保護するための措置が取られています。他には、不法移民の逮捕を一時停止したところもあります。

すべての地域において確認されたのは、刑務所にいる人々に対する新型コロナウイルスの影響を緩和するために取られた措置です。これにより、一部の囚人が釈放または一時出所しました。

 

III.対応にすべての人を巻き込む

 

オープンで、透明性と責任のある対応への参加

私たちは皆、この危機を共にしています。効果的にパンデミックに対抗するためには、私たち皆が対応の一部である必要があります。対応への効果的な参加には、人々が十分に情報を得て、自分たちに影響を与える決定に関与し、ウイルスと闘い命を救うために講じられた措置が、必要で合理的かつ適切でふさわしいと確認する必要があります。私たち全員が果たすべき役割を担っていますが、参加を最大化する最も効果的な方法は、エビデンス、説得、集団的オーナーシップに基づくものです。人々は危機の中で主体性と声を必要としています。政府は今、これまで以上にオープンで透明性があり、保護しようとしている人々に対して迅速に対応し、説明責任を果たす必要があるのです。市民社会組織(CSO)および民間セクターと企業は、このニーズが満たされるのに貢献することができます。

 

なぜ人々が新型コロナウイルスの対応に関与することが重要なのか?

人々は、多くの人権を厳しく制限している特別な措置を遵守するよう求められています。これらの措置が生活にもたらしている現実的なしわ寄せにもかかわらず、これまでのところ、人々は協力する意欲を驚くほど示してきました。ウイルスが拡大し続け、これらの措置が時間と範囲の面で拡大する必要がある場合、この協力関係の維持が困難になる可能性があります。対策に対する国民の支持を維持するための最良の方法は、政府がオープンで透明性を持ち、人々が自身に影響を与える決定に関与することです。ウイルスによってもたらされる脅威の程度について正直であり、対策が合理的で効果的であり、必要以上に長く続かないことを証明することが重要です。コンプライアンスの確保は信頼の構築にかかっており、信頼は透明性と参加に基づきます。

参加は、単に国民の支持を得ることのみを目的とするわけではありません。実施された対策が実際に機能し、意図しない結果が防止または対処されることを確認することも目的です。経済計画や緊急時の対応などのセクターを越えたエビデンスは、女性と協議したり、女性が意思決定の場にいないと、政策の効果が低下し、むしろ害を及ぼすことさえあると示しています。

当局は、意思決定においてオープンで透明性があり、批判に耳を傾け、それに応じる用意をする必要があります。政府の行動の有効性を精査または批評しようとする人々が役割を果たせるよう、タイムリーで正確な事実情報および、性別を含む、細分化されたデータへのアクセスが制限されないことが不可欠です。

政府は、保護しようとしている人々に対して説明責任を負う必要があります。開かれた市民空間で活動している自由な報道機関と市民社会組織は、パンデミック対応における重要な要素であり、育てられる必要があります。

多くの市民社会組織が最前線での対応において貢献しています。最も深刻な影響を受けている人々を支援するために不可欠なサービスのギャップを埋めるために活動しているのです。また、メディアと市民社会組織は、命を救うアドバイスおよびパンデミックと国の対応についての情報を広める支援をしています。企業と民間セクターも、さまざまな方法でパンデミックに対する取り組みに貢献しています。たとえば、生産ラインを変えて、最前線にいる労働者のための個人用保護具を生産するなどしています。

パンデミックへの対応、特に緊急時における権力の使用に関する民主的な監視を維持する必要があります。民主的な制度を維持することは不可欠ですが、選挙では投票所に人々が集まるため、距離を保つという公衆衛生のアドバイスに反することになります。したがって、状況によっては選挙の延期が必要になる場合があります。多くの国において予定されていた選挙がすでに延期されています。

この危機は、インターネットへのアクセスの重要性をかつてないほど強調しています。世界の人口の半分以上がインターネットにアクセスでき状況において、インターネットの遮断を回避しながら、貧しい人々や最も危険に晒されている人々のために、インターネットのサービスを拡大するための緊急対策を講じる必要があります。インターネットのサービス・プロバイダーは、支払いができない可能性のある人々へのサービスを遮断すべきではありません。

 

参加と市民空間に関する新たな人権問題

この分析は、国家が、とりわけ表現および報道の自由、情報の自由、結社の自由および集会の自由を尊重し保護する必要があることを示唆しています。 新型コロナウイルスのコンテクストにおいて、多くの国で実践されていることは必ずしもそうでないと示唆しています。懸念は次のとおりです。

 

> 市民空間が縮小しているなか、情報の流れを制御し、表現の自由と報道の自由を取り締まる手段。
> 「フェイクニュース」を広めたとして、野党やジャーナリスト、医師、医療従事者、アクティビストなどを対象して行われる逮捕、拘留、起訴、迫害。
> 攻撃的なオンライン上の取り締まりと監視の強化。
> 選挙の延期がもたらしうる深刻な憲法上の問題と、それに伴い高まる可能性のある緊張。

 

この危機は、表現の自由を守りながら、どう有害な発言に対処するのが最善かという問題を提起します。誤った情報や偽情報を排除するための広範な取り組みは、意図的なまたは意図しない検閲に繋がり、信頼を損なう可能性があります。最も効果的な対応は、人々が信頼する情報源からの正確で明確な証拠に基づく情報です。誤った情報の報告や削除は歓迎されますが、信頼できる情報をより目立たせることを防御の第一線とする必要があります。

 

対応が人権に基づいているグッドプラクティスの例

多くの国では、状況と対応を国民に知らせるための記者会見を毎日設けています。これらのフォーラムでは、国の対応の重要な部分が示され、講じられた措置に対する人々の支持を獲得・維持します。また、正確な公衆衛生情報およびアドバイスが確実に伝えられることで、人々はどこに支援を求めるべきかを知ることができます。

一部の政府は、危機における行政の行動を精査するために、オンラインで公開される、独立または野党主導の議会委員会に権限を与えたり、その設立を行ったりしました。

市民社会とビジネスは影響を緩和し保護を強化しようと努力しており、様々な意味において非常にクリエイティブです。たとえば、店舗における特定の営業時間を高齢者に割り当てたり、脆弱な人々をサポートするコミュニティ・サポート・ネットワークを組織したり、収入のない人々のために家賃の徴収を延期したりしています。

 

IV. 脅威はウイルスであって、人々ではない

 

必要に応じて、緊急および安全対策は、一時的で、比例原則に則り、人々を保護することを目的としたものでなければならない。

私たちは皆、この危機を共にしています。パンデミックは平和と安全への多大な影響とともに深刻な公衆衛生上の脅威をもたらしています。

法の執行は、この病気との闘いを支援し、人々を守る役割があります。緊急時の権限は必要かもしれませんが、最低限の監督下で迅速に付与される広範な行政・執行権限はリスクをもたらします。強引な安全保障への対応は、健康への対応を弱体化させ、平和と安全に対する既存の脅威を悪化させ、あるいは新たな脅威を生み出す可能性があります。最良の対応とは、法の支配の下で人権を保護しつつ、差し迫った脅威に相応の対応を目指すものです。今は平和のため、そしてウイルスを撃退することに焦点を絞るための時間です。

 

新型コロナウイルスへの対応に、なぜ正義、自制、法の支配の尊重が不可欠なのか?

パンデミックによって各国は緊急・安全対策を課しています。ほとんどの場合、これらの措置はウイルスと闘うために必要ですが、政治的に主導されることもあり、容易に濫用される可能性があります。パンデミックは、民主的な制度を弱体化させたり、合法的な反対意見を押し流したり、嫌われている人々やグループに口実を与える可能性があり、私たちはその結果と当面の危機をはるかに超えて生きていくことになるでしょう。

状況によっては強制的な措置は一定の状況下で正当化されるかもしれませんが、強引で過度な方法で適用されれば、パンデミックへの対応全体を損ない、裏目に出る可能性もあります。

この公衆衛生上の緊急事態によるこういった類の不安定性は、継続的な平和と安定を必要としています。公衆衛生面での国家の努力を強化し、それを支えるためには、公正、正義、法の支配の尊重が必要です。裁判所と司法行政は、危機によって課せられた制約があるとしても、機能し続けなければなりません。国家は、法の執行が維持されることを確約し続けなければなりません。また、様々な人のなかでも、女性、高齢者、障がいのある人々、子どもなどを暴力や虐待から守り、この危機の間、ジェンダーに基づく暴力のサバイバーへの支援サービスの継続を確保しなければなりません。

すべての時において、私たちは、この危機を利用して自分たちの地位を向上させようとしたり、パンデミックへの対応を目的とした資源を汚職によって盗もうとしたりする者たちに対抗する必要があります。

 

新しい技術は、治療法やワクチンの発見や、この病気の蔓延の分析を含め、新型コロナウイルスとの闘いを支援するために多大な可能性を提供しています。しかし、人工知能やビッグデータといった技術を、緊急事態や安全保障上の制限を実施したり、影響を受けたグループの監視や追跡を行うために使用することには懸念があります。濫用の可能性は高く、現在の緊急時に正当化されていたことが、いったん危機が過ぎても常態化してしまう可能性があります。適切なセーフガードがなければ、これらの強力なテクノロジーは差別を引き起こしたり、プライバシーに立ち入ったりこれを侵害したり、あるいはパンデミック対応の目的をはるかに超えて、特定の人やグループに対して使用9されたりする可能性があります。すべての措置は、有意義なデータ保護のためのセーフガードを組み込み、合法的かつ必要性があり、比例原則に則り、時間的な制約があり、正当な公衆衛生目的によって正当化されなければなりません。

パンデミックはすべての国に影響を与えていますが、一部の国は以前から平和と安全の課題に直面しており、パンデミックへの対応をさらに困難にしています。既存の不安定性と相まって、パンデミックは平和と安全保障に対する真の脅威となり、平和構築の成果を弱体化させ、長期的には紛争リスクを増大させる可能性があります。一部の国では、デリケートな和平プロセスがあり、特に国際社会が気を取られている場合には、現在の危機によってそのプロセスが損なわれる可能性があります。危機を政治的な目的のために利用しようとするアクターもいます。事務総長が求めたようなグローバルでの即時停戦は、命をかけた真の戦いに私たちが集中することを可能にします。

新型コロナウイルスへの対応において、一部の国は、人権を侵害する方法によってテロ対策や安全保障措置を行うかもしれません。そのような濫用は、テロリズムの拡散を助長する状況を煽る可能性があります。

この危機を利用し人権の保護を後退させようと考えている人は、よく考えるべきです。それは、国際的そして国内のパンデミックへの対応の効果を損なわせるだけです。

 

保護の焦点:人道危機における最も脆弱な人々の保護

パンデミックの発生は、保護に関する問題を悪化させ、脆弱な人々は既存の人道的危機の中で新たな脅威に晒されています。紛争当事国がパンデミックを利用して不安定な状態を作り出したり、悪化させたりして、医療やその他の救命支援やサービスを阻害する危険性があります。

武力紛争下において、国際人道法は医療従事者と施設を保護し、医療を必要とする人々への医療の提供と人道的支援の円滑化を求めています。この法体系を尊重することは、最終的にパンデミックに対応し、人命を救うための継続的な努力に貢献します。紛争当事国は、国内避難民、難民、その他の脆弱なグループの、人道支援への迅速、安全かつ無制限のアクセスを促進し、紛争状況下で必要不可欠な支援を提供するために国境を越える人道支援要員の受け入れを許可しなければなりません。

制裁を受けている国々は、医薬品、医療支援、個人用保護具へのアクセスが困難になっています。この例外的な状況を認識し、パンデミックへの対応の能力を損なう可能性のある制裁を放棄することが重要です。

 

平和と安全と法の支配に関する新たな人権課題

この分析は、国家が危機対応において、武力行使、逮捕・拘留、公正な裁判、司法アクセスとプライバシーなどに関する権利を保障すべきであると提言します。合法性と法の支配の基本原則も守られなければなりません。しかし、一部の国で行われているプラクティスには以下のような懸念があります。

 

> 最低限の監視と時間制限のない、しかし権利を奪う広範囲な行政権限を付与する宣言された「国家緊急事態」
> 表現の自由に悪影響を及ぼす可能性を有する、政令による立法権限、「虚偽の情報を広めた」者への刑事罰など 新型コロナウイルスへの対応という名目のもと採用された、濫用の可能性がある緊急立法
> 逮捕や拘留を含む移動を制限するための措置を強制するために、過度の武力行使を行った事例。
> 濫用されやすい方法による、人々の追跡と、情報収集のための監視技術の利用。

 

多くの国が、特別緊急事態法の有効性に時間制限を課したり、人権法に沿って延長すべきかどうかを見直す期間を設けたりしています。

 

スポットライト:緊急対策

国際人権法は、国民の生命を脅かすような緊急事態が発生した場合には、特定の権利を奪うことを認めています。緊急事態は公式に宣言されなければならず、そのような措置は、

 

• 状況の緊急性によって厳密に必要とされる範囲内でのみ取られなければなりません。
• 国際法上の他の義務と矛盾してはなりません。
• 期間限定でなければなりません。そして、
• 差別してはなりません。

 

生命の権利を含む特定の権利からの逸脱は認められていません。

他の国は正式に非常事態を宣言していないにもかかわらず、ウイルス対策のための緊急措置を採っています。これらの措置が人権に影響を与える場合には、差別的であってはならず、法律により実施され、公衆衛生の危機に対応するために必要かつ適切なものでなければなりません。

 

V. どの国も一人ではウイルスに立ち向かえない

 

グローバルな脅威にはグローバルな対応が必要

私たちは皆、この危機を共にしています。グローバルな対応には国際的な連帯が不可欠です。一国だけでこのウイルスを倒すことができる国はありませんが、他の国よりも優れた対応能力を持つ国もあります。どの国も個人を置き去りにすることができないのと同じように、ウイルスを打ち負かすためには、世界は一国も置き去りにすることはできません。

 

なぜ新型コロナウイルスへの対応に世界的な連帯が不可欠なのか?

新型コロナウイルスは人類全体を脅かしており、人類全体が反撃しなければなりません。しかし、多くの国では危機に対応するための資源を他の国と同じように確保することができません。公衆衛生への対応における格差は、貧しい国を他の国よりも高いリスクに晒しています。新型コロナウイルス との戦いでは、政府が全国民、特に自分の身を守ることができない人々に保護を拡大する必要があるように、私たちはすべての国が等しく効果的に対応できるようにする必要があります。コロナウイルスは、国境は無視できるものではないと示しています。もし一国がウイルスの拡散を抑えるための努力に失敗すれば、すべての国が危険に晒されます。世界は、最も弱い医療システムと同程度にしか強くないのです。

もしこの提言書が、新型コロナウイルスと闘う国家の戦略の中心に人権が必要であることを主張することに成功したのであれば、その戦略は国際的な協力と援助によって強化されなければなりません。ウイルスは、国境を越えた協力と集団による行動によってのみ打ち負かされるのです。経済的、社会的、文化的権利委員会が述べるように、いくつかの病気が国境を越えて容易に感染することを考えると、国際社会にはこの問題に対処する集団的責任があります。経済的に先進している締約国は、この点でより貧しい途上国を支援する特別な責任と利害があります。

もしワクチンが利用できるようになれば、その時は、世界中で誰もが利用できるようにしなければなりません。

豊かな国は、人権を実現するために、低所得国を支援する必要があります。パンデミックは、今日の世界が直面している課題に立ち向かうために、多国間主義と国際協力の重要性を思い起こさせます。国連は、まさにこのような理由から存在しているのです。

この脅威を地球規模で打ち破るためには、知的財産に関する柔軟な政策と、最新の技術や将来のワクチンを含む潜在的な治療法の研究にアクセスするための国際協力が必要です。治療とワクチンは、世界的な公共財であると考えなければなりません。同様に、新型コロナウイルスへの国際的な対応には、世界的な統計システムと各国の統計システムが、不均衡な影響を監視するための、細分化されたデータを含む、パンデミックの範囲を理解するためのデータと統計的証拠を提供し、協力するために必要です。

しかし、この危機は、国際的な人権規範に反するものを含む、多国間主義や国際的なアプローチに対して、一部の人のからかなりの反発がある時期に起きています。事務総長が「行動呼びかけ(Call to Action)」で繰り返し述べたように、集団的な行動が、人類が直面している複数の危機に対する唯一の答えです。

 

VI. 復興した時には、以前よりも良くならなければならない

 

危機は、人権がその改善を助けることができる弱点を明らかにした

私たちは皆、この危機を共にしています。この危機が収束した時、私たちはどのような世界を生きたいでしょうか?今、私たちがどのように対応するかで、良くも悪くも、その未来を形作ることができます。私たちは、当面の危機に焦点を当てている間に危害を加えないようにしなければなりません。短期的な対応を計画しつつ、長期的な視点で考えることが重要です。危機は、公共サービスの提供方法の弱点と、公共サービスへのアクセスを妨げる不平等を明らかにしています。人権は、私たちが当面の優先事項に対応し、将来の世代に対する私たちの責任を含め、将来のための予防戦略を策定するのに役立ちます。

 

新型コロナウイルスの危機の真っ只中で、なぜ長期的なことを考えるのか?

この提言書では、人権に基づいたポジティブな行動の道筋を示唆する一方で、新型コロナウイルスのパンデミックへの対応において現れたネガティブな実例にも光を当てています。この危機は、すべての国に多大な課題と、いくつかの困難な人権のジレンマをもたらしています。現在、当面の公衆衛生上の緊急事態に焦点が当てられています。しかし、この危機は、多くの開発や人権に関する成果を後退させる危険性があります。最終的には、保護の仕組みと回復力の構築によって、現在直面している課題の再発を防ぐ方法など、危機から教訓を学ぶ必要があるでしょう。このパンデミックから学ぶことができるかどうかは、将来のパンデミックだけではなく、その他のグローバルな困難への対応の私たちの成功を決定付けます。その中でも最も切迫した課題は紛れもなく気候変動です。

事務総長は「行動呼びかけ」の中で、現在のパンデミックの危機がどのような背景で進行しているのかを明らかにしました:

人権の大義は大きな課題に直面しており、どの国も無縁ではありません。人権の軽視が蔓延しています。人々は取り残されています。彼らは恐れています。指導者たちは、政治的利益のために、あまりに多くの場合に互いに敵対します。人々と一部の指導者との間の信頼関係は浸食されています。

同時に、私たちは未曾有のチャンスの世界に生きています。並外れた技術的進歩と世界経済の発展は、何百万人もの人々を貧困から救い出し、私たちは2030年の持続可能な開発のためのアジェンダという形で、前進するための行動の枠組みに合意しました。

この危機は、人権尊重の欠点を浮き彫りにしており、それが世界的、国家的な対応を根本的に弱体化させています。

とはいえ、短期的な対応を行う際には、将来に目を向ける必要があります。

この人類の危機から得た教訓は、より平和で公正、包摂的で弾力性のある社会へと導き、SDGsを通じて2030年のアジェンダの約束を果たすことができます。したがって、今日私たちがどのように対応するかは、人々とその人権に害を与えてきた長期的な公共政策や慣行を軌道修正し、取り組みを開始するためのまたとない機会となります。

この危機が収束し、コロナウイルスが沈静化した後は、国際社会は健康への権利を保障するための努力とSDGsゴール3の達成に向けた努力をさらに強化していく必要があります。これは、UHCとすべての国の能力を早期警戒、リスク軽減、国内および世界の健康リスクの管理のために強化することを含みます。一部の人々を病気とその対応に関する経済、社会的影響を脆弱にした、広範囲に及ぶ不平等や差別に取り組む必要があります。また、保健、教育、司法、その他多くの関連分野を含む公共サービスの提供方法の弱点にも取り組む必要があります。復興はまた、将来の世代の権利を尊重し、2050年までのカーボンニュートラルを目指した気候変動対策を強化し、生物多様性を保護しなければなりません。私たちは、人権を中心とした「より良い再構築」と国際協力のモメンタムを維持する必要があります。

事務総長による行動呼びかけの言葉を借りれば、

「このような重大な岐路に立たされたとき、私たちが共有する人間の条件と価値観は、分裂ではなく団結の源でなければなりません。私たちは人々に希望と将来のビジョンを与えなければなりません」

 

提言

すべての関係者、特に政府が、国際的な人権、人道、難民法および基準が新型コロナウイルスのすべての対応の中心にあることを保障することが重要です。OHCHRや多くの特別報告者を含む国連システムは、このために助言や指針を作成しています。

以下のことが重要です。

 

> 新型コロナウイルス感染症以外の疾患も含めて、すべての人にとって人権としての保健医療の利用可能性、利用しやすさ、質の高さを差別なく確保するために、国内および国際レベルで利用可能な資源を最大限に活用すること、そして生命の権利が全体を通して守られていること。
> パンデミックの経済的影響を緩和するための刺激策やその他の対応が、人々を中心としたものであり、非正規労働者や失業給付のない個人労働者、そしてより一般的には、社会のセーフティーネットを利用できない人々など、生計の損失によって最も影響を受けたグループを適切に支援するようにすること。
> 最も疎外された人々や脆弱な人々のために、所得保障と対象を絞った社会扶助を確保すること。食料、水、衛生設備、適切な住宅の利用可能性を確保すること。
> 移民・移住者、避難民、難民、貧困層、水・衛生設備・適切な住宅を利用できない人々、障害者、女性、高齢者、LGBTIの人々、子ども、そして拘禁されたり施設にいる人々など、特定のグループや個人に対するウイルスの顕著な影響に対処するために、国や地域の対応と復興計画が、対象を絞った対策を特定し、実施されるようにすること。
> 政治指導者や宗教指導者を含む他のアクターに、このパンデミックによって起きる差別、ヘイトスピーチ、エイジズム、外国人嫌悪、人種差別、暴力に 対して声を上げ、行動を起こすよう促し、包摂と団結を促進すること。
> 新型コロナウイルス への対応に関する意思決定過程において、社会のあらゆるセクターと多様な市民社会のアクターの有意義な参加を保障すること。
> 先住民族の言語や少数民族の言語を含む、わかりやすい形式と言語を保障し、視覚や聴覚に障がいのある人を含む特定のニーズのある人々に適応させ、インターネットや通常のメディア情報源にアクセスできない人々に届くようにする読解能力が限定的あるいはなかったり方法で入手できるようにすることによって、信頼できる正確な情報がすべての人に確実に届くようにすること。
> 報道の自由を含む表現の自由を保障し、情報が抑圧されることなく広められるようにすること。政府は、メディアやテクノロジー企業と同様に、正確で明確な証拠に基づいた情報で誤った情報に対抗する必要があり、保護された言論の検閲に繋がりかねない過大な取り組みを避けること。
> 国家緊急事態を含むあらゆる緊急措置が、合法的、比例的、必要かつ非差別的であり、特定の焦点と期間があり、公衆衛生を保護するために可能な限り最小限に侵入的なアプローチをとることを保障すること。
> 緊急事態の権限が、反対意見を弾圧したり、人権擁護者やジャーナリストを黙らせたり、健康状況に対処するために、厳密には必要ではないその他の措置を講じるための根拠として利用されないようにすること。
> 新しい技術が新型コロナウイルス への対応として監視目的で使用される場合、目的の制限や、適切なプライバシーとデータ保護を含めたセーフガードを保障すること。
> 性と生殖に関する健康/権利、家庭内暴力やその他のジェンダーに基づく暴力からの保護へのアクセスを含め、女性と女児への危機の影響を緩和し、短期的な緩和と長期的な復興に関するすべての意思決定において、人々の完全かつ平等な代表権を確保すること。
> 新型コロナウイルスの治療法がすべての人々に利用可能で、購入可能であることを確保するために、国際協力を強化し、ユニバーサルな保健医療の提供に向けた措置を進め、パンデミックのためのワクチンと治療法の開発の協力し、医療従事者やその他の第一線で働く人々のための個人用保護具を含む必要不可欠な医療用品と機器の貿易と移転を促進し、知的財産権の問題に取り組むこと。
> 特に移民に一時的な在留許可を与え、強制送還やその他の強制帰国を一時停止し、個人が安全かつ尊厳を持って自発的に帰国できるようにすることによって、移民や難民を含む出身国外にいる脆弱なグループの状況を緩和するための措置を講ずること。
> 貧困と不平等を終わらせ、パンデミックの影響を大幅に悪化させ、私たちをパンデミックに対して脆弱にしている根本的な人権問題に対処するための行動に再び集中し、将来の世代のためにも、よりインクルーシブで持続可能な世界の構築を目指すために、このパンデミックから学んだ教訓を活かすこと。

 

 

注釈[1]Shared Responsibility, Global Solidarity: Responding to the socio-economic impacts of COVID-19、Impact of COVID-19 on Women、Impact of COVID-19 on Children といった国連の特定の政策提言も参照してください